第8話 女子高に潜入して誤魔化せ!





【ギアスSIDE】


 緑髪の女性、C.C.は隠れ住んでいる離島の砂浜に、朝早くから散歩に出ていた。
 大事な契約者の妹やそのSPや専属忍者メイド、オレンジが寝ている中で、朝日が夜空を照らし始めた光景を見詰めた。
 彼女は悪趣味な拘束衣ではなく意外にも真っ白いパジャマを着ていて、そんな格好で砂浜に佇んでいる。


「もうすぐだ。もうすぐで・・・・・・」


 彼女の声は艶やかな声で、歓喜に震えているようにも聞こえる。


 すると彼女は昨夜の会話を思い出し、かなりムスっとした表情を浮かべる。
 昨夜、なにを思ったのかナナリーが言ったのだ。
 C.C.さんはスザクさんのことが気に入っているのではないのですか、と。


 そもそものその発端は、ゼロ・レイクイエム前の空白の3ヶ月について話していたのだ。
 もっぱらルルーシュが死後の資料作りをしていたことについて、C.C.がひたすら愚痴っていたのだが、そこから必然と専属騎士のスザクへと会話が移り、彼女が彼についてボロクソに言いまくることでナナリーが不思議に思ったのだ。


 ナナリーからしてみれば、最愛の兄とC.C.とスザクの3人は契約以外にも不思議な絆で結ばれているように見え、必然的に仲が良いものだと思い込んでいたのだ。
 だがそれはとことんC.C.が否定し続け、終いにはルルーシュとスザクの2人も仲が良かった訳ではないと否定したのだった。


『あの2人は既に昔の親友という間柄には戻れない。当たり前だろう? ルルーシュはユーフェミアを殺し、枢木はルルーシュを一度は裏切り皇帝に売ったんだ。元には戻れない。あいつらのあの時の関係を言葉であらわすなら・・・・・・・・・・・・そうだな。おそらくは同盟、同士と言うのが妥当かもしれないな』
『お兄様とスザクさんが・・・・・・』
『もちろんあいつらの根底には信頼もあったんだろうが・・・・・・さすがにいろいろありすぎたからな。親友、という表現は適切な表現ではない』
『そうなんですか・・・・・・』
『だから私としては、あんな自己中で自分に酔いしれた男なんかよりも、我が愛しの魔王の方が良いに決まってるじゃないか』
『・・・・・・C.C.さんはスザクさんのどの辺が嫌いなんですか?』


 ナナリーの疑問。その声色は、彼女自身も開眼して世界相手に政治の世界で戦い続けたときに感じていたのだろう。うすうす気づいているようであった。
 そんなナナリーに、C.C.はマシンガンのように捲し立てた。


『空気を読まないところ、自分に酔っているところ、呆れるほど馬鹿なところ、矛盾した行動、ユーフェミアの騎士でありながらユーフェミアを安く見るかのような行動の数々・・・・・・ああ、それはルルーシュを売ったり、ナイトオブラウンズに就任と引き換えにしたりしたことだな。EUやアフリカの国々相手に散々殺し続けたくせに、ゼロ相手に人殺しして得た結果に意味はないとか意味不明なことを叫んだりするところ。過去の歴史でもそうはいなかったぞ? あいつほど腐った根性で狂った駄犬は』
『・・・・・・・・・・・・そ、そうですか』


 ナナリーはさすがにスザクが気の毒に思え、人知れず哀れんだ。
 その時、ゼロがくしゃみをしてシュナイゼルに気を遣われていたのは彼女に知る由もない。


「フフフ」


 自分の言葉に頬を引き攣らせたナナリーを思い出し、C.C.は笑った。
 だがそんなスザクについても、C.C.の評価は黒の騎士団の連中よりかは高い。
 結局はルルーシュに敵対したからかもしれないな、と自分の贔屓思考に気づいて自嘲する。


「まあ、だが枢木の所業についてはルルーシュも指摘していたしな」


 皇帝就任の前から幾度となくルルーシュとスザクは衝突していた。そしてルルーシュがキレながら今まで言えなかった不満や問題点について徹底的に指摘して怒鳴ると、さすがに馬鹿王のスザクでも自分の行動がおかしかったことに気づいたようだった。
 それでもゼロの君はまちがっている! と云った時に心底笑ってやったのはいい思い出だ。
 ならお前もただの人殺しだから間違ってるな、ああ、お前は正義の人殺しか、スマンな、と言った時の呆然として顔を青くし、がっくりと席に崩れ落ちたときの彼を見たときは傑作だった、とC.C.は思う。


 おそらくはその事が、枢木がゼロに成り己が人生を捧げる背を押したことには間違いない。


「待ってろよ、ルルーシュ。きちんと責任はとってもらうからな」


 己の数百年の所業についても自覚がある。
 何様のつもりだと、自分自身でさえも思ってしまう。
 だが。
 それでも覚えてしまったのだ。
 あの温もりを。
 それでも思ってしまったのだ。
 あの幸福の味をもう一度と。
 だから責任はとってもらうのだ。


「―――私が食べるピザを百枚は作ってもらうからな。ルルーシュ特製ピザ」


 と。


 背後で有能メイドがズルッと転ぶ音がしたのは、気のせいだろう。
 いろいろと台無しだった。







【クロノス最長老SIDE】


「では、件の人物は排除はしなくてもよいと?」
『左様。相手は我々クロノスにとっても最大の出資者でもあり、重要な取引先でもある』
『鏑木グループは世界でも有数のグループ。さらに鏑木は、極めて昔から汚職抜きで巨大になった一族でもある』
『そのグループが保護した少年、連なる一員として登録された。よって件の少年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは放置とし、今後は鏑木グループの血族の命令にも従ってもらう。よいな、gT・セフィリア』
「は・・・・・・承知致しました」

 大型モニターが3つ連なり、その前に膝を付き頭を垂れる女性。
 美女という言葉が相応しく、金髪のウェーブに紫色のコート、そして額にはギリシャ文字の『T』の文字が刻まれていた。

『くれぐれも鏑木直系の一族には粗相がないように。そして全力で守護するのだ。これは特一級厳命である』
『左様。クリード・ディスケンスの乱の時のような失敗は無い様にするのだ』
『これは、今後の世界の秩序が保たれる為にも必要な任務である。・・・・・・時にセフィリア』
「はい」
『元g]Vトレイン・ハートネット、並びに掃除屋ミナツキ・サヤ、スヴェン・ボルフィード。生体兵器イヴ。以上4名とは、まだ親交があるのか?』
「・・・・・・・・・・・・」
『黙秘か・・・・・・まあ、あの連中には借りがあり、またこちらから手を出しても甚大な被害を被るのもまた事実。あの者たちが牙を向けない限り、裏切り者として抹殺しなくてはならないという事も保留という形で良い』
「は・・・・・・」

 セフィリアと呼ばれた女性は、目を俯かせて小さく礼をする。
 手元にある、彼女の愛刀『クライスト』をぎゅっと握る。

『そのままトレイン・ハートネットを監視するのだ。あわよくば篭絡して再びクロノスに引き込むのも良し。それは奴の上官であったセフィリア、貴様の仕事だ』

 篭絡・・・・・・つまり、セフィリアが手段を問わずに虜にしろということ。
 ――無理ですね。
 セフィリアは即座にそう判断する。
 まずトレイン・ハートネットはそういうもので落ちるタイプではない。
 事実、落とした(トレインを変えた)のはミナツキ・サヤという、天真爛漫で明るい、けれど芯が通った女性であった。
 そして2人はどちらかといえばプラトニックな関係で純粋な白い関係のように見えた。
 そしてリンスレットウォーカーという、ミナツキ・サヤとは別方向性の女性は、トレインをその肉体で落とすことは出来ていないようだ。

(リンスレット自身、ミナツキ・サヤに敵愾心を隠そうとせずにぶつけていますが・・・・・・暖簾に腕押しのようですし)

 ミナツキ・サヤがトレイン・ハートネットに好意を持っているのは間違いない。セフィリアも確信している。
 しかしサヤ本人の性格もあるのだろうが、2人はそれをお互いに押し付けあうことはせずに全体で構えるという、ある意味で究極の関係だ。

「畏まりました。ではこれより、長期任務として鏑木家の護衛、ならびにg]V一行に接触します」
『うむ』

 そう云って一礼し、セフィリアは長老達の前から下がる。
 クロノス本部の最長老室から出たセフィリアは豪華絢爛な赤絨毯の廊下を歩いていくと、ナンバーズの隊長室に入る。
 そこで手紙をしたため、電話を取って最古参のナンバー]Uに後を任せる。

「何の用です、ベルゼー」

 突然、誰もいない室内でセフィリアは口を開いた。
 部屋の暗がりが出来ている一角から、副隊長のナンバーU・ベルゼーが出てきた。

「任務を貰ったそうだな、セフィリア」
「ええ。長期任務になりそうです」
「そうか・・・・・・まあ、この機会にg]V・ブラックキャットと思い出作りでもしてくるんだな」
「・・・・・・・・・・・・なんのことでしょう」

 セフィリアの回答に、渋い中年男性のベルゼーはフっと笑う。
 その嘲笑を不愉快に感じたセフィリアは無視して準備を続ける。

「隊長のお前なら大丈夫だと思うが、気をつけろよ、今回の任務」
「何か不安要素でもあるのですか?」
「最近話題の、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに接触するんだ。気をつけるに越した事はない。魔法使い側も彼を排除する方向に傾きかけているようだしな」
「・・・・・・戦争ですか」
「そうならない為に、我々クロノスがいるのだ。そして起こったとしても、勝利するためにな。大儀の為に」
「分かっています。彼は護衛対象であり、また世界の科学の発展と人々への貢献は類を見ない偉大なもの」
「そうだ。だから護衛は慎重に、且つ絶対に成功しなくてはならない」

 ベルゼーの言葉は重い。
 彼はいろいろな事を知っていた。
 およそ20年前の魔法界の戦争。その際のナンバーズと魔法世界の英雄との戦い、その引き分け。
 鏑木家のこと、魔法界のこと、現在の状況、そして・・・・・・セフィリアのこと。
 ――彼女の胸の中にある、ひたすら隠してある想いのこと。

 そんな心配する彼を他所に、セフィリアは荷物をまとめ終わる。
 そして机の上にある愛刀・クライストを手に取る。

「私を誰だと思っているのです、ベルゼー」

 クロノスは完全な実力主義。
 若干25歳にして『旧世界』の裏3分の1を牛耳るクロノスの戦闘部隊、その最高幹部のクロノ・ナンバーズ。
 その隊長にして、クロノスの隊長になるために生み出された特別な存在。
 実力は当然ながら、歴代のナンバーズにおいても『黒猫』と同等同格の最強の存在。
 未知の金属・オリハルコンを手に外套を翻し、扉に手をかけた。

「全ては世界の平和とクロノスの為に」

 美しい金髪と紫の外套をなびかせて、闇へと消えていった。






【ルルーシュ&瑞穂SIDE】



 三上智也という自分達の秘書兼弟子、友人兼部下という存在が加入してから3ヶ月経過した。
 当初は三上智也と桧月彩花、シャーリーに勉強やPCでの必須スキル、秘書の仕事や人の使い方、経営学を徹底的にルルーシュと瑞穂が叩き込んだ。
 シャーリーや彩花は基本的に学業知識は標準以上だった為に飲み込みはそこそこ早い。
 しかし三上智也は学業知識が乏しい。学生時代は寝て過ごしていた所為だ。
 そこでルルーシュと瑞穂という、国内でもトップの2人が徹底的に教え込んだ。マンツーマンで教え、智也に筆記よりも実戦という形で覚えさせていき、2人が使えると思えるようになるまでに3ヵ月かかったのだった。
 たった3ヶ月というのは驚異的だが、それだけルルーシュと瑞穂の教え方がずば抜けていたということでもある。

 もちろんまだ未熟だが、智也はようやくルルーシュと瑞穂と共に仕事をすることになったのだ。
 それを彩花は喜び、智也をサポートするように彼と共にずっと一緒にいた。
 2人はお互いに知恵を出し合って一つの仕事をこなしていくようになったのだ。


 智也は鏑木ランペルージに入社するに当たって、まずは家を出た。
 幼馴染の今坂唯笑は、智也がいきなり就職するといって驚いたそうだが、無気力な時の彼と違って前を見る智也を喜んだ。


 もっとも、大学進学を放棄したことは、唯笑や双海、年上の女性の霧島小夜美などは、最初は反対していた。
 勉強をしたくないから放棄しただけにしか思えなかったらしい。
 しかし、就職先が今をときめく一流企業の鏑木ランペルージであり、さらにいえば鏑木グループの嫡子と現在世界で一番有名な社会人のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと友誼を結んで、彼らの元で色々と学んでいる、そしていずれ、ルルーシュと大学にも通うと伝えると、大いに賛成したのだった。


 ルルーシュと智也は、来年に大学を受験しようとしていた。
 瑞穂と妻の紫苑、秘書の厳島貴子と御門まりやに、学校に通った方がいいと薦められたのだ。
 正直、ルルーシュとしては本業の会社の方を優先したかったのだが、シャーリーに「学校に行って、少しは延び延びした学校生活を送ろうよ、ルル」と言われたので頷いたのだった。
 確かにルルーシュの学生時代は常に緊張状態だった。小学校などは皇族時代だったので行ってないし、日本に捕虜として来ていた時はもちろんのこと、アッシュフォードに保護された時でも常に周囲を警戒し、己とナナリーの情報が外部に漏れないように注意していた。
 ミレイのイベントが多くあったとはいえ・・・・・・普通の思い出など作れなかった。


 だから、それもいいかもしれないとルルーシュは思ったのだ。
 そしてルルーシュと智也は大学受験を決意したのだった。仕事の片手間に。




 そんなこんながあったある日。
 ルルーシュと瑞穂と智也、シャーリーと彩花と紫苑と貴子が『とある学校』の前にやって来ていた。
 それぞれの反応は顕著だ。


 初めてソコに訪れたシャーリーと彩花は目を輝かせて、そこのお嬢様オーラが漂う学校に酔い痴れ。
 紫苑と貴子は久しぶりに訪れた学校に嬉しそうに、懐かしそうにしている。


 そして男性陣。
 智也はソコが『女子高』であることに微妙に興奮した様子で、けれど微妙に居心地悪そうにしていて。
 ルルーシュが哀愁漂わせて呆然として。
 瑞穂が涙を流しながら、ポンポンとルルーシュの肩を叩いて慰めている。


「ルルーシュ、諦めた方がいいよ?」
「とか言いながら、瑞穂も泣いてるじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・これはこれから起こる事への恐怖だよ」


 瑞穂は未来を予想して顔をシクシクと泣き、ルルーシュは頭が痛いという仕草で溜め息を吐いていた。
 隣を見ると、現実に戻ってきた彩花が智也に詰め寄っていた。


「ここは桃源郷か? ふっふっふ、信が知ったら羨ましがるだろうな」
『こらっ、智也! なにヤラしいこと考えてるの!? もう〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』
「うわっ!? 彩花、おちつけ! 男なんだからときめくのも仕方ない・・・・・・って、叩くなよ!?」
『罰だよ! もう!』


 プリプリと怒る彩花は頬を膨らませてそっぽを向いている。
 智也は彩花が怒ると弱いのか、途端にオロオロして謝っている。
 彼はヤンチャな性格であり、強気な性格である。だが唯一、この彩花だけには弱かった。それも昔から。
 それだけ彼女が特別であり、それだけ愛しているという証明だった。


「さて、とりあえず行こうか。もうギリギリの時間だからね」
「・・・・・・ああ」
「おっけ〜!」


 ルルーシュが重い溜め息を吐いて頷き、智也がウキウキしながら応える。
 そんな顕著な反応に瑞穂は苦笑しつつ、久しぶりの聖應女学院の門を潜った。
 ルルーシュは高貴な雰囲気が漂うお嬢様学校に興味深気なシャーリーを眺めつつ、手元に持っていた資料を鞄に入れて後を追った。
 その資料の表紙はこう書かれていた。


 『ホムンクルスに対する考察と技術』と。










「なんだ、このカオスな空気は!?」
「すごいな・・・・・・」


 ルルーシュが、元自分の部下でカオス好きな男と同じセリフを思わず叫んでしまった。


 瑞穂が講堂に入ると、そこにいたのは100名を越す淑女たち。
 この学院に通う生徒は、大体が一般人とはかけ離れた子たちだ。
 どこかの会社の社長の娘であったり、良家の娘だったり、政治家の子であったり。各方面のそれなりの地位にいる家柄の子が多い。
 そんな子たちが、瑞穂が講堂に現れた瞬間、一斉に悲鳴を上げたのだ。
 

「お姉さま〜〜〜!」「お久しぶりです、お姉さま!」「ああ、私のお姉さまがっ!」
「お姉さま、やはりお美しいっ!」「ああ、懐かしいお姉さまの香りが!」「きゃあああああああああああああ!」


 などなど。
 いくつか危ない声も聞こえるが、ルルーシュは軽やかにスルーした。
 理解しない方が幸せな気がした。


 そこへ、智也と彩花、シャーリーが頬を引きつかせてルルーシュに近寄り話しかけてくる。


「なあ、ルルーシュ」
「なんだ?」
「あの子たちって・・・・・・瑞穂が“男”だって事、知らないはずないよな?」
「・・・・・・当然だろうな」
『騙されてたって・・・・・・思ってないみたいだね』
「・・・・・・そのようだな」
『ルル。瑞穂君、人気だね・・・・・・』
「ああ。既に女生徒の波に飲まれてしまっているな」


 頬が紅潮して瞳を潤ませ、尊敬や憧憬といった熱の籠もった視線が瑞穂へと集まっている。
 どの女子生徒も、1人も漏れずに瑞穂へと手を伸ばし、彼の身体に触れようとしている。そんな彼女たちに、瑞穂はまったく眉を顰めず、むしろ穏やかな微笑み、慈愛に満ちた眼差しを向け、正に『お姉さま』に帰っていた。
 何人かの危ない娘が鼻を押さえて悶えていたのでドン引きだった。


 カオスな空気やカオスな女生徒たち、瑞穂の無意識の女性への帰化にルルーシュたちが呆然としているころ、隣で苦笑している紫苑や貴子が突っ込んだ。


「この光景は、瑞穂さんがいた頃は普通でしたよ。そうですよね、貴子さん」
「はい、紫苑さん。瑞穂さんの人望は本当に高かったですから。おそらく、歴代エルダーシスターの中でも最高ではないでしょうか」
「ほほぅ・・・・・・瑞穂のやつ、ハーレム作ってたんだな」 『・・・・・・智也?』
「う、嘘だぞ!? 彩花、落ち着いてくれ!」
「なるほど、瑞穂のカリスマ性というやつだな。意識せずに人望を集め、自然と人を集める。フフ・・・・・・前のところには、そんな奴は誰もいなかったな」
『そうかなぁ・・・・・・ルルやミレイ会長はそんなタイプだった気がするけど』


 各々が感想を洩らす中、この後は紫苑や貴子もすぐに生徒達に囲まれることになる。
 瑞穂に劣らず、彼女たち2人もとても人気があったのだった。
 最も、それは瑞穂と関わることによって、彼女たちが少しずつ変わった結果であるのだが、それも彼女たちの人徳である。








 ひとたび瑞穂の話が始まれば静まり返る講堂。
 梶浦という学園長代理と挨拶し、瑞穂が社会に出てからの気構え、また受験勉強について、また鏑木ランペルージの社長としての成功について話をしていく。
 世界の鏑木の御曹司として、また確かな事業の成功を見せる彼に、生徒たちはお姉さまとしての瑞穂のみではなく、一グループの嫡子をそこに見た。
 彼女たちも前途ある淑女達なのだ。瑞穂の話は聞くだけでとても価値のあるものだった。


 そんな講堂の空気を感じるルルーシュ。
 これまでの様子でルルーシュは確信していた。


(これだけ慕われるとは、瑞穂はこの学園のゼロ、という訳だな。これでは誰も瑞穂の正体をバラそうなどとはしまい)


 もはや一種の信仰だな、と断定する。
 おそらく瑞穂が彼女たち誰かにお願いをしたとしよう。その人物はきっと歓喜で身を震わして実行するだろう。
 また在り得ない例えだが、瑞穂が望めば、よろこんで抱かれもするだろう。


「それでは続きまして、鏑木ランペルージの技術開発長、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様のお話です」


 司会担当の教師の言葉にルルーシュはハッとなり、ゆっくりと壇上へと上がって一礼し、一同を見渡す。


 ―――視線が、何故かキツくなった。


「あの方がお姉さまに取り入っている男?(ヒソヒソ)」
「いえ、お姉さまの美貌に目が眩んだ男でしょう?(ヒソヒソ)」
「違いましてよ。私が聞いたことでは、お姉さまの清廉なお体を狙う変質者だとか(ヒソヒソ)」
「まぁ!? お姉さまをお守りしないと!(ヒソヒソ)」
「でもあの男美形だし、表向きは経済界の革命児と言われてるみたいでしてよ(ヒソヒソ)」


 ―――オイ!


 突込みどころが多すぎるヒソヒソ話にルルーシュは頬が引き攣る。
 もはやどこから突っ込めばいいか分からない。
 そして同じ皇族兄弟姉妹以外から、ここまで悪し様に言われるのも初めてだ。
 それに対し、何故か気分を害することはなかったが――――罵られるのは別の何かに目覚めそうだった。


 最愛の妹や弟、またはシャーリーがそれを知っていれば悲鳴を上げて引き戻そうとする性癖にルルーシュが目覚めつつある。
 だがそこで、似たような状況が昔にあったな、とルルーシュは気づく。


 ―――これだから童貞小僧は。男は床で寝ろ、ルルーシュ。


(ゼッタイに勘違いだ! あのピザ女めっ! というか人を変な性癖に目覚めさせるな!)
『? ルル?』


 額に怒りマークを浮かべながらロイヤルスマイルを浮かべるルルーシュに、シャーリーは首を傾げる。
 ・・・・・・余談だが、その美形の微笑みに数人の生徒が頬を赤らめていたのだが内緒だ。


「初めまして。私は――――」


 こうして話を進めていった。
 主に知識を得ることの重要性。そしてその効率的な運用方法。社会に出る前に持っておく心構えなどを話して行く。


 そして話は質疑応答タイムへと入る。
 生徒たちはそれぞれに、世界で最も有名な男へと質問する。


「あの、現在はこうして世界で成功していますが、幼少時代から英才教育などといった特別な訓練をしてきたのですか?」
「いや。家庭教師のようなものはいたが特別にはしていない。独学だ。父への殺意が俺に知識への渇望を促進させた」
「そ、そうなんですか。あ、ありがとうございます」


 と、ドン引きする言葉を気づかずに口にしたり。


「ポリシーのようなものってありますか?」
「部下や上司、見知らぬ人にかぎらず、どんな人間だろうが反逆という名の挑戦を受ける。それがポリシーだ」
「は、反逆って・・・・・・」
「反逆は万人の特権だからな」
「は、はあ」


 背筋が寒くなる言葉を平然と口にしたり。


「好きなものって何ですか?」
「好きなものか。友以外だとこれといって特筆するものは・・・・・・ああ、妹だ」
「え、い、いもうとさん、ですか?」
「そうだ。私の妹は可愛いくてな。幼少のころから必死でに守ってきた妹だ。優しい子で聡明でもある。目に入れてもいたくない大切な妹だ。妹は少し痩せすぎなのだが、俺が持ち上げるのに適していてな。よく寝る前にベッドに運んであげたり本を読んだりしたものだ。なにせ―――」


 ルルーシュの妹自慢が途切れるのに10分は要したりした。


「ルルーシュって、シスコンだったんだね」
「驚きました。あんなに饒舌なルルーシュさん、初めてですね」
「まったく。最低な兄がいる私としては複雑な心境ですわ」


 瑞穂が初めて見たルルーシュの姿に苦笑し、紫苑が楽しげに笑い、貴子が眉を顰めながらも苦笑する。


「ルルーシュの妹か。ルルーシュに似て美形なんだろうな」
『うんうん。なんか想像できちゃうなぁ。こう、守ってあげたい! って感じの子なんじゃない?』


 智也がルルーシュロングヘアー女性バージョンを想像し、彩花が限りなく真実に近い想像をする。


『む〜〜〜、分かってはいたけど、やっぱり最大のライバルはナナちゃんかぁ〜〜〜』


 と、微妙におかしい言葉を口にするシャーリーであった。








 それからフリータイムへと移り、瑞穂や紫音や貴子が母校の生徒たちと親交を暖め、記念写真を撮ったりして講演会は終了した。
 智也や彩花はこういった場について勉強になり、ルルーシュは改めて瑞穂や紫音がどれだけ慕われている人なのかを再認識した。


 いろんな意味で疲労困憊なルルーシュ。
 そんな彼の隣には瑞穂と紫音、智也がいる。シャーリーや彩花や貴子は現在はお風呂タイムだ。
 話を戻そう。
 ルルーシュたちの前には1人の女性がいた。


「・・・・・・ではこれより、クロノス所属・クロノナンバーズ隊長、No.1セフィリア・アークス。鏑木グループ御子息、及び奥方、また鏑木ランペルージの中核である、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿の護衛任務に着任致します」
「よろしくお願いいたします、セフィリアさん」
「よろしくお願い致しますね」
「・・・・・・よろしく」


 朗らかに挨拶を行い、これからの事や世間話に華を咲かせる紫音や瑞穂やセフィリア。
 それとは別に、ルルーシュはセフィリアを観察する。


(この女が、裏世界の3分の1を牛耳るクロノスの戦闘部隊最高幹部、クロノナンバーズの隊長か。簡単なデモ映像を見た限りでも、その戦闘力はスザクなど相手にはならない程の力の持ち主だ)


 デモンストレーションの映像ですら、その実力に寒気がしたものだ。
 そしてクロノスといえば、過去の魔法界の大戦の時、魔法使いたちの集団・導師と呼ばれる組織と全面戦争に突入し、旧世界側を勝利に導いた存在だ。


 そして魔法使い側は、クロノスの存在があるから旧世界では迂闊な行動に出れないのだ。


「あのクロノスが私達の護衛を勤めていただけるなんて光栄です」
「こちらこそ、経済に革命を齎した貴殿に会えるとは光栄です」


 2人の鋭い眼光が交差した。
 この出会いが何を齎すのか、それは分からない。
 ただ刻は流れていく。
 出会いと邂逅、そして魔法使いたちとの接触まで、あと僅か。







2010/2/13