第1話 戦士ギルドでお金稼ぎ







 筋肉痛な身体を引き摺って、気さくな八百屋のおばちゃんに話しかけると、戦士がお金を稼ぐにはギルド登録が一番だと教えてくれた。

 気さくなおばちゃんで、現代人が失くしたその人間性に涙が出そうになったのは内緒だ。

 現代人はいちいち不審者だの、セクハラだの、理由をこじつけて被害妄想を膨らませるからなぁ・・・・・・。







 人の温かみに感動しながら、戦士ギルドという所を恐る恐る伺ってみた。

 ゴリラのような男たちや、ムキムキマッチョな男、モデルのような容姿の男、肌の露出が多い鎧を着た女などたくさんだ。


「武道家・・・・・・かな、あの人。あっちの人は戦士だろうし・・・・・・あのゴリラ、普段何食ってんだ?」


 正直言って、恐ろしくて入る勇気がない。当たり前だ。元の世界ですら、怪しげな店に入るのにも勇気が必要だったのだから。

 ゴリラのような男や眼つきが悪い男などが出入りしているところになど入りたくない。

 だけどここに入らないと、自分の手持ち資金が寒くなるし、あと数日で野垂れ死に確定だ。

 生きる為には仕方ないのだが・・・・・・怖いものは怖い!!

 しばらく途方に暮れていた俺だが、不意に背後から声をかけられた。


「あんた、入らないの?」
「へ?」
「見かけない顔だね。新人かい? ん〜〜〜〜、妙な服だね、それ。防護力低そう」
「あ、え、えと・・・・・・戦士ギルドに入って、生計を建てたいんですけど、やり方とかどうすればいいのか分からなくて」


 いきなり背後から話しかけてきた女性は、守銭奴な某喋り剣マスターの女性の格好に似ていた。
 健康美とも言える女性は、肌を適度に焼いた両腕足を惜しみなく出していて、真っ赤なショートの髪は見事に雰囲気にマッチしている。
 姉御、という言葉がピッタリな感じだった。
 俺はしどろもどろに説明すると、女性―――ネルは「そんな事なら、あたしが教えてやるよ」と言って俺の腕お引っ張って入っていった。


(あ・・・・・・中は意外と普通)


 入った先には元の世界のような喫茶店のような造りになっていて、違いといえば、あちこちにある掲示板のようなものと、受付のようなカウンターだ。
 中にいる人たちは、口々に情報交換を行っており、また自分の武勇伝を大きな声で語っていた。
 強そうな人たちがいっぱいだ〜、と思っていると、ネルはカウンターまで行き、受付のおばちゃんに話しかけていた。


「ねえ、ちょっと! この子、ギルド登録させてあげてくんない?」
「ん? ああ、ネルじゃないか。この子って・・・・・・こんな坊やをかい?」
「・・・・・・坊やって・・・・・・そんな歳じゃねぇーっつーの」
「あん? なんかいったかい?」
「いえ! 何でもありません!」
「全く・・・・・・まあいいけどね。で、名前は?」
「あ、黒澤光一・・・・・・いえ、コウイチ・クロサワです」
「コウイチ・・・・・・クロサワ・・・・・・っと。変な名前だねぇ」
「・・・・・・・・・・・・」
「うちは基本的に登録さえすれば、掲示板にある依頼書を取ってそれをこなして報告すれば良いシステムだよ。
 ・魔物退治なら、倒した証明に分かりやすい肉体の一部を切り落として持ってくる。
 ・捜索や採取系ならそれを遂行した証明書を依頼人から貰い、それをここに持ってくる。
 ・人間相手の討伐は・・・・・・まあ、アンタには当分無縁の話さね。あんたはやらないこった。
 お金はウチから受け取る仕組み。他の街へは登録の通達に1週間はかかるから、それまではこの辺でがんばんな。
 通達さえ完了すれば、どこの街のギルドでも利用可能さ。他に質問は?」


 ずらずらと説明してもらったおばちゃんは、豪快としか例えようがない。
 まあ、説明内容は自分の常識範囲内だったから、とりあえず安心と言ったところか。
 後は自分がどこまで出来るかに、俺のこれからの生死が決まるのだ。
 俺は「へ〜い、分かりました」と言って、ネルに感謝の言葉を言った。
 この人がいなかったら俺はこの中に入れなかったし、登録もできなかっただろう。感謝で一杯だ。


「ああ、いいってことよ。困った時はお互い様。それにもう同じギルドメンバーになったんだからね。よろしく、コウイチ」
「はい、ネルさん」
「じゃ、あたしはこれから依頼こなすから、ここでお別れだね。もう大丈夫だろ?」
「は、はい。ありがとうございました」


 ネルと俺は掲示板の前まで行き、そこにサッと目を通す。
 薬草や果物、鉱石などの採取は1000G〜5000G。高くて1万Gだ。
 魔物討伐関連はピンきりで、1000Gのもあれば、100万Gのもある。
 宿屋の代金が250Gだったから、とりあえず1000Gくらいが自分には調度良いんじゃないか、そう思ったのだが・・・・・・。
 ネルさんはいきなり魔物討伐の20万Gの手配書を手に取ったのだった。
 そうして、「じゃね、コウイチ」と言ってカッコよく出て行った。
 20万Gと言うのはやはり凄いのだろう。室内の空気が少し変わったし、ザワついた。
 ちょっと心配になったが、それどろじゃないし、俺はそこまでお人よしでもない。気にせずに掲示板に目を通し、やはり薬草採取からやることにした。










 こうして2週間が経過した。
 基本の薬草すらどんなのか知らない俺は、購入した図鑑を片手に採取関連ばかりやり、こつこつと1000G関連ばかりの依頼をこなした。
 おばちゃんは呆れてたが、こちとら一般常識すら知らないのだから仕方が無いだろ?
 そして制服と簡素な上着を購入し、宿屋生活も何とかできるようになった俺は、ちょっとずつ魔物退治も行い始めた。
 ザコモンスターと呼ばれる敵をちょっとずつ倒したり、畑を荒らす少しだけ強い、しかし1匹だけという敵を倒したりした。
 とりあえず、1つだけ分かった事がある。
 それは、勇者の剣を装備した俺は、かなり強いようだ。
 自分でも尋常じゃない程早く動けるし、ジャンプだって4bくらい跳べる。オリンピックに出れば100%金メダルである事間違いない。
 運動神経に自信がある俺はちょっとずつ強い敵と戦った。
 容姿が化け物のような敵は、もちろん初っ端から魔導の宝玉をぶっ放した・・・・・・・・・・・・怖いんだよ。悪いか!?
 まあ、そいつも強くなかったのだが。
 とりあえず俺はサクラ色の制服ジャケットを常に着ていた所為か、桜のコウイチと名付けられた。・・・・・・・・・・・・そのまんまじゃん!!


 そんなある日のこと。
 いつも通り近くのロレーヌ山脈で薬草を採取して、ザコモンスター討伐依頼をこなした俺は、鼻歌を歌いながら街へと戻ろうとしていた。
 貯金も7万G貯まった事だし、そろそろ違う街に行ってみようかなと計画していたのだ。
 すると、いきなり20人位の男達が俺の前を立ち塞がった。
 なんか極悪な感じのする鎧を纏った男達。俺はピンときた。噂で聞いていた、近頃暴れているという山賊だ。

 ・・・・・・やっぱなぁ・・・・・・近頃順調過ぎたんだよなぁ・・・・・・でもこんな所で運の悪さを発揮しなくてもいいじゃん(泣)

 よくいるじゃん? 要所要所で当たってしまう運が悪いやつ。しかもそういう奴に限って、どうでもいい所で運が良いんだよな。
 それが、俺。
 という風に、現実逃避している間にも、男達はサーベルを手に「金品・衣類を置いていけ」と命令してきた。
 ・・・・・・そのヨダレをふけ。
 っていうか、息が臭いんだよ。
 正直、内心ではビビリまくりだったが、それと同時に俺の本来の性格である、不良への嫌悪感から怒りが吹き上がってきた。
 姉や妹が不良やギャルと言った、俺が嫌いなタイプだったお陰か、正直言って目の前の男たちへは嫌悪よりも憎悪が強い。
 俺は魔導の宝玉を手にした。すると、それを寄越せや、と男達が言ってくる。
 ―――バカめ。


「死ね!!」


 ―――ピッシャァァァァァァァン!!

 つい、喧嘩の時の勢いで叫び、俺は宝玉を翳した。するよ、宝玉から強い光が発せられ、自分の周囲に激しい雷撃が落ちたのだった。
 ・・・・・・あれ、爆発じゃなくて、落雷?
 俺はあまりの雷撃に目がチカチカする視界を手で覆い、ブルブルと頭を振って視界をクリアにする。
 今まで爆発だったのに雷なのが疑問だが、それはあっさりと答えが出た。
 当たり前だ。
 俺はモンスターは恐怖心から、いなくなってしまえ、と言わんばかりの気持ちで使っていた。
 対して今の相手は人間。爆発なぞ使えば殺してしまう。正直、人殺しは勘弁して欲しい。
 だから無意識に昏倒させることができる、雷になったのだろう。
 とりあえず俺はそのように結論付け、痙攣・気絶している男達を持っていた山を上る為に持っていた命綱のロープでグルグル巻きにした。
 もちろん武器は没収。ついでにお金も貰っておく。
 逃げ出せないように仕込みナイフとかないかも確認したので、安心だ。
 俺はしばらく身動きできないだろう男達を木々に固定して街へと戻り、自警団を引き連れて男達を連行した。
 ・・・・・・仕様がないじゃん。20人のデカイ男たちを引っ張れる訳ないし。
 妙に疲れた体を引っ張り、シェリスギルドに入ると、中にいた戦士たちが皆一斉に俺を見てきた。


(え・・・・・・なんだこれ? っていうか男に見られても嬉しくもなんともねぇ)


 俺は鳥肌が立つ腕を擦りつつおばちゃんの元へ行き、山賊討伐証明書を渡す。
 そういえば、討伐関連で、しかも人間相手だから何G出るかさっぱりわからない。10万Gくらいだろうか。
 少し期待して待っていると、おばちゃんは見直したとばかりに俺の顔をジロジロと見てニヤッとし、そして奥の部屋からソレを持ってきた。


「ほら、コウイチ。これがアンタの取り分だよ。それにしてもアンタがねぇ・・・・・・こんな弱そうなのにねぇ」
「うわっ!? なにこれ!! いくらあんのコレ!!」
「300万Gだよ」
「300万!? 多すぎ!!」
「ああ、そういえば説明してなかったね。人間相手の依頼は高額なのさ。魔物と違い、いろいろとめんどくさいからね」
「・・・・・・・命を刈ることだし、恨みも買う、トラウマになりかねない、いろんなしがらみが付いてくるってこと?」
「そうさ。まあ、今回はアンタは気絶による捕獲だからね。より報酬は高いのさ。捕獲の方が殺害よりかなり難しいし、何より情報を引き出せるからね」
「へ〜」
「あの山賊団も数が多くて手を焼いてたからね。値もどんどん上がっていったんだけど・・・・・・よくアンタみたいなんが勝てたね」
「ハハハ・・・・・・」


 確かに、捕獲より殺す方が簡単だろう。例えば今回は宝玉を使ったが、剣で戦えば、全員をミネ打ちしなくてはならなかっただろう。
 それは明らかに難しい。
 そして捕まえれたなら、情報をいろいろと聞きだせるだろうから、報奨金が跳ね上がるのも頷ける。実際、捕まえなかったら100万Gだったらしい。
 俺は素直に関心しつつ、初めての大金をすぐにゴールド銀行に預けた。
 今回の事で、全額を持ち歩くのは危険だと理解できたから。
 未だにザワつく周囲を無視して、俺はゆっくりと宿屋に帰った。
 ・・・・・・今晩は少し豪華な食事にしようかな。


 








 俺は完全に調子にのっていた。
 あれから一週間、高額賞金ばかり狙い、全てにおいて勇者の剣でしばらく戦い、トドメに宝玉を使うという戦法でどんどん勝ったからだ。
 未だに負けしらずの逃走しらず。
 お金も1000万を越え、俺は順調に貯まった事で、剣の腕も魔法も自信に満ち溢れていた。
 そしてシェリスに限らず、全ギルドでもちょっとずつ噂される名前になってきて、評価もされている。
 また俺はパーティーを組まずに戦っているから、サクラ孤狼のコウイチと名付けられた期待のルーキーらしい。
 サクラ孤狼って・・・・・・意味わからん!
 まあ、評価されているし期待のルーキーというのは悪くない。
 俺は異世界でも生きていけるという証でもあるし、ぶっちゃけこんなに評価されるのは前の世界でもなかったのだから、嬉しいのは当たり前だろう。
 こうして、世話になったシェリスの街を出て、次の街へと移動を開始。
 目指すは、聖王国レイアース。


 ここで、王国付近に自分の家を買うのだ!!
 マイホーム、プール、広い庭、テニスコート、バスケットコート、メイド!


「ああ・・・・・・俺の夢が・・・・・・マイ・ドリームが叶う・・・・・・日本じゃ不可能だった、マイ・メイドがっ!!」


 いろいろと煩悩があるのは仕方ないだろう?
 とりあえず家を買うのもお金が必要だし、軽く見積もって5000万は必要らしい。
 また、元の世界とは違い、維持費に関してごちゃごちゃ保険だの税金だのと面倒なことはない。
 毎月一定の金額を王国に納税すれば良いらしい。もちろん家の規模によって金額が変わってくるが、それでも一種類だけなのだ。
 単純明快で良い。
 そういう訳でスキップしながら妄想しつつ、俺は聖王国へと向かって行ったのだった。









 聖王国レイアース。
 巨大な純白の城を中心に、周囲を壁で囲む、城塞都市。
 規模としては世界一ということもあり、無数の商店がある。人口もシェリスが500人位に対して、およそ100万人と膨大だ。
 こんな大都市、首都なんだから犯罪も多く、その分高額賞金もあるだろうと、少しビクビク、ちょっとワクワクしてギルドに入った。
 少し怖かったが、何とか建物に到着。やはり建物もシェリスと違って木造と違い、石造りの3階建ての建物はやはり豪華絢爛で、入る人物たちも精錬された外見の戦士たちが多い。
 とりあえず入ってみると、カウンターの女性―――今度は若く、25歳くらいの妖艶な紫髪の女性:レイナ―――と目が合って、微かに頭を下げる。
 掲示板に向かい、サッと目を通す。
 ・・・・・・やはり高額が多い。
 中には1000万Gを超えるものもゴロゴロある。
 ・・・・・とりあえず、無難なものからやろう。
 この辺に生息しているモンスターたちの平均レベルも知りたいしね。
 俺はとりあえず100万Gの、モンスター退治:ドレアムという山脈生息のモンスター退治の紙を取り、ギルドを後にした。
 その時、1階にいた戦士たち全員が自分を見ていたことには気付かなかった。
 後に知ったが、俺の制服のジャケットはかなり有名になっていたらしく、その奇抜なデザインとサクラ色で、白銀の剣を背負う俺は、ギルドではもはや有名らしい。
 まあ、そんな事はどうでもいい。
 とりあえず俺は正門から外に出て、ドレアム山脈に向かった。
 ドレアム山脈は火山活動こそしてないが、死火山として死の地帯になっていて、生物などいない。
 そしてその地特有の磁場により、平野より凶悪なモンスターが生息しており、ギルド戦士ですらあまり近寄らない。
 そんな地帯に踏み込んだ俺は、もちろんさっさと帰りたくなった。
 勢いで取るんじゃなかった・・・・・・(泣)
 勇者の剣で全速力で山の中に突入し、中腹までおもいっきり跳躍。辺りをキョロキョロと見回して・・・・・・いた。
 目の前に。
 あちこちにモンスターが見えるが、『目の前に』いる奴は別格だ。
 4b近い巨体に2bの尻尾。鋭い爪に鋭い牙。火を吐く口。
 そう・・・・・・ドラゴンだ。


「いやいやいやいやいや・・・・・・・・・・・・ムリムリムリムリ」


 あまりの迫力故に逃げ腰になる。
 たぶんコイツであっているハズだ。100万Gに相応しい魔物。
 そんな事を考えていると、ドラゴンは協力な火の玉を吹き出して攻撃してきた。
 咄嗟に横に転がって避ける。やはり魔物とのこれまでの戦闘経験が生きている。
 ヤケクソで突っ込み、足をおもいっきり斬りつけた。しかし傷が少し入っただけで、特に大きなダメージではない。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「うるせぇよ!! でえりゃあああああああああああああ!」


 足を斬っても効果が薄いという事は、鋼鉄のような肉体の皮膚も斬れないだろう。
 大地を支える支える鋭い8本の爪。
 足がある生き物は皆、爪は弱点。
 全力で斬りつけるとドラゴンはやはり悲鳴を上げた。しかし俺は調子にのった所為で、続けて足を斬りつけてる最中に長い尻尾が振りかざされたのに気付かなかった。
 背後から何かが迫る気配。
 バスケの時、背後からスティールされてボールを盗まれる時の気配に似ていた。
 俺は完全に反射によりターンをして、剣で尻尾を受け止めた。
 しかし勢いは殺しきれずに思いっきり弾き飛ばされる。


「が―――っ!!」


 地面に叩き付けられ転がった俺は一瞬呼吸が止まる。
 強烈な痛みだった。
 この世界に来て、最大の激痛。
 野球で頭部にデッドボールを喰らった時の痛みだ。
 正直かなりの痛さで、しばらく倒れていたい気分だが、今そんな事をしたらドラゴンに焼き食い殺される。
 必死で首に吊るしてある宝玉を手にとり、全力で叫ぶ。


「吹っ飛べええええええええええええ!!」


 全力の攻撃は、ドラゴンを覆うように囲み大爆発した。
 その威力故に結構近くにいた俺も余波を喰らい、再びごろごろと転がってしまった。
 激しい爆発は、山脈の俺がいた一部を完全に平地とし、その爆発は黒煙を空へと舞い上げた。
 魔力は既にカラッポ。
 俺はドラゴンが怯んでいるかもしれないうちにと、黒煙で姿が見えないドラゴンへと跳躍し、剣を全力で突き刺した。
 確かな手応え。
 根元まで入るように全体重をかけて圧し掛かる。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「ハア・・・・・・ハア・・・・・・ハア・・・・・・ハア」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・やったの・・・・・・か?」


 黒煙が晴れてきて、やっとドラゴンの状態を確認できると見たら、完全に絶命したドラゴンの姿が飛び込んで来た。
 真っ黒に焦げた肉体。眉間の位置に突き刺した剣。
 俺は、ドラゴンに勝利したのだ。










「・・・・・・間違い? マジで?」


 目立った肉体損傷はなかったものの、服の下には痣だらけだった所為で帰るのは遅くなった。
 もちろん大袈裟な痛みではなかったので、ゆっくりと帰って来たのだが、ドラゴンを倒した証拠として首を引き摺って持ってきた。
 正直何を捕ればいいのか分からなかったから、勇者の剣で1時間以上を掛けて首を斬りおとした。・・・・・・・・・気持ち悪かった。
 そして持っていたロープを括りつけて引き摺りながら帰って来たのだが、これも重かった。
 帰って来たのは深夜だったが、人もまだ多く、俺は街中に入るときは人々にドン引きされたのだ。
 ヒドイなぁ。
 それでギルド前に着いて、証拠検めをお願いしたのだが、これが大騒ぎになった。
 俺が取った依頼書の内容と倒した獲物が違うというのだ。
 しかも倒したドラゴンは、報酬4000万Gの超高額討伐依頼だったのだ。
 しかしやはりこういうミスを犯してしまった。
 俺は稀にこういうポカをする。自分がより苦労する道を間違って選んでしまうのだ。
 いい加減泣くぞ、オレ。
 手続きを間違えてしまった俺は、とりあえず謝罪をして、どうなるのかを尋ねた。


「まあ、キミが倒したのは事実なんだから、報酬はキミのモノよ」
「そっかぁ・・・・・・よかったぁ」
「で、4000万Gだけど」
「4000万!? マジで!?」
「え、ええ」
「・・・・・・やった・・・・・・マイホーム・・・・・・メイド」
「メイド?」
「い、いえ!! 何でもありません!!」
「・・・・・・変な子ね、キミ。ま、いいわ。高額賞金は直接振り込まれるから。もう帰っていいわよ」
「あ、そうですか。じゃ、よろしくお願いします」


 他の戦士たちのジロジロと見てくる視線から逃げるように俺は宿屋へと帰った。


「・・・・・・信じられないなぁ。余り私と変わらない青年が、軍隊討伐クラスレベルの依頼を1人でこなしちゃうなんて・・・・・・。
 しかも負傷らしい怪我なんかないじゃないの・・・・・・何者なの、あの子?」


 レイナはポツリと呟き感心したように呟いたのだった。









 こうして俺は、翌日にマイホーム購入の為に大工の会社を尋ねたのだった。

 さあ! 夢のマイホーム兼、メイドを手に入れるぞ!!

 そしてメイドさんと・・・・・・グフフ♪(≧∇≦)


2008/11/30