2000年前。
 星の未来を読み解くことが出来る第七音素の観測地点を巡り『譜術戦争(フォニック・ウォー)』と呼ばれる大規模な戦争が起きた。
 約10年続いた譜術戦争は大地を荒廃させ、その際に使用された兵器による地殻変動が大地の液状化や障気の発生を促したともされる。
 この戦争を終結に導いたのが、当時の天才譜術士「ユリア・ジュエ」である。



 ユリア・ジュエは大譜歌によって第七音素の意識集合体「ローレライ」と契約を交わした。
 以後2000年にわたるオールドラントの歴史が事細かに記された「ユリアの預言」を残し、第七音素の観測地点を巡る争いに終止符を打った。
 また、人類は預言に記された方法に従って外殻大地を造り浮上させ、障気から逃れることができた。



 ローレライと契約し「惑星預言」を世界に残した偉大な譜術士。ティアとヴァンの遠い先祖にあたる。
 ホド島で誕生し、サザンクロス博士の下で第七音素を学んで育った。
 やがて彼女の下に8人の弟子が集うようになり、わずか14歳の時にローレライと契約、「ローレライの鍵」でプラネットストームを再構築させた。
 更にローレライの力で二千年先の未来まで詠んだ「惑星預言」を詠むことで、このままでは世界は滅びると人々に訴えて戦争を終結に導く。
 後に障気対策として「フロート計画(外殻大地計画)」を発案したが、弟子のひとりであるダアトに裏切られて投獄されてしまい、イスパニア国とフランク国に計画を持っていかれてしまった。
 3年後、和解を申し入れてきたダアトに解放され、20歳の時に魔界に残されたイスパニア国とフランク国の敵対国の人々を救うために、彼らと共に魔界と外殻大地を繋ぐ「ユリアロード」と「ユリアシティ」の前身となる街を作った。その後は弟子のひとりであるアルバートをローレライ教団の導師に任命し、歴史から姿を消した。

 公の場から姿を消した後は様々な場所を放浪し、やがて故郷であるホド島に戻ってアルバートと結婚、余生をホドで過した。
 彼との間に生まれた子どもがフェンデ家を継ぐことになり、彼女が残した第七譜石を代々守っていった。



 これが、後世に伝えられている『ユリア・ジュレ』の歴史である。



 それが、真実だと思っていた。





     第40章 歴史

 








『―――いいか!? 絶対に今あったことは内緒だ! 誰にもいうなよ!!』

 鬼気迫った叫ぶかのような声が、ネギ・スプリングフィールドの耳から離れない。

 顔を真っ青にしたルーク・フォン・ファブレを初めてみた。

 突如現れた女性。その女性を見た瞬間、たしかにネギは震え上がった。

 恐ろしいのか、それとも魅力を感じたのか、何におびえたのか、敵なのか、味方なのか、それすら分からない。

 ただ、そういう人がいたことを伝えようとしたネギを、ルークは止めた。何を考えてそこに至ったのかが分からない。

「うん、やっぱり学園長に報告しに行こう!」

「だ、だが兄貴。ルークの兄貴は言うなって・・・・・・」

「そんな理屈分からないよ。それに学園にあんな危険な人が入り込んできたんだから、僕には報告する義務があるんだから。生徒の皆を守らないといけないしね」

「そりゃあ、そうだがなぁ・・・・・・」

「それに僕がルークさんの言葉を聞かないといけないのさ。基本的に僕はあの人とはウマが合わないんだから」

 ネギの瞳に浮かぶのは、怒りや嫌悪という色。

 担任がそれでいいのか、とカモは突っ込みたくなった。

(やっぱり仲直り、というか相互理解で親友に、というところまでは出来てなかったか。まあ兄貴もまだ子供だしな。子供故の単純思考があるのも否定できないし、仕方ないかもしれねーな)

 カモは溜め息を吐いてネギの肩の上でぐったりと伸びをする。

(オレっちでは兄貴は止められない・・・・・・だけどルークの兄貴はなんで止めたんだ? あの女は異常だった、それはオコジョ妖精のオレっちでも感じた。それをルークの兄貴も感じなかったはずないのに・・・・・・・・・・・・なぜなんだ?)

 カモは報告事態は間違ってるとは思えなかった。

 ただ、嫌な予感が拭い去れなかった。










「どう思うかね? 高畑君」

「そうですね・・・・・・正直、現段階では判断しかねます。ただその力のみ見れば脅威と言わざるを得ません」

「そうじゃな」

 学園長室では、外の学園祭とは真逆の重苦しい雰囲気に包まれていた。

 先刻に確認された謎の高魔力反応から、報告に来たネギの脅威論。結界の監視責任者の明石教授の言。とてもじゃないが、見逃せるものではなかった。

 学園長室には、2人以外にエヴェンジェリンや明石教授、ガンドルフィーニ、刀子がいた。他の魔法先生や生徒たちは警備で学園祭を回っている。

「エヴァ、お主はどう思う?」

 先ほどから沈黙を保っていたエヴァンジェリンへと学園長が振る。

 全員の視線が集まる中、エヴァンジェリンは視線の先のモニター、件の反応時の姿が見えなくなった結界の映像をジッと見ている。

 ネギの報告から、彼の記憶を覗かせてもらい、初めてモニター内で何があったか発覚した。

「エヴァ、君の意見を聞かせてもらえるかい?」

 何も言わないエヴァに焦れたタカミチが尋ねると、エヴァはゆっくりと口を開いた。

「・・・・・・手を出すなど愚作、としか言えないな」

「戦うな、ということかい?」

「ああ。相手が女だということは分かっているが、実力もボウヤの未熟な判断力からきたものでしか図れない。何者なのかも知らない、そして何より実力でタカミチを上回るルークが膝を付くほど気圧されているのだ。迂闊な行為はするべきじゃない」

「ふむ・・・・・・なるほどのぉ」

 近右衛門は髭をさすり、当然のことじゃなと相槌ながら頷く。
 彼の記憶を覗いたとしても、あくまでも記憶を見るのであるので、ネギ自身が感じた『プレッシャー』しか感じることができない。それが記憶を覗く魔法の欠点でもある。

(この時期に何故来たのかも問題じゃが、正体が分からないのも問題じゃな。それに孫のルークと連絡とれないのものぉ・・・・・・これ以上、ルークには危険な目にあって欲しくないんじゃが)

 血は繋がっていないが、確かに血縁者となり、孫となり、孫の婚約者でもあるルークのことが心配だった。

 祖父として心配し、ルークをこの地に呼び戻し、あれこれ手を使ってこの地に留まらせようと画策もした。安穏とした生活を送って欲しかった。

 協力を申し込むことすら躊躇われた。だが上に立つ者として嫌でも巻き添えにしないといけない。

 相反する想い。二律背反。

 そんな苦しい思いをしている近右衛門を尻目に、ガンドルフィーニが声高に叫んだ。

「そんな甘いことは言ってられない! 本日から学園祭が行っているんだぞ!? 即刻、拘束するべきだ!」

 ガンドルフィーニも焦っていた。彼にも家族があり、この学園祭期間は家族も来訪している。危険に巻き込まれるなど溜まったものではなかった。

「そうですね。ですが戦闘になるのなら時と場所に気を遣わねばなりません。ただでさえ人で溢れているのですから」

 ガンドルフィーニの言葉に、刀子がやんわりと突っ込む。

 魔法を隠匿せねばならないのに、今日から学園祭で街中に一般人が溢れかえっているのだ。それだけ露見しやすいということ。

「・・・・・・・・・ふん」

 エヴァはそんな言葉を聴いて鼻で笑い、映像をジッと見詰めた。

(こいつらは普通の人間だから気づいちゃいないが・・・・・・これはマズいな。勘が人間より鋭い人外の私やあのオコジョは、この女がどれだけヤバイか本能が訴えていることに気づける。だがそんな力を持った奴がいたなんて信じられないが・・・・・・)

 エヴァは目を細めて、映像を見詰めた。

 彼女が感じた予感からくる圧力に彼女の手のひらは汗ばんでいて、それを忌々しそうに乱暴に拭った。











 所変わって、宮崎のどかと早乙女ハルナ、綾瀬夕映の3名は黒いローブを羽織った衣装で学園祭を回っていた。

 夕映は久しぶりの休養を(戦闘訓練や勉学)楽しみ、後にルークを哲学研究会に招いて、優雅なデートを満喫する予定である。

 早乙女ハルナは漫画研究会に顔を出して、その後の親友のとあるイベントを尾行して楽しむ予定だ。

 しかし2人の表情は何だか晴れない。その原因は共通の親友である宮崎のどかにあった。

「ちょっと、夕映。なんでのどかの元気がないのよ?(ヒソヒソ)」

「分からないです。この後はネギ先生とデートの約束を付けてるはずなのですが・・・・・・(ヒソヒソ)」

「だよねぇ。でもそれじゃあ、あんな暗いっていうか、変っていうか、難しい顔しないはずだし(ヒソヒソ)」
 周囲の愉快な喧騒とは別に、妙に暗い一部。というか、1人。

 汗をだらだら掻きながら、夕映とハルナは後ろからくっついていく。

「のどか、何かあったですか?」

 おもいきって話しかけた夕映。そんな彼女に、のどかは少し動揺したかのような素振りで応える。

「あ・・・・・・ゆえ。な、なんでもないよー」

「・・・・・・ほんとですか?」

「う、うん。ごめんね、心配かけちゃって」

 夕映はこれ以上問うても進展しないと判断し、顔を逸らす。

 しばらくのどかの悩み事について推測していた夕映。熟考に耽っていたために行軍のコスプレ人形たちに気づかなかった。

 恐竜やロボット、宇宙人などの個性的な巨大人形たちが闊歩する中、夕映は衝突しそうになる。

 それに遅ればせながら気づいたハルナとのどかは声を上げるが―――。

「「ゆ、夕映、あぶなっ―――!」」

「――――っと」

 と、何でもないように反転する。後方倒立転回、通称『バック転』とよばれる技だが、それを手を付かないもので凌ぐ。

 ハルナとのどかは驚いた。

 元から夕映は運動神経は悪くないと思っていたが、今の動きはすごい低空で、回転も速く、また着ている服装から身動きが取り辛いものだったからだ。

 何でもないように夕映は服を直し、再びジュースを口に咥える。

「? どうしたです? 早くのどかのデートに備えて準備しに行きましょう。・・・・・・・・・・・・・・私も準備がありますし」

 ボソリと最後に付け加える。

 夕映からしてみれば今のは特に何でもなかった。

 ルークたちとの別荘での冒険の修行は、常に気を張ってなくてはならなかったし、突然の襲撃など日常茶飯事だったのだ。しかも相手は魔物。手加減など一切無しで最初から全身全霊でこちらに襲い掛かってくる。

 嫌が応でも動きは良くなるし、体捌きは鋭くなるものだ。

 ましてや魔物たちの速度はピン切りだが、遅いものもいればチーター並みに俊足のもの、中には縮地以上の速度を誇る怪物もいる。

 つまりは――――不意打ちにもならない。

「・・・・・・いつから、そんなに動けるようになったのよ」

「ゆえ、やっぱり・・・・・・・・・・・・」

 ハルナは面白そうな香りがすることに心が鳴ったが、それよりも隠し事をされていることに気が付いてなんだか悔しそうだ。

(ゆえ・・・・・・羨ましい・・・・・・)

 無意識に、のどかが本音を洩らした。

 思考の中ですら否定していた『ソレ』を、ついに洩らしてしまった。









 一方、ルークは学園祭で賑わう街中、呆然としながら歩いていた。周囲のことなどまったく耳に入っていない。

 先ほど出会った人物のことが、頭から離れない。

 どうして、なぜ、そんな意味の無い問いが頭の中で堂々巡りしていた。

(仮に―――あの人が、あのユリア・ジュレだとして)

 その思考にハッとなり、慌てて頭を振る。

(違う。本人とするんだ! その前提で動かないと!)

 レプリカではない、そう思い込むことにする。

 相手の目的も分からない、何がしたいのかも分からない、何で現れたのかも分からない、あの出鱈目な力量差も分からない。

 ただ言える事は、確かめなくてはならない、そういうことだ。

(そもそもユリア・ジュレがこちらにいる理由は、俺やイオン、シンクのように死んだからこちらにいるのか、それともティアやミュウのようにローレライのお陰でこちらに渡ってこれたのか、どっちだ?)

 現在の情報だけでは、判断が尽きにくい。だが、仮に前者だとしたら、自分達が知っている歴史とは食い違いが出てくるのが確かだった。

 しかしそれではティアが生まれていないはず。そうなると、妥当なのは後者か。

 だが。



 どうも、嫌な予感がする。この7年で育った勘というものが、何かを訴えている。



「ユリアは本当にティアの祖先だと分かる。雰囲気がそっくりなんだ。だが、だからこそ分からない」

 ユリアが生きていたなら、ティアやヴァンが存在するはずないのだから。

 ルークはこの奇妙な状況に、気持ち悪い気分になる。

 その時だった。

「もし・・・・・・そこにいるのは、ルーク・フォン・ファブレではないか?」

「ん?」

 急に声をかけられたので振り返ると、そこにいたのは1人の女性。

 ジーパンに、黒いタートルネックのセーターを着込んだ、黒髪の長い女性。青山鶴子にとても似ている。

 それも当然だった。

「・・・・・・・・・・・・素子さん!」

 彼女は、あの鬼神・青山鶴子の妹にして、東京大学2回生。

 中学に上がったばかりの時にルークと出会い、彼を可愛がり、そしていつの日かの再会を楽しみに別れた。

 その後、世界を周り戦う日々を送るルークに負けない為にひなた荘に下宿し、剣と学業に研鑽を積む日々。

 そこにやってきた男と良き友誼を結び、同じ寮のある女性と彼の恋を応援し、彼らのように東京大学へと進んだ。

 そして今となっては、京都神鳴流・師範代にまで上り詰め、姉の鶴子師範にも認められた女傑である。

「ルーク、久しぶりだな!」

「素子さんこそ、お久しぶりです!」

 2人はお互いに駆け寄り、7年ぶりの再会に思わず抱擁を交わして喜んだ。












「ふふふ、良い男に育ったようだな」

「素子さんこそ、凄く美人になって驚きましたよ」

「世辞も言えるようになるとは。嬉しいような、寂しいような」

「なんですか、ソレ・・・・・・」

 和やかな雰囲気で再会を喜びつつ、近くの手頃な喫茶店に入り、談笑するルークと素子。

 お互いに7年前から会っていないこともあり、自然と7年間の思い出話に華が咲く。

「それでこの前、その浦島となる先輩が結婚式を挙げたんだが、やはり幸せそうで良かったぞ」

「へぇ~~、それは良い話ですね」

「ああ。なる先輩は尊敬できる人だったし、浦島も最初は軟弱で嫌いだったが、今は良き親友だからな。そんな2人の結婚は嬉しかった」

「なるほど」

「その結婚式とか、大学のレポート提出とかで遅くなってしまったのだ。すまなかったな」

「い、いや、謝られることではないんですが」

 焦りながらルークが遮ると、

「・・・・・・ルーク、お前は私に会いたくなかったのか? 私はお前の姉なのだぞ」

「い、いや、えと、あの・・・・・・」

 さらさらの京美人の素子がショックそうに聞いてくる。

 ルークはまったく頭が上がらなかった。

 素子と鶴子、この両名は昔からまっすぐな心、その性格からルークに体当たりとでもいうべき愚直さでぶつかってきた。その気持ちは、この世界にやってきたばかりでボロボロだったルークの精神に大きな影響を与えた。

 木乃葉や素子、鶴子に弱いのは、そういった経緯があった。

「まあ、いい。それでここに来る前に京都にいる姉上と話したのだが・・・・・・」

「え゛・・・・・・・・・・・・」

 和やかな場の空気が固まった。

 一月前の、鶴子との情事が脳裏を過ぎり焦るルーク。

 他の誰よりも、素子に露見するのは危険すぎる。デッドオアアライブ的な意味で。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・何やら不穏な言葉をいくつか聴いたぞ?」

「ナンノコトヤラ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・風呂」

「!!」

「・・・・・・ふ、筆降ろし」

「!!」

「・・・・・・10股」

「!!」

「・・・・・・信じているからな。私は」

「ごめんなさい」

 即効で土下座をするルークであった。

 そんなルークに素子は長い髪をさっと翻し苦笑する。

 地獄のごとき殺気が飛ばされて、滅殺斬空斬魔閃を叩き込まれえる覚悟をしていたルークとしては晴天の霹靂だった。

「まあ、そんなところも含めた全て、私は大切に思っているのだがな」

「素子さん・・・・・・」

 素子のそんな言葉に、ルークは彼女の7年の成長を感じる。

 きっと彼女にもいろいろあったのだろう。

 今の青山素子は、昔の青山素子と違う。

 そしてそんな彼女は、ルークの予想の上を遙かに上回っていた。

「それで、何を悩んでいる?」

「・・・・・・・・・・・・え?」

「いろいろと・・・・・・悩んでいるのだろう?」

 素子の微笑みは優しかった。

 昔のようにどこか姉に怯えていた弱さも、神鳴流の重圧に押しつぶされそうだった彼女はいなかった。

 穏やかで、相手を優しく包み込むような、そんな微笑み。それはティアの笑顔の優しさとそっくりだった。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・皆には、他の誰にも、言わないでください」

「・・・・・・・・・・・・ああ」

「実は――――――」



 自然と、吐露していた。

 誰にも言わない、云えない、相談できないと思っていたことを。











 ―――――なんです。だから俺はっ」

「なるほど・・・・・・」

 素子は目を瞑って頷き、小さく溜め息を吐く。

 素子は、自身が想像するより遙かに切迫した事態であったことを知り、駆けつけることが遅くなった自分を呪わしく思う。

 途方も無い敵がいることも。

 死者がいるという不可解な現象が起きていることも。

 そして―――ルークが仲間を無視しようとしているという、過去の失敗を再び繰り返そうとしていることも。

「ルーク、まず私はお前に言っておきたい」

 素子はティーカップを置いて手を包むように掴む。

 目の前の成長した男の子は、確かに成長した。

 大きくなった。力もついた。精神的にも成長した。

 だが。

 ――――肝心な、人としての部分が成長していない。

 だから伝えなくてはいけない。己の願いを込めて、気づいて欲しいと。

 レプリカだとか、過去に数万人を殺害した罪の意識だとか、それらを引き摺ったまま生きてきた彼へ。

「私は――――」

 お互いの視線が絡んだときだった。

 それは、なんの前触れもなく起こった。前兆や予兆など無かった。


 バシュっという音と共に、天空から一筋の光が降り注ぎ、ルークへと直撃する。


「なっ!?」

「こ、これは!?」

 素子とルークが驚愕の声を上げる中、ルークの体が消えていく。

 その間、まさにコンマ数秒のこと。

 あっという間にその姿が無くなってしまった。

「ルーク!? ルーク!?」

 その場に、声を上げる京美人女子大生と、いきなり起こった不可解な現象に騒ぐ一般人の人たちだけが残った。

 突如として、ルークは消えてしまったのだった。










「ルーク・・・・・・?」

 都市に出てきたティアとイオン、そしてミュウは孤児院建設の為にいろいろと根回しに回っていたのだが、街中でいきなりティアとイオンが立ち止まった。

 急に停止したティアとイオンにミュウは不思議そうな顔をするが、2人は背後を振り返り、ぼーっとどこかを見詰めていた。

「どうかしたですの? ティアさん、イオンさん」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 2人に反応はない。

 その見詰める先、方角は麻帆良学園都市。

 そこにミュウは気がつき、不安気が表情を浮かべる。

「・・・・・・気のせいではないかもしれません。ティア、急ぎましょう」

「はい、イオン様」

 ティアの唇はぎゅっと固く閉ざされ、強く、強く噛み締めていた。

 こういう嫌な予感というのは、得てして当たってしまうものだと知っていたから。








「あら・・・・・・? あの子の星が・・・・・・」

 京都の地にて、少し暇を持て余していたことからタロット占いを行っていた木乃葉。

 大切な娘やその護衛者で娘同然の子を占い、その先行きに安堵した。

 だが最後の息子で手が止まった。

 何度試しても同じ結果しか出ず、どれも不穏な結論ばかりだった。

 不安に駆られた木乃葉は部屋の窓を開け、空を眺めることで落ち着こうとしたのだが、真っ青な空で見えないはずの星が一つ、落ちていくのが見えた。

 それは誰にでもある、命という名の星。

 娘達の星は健在で、だが息子の星だけが唯一堕ちていく。

「・・・・・・何か、何かが起きようとしているのね」

 穏やかな空を厳しい表情で見詰めるその顔は、普段のポワポワとした平和な表情は無かった。

 あるのは、関西呪術協会の長の妻の顔であり、1人の母親の横顔であった。

 バッと袴を翻し、白木で覆われた刀を取りに自室へと戻ったのだった。










「ふぅ・・・・・・やっと着いたわ、日本。ここにネギがいるのね」

 成田空港に降り立った、1人の金髪女性。

 その女性の穏やかな雰囲気と美貌に、振り返る男性は多い。

 その人物の名は、ネカネ・スプリングフィールド。

 サウザンドマスターの姪にあたる血族。

「今、魔法世界は大混乱だから、早くネギに会わなくちゃ」

 ネカネはコクっと頷き歩き出す。

「それに・・・・・・あの子がここにいるのね」

 ネカネは過去にあった己の窮地に助けてくれた小さな男の子を思い出した。

 その生き方が酷く不安定で、とても不安になった子であった。

 まるで己の生をすべて、他人に捧げるような生き方。

 今でも自分を軽く見ているのだろうかと考えてしまう。

 もっともそれも酷く見え難く、普通ならば見逃してしまう歪さ。

 そこに気づけた自分は僥倖というべきか。

「・・・・・・・・・・・・なんとかしてあげたいわ」

 その呟きは、空港ロビーの喧騒に飲まれて消えた。












あとがき


 あけおめです!(早っ

 ・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。遅すぎる更新です。

 もう何ていうか、ワーカーホリックっぷりとスランプでぼろぼろでした。

 新年はもっと更新していきたいです。

 そうそう。コードギアスで新しい話が始まりそうですね。

 個人的な予想では、ルルーシュたちの出番は無いんじゃないかなぁ。

 とにかく楽しみに待ってます。

 

つづく