プロローグ 異世界へGO







 スポーツの事故で頭を打ち、意識を取り戻したら、そこは異世界でした♪








 数時間前。

 高校部活動の引退後、久しぶりに中学のバスケットボール部の練習に参加して、後輩たちとミニゲームの相手として試合を行っていた。

 受験戦争が終わった開放感、合格の喜び、それまでのストレス、久しぶりのバスケという事もあり、少し白熱してしまった。

 後輩のシュートが外れ、リバウンドで3人と取り合った事で、バランスを崩して俺は壁に頭を強く打った。記憶があるのはそこまでだ。

 そうして目が覚めると・・・・・・妙な小屋のような所で寝かされていて、しかもブレザー(制服)を着ていた。目の前には死亡したらしいお爺さんと遺書、そしていくつかの小物や道具だった。

 ・・・・・・とりあえず、状況の整理をしよう。

 俺の名前、黒澤光一。18歳。身長180cm。両親と妹と姉の5人家族。

 小学校からバスケットボール、地区野球、ピアノを習う。中学でもバスケットボールのみ続行。高校からテニスを始める。全てにおいてレギュラーを務める。

 運動神経は人並み以上。100b走は12秒前半と俊足。学業は中間順位よりやや上。社会のみ得意で抜群の点数。

 眼つきが悪く、クラスでは浮き気味、サボリ症。自慢じゃないが、冷静な部分があると同時に自分の大切なモノに関わるとキレやすい。

 彼女いない歴18年。

 付き合いのある人たちからは『明るくエッチで孤高を貫く一匹狼との評価』(どういう意味だ)

 付き合いが薄いクラスメイトや人たちは『生意気・根暗・不良』とのこと。

 人によって顔を使い分け、基本的には家族にすら地を見せたことはない。

 姉が不良で妹も言葉が汚い最近のギャル風。それを反面教師とした俺は、成績だけはやや良い方だし大学も超一流ではないが、そこそこ有名なところに決めた。

 サボリが多いというのも、ただ遅刻が多いというだけだし、他人の評価も誤解から来たもので、運が最悪というだけ。

 もちろん寝坊が多いというだけだが・・・・・・それについては生まれ持っての低血圧の所為なので仕方が無い。

 とりあえずこんなところだ。

 つまりどこにでもいる、普通の男だ。

 まあ、確かに運動神経だけは良い方だが、それも選ばれた人間という程でもない。器用貧乏というだけで、そこそこ何でもソツなくこなせるだけだ。








 さて、とりあえず目が覚めて呆然とした俺。まあ、保健室ではないことは良く分かる。

 そして恐る恐る、目の前のピクリともしないお爺さんに近づき、そして身体が冷たい事を確かめた。それは死んだ祖父と別れを告げた時に遺体に触れた事があったから確認もできたし、冷静だったのかもしれない。

 そして傍にある手紙らしきものを手にとり、開いて読んでみた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うお〜〜い」


 目が点になる、というのはこういう事をいうのだろう。

 長い文を纏めると、こうだ。

 ここは俺が生まれ育った世界とは違う次元の世界で、ここには魔王がいるらしい。

 そして3大大国は魔王の攻撃に苦しんでいて、その中の一国に仕えていた目の前の亡くなった爺さん(名前はゼーゼマンというらしい)は魔導元帥として国の相談役兼教官についていたらしい。

 ゼーゼマンが所属した国は地図の西側に位置する『聖王国レイアース』。ここからも一番近い、一番の大国。

 反対の東側にあるのが『神都オーディンスフィア』。古来からの宗教が根強い国。

 北に位置すのが『魔法王国ヴェーン』。魔法を中心に栄える由緒正しい歴史がある国。

 ゼーゼマンは自分が寿命で死ぬ間際、世界を救う勇者を占いで探し当て、それが異世界にいるという事で、最後の力を振り絞り、大魔術・召喚魔法陣を発動して、自分を連れてきた、ということだった。


『あ、元の世界には戻れないからゴメンちょ♪ まあ、住めば都というから、がんばってくれ(≧∇≦)b 』


「うぉい!! 戻れないってふざけんな!!
 しかも世界を救う勇者って・・・・・・勝手に連れてきてそんな無茶を押し付けるなよ!!
 そんなマンガやゲームのように都合よく上手く物事が運ぶ訳ないだろうが!!」


 こういう理不尽事が大嫌いな俺は手近にあった机や椅子を本気で蹴った。・・・・・・痛かったのは内緒だし、そこは痩せ我慢しないとカッコ悪いだろう?

 本気で散々物に当り散らした俺は、なんとか落ち着いた。

 とりあえず爺さんが用意したという、魔導の宝玉と勇者の剣(爺さんの一族に伝わる家宝だったらしい)を手に取る。

 魔導の宝玉は、勇者に魔法の力を継承させるために。

 勇者の剣は、その威光を引き継ぐために。

 しかし、勇者として全く覚醒していない自分は、全然その力を使いこなせないらしい。

 最低でも、魔導の宝玉を使えばザコモンスターは一掃できるらしいし、勇者の剣を握れば身体能力が勇者に相応しい能力まで跳ね上がるようだ。

 多少の賃金もあるし、回復用の『やくそう』やワンランク上の『癒しの水』も用意してくれてたので、とりあえずは安心だ。

 まあ、いきなり理不尽にもこの世界に落としたのだから、それくらいは当然だろう。ゼーゼマンにも多少の良心は残ってたらしい。

 正直言って不安だらけだし、何がなんだかという気分だったので、とりあえずはこの小屋に一泊することにした。

 ・・・・・・爺さんの遺体はしっかりと家の傍の地面に埋めてやった。ありがたく思え!







 翌日目が覚めた俺は、腹が減った状態で小屋を出発した。地図を片手にコンパスをぎこちない状態ながら使用して、近くの街へ。

 もちろん俺は爺さんの言うとおりになんかするつもりはない。

 俺は確かに運動神経も良いし、キレやすいが、それでも根はかなり臆病者なのだ。

 だから、まずは自分がこの世界で生きていく為に必要な物を揃える事から始めなくてはいけない。

 どれくらい臆病かというと、小屋を出ていきなり遭遇したモンスターに、魔導の宝玉を全力で使ったのだから(後にソイツは、子供でも倒せる最もザコだという事が判った)

 無我夢中で使った為に、辺りは大爆発を起こし、何もなくなってしまったのは正直恐ろしかった。

 まあ、腰を抜かしたり、小便を漏らさなかっただけ、まだマシだろう。

 あまりの自分の情けなさに泣きそうになり、それからは、人生初めて握った剣を片手に、ザコで実戦経験を積みながら歩いた。

 人間慣れるもので、10回ほどザコと戦えば大胆な戦い方もできるものだ。それにいざとなれば魔導の宝玉を使えばいいのだ。

 俺はヘビとかそういう毒をもった奴などに注意を払いながら、森の中を歩いて行き、小屋から一番近い街、シェリスという街に辿りついた。

 俺の格好がブレザーという制服を着ていたこともあり、街中入ると奇異な視線が集まった。・・・・・・俺から言わせれば、あんたら地味な格好しすぎ。

 皆、トレーナーのフード無しのような服とズボンという統一性。色が違うが、どれも色褪せていて、アニメや映画で見た中世ヨーロッパの感じを思わせる。

 人種的に、アジア人とヨーロッパ人のハーフのような人たちが多いことも、それを感じさせる要因かもしれない。

 まずは宿屋に泊まり、この世界の常識を収集しなくてはならないだろう。

 俺は宿屋へ向かいつつ、本屋とかないかどうか探したのだった。









 とりあえず宿屋で1日ぶりに食事が摂れた俺は、満腹の状態でぐっすりと眠った。もちろん魔導の宝玉と剣は手元に紐で括りつけて。

 そして翌日、俺は信じられないほどの筋肉痛に襲われて、悶絶することになった。

 ・・・・・・俺が何をしたっていうんだ(泣)










2008/11/29