第3話 ルルーシュの日常<注:黒の騎士団メンバーが悲惨な運命を辿ってます>







 神聖ブリタニア帝国99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが奇跡を起こす希代の英雄ゼロに殺されてから、半年が経過した。
 元から悪逆皇帝ルルーシュによって身分制度の廃止によりブリタニアが生まれ変わっていたこともあり、世界の国々は植民地から解放され、理想的な形になっていた。
 100代皇帝にはナナリー・ヴィ・ブリタニアが即位し、やはり身分制度廃止は続行であったが、ブリタニアが超合衆国に参加したことが大きかった。
 もちろん過半数の議席数を放棄し、全体の30%に落とすことで議会に公平さを持った事により、世界は会議によりこれからの指針を話し合った。
 当初、ブリタニアの植民地であった国々はブリタニアに損害賠償を求めた。それは当然の反応かもしれない。
 しかし、ゼロの言葉と議長の皇神楽耶により、国が始動したばかりの国にそれは求めるべきではない、後に延期するべきという言葉から、それらは封じられた。
 また、ゼロとシュナイゼルの助言から、国々の財政と治安の建て直しに各国政治家は勤めた。
 ここで世界はある程度の落ち着きを取り戻したのである。
 世界はある程度冷静になると、いくつかの問題に世界の民間人は目を向け始めたのだ。


・ゼロは死んだのではなかったのか? では今のゼロは誰だ。2代目か? 第二次トウキョウ決戦時の黒の騎士団からの発表は何だったのか?
・第二次トウキョウ決戦にて、超合衆国の支配下であり専属軍隊である黒の騎士団は、了承を取らずになぜ決戦行為に及んだのか。
・アッシュフォード学園での会談にて、軍部の黒の騎士団が会議に介入してきたのは、越権行為ではないのか。


 この3点は、いかにルルーシュへ盲目的に憎悪を向けていた市民といえど、忘れられない問題点であった。
 市民の声が高まってくると、市民団体が声を上げる。すると国の政治家も無視はできなかった。
 超合衆国の世界会議にて、ソレらについて各国は答えを迫った。
 特に当時の黒の騎士団の統率者であった扇要・黎星刻の2名、最高議長の神楽耶が吊るし上げにあった。
 神楽耶に関しては、会議の場で軍部の会議介入を諌めなかったのは問題だし、皇帝を閉じ込める人道に反した行為をしたことに対して追求があった。しかし当時のブリタニアの情勢を鑑みて、またルルーシュと1対1で話しをしていた神楽耶の心情も納得できるということで謝罪のみで済んだ。
 これはルルーシュが悪魔・魔王・悪逆皇帝としての人々の憎悪が強かった事が最大の要因としている。
 しかし黒の騎士団の戦闘行為・虚偽報告・越権行為に関しては話は別だった。
 この問題は生中継で放送されていたが、扇・星刻の両名は徹底的に世界から叩かれた。
 当たり前だが、民主国家の政治に軍部が介入するのはあってはならない。
 これは心情を差し置いても処分しなくてはならないという理由で、当時の幹部は名前の公表をして降格処分となった。
 だがゼロ死亡の虚偽報告に関しては処分では済まなかった。
 早とちりしました、なんて子供の言い訳は通用しない。
 ではその時何が起こり、そしてどういう思惑からそのように発表されたのか、処刑台に立たされたような表情で日本国首相の扇要は言い訳という釈明をした。
 各国は迫る。自分たちが独自に調査したデータを元に。
 その結果、ディートハルトが当時撮影していたゼロに銃を向け処刑しようとする映像(ただしカレンとラクシャータによりルルーシュがばれるところは取り除かれボカされた)、元黒の騎士団一員の証言、シュナイゼル側の軍人の証言、神根島で戦闘した者の証言からついに答えは出た。
 黒の騎士団は当時敵であったシュナイゼルと、ゼロに内緒で密かに繋がり癒着し、情報を鵜呑みにした結果ゼロを銃殺した事が明るみに出た。
 超合衆国の許可をとらず、独断で日本の返還を口約束で取った。
 大言壮語を振りまいた挙句、ゼロがいる時より何倍の戦死者を出したこと。
 また扇要に関して、現在は裏切っているとはいえ当時はブリタニア所属の軍人ヴィレッタ・ヌウとプライベートに密会し、繋がっていた事まで明るみに出た。
 扇要は「千草は関係ないっ! 彼女は協力者だ!」と叫んだが、そんな子供の言い訳は世界に通じない。
 当時の彼女の肩書きがどうであったかが一番の問題点なのだ。


 この叩き上げ行為はおよそ1ヶ月ほど続き、マスコミは視聴率が取れることから徹底的にこの事を調べ上げた。
 ナナリーは当時のヴィレッタの動向を探らせ、その結果、非道徳的なルルーシュの24時間の監視行為をした事などを調べ上げた。
 彼女はこの事をヴィレッタの為に隠そうとしたが、どこからか情報が漏洩。もしくは誰かが調べ上げたのかもしれないが、世間に流れた。
 この結果、扇は世界各国から徹底的に袋叩きにあい、また国内執政に関して既存の政策しか取れなかった凡庸か無能とも取れる政治家能力であった為、日本国民の不満は爆発。
 ゼロの殺害行為に怒りを爆発させた国民は、国会に詰め寄り首相の退陣要求を迫った。
 結果のみいえば、扇要は首相を半年という短さで辞職、黒の騎士団幹部はゼロ信奉者たちの一部の過激集団により暴行・銃殺・職場のクビにあった。
 ヴィレッタ・ヌウは己の身の危険を悟り、離婚してブリタニアに帰郷。
 扇要は騎士団在籍時のツテで地下に引き篭もり、一生を身を隠して生きていく事を余儀なくされた。
 しかし後に、情報漏れから駆けつけた過激派の一員により、急所を避けたナイフと銃の滅多刺し・発砲されるという、無残な死を遂げた。
 死に顔は、最後までゼロを恨み続け「これもギアスか!?」と怨嗟の声を上げた、醜い表情だった。


 藤堂鏡志朗と千葉凪沙の両名は結婚を果たしたが、情報漏れから身が危うくなると、藤堂はその武士道精神から民衆の怒りを受け入れ、素直に殺された。
 その最後は、見事なものだったらしいが、奇跡の藤堂ではなく、裏切りの藤堂、と言われ殺されたのは皮肉なのかもしれない。
 また千葉凪沙は、彼女は黒の騎士団時代からと同じように終始ゼロの批判を繰り返し、藤堂を盲目的までに擁護した。それは妻としては当たり前だったのかもしれない。
 だがゼロ信者の連中にとって、それは逆撫でするしかなく、男たちによって裸に剥かれ何度も強姦され、その結果殺されるという一番惨めな死に姿だった。
 第一発見者では、全裸の千葉が地面に放置され腹部から出血して死んでいるという、哀れな姿だったという。


 元ナイトオブラウンズ所属、ナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグについてだが、彼は旧貴族階級の者たち、98代皇帝派の連中に恨まれることになった。
 結果はどうあれ、他のラウンズはシャルル皇帝の敵討ちとしてルルーシュに戦いを挑み、見事にシャルルへの忠誠心を示した。
 しかしジノ・ヴァインベルグについては、彼は無様にも生き残っただけではなく、途中から黒の騎士団と行動を共にし、ダモクレスで世界を脅したシュナイゼルの軍門にも下った。
 またルルーシュの死後、合衆国中華の天子の元に行ったり、日本のアッシュフォード学園に通ったりと、その行動に信念の一貫性はなく、元貴族連中にしてみれば格好の恨みの的だった。
 彼は貴族口調で演説し己を弁明した。元貴族連中から見て、その軽薄な態度・口調は怒りを買う元となった。
 彼は後に、立ち寄った店で民衆によって毒を盛られ、倒れた所を襲われ殺害されることになった。いかにラウンズとはいえ、毒には勝てないということだ。
 彼は彼が信じ・守ろうとした旧貴族の連中によって殺され、髪は毟り取られ目は抉られるという、哀れな結末となった。
 カレン・シュタットフェルトに関して、ゼロを最初は庇っていた事から市民の反感は少々は減少されたのだが、学園に戻っても扇要の件から学園には居られず中退。
 「ゼロは私が殺すわ!」と息巻いて発言したことから日本にはいられず、神楽耶のSPとして国外暮らしを母親と共に余儀なくされていた。
 そして、コーネリア・リ・ブリタニアについて。
 彼女は身体の療養をし、ナナリーの補佐についた。
 役割からとはいえ「ルルーシュは死んだぞ!」と叫んだことは、世界の人々に英雄として称えられた。
 しかし、過去の魔女として数多の軍人を葬ったにも関わらず英雄視されているのは彼女に心労を与えたようで、またとある人物に真実を告げられ弾劾されてから、彼女は精神的に病んで身体を壊し、2年後に病死することになる。
 シュナイゼルはその稀有な頭脳から恨みを買う連中をことごとく避け、ゼロに従い制度を制定し、寿命を迎えるまで政治家として生きることになる。


 この惨劇は、ゼロ・レクイエムからたった半年後のことである。


 ルルーシュ皇帝派の人間についてはまた対象の運命を辿った。
 ロイドとセシル、ニーナについてはナナリーが保護した事もあり、無事に研究を続けている。
 ニーナは『大量破壊兵器を作った悪魔』と呼ばれているらしい。かつてゼロに投げつけた言葉が自分に返って来たのは、罰なのかもしれない。
 咲世子はひたすらナナリーのお世話役として過ごし、殺そうとする者が来ても、のらりくらりと避わしていた。
 ジェレミアとアーニャに関して、一番以外な結果といってもいい。
 ルルーシュは、自分が亡き後、一番の憎悪が向くのはジェレミアだと予測していた。騎士だったのだから当然だろう。
 その為に、ジェレミアたちが安全に暮らせて情報が洩れないような生活環境をしっかりと整えていたのだ。
 おかげで2人は父と娘の関係でオレンジ畑を耕しながら静かに暮らしている。
 アーニャは後に、ナナリーと友諠を結び、SPの1人として付き添うことになる。
 C.Cはゼロ・レクイエム前から姿を消し、誰も行方を掴むことが出来なかった。
 悪逆皇帝派の人間たちは、ルルーシュを除き全員が平和といえる暮らしを送っているのは、皮肉といえるかもしれない。
 それはゼロ・レクイエムがそれだけ完璧だったともいえるし、ルルーシュの悪役が完全に機能していた結果ともいえる。


 生徒会のメンバーについて。
 リヴァルはルルーシュの死後、おもいっきり号泣し、今回の真実を必死で求めた。
 カレンによって真実を知ると、カレンや黒の騎士団を罵倒し、そして卒業後は姿を消した。カレンたちを恨んでいたのだ。
 ミレイはキャスターとして華々しく活躍。真実を知って悔しそうに俯いたが、必死に堪えて仕事をする彼女は美しかった。
 だが後に彼女達は救いを齎されることになる。それは今は記さないでおこう。


 ・・・・・・全ては当然の結果だったのかもしれない。
 いかにルルーシュが悪意を集めても、間違いを犯した上の人間は責任を取らされる。
 ゼロの仮面を被ったスザクは内心で溜め息を吐き、自分を追及したそうな国々の連中を眺めた。
 流石に英雄のゼロには露骨な言葉をかけられないようだ。
 当たり前だ。自分たちだって扇たちの二の舞に合いたくはない。
 またルルーシュが演じたゼロの信奉者達は、凄まじいほど彼を信じている事が分かった。
 これは信奉でも信仰でもなく、狂気の敬愛だった。
 それは元黒の騎士団幹部たちへの凶行が証明しているだろう。
 また、神楽耶はその優秀さからルルーシュの狙いに気付き、一生を一人身で過ごし、議長として責任を果たすつもりらしい。
 己の浅はかさを悔いての事か、過去の過ちを繰り返さないという決意からか、ゼロを愛したという証明をしたかったからか。それは分からない。
 ナナリーはこの状況を何とかしたがっていたが、ルルーシュの心を知り、ルルーシュへの憎悪で溢れた世界に苦しんでいる彼女には、この事実は我慢できなかったようだ。
 とにかくナナリーとしては兄が望んだ会話による平和を保ち続ける事に尽力し、ブリタニアの専制国家意識の改革を取り組んだ。
 黒の騎士団に関しては、映像を見て、ルルーシュが銃殺される瞬間の映像を見た時に、正直助けたいという気持ちが無くなったのが事実だった。
 ナナリーは、自分も大勢の人を殺した罪もあるが、それでも彼等のあまりに愚劣な行為を見ては、自分の罪と同位に見るのが間違っていると思った。
 というより、自分の大きな罪の償いと、兄が残した優しい世界を引き継ぐ為に他に構ってる余裕など無かった、というのが正直なところだ。


 ナナリーにとって『優しい世界』などではなかった。


 そんなある日の朝のこと。
 ナナリーはいつも通り自室で篠崎咲世子の手伝いで着替えを済ませ、ルルーシュの写真に挨拶を行い、髪を整え、皇帝として政務に勤しもうとした時だった。
 ナナリーにとっては囚人の身の時以外で、初めてその人物と会った。
 黒の騎士団の一員であり、影武者までして兄の近くにいた咲夜子ですら、詳しくは知らないという人物。
 義兄であるシュナイゼルからの情報では、兄に異能を与えた元凶の女性。
 そして、兄とどんな時でも共にいて、兄も共犯者だと特別性を感じさせる発言をしており、また最後まで、そしてどんなときも理解者であったらしい女性。
 そう。
 最愛の兄の協力者であり、1度紹介された、将来を約束した仲だという彼女。
 C.C.<シー・ツー>だった。


「久しぶりだな、ナナリー。咲世子。元気にしてたか?」


「―――まあ、C.Cさん! お久しぶりです!」
「お久しゅうございます、C.C様」
「ああ。ん? ナナリー、お前肌が荒れているぞ。食事はちゃんとしているのか? ダメだぞ、しっかりしないと」
「ええ、ありがとうございます」
「ふむ。それにしても若干胸が大きくなった。流石マリアンヌの娘といったところか。あいつはまるで牛だったからな」
「そ、そうでしょうか? あら? C.Cさんはお母様のことをご存知なのですか? それに今までどこに・・・・・」
「ああ、世界をブラリとしてた。ルルーシュが愛し守り、惜しんだ世界をぐるッと、な」
「・・・・・・そうでしたか」
「そうしたら、黒の騎士団の面々に関する騒動がひと段落したからな。驚くべきこともあったし、ここに来た訳だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「C.C様。驚くべき事とは、何があったのでしょう? ここに来られたからには、それもナナリー様に関係しての事かと思われるのですが」


 ナナリーの横に佇む咲夜子の言葉に、C.Cはニヤリと笑う。


「ああ。実は私はギアスを授けた者に関して、彼等の死後もある程度はその魂を感じることができるんだが・・・・・・」
「!!」


 その言葉に反応したのはナナリーだった。


「もちろん会話ができる訳ではない。マリアンヌとはあいつ特有の状態とギアスから会話できた訳だし、ルルーシュは違うからな」
「お母様が、ギアスユーザーだったのですか!?」
「ん・・・・・・? ああ、知らなかったのか。だがそれはどうでもいい。それよりもこっちが問題だ」
「?」
「簡単にいえば、ギアスを授けた者が死んだら、あの世とでもいうべき場所、Cの世界、というんだが、そこに居ることを僅かにだが感じることができる。本当に何となくという感じだがな」
「・・・・・・亡くなったお兄様の魂を感じる、という事ですか?」
「いや、ちがう」


 C.Cはそのエメラルドグリーンの髪を翻し、ニヤリと笑った。
 その焦らす言い方に、急かすようにナナリーは言った。


「では・・・・・・?」
「私も驚いたが、ルルーシュの気配が全く感じられない」


 その言葉に、静聴していた咲世子も内心で首を傾げた。
 正直、意味が分からない。
 感じないとどうだというのだろうか。


「ルルーシュが、死後の世界にいないという事だ」
「・・・・・・いないのならどうだというのでしょう?」
「簡単な事だ」


 次に出たC.Cの言葉に、ナナリーは言った意味が解らないほどショックを受けた。
 咲世子はその鍛え抜かれた忍びの鉄面皮が剥がれ落ち、“あの”咲世子が目を見開いて驚いたのだ。


 ――――――ルルーシュはどこかで生きている、と








「あれから半年か・・・・・・」
【そうだね。すっかりここも居心地よくなっちゃったな】


 ある秋の日、鏑木邸の庭でルルーシュとシャーリーは白い椅子に座り紅茶を嗜んでいた。
 瑞穂や紫苑、貴子は大学の時間で、本日は勉学に勤しんでいる。
 自分も戸籍関連を全て用意してくれた鏑木家のおかげで大学に通えるのだが、今は気ままなフリーターとして楽しんでいる。
 いや、会社を設立しているからフリーターではないかもしれない。
 ただ、会社といっても基本的な技術関連の資料は全て用意して、研究者に渡してあるから、鏑木の優秀な社員が後は開発してくれる。
 確かにここ2ヶ月は用意するべき資料やら研究者への概念講義やらで忙しかったが、ゼロの時に比べるとまだ楽であった。


【ルル、この紅茶美味しいね♪】
「ああ、そうだな。上等な茶葉じゃないにも関わらずここまでとは・・・・・・楓さんの腕には驚くよ」
【ホントだよね〜】


 平日の昼にも関わらず、呑気な会話をする2人であった。
 シャーリーは当初、物に触れる事ができなかったが、時間が経過してルルーシュや瑞穂たち、この世界の情勢を知ると、物に触れ食事ができるようになった。
 これについては本人は大いに喜んでいた。甘いものを食べれるのは本当に嬉しいのだろう。
 日本に60年以上の侵略がないこの世界は、軍事面以外に国費を使ってきたお陰か、こちらの方が食関連でも進化は進んでいる。
 ルルーシュは平和な世の中だろうが戦争の世界だろうが、最初はどうでもよかった。
 しかし、シャーリーと瑞穂たちに囲まれ、ゆっくりと時が流れていくと共にやっと生きていく意志を持ち始め、徐々に意識を世間に興味を持ち始めた。
 当初、ゼロレクイエムによって死を覚悟していたルルーシュは、それが異世界に生きながらえるという形で曲がった事で、まるで気力がなかった。
 そんな無気力状態だったルルーシュの態度は、当初、厳島貴子にとって好ましくない人間性であった為、説教に始まり無理矢理外出させられたりとしたものだ。
 その生真面目過ぎる性格は、ルルーシュの周りにはいないタイプであり、あえて例えるならコーネリアに似ている性格かもしれない。
 まあ、たまに見せる瑞穂への『甘え』のようなものは、コーネリアには無かったが(ユーフェミアは除く)。


【瑞穂君たちは夕方には帰ってくるんだよね】
「ああ。そう言っていたな。しかしいつも思うんだが・・・・・・あいつの格好はどうにかならないか?」
【アハハッ♪ そうだね! でも仕方ないよルル。瑞穂君、どんな格好してても女の子みたいなんだもん】
「・・・・・・まあ、確かに、な」


 ルルーシュは汗を流して、フウっ、と溜め息を吐いた。
 楽しそうに笑いながら言うシャーリの言葉通り、彼は本当に女性にしか見えないのだから始末が悪い。
 ミレイに女装させられた自分とは違う。
 瑞穂は普段着であれ男の服装であれ、何を着ても女にしか見えないのだから始末が悪い。
 さらに問題なのは・・・・・・。


「そもそもあいつの男性ホルモンは、いやホルモンバランスはどうなっているんだ!?」
【そうだねぇ・・・・・・男の人なのに、まったく男の人の匂いがしないんだもん。完全に女の人だよ】


 そう。
 瑞穂からは、ぜんぜん男臭い匂いがしないのだ。彼の部屋の匂い・体臭・髪質・体型が、完全に『女』のモノなのだ。
 これは、いくらルルーシュでも無理な話だった。
 そしてそこに突っ込むのも仕方ない反応かもしれない。


「俺は瑞穂の友だが・・・・・・あいつが男であることが未だに信じられない」
【うん。それはあたしも同感だよルル】
「まあ・・・・・・紫苑があいつの妻なんだから、瑞穂は旦那だという事だし男である事の証拠でもあるんだが」
【すごいよねぇ・・・・・・あたしたちよりたった3歳しか変わらないのに結婚だよ? いいなぁ・・・・・・】


 ポーっと頬を染めて、うっとりとした表情をするシャーリー。
 ルルーシュは微妙に視線を泳がせて気まずそうにする。
 彼としては、死なせてしまった原因は自分だし、シャーリーとはいろいろとあったのだから、複雑なのは当然だろう。


【ルル、そういえば今日って何かあるんじゃなかったっけ?】
「ああ、瑞穂が学生時代の友人と会うらしいんだが、そこで俺達を友人として紹介するらしい」
【へぇ〜〜〜。学生時代っていうと・・・・・・女子高だったよね?】
「あ、ああ。そうらしいな」
【ふ〜〜〜〜ん】
「な、なにか勘違いしてないかシャーリー? 友人の紹介だから、さ」
【へ〜〜〜〜〜】


 ダメだ。
 戦略的撤退を考えねば、と即時決断する。


「か、楓さんの手伝いでもしてこようかな」
【あ! こらっ! 逃げるな、ルル!】


 慌てて鏑木邸に入っていったルルーシュを追って、シャーリーは「こら〜〜!」と言いながら宙をフヨフヨと浮かびつつ追いかけたのだった。









 夕方、ルルーシュとシャーリーは一緒に鏑木邸を出発し、近くのバスに乗り込んで若者が集う街・原宿に向かった。
 予め道順・方法・時間を調べていたルルーシュは、初めてにも関わらず迷わずに到着。
 シャーリーは周囲の人間には見えないようで、問題なくルルーシュの横に付いていて、周りの可愛い服屋やアクセサリーショップなどに目を輝かせている。
 シャーリーに何とかして肉体を与えたい。ルルーシュは楽しそうにしているシャーリーの横顔を見て、本当に嬉しそうに表情を綻ばせながら思う。
 1人で微笑むルルーシュは不気味だが、彼の皇族オーラとその類稀なる容姿は原宿においても道行く女性を魅了した。
 最も、男からは迷惑そうな表情をされていたが。
 とりあえずルルーシュは竹下通りを下り、交差点近くのオープンテラス付きの喫茶店に入る。
 大通りに面した喫茶店は日の入りが良く、あちこちに木々があることから爽やかな空間を演出してある。


【わぁ〜〜〜、なんかいい感じだな〜】
「ああ。設計者とオーナーのセンスの良さが出ている」
【そうだね。あっ! あそこに瑞穂君と紫苑さんたちがいるよ!】
「ああ、本当だ」


 ルルーシュが外のテラスに座っている瑞穂たちを発見すると、瑞穂も気付いたようで、手を振ってきた。


「ルルーシュ! こっち、こっち!」
「待たせてすまない」
「大丈夫ですよ。こちらも楽しくお話できましたから」
「そうか。それは良かった」


 瑞穂の隣に紫苑が座っており、その隣に貴子、彼女達の前に見知らぬ女の子が2人座っていた。
 外見年齢からは少し幼くみえるが、雰囲気から同年齢ほどだとルルーシュは推測する。
 紫苑とは逆側の瑞穂の隣に座り、ウェイトレスにアイスコーヒーを1つ、と注文する。
 こういう時はシャーリーは何も飲めないから気の毒だ。
 ルルーシュは一息吐くと、目の前に座りチラチラと自分を見てくる女の子たちを見る。


「どうも、初めまして。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。よろしくお願いします」


 皇族スマイルで微笑みながら挨拶するルルーシュ。シャーリーが「うわっ・・・・・・出た」と呟いた。
 対して、敬愛するエルダーシスターにして、自分たちと親しいお姉さまの瑞穂の友人が来ると聞いていた女の子たちは緊張した面持ちだ。
 彼女たちは瑞穂から男の友人と聞いていたが、まさかここまで美形でカッコイイとは思ってなかったのだ。


「あ、あ、あ、あの、初めまして!! 周防院奏<すおういん・かな>と申しますです。よろしくお願いしますですよ」
「か、か、上岡由佳里と言います! はじめまして!」
「奏ちゃん、由佳里ちゃん。そんなに緊張しなくてもいいのよ? 彼は私の親友ですから」
「そうよ? もう、奏ちゃんったら・・・・・・カワイイ♪」


 ガッチガチに緊張する奏と名乗る小柄すぎる女の子と由佳里という活発な感じの女の子。
 そんな2人に苦笑しながら紹介する瑞穂と、たまらないとでも言うように横に移動して抱きつく紫苑。
 ルルーシュは、見事な『年上のお姉さま』を演じる瑞穂に唖然となる。
 シャーリーもビックリしているようで、口をパカーンと開けて呆けている。


「そ、そうなんですか? でも、ビックリです。瑞穂お姉さまに男性のご友人がいただなんて」
「ええ。私は開正学園にいたでしょ? その頃からの友人なのよ」
「ほぇえ〜〜〜頭良いんですね〜〜〜」
「・・・・・・ああ。瑞穂とは昔からの友人として、良い友人関係を築かせてもらっている。貴方たちのことも・・・・・・彼女から伺っています」
「そうなんですかぁ。でも流石は瑞穂お姉さまのご友人様です。ビックリするほどカッコイイのですよ〜」
「そ、そうですか? あ、ありがとうございます。周防院さんも上岡さんも綺麗な方で、こちらもビックリしていますよ」
【・・・・・・・・・・・・私にカワイイなんか言ったことないくせに】


 背後からのシャーリーの拗ねた声にドキッとするルルーシュ。
 彼女の機嫌を損ねた時の自分はめちゃくちゃ弱いことを、ルルーシュは自覚している。
 シャーリーの声や姿が見える瑞穂・紫苑・貴子の3人は、2人の様子に苦笑していた。
 この時、ルルーシュは奏たちの表情の変化を見逃さなかった。
 彼女たちの視線が、自分の背後に向かっていることに。
 自分ではなく、自分を見通している背景。
 つまり―――。


「まさか・・・・・・君たちは、彼女が見えるのか?」
「えっ!?」
「!?」
「やはり・・・・・・驚いたな。しかしこうなると、見える条件を調べないといけないな」
「え、では、やっぱり幽霊・・・・・・瑞穂お姉さま、後ろの方は一子さんのような?」
「え、ええ。そのように捉えて問題ないと思うわ。ルルーシュ、シャーリーさん。奏ちゃんたちなら・・・・・・」
「・・・・・・ああ。瑞穂の友人なら、下手な事はしないと信用できる」
「それは、わたくしも保証します」
「そうですね。奏ちゃんも由佳里ちゃんも私たちの妹ですから」


 瑞穂とまりやの妹的立場にあった彼女たちなら、幽霊であるシャーリーに害する行為はしないだろう。
 ルルーシュは彼女たちをまだ知らないが、それでも瑞穂たちを信頼しているので、彼女たちの言葉を信じることにした。


「・・・・・・そうか。とにかく紹介しよう」
【私、シャーリー・フェネット。よろしくね♪】
「あ、はい。シャーリーさん。周防院奏と申しますですよ」
「上岡由佳里です!」
【うん、よろしくね! でも、なんで見える人が限られてるんだろ】
「だが、殆どの人は見えてないようだ。とりあえずは問題ないだろう」


 ルルーシュは顎に手を当ててしばらく思案していたが、当面は問題ない、と言って運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲む。
 すると、奏たちが興味深そうにシャーリーに尋ねてきた。


「あの、シャーリーさんって、ルルーシュさんと仲が良いんですか?」
【え? うん。だって同じ学校だったし、クラスメイトだったもん。生徒会も一緒だったし】
「へぇ〜〜〜〜〜。あれ、でも、だとしたら・・・・・・」
【うん。だいたい1年前位にね。ちょっとした事に巻き込まれて】
「・・・・・・・・・・・・」
「そうなんですか・・・・・・でも、ルルーシュさんと繋がりが強いんですね!」
【? どういうこと?】
「あのね、私たちが知ってた幽霊の一子さんって、20年前に亡くなった子だったんですけど、呪縛霊として因縁深い学生寮のとある部屋に繋がれていたんです」
「ああ、なるほど。シャーリーは俺と繋がっているからな。そういう意味で尋ねたんだろう?」
【そっかー。でもルルに私が繋がるのって当然だよね。フフフ♪】
「・・・・・・・・・・・・まあ、そうだな」
「ルルーシュ、どういうこと?」


 シャーリーが取り付いた事情や、シャーリーの死の経緯を知らない瑞穂たちは首を傾げて聞いてみた。


「・・・・・・詳しい経緯は省くが、シャーリーが息を引き取るその時まで、俺が傍にいたからだろう」
「「「「「 !? 」」」」」
【ルル。それきゃ、みんな引くだけだよ】
「む・・・・・・そうか。では、シャーリーが亡くなる原因を作ったのが、俺だからだ」
「「「「「 !!? 」」」」」


 ・・・・・・余計に誤解を招きます。
 シャーリーはルルの馬鹿正直な所にクスッと苦笑する。
 シャーリーは死んでから、ルルーシュの戦いを最後まで見ていた。
 彼の率直で、嘘は吐かず、釈明や言い訳などはせず、ひたすら己の罪を背負うとする彼の姿を見て、ずっと悲しみ嘆いたものだった。


【違うって。ルルに私が告白して、友達以上恋人未満のような関係だったからでしょ?】
「・・・・・・それもあるな。会長のふざけたイベントの所為でベストカップルとかなったんだっけ。懐かしいな」
【そうだね〜。で、いろいろあってこうなったって訳。誤解しないでね?】


 ダラダラと汗をかく瑞穂たちに明るく笑いながら言うシャーリー。
 ルルーシュも自然体でコーヒーを啜っている。
 ・・・・・・本当に、良い度胸してる。


「まあ、気にしないでくれ。今はなんの問題もないんだから」
「ル、ルルーシュたちがそう言うなら、気にしないでおくよ。シャーリーさんとルルーシュが仲が良いのは知ってるしね」
「そうですね。むしろ仲が良すぎるくらいじゃないかしら?」
「私もそう思いますわ、紫苑さん。2人は羨ましい位に熱いんですもの」
「・・・・・・ふん」


 とりなすように頷く瑞穂と、からかいの笑みを浮かべる紫苑と貴子。
 少し、というかかなり物騒な言葉が出てきたが、2人の親密さ、仲の良さを知っている紫苑たちは微笑んで流した。
 奏たちは少し引いているが、それでもシャーリーがルルーシュの首に腕を回して抱きついたり、コーヒーを飲ませてもらったりする姿をみて、少しホッとしたようだった。


「ああ、ってことは、ルルーシュさんは瑞穂お姉さまの恋人じゃないんですね! よかった〜。安心して皆に知らせられる♪」
「ぶはっ―――!! な、な、なな―――!?」
【こ、こ、こ、恋人〜〜〜〜〜!?】
「いや、ルルーシュ。シャーリーさん。ほら、察して?」


 由佳里の言葉にコーヒーを吐き出すルルーシュとシャーリー。
 ごほごほと咽ているルルーシュは、よほど衝撃が大きかったのだろうか?
 とりあえず瑞穂が苦笑しながら2人にボカしながら促す。


「げほ、ごほ・・・・・・・・・ん、んんん! ・・・・・・とりあえず、それは有り得ないから全力で否定しておこう」
【あ、久しぶりに聴いたかも。ルルの全力って言葉】
「いや、それはどうでもいいから・・・・・・」


 何故かルルーシュがゲッソリと疲れることになったカフェでの談笑。
 奏も由佳里も、最初は男性ということで警戒していたが、ルルーシュとシャーリーの人となりを知って好感をもったのであった。


 





 喫茶店を出た一同は、6人+1名(幽霊)でショッピングに出かけた。
 女の買い物ということだけあり、とてつもなく長い。
 おかげでルルーシュは体力0でバテバテだ。彼の体力はミレイにすら劣ると証明されている。
 またこっちの世界の服はアチラとは異なるためシャーリーは興味津々。ルル−シュもナナリーにはこの服が合ってるな、と考えたりしてシスコンモードに入っていた。
 そしてTシャツの色から、かつての共犯者を思い出し、今どうしているか心配になった。
 また、瑞穂がランジェリーショップに入って号泣していたのは、ルルーシュもかなり同情した。
 もちろルルーシュは入っていないが、瑞穂は入らない訳にはいかないのだ。
 彼は頬が若干引き攣りながらも、奏たちといった妹たちに合った下着を探してあげていた。
 それについても、ルルーシュは「バレたら殺されるぞ」と呟いたとか。






 こうして日が暮れ、ショッピングモール内で夕食を摂っていこうとした時だった。
 不意に前方から3人組みの男女が歩いてきて、ルルーシュたちの目に留まった。
 瑞穂は『家』の事情で何度も会ったことがあったから、ルルーシュはサポート故の経緯から立ち止まった。


「真九郎! 今日はどこで食べるんだ?」
「ん〜〜、紫の好きな物でいいよ。何が食べたい?」
「真九郎さん? なぜ私に聞いてくれないんですか?」
「うぇ!? いや、夕乃さん。今日は紫の試験明けのお祝いだから・・・」
「・・・・・・仕方がありませんね。許してあげましょう」
「夕乃! ハンバーグはどうだ?」
「あら、いいですね。久しぶりに食べたい気がしてきました」
「そうだろう。―――っと、そういえば散鶴はどうしたのだ?」
「今日は家の事情に出ているので来れませんよ。よろしくと言っていました」
「むぅ、そうか。崩月の方のか。それは仕方が無いな」


 あの聖應女学院と同格のお嬢様学校の制服を着た女子高生の長い黒髪が特徴の美人な女の子と。
 着物を着た27歳位の気品溢れる日本美人の女性と。
 スーツを着た、優しい雰囲気を纏うこれまた同じ27歳くらいの男性の3人組。
 瑞穂とルルーシュは前の3人を知っている。そして紫苑も知っていた。瑞穂の妻になってから、初めて知った。
 停止した瑞穂とルルーシュたちに不思議そうに見上げる奏たち。するとその3人組も気付いてビックリした表情を向けてきた。


「あら」
「あ」
「おお! かぶ―――」
「あら! 紫様ではございませんか!? お久しぶりです、宮小路瑞穂です!」


 紫と呼ばれる少女が本名を言う寸前に遮る瑞穂。
 そんな彼にびっくりした紫だったが、瑞穂の格好を見て訳ありと察したのか、本当に直ぐに対応してみせた。
 もっとも、夕乃も察したけど、真九郎はびっくりしていてマヌケだった。


「――瑞穂様。こんな所で会うとは奇遇ですね。あら、紫苑様もお久しぶりです。今日は学友の方と?」
「お久しぶりですね、紫様。ええ、今日は皆でショッピングに」
「そうですか。それはお楽しそうですね。あら? そちらの方たちは初めてですよね?」


 口調が彼女の『家柄』に相応しいものい、ガラリと急変するだけ流石というべきか。
 ルルーシュはなるほどな、と納得しつつ彼女たちを伺う。
 まさかこんな所で会うとは思わなかった。
 日本を支配する表御三家の一角『九鳳院』の一人娘、九鳳院紫。彼女が7歳の時にいきなり表舞台に姿を現した経歴を持つ。
 着物の女性、崩月夕乃。かつて裏を支配していた一角『崩月』の長女、崩月夕乃。
 そして紫の恋人でボディーガードであり、また崩月所属の戦闘者、揉め事処理屋を営む紅真九郎。
 ここに、日本どころか世界を代表する絶大な権力者の3大勢力の2つがいきなり邂逅したことになる。
 奏たちが紫たちに挨拶をしているのを尻目に、ルルーシュはそんな事を考える。
 奏たちは恐縮してばかりだ。だがそれはムリもない。九鳳院の存在自体は民間人でもある程度の地位なら誰でも知れる。
 ただし、そのトップの人間の存在など誰も知らない。神秘のベールに包まれてきたのだ。
 彼女たちが恐れ慄くのも仕方がないだろう。
 こちらの世界に来て、とりあえず全ての情報を収集したが、彼等の情報は嫌でも目にした。
 おそらく自分が鏑木に新たなる技術を齎して莫大な利益を与えたことを、前の3人は知っているだろう。
 さっきから自分への興味の気配が消えていないことから、それが察せれる。
 そしてついに、最後のルルーシュへと向けられた。


「貴方も瑞穂様のご学友のかたですか?」
「ええ。瑞穂の友人で、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと申します、九鳳院様・崩月様・紅様。以後お見知りおきを」
「・・・・・・・・・・・・ほう・・・・・・貴方が噂の」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


 鋭い視線が交錯する。
 なるほど、と思った。
 ルルーシュは紫の器を自分と匹敵する器だと悟った。彼女は実に聡明だ。
 微妙に緊迫した雰囲気に奏とシャーリーたちはオロオロとするが、ルルーシュは紫と夕乃と真九郎と視線を合わせて対峙することに集中する。


「いえ、ぜひお会いしたいと思っておりました。貴方のことはこちらでも噂になっておりましたから」
「そうですか。それは光栄ですね」
「もう知っているでしょうが、紅真九郎です。よろしく」
「私は崩月夕乃と申します。貴方が手がけたレポート、感心して拝見しました」
「それは光栄です。崩月の当主代理の方に、あの紅さんにお会いできるとは」


 和やかにとは言いにくいが、表面上はニコニコしながら握手を交わすルルーシュたちは、少し怖かった。
 そんなルルーシュの瞳をジーッと見つめていた紫は、突然その固い表情を崩した。


「うむ。写真で見ると嫌な目をしていたが、今は全然そんなこともない。これからは友人として頼むぞ!」
「・・・・・・は?」


 突如として口調が崩れる紫。
 自分の何を感じたのか、ルルーシュは分からない。それは紫が昔から得意としてきたもので、真九郎にしか分からない。
 もう一度自分の手を取られ、握手をしてきた紫に、戸惑いながらも返して頷いた。
 こうして彼女たちはもう一度瑞穂や紫苑、貴子たちに挨拶すると、どこかへ歩いていった。


「はぁ〜〜〜〜。まさか九鳳院の方とお会いするなんて。瑞穂お姉さまは凄いかたとお知り合いですね」
「え、ええ。彼女とは何度かお会いしたことがあるのよ」
「すごいのですよ〜〜〜」
「私は厳島の人間ですが、会ったことはなかったですね」
「ルルーシュ君に驚かれていましたね。何か凄いことでもしたんですか?」
「さあ? 見に覚えがありませんよ」


 ルルーシュはお得意のお惚け演技をみせ、シャーリーがその演技の高さに少し呆れていた。
 ビックリした邂逅だったが、これから彼女たちとはどのように関わっていくのだろうか。
 ルルーシュはあらゆるケースに対応できるようにしとかねば、とシミュレートしながらレストランに入った。











2008/01/20