第2話 驚愕の事態と真実 咄嗟の事態に腰を抜かしたルルーシュだったが、過去の経験(頭や心臓を打ちぬかれたC.Cが復活するなどの非常識)から、何とか動揺を抑えこんだルルーシュは現状の確認を行った。 「ルル、私ね、今は幽霊みたい」 「幽霊だと!? そんな存在が有り得るのか・・・・・・って、そういえば母上も幽霊に限りなく近かった。有り得ない話ではない」 「ルルは分かってるみたいだけど、ここって異世界なんだよ。ユーフェミア様もマリアンヌ皇妃殿下も異世界に飛ばすって言ってたから」 「何だそれは!? 母上は分かるが、何故ユフィにそんな事ができる! いや、それよりも人の意志を無視して勝手にするな!!」 「アハハハ」 「何故シャーリーに触れるんだ!? それなのに何故シャーリーはモノに触ることができないんだ!?」 「ルルがギアス発動してくれたから出てくることができたみたい。もうずっとこのままだね」 「なんなんだそれは!!」 「お、落ち着いて、ルル」 「なぜ幽霊なのに温かいんだ!? 未知の力か? それともギアスが限定的に受肉させた? 有り得ない!!」 ルルーシュの疑問という名の叫びは留まるところを知らなかったが、あまりに叫びすぎて先ほどの女性が戻ってきたらマズイと判断し、グッと堪える。 一通りの疑問というか、不可思議な点を洗い出したルルーシュはとりあえずギアスをONにしたまま、シャーリーと会話を続けた。 「言うのがおそくなってしまったが・・・・・・シャーリー」 「え、なに?」 「巻き込んでしまってすまない。死なせることになってすまない。謝ってすむ問題じゃないのは分かってるが、一言だけ言いたかった」 ルルーシュは、瞳を逸らさずにシャーリーの瞳を見つめて言った。 シャーリーを抱き寄せる。 あの成田の時のように、しっかりと。 そんな彼に、シャーリーは腕の中で首を横に振って優しく笑った。 「いいの。言ったよね? ルルのホントになってあげたかったって。生まれ変わっても、ルルを好きになるって」 「あ、ああ・・・・・・」 「ルルの戦いをずっと見てたの。ゼロ鎮魂歌までなっちゃったことが悲しくて・・・・・・でも、異世界で過ごせって陛下たちが仰ってくれて、とっても嬉しかったんだよ?」 「シャーリー・・・・・・」 「今度こそ、ずっと一緒にいようね、ルル」 「ああ、約束だ」 2人でしっかりと抱きしめあう。 なぜ、シャーリーの体温を感じるのかルルーシュは甚だ疑問だったが、そんな事はどうでもいいと直ぐに振り払う。 失ったものが感じられるのだから、常識など糞喰らえに等しい。 2人はしばらく抱擁を交わしていたが、ハッと気付く。 「いや、しかしこのままではマズイ。俺を助けてくれた瑞穂という女性が戻ってきたら、言い訳ができないじゃないか」 「ああ、さっきの人。すっごく・・・・・・美人だよねぇ・・・・・・」 「シャ、シャーリー? な、なにか怒ってないか?」 「ううん・・・・・・全然、これっぽっちも、怒ってないよ?」 「・・・・・・・・・・・・(いけない。なにか俺は間違えたらしいが、何を間違えたのかが判らない!!)」 もの凄いジト目で見てくるシャーリーに、だらだらと汗を流すルルーシュ。 焦るルルーシュは、突発性に弱い特徴が顕著に出ていたが、彼を更に混乱させる事態が訪れた。 ドアがノックされたのだった。 「入りますよ?」 「え・・・・・・・・・あ」 「病院食を作ってもらったので、もってきたのです・・・・・・・・・が・・・・・・え?」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・ど、どうしよう、ルル」 「・・・・・・いや、これは、その、何と言えばいいか」 もはや完全にイレギュラーに陥った時のルルーシュだった。 入ってきた女性・瑞穂とその背後にいる、こちらはルルーシュにとって初対面となる女性2人。 後ろの2人はめちゃくちゃ驚いているようで、黒髪の女性は目を丸くし、茶髪の女性は完全に硬直している。 しかし。 瑞穂は最初はビックリした表情で、その後懐かしそうに微笑む表情に変化したのだった。 その変わり様に、ルルーシュは一瞬で正気に戻り、対応策を練った。 「・・・・・・幽霊、ですか。貴方たちの事情は分かりませんが、安心して下さい」 「・・・・・・安心だと?」 「ええ。警戒とか誤魔化そうとかしなくても良いという意味です。実は私も4年前に幽霊に出会い、一緒に生活していた事があるんです」 「・・・・・・さっきから、俺の常識が悉く吹き飛んでいくが・・・・・・これは助かるな」 眩暈がする、とでも言いたげに額に手を当て溜め息を吐くルルーシュ。 疲れきった様子のルルーシュを放っておいて、シャーリーと瑞穂は挨拶を交わしていた。 最初は驚いていた黒髪の女性も会話に加わったが、茶髪の女性は気絶してしまい、黒髪の女性に支えられて椅子に座らされていた。 どうやら幽霊が苦手なようだ。 「私、シャーリー・フェネットです。よろしくお願いします!」 「あ、これは丁寧にどうも。私は宮小路瑞穂と言います。」 「初めまして。私は十条紫苑と申します。これからよろしくお願いしますね」 「ふわぁ〜〜、日本の歴史に出てきた武家のお姫様みたい」 「そうですか? お恥ずかしいですわ。あ、こちらで気を失っておられる方は私と瑞穂さん共通のお友達である、厳島貴子さんです」 「みなさん綺麗ですね・・・・・・羨ましいなぁ」 シャーリーと会話する女性たちの言葉を聞き、ルルーシュはこの世界が異世界である事に確信した。 瑞穂だけなら、彼女の慈悲でルルーシュを助ける事もあるだろう。しかしそ他に2人加わるとなると、それは変わってくる。 どれだけ優しい人であっても、他者がいれば自分の本意とは別の決断をしなくてはならない事が、往々にあるものだ。 ルルーシュは、それをゼロになった事で学んだ。 だから、ルルは姿勢を正し、気絶していた貴子が目を覚ました所で、ゆっくりと皆を見据えた。 「ここが異世界である事は、動かしようの無い事実のようだ。そして、俺とシャーリーは異質故に身動きが取れない。貴方方の力が必要のようだ」 「ルル・・・・・・」 「「「・・・・・・・・・・・・」」」 「先ほど、アラン・スペイサーと名乗りましたが、偽名を使わせて頂きました。私の本名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。18歳です」 「・・・・・・そうですか。」 ルルーシュの言葉に、コクリと頷く瑞穂。その表情は嘘を吐かれたというのに、嫌な表情が1つもなかった。 復活した貴子は、最初はシャーリーを見て再びビックリしたが、ルルーシュの言葉で真剣な表情になった。とても有能な女性のようだ。 玉置や扇たちとは大違いだな、と思いながらルルーシュは瑞穂を見た。 そんなルルと瑞穂を心配そうに見るシャーリー。 「まず、貴方たちの身の安全・この世界で過ごす為の諸々の身分などはコチラで用意させて頂きます」 「・・・・・・すいません」 「いえ、それは貴方を助けた私の義務でもありますし、その程度の事は簡単にできるんですから、気にしないでください」 「・・・・・・という事は、やはり貴方の家はそれだけ力を持っているということか」 「ええ・・・・・・ルルーシュ君も正直に話してくれたようだし、私も正直に言わなきゃダメだよね」 そういって、瑞穂は佇まいを直し、紫苑と貴子に柔らかく微笑み、そして言った。 「私の本名は、鏑木グループ、鏑木慶行総裁が嫡男、鏑木瑞穂と言います」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・あ、あの、ど、どうかしましたか?」 ビシッと固まったルルーシュとシャーリーの2人に、瑞穂は戸惑うように声をかける。 そう。 理解したくない単語があったから、2人は固まってしまったのだ。 それは・・・・・・ 「嫡男!? という事は、貴方は男なのか!?」 「え、えぇぇぇえええええええええええええ!? 嘘!? 信じられない!! だって私より美人だし、痩せてるし、腰細いし!!」 「・・・・・・う、うぅぅ。やっぱり女性だと思ってたんだ(泣)」 「いい加減、慣れて下さい。瑞穂さん」 「そうですよ、あなた」 ドーンと落ち込む瑞穂。 彼女のこの姿を見たルルーシュは、ミレイに女装やら動物衣装やらを着せられた時の自分を思い出してしまったのだった。 だが、未だに信じられない。 瑞穂は髪は腰よりも長くサラサラのロングヘアー。顔だって完全に女性の作り。 そして何よりも、瑞穂から漂ってくる体臭が、完全に男から発せられるものではなく、女性のソレだったのだから、ルルーシュは嘘を吐かれているのではと勘ぐってしまうほどだった。 だが、決定的に男性だと信じられたのは、瑞穂の今の格好が白いブラウス一枚という薄着だったこと。そして胸が全くなく完全に平らの状態だということだ。 いくら胸のサイズがない女性でも、わずかな膨らみくらいはある。しかい瑞穂はまったくなかったのだ。 ルルーシュとシャーリーはジロジロと瑞穂を観察してしまう、が。 ・・・・・・・・・ん? 「あなたって、まさか、十条さんは・・・・・・」 「あら、私も謝罪しないといけませんね。私の本名は鏑木紫苑。瑞穂さんとは大学入学前、今から3年前に籍を入れさせていただきました」 「では私も挨拶を。私は厳島貴子。瑞穂さんと紫苑さんの友人兼秘書を勤めさせて頂いてます」 もう言葉も出ないルルーシュとシャーリーだった。 とりあえずこの世界の情勢や鏑木グループについて教えてもらった。 この世界は基本的には民主主義の国が殆ど。あちらの世界みたいに立憲君主国家でブリタニアが侵略している訳ではない。 そして、日本に存在す企業の中で、世界中のマネーの3%を締める財力を誇るのが、鏑木グループ。 日本は、鏑木・雪広・九鳳院の表御三家が世界を代表する。雪広・九鳳院も3%程の財力を誇る。 裏十三家という勢力もあるらしいが、ほとんどが既に廃絶した家らしい。 また、十条家も元は華族の家柄で、瑞穂や紫苑はどうやら皇神楽耶のような血筋といえるようだ。 貴子の実家である厳島は、庶民出身だが近年勢力を伸ばしつつあるグループのようだ。 「なるほど・・・・・・完全な平和とは言えないが、この世界は十分に平和で温かい世界のようだ」 ルルーシュは瑞穂の話を聞いて、この世界の温かさにホッとする。 この世界なら、ナナリーと共に暮らすにはピッタリだったのかもしれない。 C.Cがナナリーを連れてこちらに来てくれないだろうかと考え、すぐに否定する。 もうナナリーは、自分の道を歩いている。 自分が大事にしていた、あのナナリーではない。 だから、この願望は彼女を否定することになってしまう。それはルルーシュにとって本意ではないのだから。 「とりあえず、これから仲良くしましょう。いろいろとあったのでしょうし、ルルーシュ君の体は君が考えているよりずっと悪いものなんですよ?」 「・・・・・・そうなのか?」 「はい。貴子さん、説明お願いできますか?」 「ええ。まずお医者様からの説明ですが、貴方は精神的ストレスが酷く溜まっているという事、そしてそれを加えて肉体面にも影響が出ているらしく、身体はボロボロ、風邪に対する抵抗力・免疫力も最低ラインを切っているようです」 「・・・・・・」 「栄養面も偏っているようで、内臓も酷く痛んでいるようです。一体どんな生活を送ってきたのかとお医者様も首を傾げるほど酷い状態らしいです」 「まあ、仕方が無いだろうな」 「とりあえず完全休養が望ましいという事ですので、半年ほどは完全静養なされた方がよろしいかと思われますわ」 「わかった・・・・・・ありがとう、厳島さん」 「いえ。それから・・・・・・私の事は貴子で結構ですから。厳島の姓は嫌いでして、あまりその名で呼ばれたくないのです。それにこれから懇意にさせて頂くのですから、堅いのは可笑しな話でしょう?」 「・・・・・・そうか。では貴子さんと呼ばせてもらう」 「ええ。ではしばらくはゆっくりなさって下さいな」 そう言って、一旦は解散となった。 どうやら瑞穂は、紫苑と貴子を紹介したかったようだ。 ルルーシュは鏑木という権力者の下に落ちた事、彼女達、いや、彼等が善人であること。そんな人たちに会えた自分の運に感謝した。 「とりあえ・・・・・・ゆっくりと寝かせてもらおう」 ゼロになってから、ゆっくりと眠ることもできなかったのだ。 ルルーシュはよく手入れが届いたベッドに倒れこみ身を沈める。 「あ、ルル、寝るの?」 「ああ。シャーリーはどうする?」 「ん・・・・・・なんか外に行こうとしても、ルルからは一定の距離以上は離れられないみたいだし、私も寝よっかな」 「そうなのか・・・・・・」 「でもなんか浮いてるから、変な気分かな」 「ベッドで眠るか?」 「な!? ちょ、え、え、え、えええ、えええええっと、ルル!? 一緒に寝るってこと!?」 「はぁっ!? いや、俺はソファで寝るから―――」 「ダメだよ!! ルル、さっき言われたでしょ!! 身体はボロボロだって!! ちゃんとお布団で寝なきゃ!!」 「いや、しかし・・・・・・」 シャーリーとは確かに微妙な関係だった。 “そう”だとは言ってないし、その過程をすっ飛ばしているから、ややこしい関係なのだ。 けれど、ルルーシュはシャーリーを甘く見ていた。 彼女は明るく快活、そして意外と積極的な女性だったのだ。 「ほら、ルルも来るの!!」 「ほわっ!?」 起き上がり、ベッドを譲ろうとしていたルルーシュを、シャーリーは唯一触れるという利点を完全に利用し、彼の腕を掴んでベッドに引きずり込んだ。 2人は、かつてないほど接近していた。 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 微妙な間。 ミレイがいたら「そこでいけ! ルルーシュ、アンタやることは決まってんでしょ!!」とでも言うだろう。 しかしルルーシュにはシャーリーに手を出せる度胸はなかったのだ! そんな事はできるはずがなかったのだった。 「・・・・・・なんだか、恥ずかしいね」 「あ、ああ」 「・・・・・・とっても、温かいね」 「!!」 ルルーシュの背中にそっと手を回してくるシャーリー。 彼女の身体はやはり温かかった。 あの死に際のように、冷たくなかった。 血が止まらず流れ、死人のように真っ青な顔色ではなかった。 彼女は今、たしかに死んでいるのだろう。幽霊なのだろう。 けれど、ルルーシュだけは感じる。 彼女が温かいことを。 ならば、自分にとっては幽霊ではなく。 空をフワフワ浮いている、モノが触れず透過する、けれど生きている普通の女の子なのだ。 「・・・・・・おやすみ、シャーリー」 「うん・・・・・・おやすみ、ルル」 今はただ、彼女を抱きしめて眠った。 こうして、半年が経過した。 鏑木家に居候していたルルーシュは、引き篭もり生活を送りながら体調と精神の回復に努め、心を落ち着かせた。 また、個人で始めた資金繰り、1円企業から、向こうの世界の技術を使ったエナジーフィラーや輻射波動の技術確立。 こちらの世界で知った原子力の知識の吸収。鏑木グループの子会社として新技術を持つ会社を作り上げた。 元からゼロとしてテログループを率い、1から作り上げたルルーシュは、その経験から仕事は速かった。 3年生に進学した瑞穂や紫苑、4年生になった貴子もこの会社に参入。 『鏑木ランペルージ』を立ち上げ、代表取締役に瑞穂を、副社長に紫苑を、秘書長に貴子を、開発局統括長にルルーシュを配置。 サクラダイトの代わりに原子力エネルギーを応用した新システムやフロートシステムを作り上げ、交通手段に革命を齎した。 もちろん鏑木グループの名は大きかったし、嫡男の瑞穂のおかげでもあるが、会社は急成長を遂げて、有名な企業の仲間入りを果たした。 しかし、ルルーシュたちはマスコミの前には一切姿を現さなかった。 それも当たり前。 信じられない話だが、瑞穂の卒業高校が『聖應女学院』というのだから、それは事情を推してしかるべきだろう。 とりあえず開成学園卒業ということになっているらしく、関係者とも話しはついているらしいが、女学院の生徒たちに気付かれては防ぎようが無い。 ましてや瑞穂は、男なのに女学院に通い、更には『エルダーシスター』という、全校生徒のお姉さまという憧れのポジションに立っていたのだ。 さすがにテレビにでも出てしまったら、気付かれてしまうのが関の山だろう。 「そうか・・・・・・わざわざ女装までして、生活してたのか」 「う、うううう、分かってくれる? ボクの苦労を」 「ああ・・・・・・女装する辛さは嫌でも分かる・・・・・・同情するぞ、瑞穂」 この件で、瑞穂とルルーシュは心の友となったようだ(笑) そしてそんな2人を同情しながらも楽しそうに笑っている貴子と紫苑とシャーリー。 ルルーシュも瑞穂もガリガリだし、外見は綺麗と美しいという面を持っているのだから、仕方が無いかもね、と思ったようだ。 また、女装の原因となった瑞穂の幼馴染、御門まりやという女の人の話を聞いた時には、ルルーシュの表情は真っ青に青褪めた。 そのまりやという人物、ミレイ・アッシュフォードの性格にそっくりだったのだ!! ルルーシュが女装などの悲惨な目にあったのは、ミレイのお祭り好きによるところが大きい。 ルルーシュは必死に身振り手振りでミレイの酷さを訴え、瑞穂は涙を流しながら嬉しそうに同志を得た、とでもいわんばかりの笑顔だった。 さすがにギアスやゼロの事などは話してないルルーシュだが、学園生活の事を話すとそれはもう彼女たちの笑いを誘った。 また、瑞穂のお姉さま生活を聞くと、頬を引き攣らせながらも同情し、キラキラと涙を流しながらポンポンと肩を叩いたそうな。 とりあえず御門まりやは、アメリカにファッションデザイナーとして留学しているようで、しばらくは玩具になる心配はないそうだ。 こうして、ルルーシュと瑞穂はあらゆる意味で心友へとなっていったのだった。 2008/11/17 |