気が付けば僕は液体の中にいて、外では大人が僕について何かを研究しているということだった。
手足も動かず、ただ自分に流れてくる情報をしっかり理解するまで、2年かかった。
僕はどうやら造られたらしい。造った人はアルフレッド・ウィッテン。
ウィッテンは稀代の科学者で、世間には自分の研究を発表せずに、ひたすら自己流で研究を重ねてきたようだ。
そして僕と同じような子を何人か造ったらしい。
僕たちを『魔法士』と名付けたウィッテン。僕の戦闘プログラムを造り、悪魔使いと、僕は名付けられた。
すると、ある時からウィッテンを含めた大人は誰一人として僕がいる研究室に来なくなった。
だがその代わりに僕を殺しにくる人がたくさん来た。
反射的に、僕に繋がるコンピューターに命令を送り込んで、相手を殺していた。
男、女、老人、子供、兵士、どこかの殺し屋。
全て、反射的に殺していた。
ある日、自分が魔法士と呼ばれることをコンピューターから知った。
そして自分の能力が希少で、それを狙う組織が多いということだった。
だから、自分を狙ってきたのは、生活に困難な者達が自分を捕らえに来たということだった。
僕に懸かった懸賞金が目当てだったらしい。
その日、僕は次に来た人を殺すのを止めようと思った。
今まで自分が殺してきた罪から、逃れるための本能だったと思う。
ついに、人が来た。
僕は捕らえられるんだと、覚悟していた。
入ってきた人は2人。
その人たちは部屋の中の光景に息を呑んでいるようだった。
僕は培養層という液体の中で浮かびながら、運命の刻を待った。
だがいつまで待っても、自分を回収するか、殺したりする衝撃は襲ってこなかった。
「おい、大丈夫か?」
届いた声は、聞いたことないような暖かい声で、それでいてどこか意地悪そうな声だった。
目を開けると、そこには金髪の女の子がいた。
それが、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルとの出会い。
この時、僕は2歳だった。
第T章 『魔法士』
僕がエヴァンジェリンという少女に助けられて、しばらくエヴァンジェリンという少女と一緒に旅をしていた。
僕の頭脳には稀代の天才にして狂信科学者ウィッテンが埋め込んだI−ブレインというチップが埋められている。
簡単に言えば、コンピューターが脳にチップ化して入っていると思ってくれていい。
そのチップにより、僕は2歳にして様々な知識を情報ネットワークにアクセスして吸収していった。
仮想ドライブを脳内に設立して、そこへ『戦う能力』を起動する。
その戦う力に驚いたエヴァは一瞬悲しそうな顔をし、僕をとても可愛がってくれた。
エヴァは悪の魔法使いとして世界に憎まれた存在らしい。
だけど僕が知っているエヴァは、とても優しくて可愛く、そして慈愛に満ちているということ。
ちょっと・・・・・・黒いところがあるけど。
あ、それと僕の名前をつけてくれた。
名前は錬。
錬・A・K・天樹と付けてくれた。
天のように高い志をもち、樹木のようにどっしりと成長し、錬金術のごとく不可能を可能にできるように、らしい。
いい名前を付けてくれたと思う。
エヴァンジェリンを姉さんと呼んだら、顔を真っ赤にして怒ってきた・・・・・・ニヤけていたけど。
そんなエヴァを従者のチャチャゼロはからかっていた。捕まってボコられていたのは可哀相だった。
ある日、僕のような子供が世界にいるということを思い出した。
僕はその人たちを助ける為に、エヴァと別れて旅をすると言った。
エヴァは、悲しそうな顔をしたが、すぐに笑って見送ってくれた。
僕は3歳の時に世界を1人で回った。
それからは正に地獄のような日々だった。
各国の軍隊に追われ、魔法界の追っ手に襲撃された。
僕はひたすら逃げ回り、ただ同士を探して回った。
悲しくて、苦しかったけど、姉さんとの約束と、同じように苦しんでいる仲間をどうしても見つけたかった。
その過程で、世界の軍部が僕を新兵器の実験体にしようとしているということを知った。
だから僕は、あらゆる軍組織に侵入し、二度と検体が誕生しないようにウィッテンの研究所から洩れた全てのデータを壊して、研究者を殺した。
途中で『サクラ』という少女が同じように軍組織を潰して周っていると聞いた時は、少し気になった。だが情報が入ってこないから諦めた。
仲間は見つからなかったが、I−ブレインの精巧な能力は例外なく、全ての研究施設のデータを破壊した。
ある日、ウィッテンの別荘で『飛天凰舞』という剣を見つけ、『剣聖<アルデヒャルト>』という不思議な精霊を見つけた。
僕はその剣聖の力を、I−ブレインに取り込むことで契約を果たした。
それまではサバイバルナイフでの戦闘だったが、これで運動制御をしながらの高速戦闘が可能になり、僕はアルデヒャルトと共に旅をすることになった。
そして僕が12歳になったある日、ついに僕は仲間を見つけた。
僕が『元型』なら、彼女は『完成体』。コード『天使(アンヘル)』計画4番体。
彼女はもうすぐ生きたまま機械の部品となってしまう所であった。
だから僕は、イギリス軍陸戦部隊全戦力を相手に戦った。
とにかく殺しまわり、徹底的に研究者とデータを破壊した。バックアップもデータ転送先も全て特定して壊した。
イギリス軍の最高司令官の裏切り行為により、僕は何とか生き延びることができ、実験体4番―フィアを助けた。
その代わり、最高司令官が死亡し、僕も半年動けない重傷を負い、フィアの心には大きな傷が残った。
そして、イギリスは史上最悪のテロとして一般に虚偽公開する事で処理し、数千人の軍人が死亡した。
正しくない事は僕にはわかっていたけれど、彼女が生きている事が嬉しかった。
僕が松葉杖をつかってやっと歩けるようになった時、フィアと僕が隠れ住んていた場所に1人の男が尋ねてきた。
追っ手かと思い、それが魔法界で有名な高畑・T・タカミチだと解ると僕はフィアを庇って睨み付けた。
だが男は日本の魔法学院に来ないか、と誘ってきた。
もちろん「断る!」と切り捨てたが、そこにエヴァンジェリンがいると教えられ、僕は驚いた。
エヴァが千の呪文の男に敗れたとは聞いていて、どこかの地に封印されているとは知っていたが、まさか日本だとか思わなかった。
僕は目的は何だと問うと、彼はエヴァの他っての願いという事と、ある少年を守って欲しいということ、そして僕等の保護が何よりも目的だと言った。
「どうする、フィア?」
「私は錬さんとなら、どこへでも付いていきますと言ったはずです」
長い金髪をサラリと下ろし、エメラルドグリーンの瞳をくりっとさせたフィアが微笑んで言った。
僕は彼女の意思を汲み取り、そして久しぶりにエヴァに会えるのを楽しみにして承諾した。
それから数日後、僕等は痕跡を消しつつ飛行機で日本へと飛び立ったのである。
季節は春を過ぎた梅雨前のことだった。
長い時間をかけて日本にやっと到着した。およそ13時間といったところか。
フィアは初めて見て乗る飛行機にキョトンとして、プルプル震えて、機内食を美味しそうに食べていた。
日本に到着して移動し、麻帆良という学園都市に入ってからが問題だった。
「ねえ・・・・・・ここ、異常じゃない?」
「そうです・・・・・・あんな木、初めて見ました」
「というか、人も多すぎだし」
「ビックリです」
呆気に取られたままの突っ立っている僕等の反応は普通だと思う。
だって目の前に広がる光景は、人で埋め尽くされていて、誰もが異常なテンションでお祭り騒ぎなのだから。
その光景は凄まじいというしかない。
僕等はゆっくりと歩いて移動すると、指定された場所である最奥の麻帆良学園女子中等部の校舎前にやってきた。
モダンな創りの校舎に入っていくと『学園長室』という部屋の前に着いた。
「ここ・・・・・・で合ってるよね」
「そうだと思いますけど・・・・・・錬さんのお姉さんのエヴァさんからの手紙にはここって言ってたんですよね?」
「うん。学園長室にいるはずだから来いってさ」
「なんだかワクワクします。錬さんのお姉さんって優しくて金髪の綺麗な人なんですよね?」
「うん、まあ・・・・・・優しいといえば優しいけど・・・・・・黒いけどね」
「え?」
「誰が黒いだと、コラ!?」
「うわっ!?」
学園長室の豪華かつ重たそうな扉がいきなり吹き飛び、中から黒い鬼が出現する。
フィアはビクリと震えて、中から出てきた可愛らしい容姿の人物に目をパチクリさせた。
「久しぶりだな、錬」
「姉さんも、久しぶり。元気そうで何よりだよ」
「まあ封印されて窮屈な思いをしているがな。で、そっちの子が」
「そう。フィアだよ」
「あ、え、えと、初めまして、フィアと言います。錬さんにはイギリスで助けてもらって、えと、その、お姉さんについても色々と聞いてます!」
「ああ。お前も大変だったな。だが・・・・・・ふむ・・・・・・私の弟に相応しい容姿をしているじゃないか。中身もあの事件の顛末を考えると相応しい。嬉しいぞ」
「あ、ありがとうございます」
嬉しそうな顔をするエヴァに、フィアはテレながらおじぎをした。
すると奥から入ってきなさい、という老人の声がしたので、3人は部屋に入り、老人へ挨拶した。
「初めまして、学園長殿」
「あの、初めましてです」
「うむ、ようこそ麻帆良学園へ。君達を歓迎するぞ」
ニッコリと笑う学園長。
だが、学園長は何やら大忙しなようで、書物やらを開いてお札を貼り、魔方陣を描いていた。
その様子に首を傾げる錬たちだったが、エヴァが説明してくれた。
「錬。お前に言ったが、今3−Aには要人が多く集まっている。そしてその3−Aは今は修学旅行中だ」
「うん、その話しは高畑さんからも聞いてる。そのクラスメイトを守る、ってのが僕たちの任務なんでしょ?」
「ああ。まあお前にも学生生活を送って欲しいというのがジジィの狙いのようだが。それよりも事態が少し悪い状況になった。ジジィの見通しの甘さの所為でな」
「?」
「なにかあったんですか?」
「その修学旅行で今は3日目なんだがな。どうやら近衛木乃香を拉致しようとする奴等に、魔法士がいるらしいんだ」
「な!?」
「え!?」
「幸い、その魔法士とはまだ戦闘はしてないようだが・・・・・・まあ闘っていたら坊やは既にあの世へ逝ってるだろうがな。だから急いで京都へ向かって欲しいようだぞ」
現在の時刻は夜の8時。
急がなければマズイ。
「どうしよう。急がないと」
「ああ、それでジジイに転移魔法を急がせているところだ。ついでに私の呪いも誤魔化す為に奮闘中という訳だ」
「そっか。じゃあ戦闘準備だけでも済ませなきゃね」
錬はコートの中から『次元空間』へ手を突っ込み、魔法士専用の大剣・騎士剣『飛天凰舞』を取り出す。
その長さは1メートル50もあり、錬の背丈と同じくらいである。
錬はその美しき漆黒の刀身を綺麗に拭く。
「ほほぅ、それが飛天凰舞か。美しい騎士剣だな」
「うん、偶然見つけてね。ウィッテンが隠していたんだ」
「なるほど、普通の魔法使いや戦士タイプには自分より大きな剣などなかなか上手く使えんが、お前が言ってたアルデヒャルトとの能力なら使えて、しかも何倍も強くなるということか」
「うん。イギリスでの戦いをなんとか切り抜けれたのも、この能力と剣の力が大きかったよ」
「・・・・・・なるほどな。で、フィアと言ったな。彼女の力はどれくらいだ?」
エヴァは面白そうにしながら聞く。
フィアは困ったように頬を掻き、錬が言葉を紡ぐ。
「本気で敵に回られたら、僕なんかあっという間に無力化されるよ。死にはしないけど」
「ほほう。ナノセカント戦闘をするお前がか?」
「うん」
錬の言葉がよほど驚きだったのか、エヴァは目を丸くして驚いていた。
エヴァは錬の力を認めている。あらゆる意味で、魔法士の彼は最強なのだから。
だがそんな彼があっという間に負けるというのだから、驚くしかないだろう。
ただし、それは無力化であって、殺害という敗北ではない。
否。
フィアの能力特性上、相手を殺す事はできない。あくまでも行動・戦闘不能にされるだけだ。
すると、学園長がふ〜むと唸りだした。
「むぅ、あとはこの呪いの精霊と札を同調させるだけなんじゃが・・・・・・上手くいかんのぉ。ナギのやつ、ほんとに適当に掛けおって」
どうやら上手くいってないようだ。
だが学園長の言葉にフィアが反応した。
「学園長さん。どれとどれをどうすればいいんですか?」
「む? この札にこのページのこの魔力を移せばいいんじゃよ。そしたら騙す事になるんじゃが・・・・・・できるのかの?」
「はい。任せてください」
フィアは札と本に手を置き、目を瞑る。
学園長とエヴァには瞑想しているようにしか見えなかったはずだ。
だが錬の目にはバッチリ見えていた。
フィアの背から輝く翼が生えてきて、札と本を『同調』させたのを。
フィアは一息吐いて、できました、と言った。
「・・・・・・ほんとにできておるわい。それが・・・・・・天使計画の力、か」
「・・・・・・・・・・・・」
学園長は悲しそうに瞳を伏せ、エヴァは無言でフィアを見つめていた。
「学園長さん、これでいいんですよね?」
「おお、そうじゃった。ありがとう。では転移魔法を唱えるぞ。ネギくんたちの方もちょうどクライマックスのようじゃ。魔法士が出てきて大ピンチじゃて」
「急ぎましょう!」
錬は持っていた生活荷物を置いて、騎士剣を携えて魔方陣の中に入る。
エヴァと茶々丸も入ってきた。
「ふん。もうちょっとギリギリで出たかった気もするがな。まあいい」
「では、エヴァンジェリン。錬君とフィア君。皆をよろしくの」
「ええ、任せてください!」
「はい! クラスメイトは助けてみせます!」
学園長が唱えた転移魔法に魔方陣が反応して光だし、そして彼等4人は麻帆良の地から消えた。
そう。
ついに、運命の戦いと出会いが待ち受けるのである。
そこにいるのが、錬の心を揺さぶられる相手であると知らずに。
ただ今は、仲間を助けるために。
【錬・アタナシア・キティ・天樹】
・12歳
・悪魔使い(正式名称:元型なる悪魔使い)
・飛天凰舞を使い、運動制御・分子運動制御・空間歪曲・身体能力制御・並列能力・自己進化能力を保有。
・能力【炎神】【サイバーグ】【ゴーストハック】【氷盾】
・フィアとエヴァが好き。
【七瀬フィア】
・12歳(実年齢3歳)
・天使使い
・同調能力のみで、運動制御と身体制御は補助的役割しかない。
・錬のことが大好き。彼が傍に居る時だけ妙に無防備になりやすく、若干天然が入っている。
【エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル】
・公表できず。
・真祖の吸血鬼。
・得意は闇と氷系統。
・錬を溺愛している。フィアに対しては複雑な所もあるが、彼女の経緯を知って気に入る。