「さ~て、私たちにも見せてくれるよね?」

「う、美砂。そ、それは・・・・・・」

「まさかこのかや刹那さん、夕映っちやアスナだけってことはないよね? ルーク」

「いや、だから」

「ルーク君。私も亜子と同じものを見ておきたいな・・・・・・」

「アキラ・・・・・・お前もか」

「もちろん私やアキラ、クギミーや桜子だけだよ? ハルナとかに知られると面白半分に広められそうだからね」

「クギミー言うな!」

「いや、だけどさ」

「ううっ・・・・・・私のこと嫌いなんだ。ショックよぉ、うわ~~~~ん!!」

「それは違うけどっ!」

「じゃ、いいよね?」

「!!」

「美砂、あんた悪徳商人っぽいよ。嘘泣きだなんて」

「そこ、うっさい!」

「はぁ・・・・・・分かった、分かったよ。降参だ」

「「「「やった♪」」」」









     第38章 噂と実態

 









 学園祭まで一週間を切ったある朝、美砂と円と桜子とアキラ、亜子が登校していた。

 彼女たちは早朝のバンド練習から始まり、クラスメイトであるエヴァンジェリンの別荘内にて魔法の修行を行った。

 未だに亜子意外の面子は初等魔法もできない。亜子に関してはアーティファクトを発動していれば、簡単な初等魔法くらいは発動できていた。

 しかし未だにアーティファクトの使い方が分からず、弓の練習ばかりである。

 そんな時、アスナの初陣から戻ってきたルークに美砂たちは詰め寄った。

 どうやらアスナはルークたちの過去を覗いたらしい。雑談でルークが別世界から来たということは知っていた美砂たちは自分たちも知りたいと詰め寄った。

 好きな人物のことを知りたいと思うのは当然のことであり、美砂やアキラからすれば除け者扱いされたようで面白くない。

 半ばゴリ押しで聞き出した美砂たちであったが、その記憶を見た彼女たちの感想はまた様々なものであった。

 ジーンと感動した円と桜子。

 両者の気持ちや考えが理解できた所為で、もどかしさで一杯になったアキラ。

 そして美砂は・・・・・・。

「はぁ・・・・・・本当の王子様だったなんて・・・・・・私の直感は間違いじゃなかったわね」

「ああ、やっぱりそこなんだ」

 うっとりとした顔で呟く美砂にアキラは笑った。

 だがアキラ自身も美砂の言葉に共感できる。ルークの雰囲気が普段から自分たちとは違うと感じていたからだ。

 また動作の一つ一つがとても精練されていて綺麗だったのだ。

 それが皇族という真実を知った今なら納得できる。そして丁寧語や謙譲語で話さねばとアキラは思ったのだが、今更ということで違和感があり過ぎたし、ルークがそれを嫌がった。

「でもでも、ナタリア皇女とマルクト国王のピオニー陛下、かっこよかったよね。なんかお姫様~、王様~って感じ」

 桜子が美砂に続くようにシミジミと言うと、皆が頷いた。

「ナタリア皇女様なんて私たちとそんなに歳変わんないんだよ? いろんな意味でショックだったなぁ」

「まあ、私たちは所詮は一般人ってことかにゃ~」

 円が呆れたように言って桜子も納得するように呟いた。彼女は自分と比べているようで、なにか色々とショックだったようだ。

「でも、ナタリア皇女の弓を見れたのは大きかったな」

「ナタリア様の?」

「うん。ほら、うちのアーティファクトって弓やろ? 全然使えてへんやん。だけど完成系を見れたのは良かったなって」

「最初に見た時、亜子は気付かなかったの?」

「うん……最初の時は余裕なくてさ、アハハハ」

 情けないよね、と己を嘲笑した表情の亜子に、アキラは首を振って言った。

「分かるよ、亜子。私も感情の整理で精一杯だったもん」

「……うん。そうだよね。でもだからさ、二度目が見れたのは有難かったな」

「そうだね。確か亜子のアーティファクト、夕映のアーティファクトで検索してもまだ見つからないんでしょ?」

「うん、そうなんよ。そんなにマイナーなのかなぁ……」

 がっくりと肩を落とす亜子。

 そう。亜子のアーティファクトは夕映が調べてくれたのだが、まったく引っ掛からなかった。

 夕映のアーティファクトは、かなりの機密情報も調べられる事が発覚している。

 そうなると、己れのアーティファクトはそこまでマイナー、もしくは無名なものだろうか。やはり自分は脇役人生だ。

 亜子はそこでハッと気づき「もうそんな事は考えないって決めたのに!! あかんやん、ウチ!」と一人で突っ込んでいた。そんな彼女の奇行に驚いたアキラは苦笑しながらフォローした。

「ま、まあ、とりあえずは武器として使えるように練習したらいいと思うよ? どちらにしても弓であることには違いないんだし」

「そ、そうだよね!」

 2人は慌てて叱咤し合い、プラス思考になるような話題へと切り替えたのだった。

 学校の校門を潜って昇降口に入り、靴を履き替えて教室への道に続く。

 教室に入って荷物を降ろし席に座って楽譜を取り出し目を通す美砂たち。

   完成度を高めるには早く覚えて仕上げなければならない。円も桜子もMP3プレイヤーで曲を聴いて、それぞれ楽譜に書き込んだり、ドラムリズムをとったりしてそれぞれ練習に勤しんでいた。

 するとしばらくして、ルークと木乃香、刹那とアスナが登校してきた。

 席に座るルークに後ろからまとわり付いじゃれ合う木乃香。夫婦みたいにお互いの距離が近いなぁと、美砂は洩らした。

 円や桜子もジッと様子を見ていて、彼女たち3人の思考を埋め尽くしているのは、異界の伝承歌。

 人類を滅ぼそうとした六神将とティアの兄、ヴァンの恐るべき陰謀と、彼らとの人知を超えた戦い。

 神々に捧げられた、始祖の曲、大譜歌。

 容赦ない理不尽な現実と、王族のしきたり。人の上に立つ者の義務。それらとは、まったく無縁がなく適当に生きてきた自分達。

 それらは、このままでいいのかと、彼女たちに焦燥感と困惑を齎した。

 そしてそれとは別に、亜子が作曲した曲に激しく納得した。亜子があの戦いの記憶、彼らの終焉を見て思い付いたのだと察せれた。

 もちろん人の死を見たのも初めてだったし、刺し貫かれるところなど、思わず悲鳴すら零したほどだった。

 よって美砂たちに、記憶の映像はあらゆる衝撃を与えたのであった。









 授業は終わり、それぞれ学園祭の準備に入ると、麻帆良学園内は一際騒がしくなる。

 運動部も練習組みと出し物の準備組みに別れるので、大通りからわき道まで生徒でにぎやかになり、街は学園祭ムード一色だ。

 麻帆良に住む住人は基本的にOBの生徒が多かったり、騒音云々に苦情を言う人は少ない。

 この街自体が普段から騒がしくお祭り好きな者が多いという事もあるが、騒音に文句など言っていたら麻帆良で生活などできないからだ。

 むしろ住人も進んで参加しており、あちこちに生徒と触れ合う光景が見受けられる。

 そんな中、ルークは学校が終わる間際にティアからメールで呼び出されていた。何やら大切な話があるらしい。

 駅前通りのスター○ックスカフェでコーヒーを飲みながら待っていると、そこにアスナ・木乃香・刹那・夕映がやってきた。

「まだティアさん来てないの?」

 アスナが尋ねると、ルークはそれに頷いた。

「ああ」

「ほんなら、ウチらも一緒してええ?」

「あ~、どうだろう。大切な話だって言ってたからな」

「そうですか。それなら席を外した方がいいですね」

 刹那の言葉に木乃香たちは頷く。

 その時、ティアが彼女達の背後からタイミング良くやってきた。

「あら、皆来てたの?」

「あ、ティアさん。すいませんです、何かお話があるんですよね。今空けますので―――」

 夕映がそう言うと、ティアは手を振って遮った。

「いいえ、皆も居て構わないわ。むしろ居てもらった方が良いと思うの。そうですよね、イオン様?」

「はい、僕もそう思います。それにいずれにしろ皆にも聞いてもらう話でしたし、嫌でも耳に入る内容ですから」

 ぜひ聞いてください、というイオンの言葉に一同は頷き、それぞれカフェオレやカプチーノを片手に席に座った。

 皆が座ると、ティアはコーヒーを一舐めしてテーブルに置き切り出した。

「ちょっと学園長と交渉してたことがあったんだけど、今後の私やイオンさまのことについてね」

「今後の?」

 ルークが怪訝した表情を浮かべると、ティアは頷いて言った。

「そう。将来の職業的なことも含めてね。そうしたら、ちょうど魔法界が壊滅して、孤児とかがたくさんいるらしくてね。麻帆良学園都市にもちょうど孤児院が欲しかったらしいから、私とイオン様がそこの院長と職員として切り盛りすることになったわ」

「へぇ~~、麻帆良に孤児院かぁ」

 アスナが関心した声をあげ、コクコクと頷く。

 イオンがティアの言葉を継ぎ、口にした。

「実質的に運営するのは僕かティアですが、運営資金のサポーター、提供、プロモーターにはこの麻帆良学園、関西呪術協会の近衛家、国連NGO団体“悠久の風”が主に支援家になってもらいます。他にも魔法界の帝国や皇国から細かい軍閥、派閥から援助が決定してます」

「そんなに魔法界は壊滅的状況なのか?」

 ルークが尋ねると、イオンは難しそうな顔をして頷いた。

   アスナや刹那、木乃香や夕映は物騒な話にゴクリと喉を鳴らす。

「はい。連合・帝国はほぼ壊滅したと評して差し支えありません。それぞれの国に派閥や物騒な要注意人物とかもたくさんいました。国は絶対に一枚岩ではありませんからね。ですが、それらの人物全て殺されたといっても過言ではありません」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「言い方を変えれば、悪い膿が炙り出されました。身を隠したり我が身可愛さに身を隠した者など、全てが露見し、徹底的に裁かれたり捕まったりしました。言い方は悪いですが、新しくリセットされたといってもいいでしょう」

「なるほど。何を考えているか分からない奴等は皆、殺されたか捕まったということか」

「その通りです。実勢に帝国の姫君や連合の上層部は、今回が良いチャンスと見て、徹底的に膿を出すつもりらしいですし。まあ、それで一般人にも被害がかなり出たので、麻帆良に孤児院ができるのは渡りに船だった訳です。まあ、大規模な孤児院は人手や諸々の事情で難しいので、30人以下の少数になりそうです」

「ほほぅ」

「建物事態はあるらしいから、近いうちにそちらに移ることになるわ。ルーク・・・・・・黙って進めてたこと、怒る?」

 ティアは不安そうな表情でルークを見詰めてくる。潤んだ瞳で見る彼女はアスナたちから見ても凄く可愛らしい。

 そんなティアに、ルークはキョトンと目を丸くし、彼女の手を重ねるように握り締めて微笑んだ。

「そんな訳ないだろ? むしろティアが自分の道を自分で決めてくれて嬉しいよ。それに近いうちに俺も何か始めようと思ってたしさ」

「ほんと? あぁ、よかった」

 ティアはホッとして安堵の表情を浮かべた。イオンもニコニコとしながらルークの回答を嬉しそうに聞いていた。

 ティア自身の意思で前の世界を捨ててこちらの世界に来たのは事実だが、ルークは少し気にしていた。だからこちらの世界で何かを始めようとするティアの前向きな姿勢は救われた気分になるのだ。

「うん、やっぱりティアにはそういうのが似合ってるかも。保母さんとか、保育士や教師とか。音楽家とかも雰囲気に合ってるかもな」

「あ、それ分かる! ティアさんって何だか暖かい空気を纏ってる感じするから、保母さんとかってピッタリだと思うな!」

 ルークの言葉に同意してアスナが自分のイメージを述べた。そのイメージは刹那や木乃香も同意見のようだ。

 ティアは少しテレながらも嬉しそうに感謝を述べた。

「孤児院の準備も運営も、私も手伝いますので遠慮なく呼んで下さい」

「ウチも手伝う! ウチらは家族で仲間やもん!」

「もちろん私も手伝うです」

「ありがとう、みんな。もちろん学業を優先してもらうけど、暇な時はお願いね」

 ティアの言葉に皆が力強く頷く。

 その時だった。後ろからシンク一行がやって来た。

 しかも手にはスーパーの袋をもっていて、妙に一般人に馴染む姿だった。

「やあ。こんな所で奇遇だね」

「あ、ああ。シンクこそ」

「? なに、その挙動不審」

「いや、だってあの烈風のシンクが妙に主婦然としてるからさ」

「「「「プッ―――!!」」」」

「う、うるさい! 栞たちがやってくれるけどね、僕は自分のことは自分でやらないと気がすまない性質なんだよ! って、そこ! 笑うな!」

「シンク様に対して無礼ですよ!」

「だ、大丈夫ですよ、シンク。似合ってますから」

「・・・・・・殺すよ?」

 フォローになっているようでなっていないイオンの言葉に、額に青筋を浮かべてイイ顔でいうシンク。

 ルークの記憶を見たアスナや木乃香たちは、目の前の人物と記憶の中の人物の違いと、微妙に微笑ましい光景に笑いが止まらなかった。

 栞や調は爆笑する3人に詰め寄り、シンクの優しさやどれだけ自分たちが尊敬しているかを、切々と説き始めた。

 するとさらに後ろから、職員会議を終えたネギと付き添いののどか、そして何故か高音と佐倉愛衣がやってきた。

 2人はルークに話しかけようとし、そして傍にシンクがいることに気がつき息を呑んだ。カモはシンクを警戒するようにジロジロと見ていた。

 ルークはネギとのどかに紹介した。

「1週間前くらいから、麻帆良に住んでいるシンクだ。今は・・・・・・住人? として一緒の地に住んでるからよろしくしてやってくれ」

「・・・・・・シンクだ。二つ名は『烈風のシンク』。あんたがネギか」

 シンクは椅子に座ると、ネギをチラリと見て興味なさそうに視線を外した。どうやらネギについてはあまり知らないらしい。

 そこを指摘すると、フェイトたちとは積極的に情報交換する関係ではなかったそうだ。

 そこでネギは改めて自己紹介しますね、と言って名乗った。

「えっと、初めまして。ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

「み、宮崎のどかです。よろしく、おねがいします」

 カチコチになっているのどかも挨拶する。高音や愛衣は学園長室の一件からシンク達が気に入らないようで、無視していた。

 ネギの言葉を聴いたシンクや調たちはピタリと動きを止め、ネギを凝視した。

 焔たちはかなりショックを受けたようで、硬直していた。

 シンクも目を見開いて凝視し、そして大きく溜め息を吐いた。

 ルークたちはシンクの反応が訳分からず、首をかしげる。

「ああ、やっぱりそうなんだ。チッ、京都の時にでもフェイトの奴にしっかり聞いとけばよかった」

「? 何がですか?」

「あんたが、あのナギ・スプリングフィールドの息子だってこと」

 シンクがそう口にした瞬間、ぶわっと殺気が充満した。

 殺気立ったのはシンクではなく、可愛らしい容姿の栞たちであった。

 思わず警戒体勢をとった刹那やネギであったが、殺気の発信源を静止したのはシンクであった。

「やめなよ。こいつはあの英雄様じゃない、その息子だ」

「ですがっ―――、シンク様っ!」

「・・・・・・こいつを殺したって何も変わらない。復讐すべきはあの『英雄様』だろ」

「~~~~~っ! わ、わかりました」

 少女たちは実に悔しそうな顔をして、ネギを一睨みしてから席に座って無言になった。

 彼女たちの様子から、明らかに怒りが収まってないのが分かる。

 いや、殺意というよりも、それはもはや憎悪に近かった。

 シンクに律儀に従う彼女たちが明らかに不満そうなのだ。それほど納得のいかないことだという事も察せれる。

 そんな彼女たちの殺気に居心地の悪いネギが、戸惑ったように口を開いた。

「あ、あの・・・・・・お父さんが何かしたんですか? それとお父さんの居場所とか知ってるんですか?」

 ネギの言葉に思わずティアとルークが額に手を当てて天を仰いだ。

 自分から父親が何かしたのか、と悪い意味だと分かりながら質問したのに、父親の居場所を尋ねる。まさに最悪に等しい対応で、それは正に子供の無神経さをあらわした言葉であった。

 シンクはネギの言葉に冷たい視線をぶつけ、怒りを堪えた声で言った。

「・・・・・・あんたの父親、ナギ・スプリングフィールドはね、こいつらの姉であり母親でもあった女性を殺したんだよ」

 シンクの言葉にアスナと刹那と木乃香は目を見開き、ネギは驚愕の表情を浮かべた。

 シーンと重たい空気が場に一瞬だけ漂ったが、その空気を破ったのは高音だった。

「ふ、ふん。それは仕方ないことでしょう。貴方たちはあの『完全なる世界』のメンバー、つまりは悪。悪は正義に討たれるべきであり、サウザンドマスターは英雄、立派な魔法使いなのですから」

「・・・・・・・・・・・・」

「つまりその女性は自業自得なのです! 気の毒ですが、悪になど身を堕とすからそのような事になったのです」

 高音はフフンと鼻で笑って踏ん反り返った。隣にいる佐倉はオロオロしているが、高音の意見に反対ではないようだ。

 アスナは何か言いたそうだが、張り詰めた空気に当てられて否定も肯定もできなかった。

 ルークとティアは事態の成り行きを見守り、シンクを真剣な目で見つめた。

 シンクは俯いていて前髪が表情を隠してた為に何を考えているのか分からない。しかし高音が得意気に語り終わった時、ゆっくりと顔を上げた。

 その表情は、憤怒。

 かつて己が何も無い、空っぽだ、人生に意味がないと言って最終決戦に挑んだ彼以上の怒りが感じられた。

 あまりにも空気が変わった為に、周囲の何も関係のない一般人ですら足をとめて、その異様な空気の発信源を探り、そしてシンクを見ていた。

「・・・・・・」

「な、なんですかその態度は!? やはりなんだかんだといっても、ちょっと挑発されればその態度、これだから悪は――」

「・・・・・・・・・・・・あいつは一般人だ」

 怒りを堪えた為に震えたその声。

 その内容を理解できたのは、ルークとティアだけであった。思わず息を呑んでいた。

 高音とネギは、その言葉の意味が理解できないようだ。いや、頭が理解することを避けているのだろう。

 その証拠にネギや佐倉は顔を真っ青にしているが視線がキョロキョロと動いている。

 そんな彼女たちにシンクは、憎悪に溢れた視線を向けて言った。

「僕たち『完全なる世界』とは無関係だったあいつを、あんたの父親はニヤニヤ笑いながら焼き殺したんだよ!」

「そ、そんな・・・・・・う、嘘です!! 父さんがそんなことするはずありません!! だってお父さんは強くて誰からも尊敬されてる英雄で、マギステル・マギなんですよ!」

「そ、その通りす。ネギ先生の仰る通りです! そんな嘘で我々を惑わそうなどと・・・・・・なんて卑怯な。これだから悪に身を堕とした愚か者は―――」

「なんとでも思ってるがいいさ。だがはっきりと言っておく。あいつら『紅き翼』は自分たちが思うように戦闘行為をし、派手に砦や橋や街で戦闘した。その力で破壊を尽くした。敵であった『完全なる世界』のメンバーと戦っててね! その過程で調子にのった英雄様が巻き込まれたのがそいつだ。僕からしてみれば悪はあの英雄様以外の何者でもないね」

「そう。あの男は、サウザンドマスターはニヤニヤ笑いながら我々の幹部たちと戦い、まるでゴミは見えなかったとでも言いたげにあの方を・・・・・・あの人を『千の雷』で焼き殺した! 絶対に許さないっ――!!」

 焔と呼ばれる、少しアーニャと似た人物の言葉に、ネギは喉を鳴らし、思わず叫びたくなった。

 その時、ルークがネギの服をつかんだ。

「逃げるな・・・・・・この事実から逃げたりするな。お前がマギステル・マギを目指すというのなら」

「・・・・・・だ、だって」

「ネギ先生! この悪人たちの言葉を真に受けてはいけません! これは我々を惑わす嘘です!」

「俺は前に言ったな? 正義か悪、それは立ち位置によって違うって。ナギ・スプリングフィールドは味方の連中からすれば頼もしかっただろうな、ニヤニヤ不敵に笑うその姿は。だけどシンクたちからすれば、下種な笑みを浮かべて無差別に殺す人物にしか見えなかったってことだ・・・・・・言いたいことが分かるな?」

「・・・・・・それは・・・・・」

 ネギはその言葉が理解できた。今だからこそ理解できたのだ。

 これまでのルークとの遣り取りが、己が見てきた人たちの言葉が、そこから感じ取った想いが強制的に理解させる。

 頭脳がルークやシンクの言葉を吟味し、そして理屈において肯定する。

 だが認めたくなどない。だから叫びそうになった。

 しかしそれを止めたのは、服を掴む振動が伝わってきた一つの手であった。

 ネギのパートナーののどかであった。

「ネギ先生・・・・・・逃げないで現実を見てください。きっとこれは・・・・・・・魔法使いに限らず、どこにでもある現実です・・・・・・だから、真実から目を背けないで。過度な期待と幻想を父親に抱かないでください・・・・・・」

 冷水をぶっかけられたように思考がクリアになり、ネギは目を潤ませ必死に懇願してくるのどかを見つめた。

 そして更に気づいた。ネギの周囲の生徒が、アスナが、刹那が、木乃香が、夕映が、ルークが、ティアが、シンクが、自分を観察するような目で反応を見ていることに。僅かな期待と信頼が篭った目で見ていることに。

 高音は否定しろ、という視線を向けてきているが、ネギはそれを――――拒否した。

「・・・・・・ごめんなさい。でも僕は・・・・・・やっぱり父さんを嫌いにはなれません・・・・・・」

 ネギの言葉にシンクは鼻で笑ってコーヒーを一気に飲み干し、席を立って背中を向けて言った。

「あんたの心情なんか知った事じゃない。むしろ謝罪で許してもらえると思ってるなんて、それこそ殺したくなるんだよね」

「す、すいません・・・・・・!」

「・・・・・・だから勝手に父親に幻想を抱いていればいいさ。好きでいればいいさ。だけどそんなことは僕には関係ない。あいつを見つけたら殺す。それだけだ」

 身を翻して去ろうとしたシンクに、横から静止が入る。

 呼び止めたのは、ルークだった。

「・・・・・・シンク」

「なに?」

「詠春さんも恨んでるか? ナギ・スプリングフィールドと一緒にいたイオンも、ジャック・ラカンも、他のメンバーも恨んでるのか?」

 ルークの言葉に、木乃香や刹那がビクっと反応し、そして申し訳なさそうに目を伏せる。

 イオンは眉に皺を寄せ、佇まいを直す。そんな面々を見て、シンクは溜め息交じりに言った。

「そんな訳ないでしょ? こっちだって好き勝手に自分達の欲望通りに動いてた。それに対してサムライマスターは戦ってた訳だしね。それにイオン、あんたやガトウとかはその時はいなかった」

「そうなのか?」

「ああ。何故かは知らないけどね。それに直接あいつを殺したのは英雄様だけだ。他の面子なんか“どうでもいい”。それにまぁ・・・・・・サムライマスターは神経質な性格だったようだからね。街中の戦闘でも広域殲滅剣技は使わずに、極力周囲に被害を齎さないように戦ってた。フェミニストだったようだよ」

「・・・・・・それは分かるかもしれません。長が昔に話してくれた中に、あいつらと一緒にいると自分ばかり神経をすり減らしてた、と笑って話してくれました」

 刹那の言葉に、木乃香は安心したように溜め息を吐く。

 さすがに父が知り合いの大事な人を殺したということを、聞きたくはなかったのだろう。

(ううん・・・・・・お父様だって戦争に参加したんやもん。人は殺してる・・・・・・でも、それはお父さまが選んだ道や。ウチはそれに対して誇らずに、でも卑屈も否定もせずに受け止めないとあかんからな)

 木乃香は父の過去に対して受け止める心はできていた。

 ルークの過去を見て英雄と呼ばれる彼らを知れば、すぐに己の父につながるのは当然だ。英雄と呼ばれるのはルークは嫌がっていて、でも彼の行為は確かに世界を救ったが迷惑に思っている者がいるのも事実なのだ。

 だからこそ、父は正しい英雄だと思っていた木乃香は、幼いながらに父が絶対の正義ではないのだということも知っていた。

 そしてそれでも父も母も好きだ。たとえ誰かを殺していたとしても、木乃香は優しい両親が好きだ。

 きっと、それでいいのだと思う。

 木乃香は落としていた視線を上げて、シンクに向け、一瞬だけ重なった視線にそっと小さく会釈した。

 シンクはその胸の内を知ってか知らずか、フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 ツンデレだなぁ、とルークは思いつつ、気になっていたことを聞いた。

「その女性の名を・・・・・・君達の姉でもあり母親でもあった人の名を・・・・・・“お前が愛した”人の名前を教えてくれないか?」

 ルークの言葉にシンクの瞳が細まり、地面を見てから空を仰いで言った。

「あいつの名は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ステラ・テルメスだ」

 そう言って、シンクは去っていった。

 焔たちもシンクの後を追い、一度だけネギと高音へ凍りつくような視線を向けて去っていった。

 ネギは椅子に力なく崩れ落ちる。そんなネギを慌てて支えるのどか。

 アスナや刹那、木乃香もさすがに気の毒に思ったのか憐憫の目で見ていたが、シンクの気持ちも察せたようで、何も言えなかった。

 その後、ネギの腕を抱えたのどかが、ゆっくりと支えるように帰っていった。

 そのぴったりと付き添う姿は、まさにパートナーそのもので、ルークは「頼むぞ、宮崎」と呟いたのだった。









 翌日の学校では、クラスの学園祭出し物を決めた。

 学園祭の出し物について、3-Aはお化け屋敷ということになった。

 裸族バーなど未成年にあるまじき出し物案もあったが、ネギが決めたようだった。

 これに関してはのどかと2人で話し合って、ネギの判断で決めた。それについては誰も文句はないようで、クラスで一丸となって準備に取り掛かる……はずだった。

 どうやら昨日の一件の後、落ち込んだネギをのどかと、そして長瀬楓とクーが励ましたらしい。

 何があったのか、それは彼女たちとネギだけのものだ。ただカモが嬉しそうだったので、ルークたちは上手いこと話し合ってくれたのだろう、と予想したのだった。

 さて、出し物の準備についての大きな誤算はクラスの大半が部活動に勤しんでいるので多くの時間がとれず、人手が足りずに遅れている、ということだった。いや、3-Aに限らずに全学年・全クラスが同じである。

 よって、必然的に小物関係(お化け屋敷の衣装など)は休憩時間や寝る前に寮内で進め、夜中にも関わらずに教室に集まり作業するという状態だった。

 夜中に教室に忍び込んで電気を点けずに皆と作業、というのは楽しいものだが、時間がないので皆悲鳴をあげる状態だ。

 しかも生徒指導員で融通の利かない、校則の権化とも言われている『鬼の新田』と呼ばれる先生が見回りに来るのだ。生徒たちは見事な連携プレーとチームワークで先生たちの監視をかいかぐり、作業は日々夜通しで行われた。

 さて、ここでルークや木乃香などのメンバーは、少し卑怯な手を使っていた。

   彼女たちは学園祭の準備も大事だが、それよりもエヴァンジェリンの『別荘』で行っている魔法修行や魔法関連の勉強、ライブ練習の方が大事だった。

 従って自分たちに割り振ってもらった仕事(衣装や看板などの小道具)に関しては別荘内で済ませ、夜に寮に戻って、クラスメイトには『寮』で作業をしていると伝え、ぐっすりと休養を取っていた。

 もちろん小道具関連は量自体が半端なものではないので、それを終わらせた彼女たちに、教室作業組みは文句を言えなかった。

 当然ながら、どうやって終わらせたのだろう、仕事早過ぎじゃ? という声に冷や汗をかいていたようだが。

 しかし彼女たちの疲労自体も半端ではなかった。

 魔力発動に関して極限まで運動して身体を追い込み、精神力も限界まで使うというスパルタ振り(指導を買って出たエヴァはサドと化していた)

 亜子や美砂たちなど、さらにそこに睡眠時間を削ってバンド練習が入ってくる。

 別メニューのルーク・ティア・イオン・夕映・アスナは実戦をひたすら繰り替えし、どんどん強力な魔物と戦っていた。

 そしてそのメンバーに、ついに刹那と木乃香が加わった。

 彼女たちは幼少のころから修行しているので遅すぎるくらいなだが、木乃香が肉体強化魔法を未収得だった為に遅れたのだ。そしてついに習得して、ある程度までの体捌きと速度が出せるようになったと刹那が認め、彼女が安心できるようになったので、参加を決めたのだ。

 さて、ここで木乃香と刹那の、魔物との初実戦となったのだが、アスナや夕映の時のような惨状にはならなかった。

 ……………木乃香のみ、が。

 刹那は木乃香を徹底的に庇い、そして見事にその花を散らせた。もう服は破けるは脱げるはで大変だった。

 下手に強い刹那であった為、致命的なダメージは負わないのだが、避けられないため、もしくは庇ったために防御するしかなかった。そしてその犠牲となるのは弱い衣装である。

 なぜそうなるんだと突っ込みたいほど、それはもう盛大に脱げた。盛大に肢体をルークへ曝した。

 そしてその度にルークが殴打と共に宙へと舞った。

 ……理不尽だ。

 それはともかく、刹那は自分の脱げ易い戦闘衣装の烏族の服は辞める決意をした。

 そこで刹那が注目したのは、アスナが着ていた『鮮血のアッシュ』の戦闘衣装と、夕映が着ていた『妖獣のアリエッタ』の服であった。

 夜の砂漠にてキャンプをしていた刹那たち。晩御飯となるシチューとパンを食べながら談笑していた一同であったが、刹那はふと口にした。

「ルーク」

「んあ? どうした刹那」

「私にも似合った戦闘衣装を選んでくれませんか? どうもこの服だと……」

「う……そうだな。確かに違う服にした方が良さそうだ」

「でも、刹那ちゃん。どういう感じの衣装がいいの? 防御力に特化したもの、身軽なもの、バランス重視、いろいろあるけど」

 ティアがそう尋ねると、刹那は眉根を寄せて聞いた。

「あの、アスナさんや夕映さんはどうしてその衣装にしたんです? それが気になって」

「へ? あたし?」

「わたし、ですか?」

 突然話題を振られてキョトンとするアスナと夕映だが、スプーンを置いて口の中の肉を飲み込んでから答えた。

「あたしは成り行きだったな。剣士だから自然とこの服を選んでた」

「私は少し違いますね。私は自分が妖獣のアリエッタさんと何かが同じだと、そう・・・・・・シンパシーのようなものを感じたです。だからあの方の衣装を借りたですね」

 最近やっと包帯がとれ覆っていた左目が真紅に、灼眼と化したその眼で刹那を見つつ答えた。

 2人の答えに刹那はふーむと唸って考え込んだ。そんな彼女に木乃香は後ろから覆いかぶさるように抱き付き聞く。

「せっちゃんも、アスナたちと同じ服を着たいん?」

「ううん、このちゃん。そうやなくて。私は・・・・・・・・・・・・私も」

 口ごもって何を言うべきか探す刹那。彼女の気持ちを察せたアスナたちは何もいわずに言葉を待った。

 しかしいつまで経っても言葉が出てこない刹那に、ティアは優しい眼差しを向けて言った。

「なら・・・・・・そうね。兄さんと同じ服でも着る?」

「!」

「え。あのヴァン・グランツ揺将のですか? でも、それは、いいのですか?」

「構わないわ。きっと兄さんも、刹那ちゃんなら認めてくれる。それとも教官の服がいい?」

 ティアの問いに、刹那は一瞬だけ逡巡した。

 自分に、世界を敵に回してまで己を貫こうとしたヴァンの衣類を着る資格があるのだろうかと。

 弟の仇であったヴァンに付き従い、その愛に生きた女性の服を着る資格があるのだろうかと。

 その迷いは刹那を戸惑わせ、されど促すことにもなった。

「・・・・・・分かりました。ティアさんのお兄さんの戦闘服を、お願いします」

「教官の、魔弾のリグレットの服じゃなくていいのね?」

「はい。私は、あの人の己を貫こうとした誇りと意思の強さを、少しでも見習いたいのです。同じ剣士として」

「・・・・・・なるほどね。ルーク、あなたはそれでいい?」

「ん、ああ。ティアがいいなら俺は問題ないな。まあ剣士といえばガイを思い出すけど、ちょっと女の子には似合ってないし」

「そうね。そしてそれは黒獅子ラルゴも同じね」

「「「「「たしかに」」」」」

 全員の感想がハモった瞬間だった。








 こうして食事が終わり、ルークが寝ずの番をやり、皆が野宿で眠っている中、彼は空を仰いでボーっとしていた。

 本来なら敵に注意しなくてはならないのだが、これはあくまでも訓練。敵は襲ってなどこない。

 いうなら予行練習の意味合いが強い。野宿にも慣れろ、つまりはそういうことだ。

 その中、ルークは穏やかな顔で眠るティアを、ティアのメロンに挟まれて安眠を貪るミュウを、行儀良く眠るイオンを、野宿にようやく慣れたのかだらしなく口を開けて眠るアスナを、夕凪を手に持ち座りながらの体勢で器用に眠る刹那を、その刹那の側で可愛い寝顔で眠る木乃香を、万感の想いで愛しそうに見詰めていた。

(まったく・・・・・・俺なんかをこんなにイイ奴等が慕ってくれるなんてなぁ)

 嬉しさと同時に、どこか申し訳なさが伴う。心にわだかまりを顕著に感じた。

 原因は分かっている。

 自分はきっとまだ――――。

「・・・・・・罪を償えたと思えないんだろうな。俺なんかが生きてて、アクゼリュスの市民に申し訳ないんだろうな」

 ポツリとつぶやいて満点の夜空を見詰めた。その無数の星々が、アクゼリュスとレプリカの犠牲者たちの命の灯火に見えた。

「意味がなければ、生きられないのか、か」

 ヴァンの言葉は、まさに自分に限らず誰もに与えられる命題だろう、ルークはそう考えている。

 そしてその中でも、レプリカというコピー人間の自分たちには、重い命題だ。

 俺は俺だ、その結論を胸に戦ったが・・・・・・それは答えではない。

 レプリカの自分たちは、意味が必要だ。

 意味があってこそ、『物』は初めて存在理由を手に入れられる。

 そして自分は、まだその理由を手に入れてない。

「・・・・・・何考えてんの?」

 いきなり横から声が聞こえた。

 木乃香であった。

 彼女は目を開けてこちらをジッと見てきて、いつものニコニコした様子がない。

 木乃香は起き上がり、ルークの隣に腰かけた。

 少し寒そうにしていたので、ルークは毛布で自分と木乃香をくるむように包む。

「あったかいなぁ~~」

「ああ、そうだな」

「汗臭くない? 今日はお風呂に入れんかったやん。うち臭い女って思われるんは嫌や」

「臭くないさ。むしろイイ匂いだ」

「・・・・・・なんやエッチィなぁ」

「なんでだよ」

 げんなりとした表情で落ち込むルーク。

 自分はそこまで下半身男だとか、エロ男だとか思われてるんだろうか。

 そんなルークに、木乃香はクスッと笑った。

「嘘や♪」

「・・・・・・ほんとか?」

「ほんとや。7年前のあの日からずっと、ルークは大切な幼馴染で、お兄ちゃんのような存在で、とっても優しくて・・・・・・ウチ、せっちゃんとルークが大好きや」

「このか・・・・・・・・・・・・」

 同じ毛布に包まっている為に、非常に顔が近い。ルークは間近で木乃香が微笑む表情を見てしまった。

 思わず顔をそらしてしまう。今、このかは無垢な顔をしながら純粋に気持ちを吐露してくれている。

「将来、どうするん?」

「ん、突然だな・・・・・・そうだな、きっとティアとイオンが請け負った孤児院の経営を手伝いつつ、この麻帆良の警備員とか裏の仕事を請け負う感じになるんじゃないか」

「それは、なんや楽しそうやな~~」

「ああ、俺もそう思う。ティアなら面倒見いいし、イオンは人格面からして的確だしな」

「こうして、みんなで一緒に将来もおれたら・・・・・・めっちゃ幸せや」

 このかはポツリとつぶやいて、手を重ねてくる。

 その手はしっとりとした温もりで、心地よかった。やっぱりこの子は木乃葉母さんの娘なのだと、ルークは実感した。

 虫の鳴き声が両者の無言の空間に溶け込み、心地よい空気を醸し出していた。

 木乃香は突然ルークの身体に手を回してきて抱き付いた。びっくりするルークへ、彼女は言う。

「めっちゃ幸せな未来だからこそ、価値があると思うんや」

「!」

「一緒にいたいから、一緒に笑いたいから、一緒に思い出を作って歳をとっていきたいから、生きていくんとちゃうかな」

「このか・・・・・・おまえ・・・・・・」

 ルークが呆然と見やると、木乃香はテレたように頬をかき、そして胸元で彼の匂いを吸い込んで顔を押し付け、もう一度顔を上げて笑って言った。

「うち、よう分からんけどな♪」

「ガクッ」

 体勢を大きく崩してガックリするルークであったが、彼女の言葉に笑いを返していた。

 木乃香はそれからもルークにじゃれ付き、そして彼のひざの上で抱きかかえられるように眠りこけた。

 ルークは木乃香に何も言わない。木乃香もルークに何も言わない。

 ただなんとなく口にして、なんとなく感じるものがあっただけだ。

 ルークは穏やかに対面体勢で眠る木乃香の頭を何度も撫でつつ、ぎゅっとその小さく細い体を抱きしめたのだった。

 そんな彼らの遣り取りに、ティアもイオンもアスナも刹那も目を瞑りながら口元を緩ませていた。







 翌日、目を覚ましたルークは腕の中で寝むる木乃香にびっくりして、眠気が吹き飛び、心臓が飛びでるほど驚いた。

「・・・・・・ああ、そういえば昨日はこのまま寝たんだった」

 はぁ、と溜め息を吐いたルークは、ふと木乃香の胸元に視線を落とした。

「・・・・・・・・・・・・ぶほっ!!」

 そこにあったのは、着崩れした着物の隙間から、木乃香のささやかなふくらみが丸見えだった。

 周囲の肌はそこまで膨らんでいないのに、肝心のさくらんぼが慎ましく膨らんでいて、表面はつるつると光沢があって甘いミルクの臭いがした。

 そんな淫らな状態なのに、木乃香は穏やかに眠っていて、黒髪がさらさら流れ、小さな唇が慎ましくある彼女は、本当に可愛かった。

(まったく、俺を誘ってるのか? って、待てよ・・・・・・いつものパターンだと、ここで大体アスナが殴ってきたり、ティアが冷たい目で見てて・・・・・・)

 と、おそろしいことに気づいたルークはゆっくりと首を回して周囲を見回した。

 まだメンバーの誰もが眠っていた。木乃香狂の幼馴染も眠っていた。

 ホッと溜め息を吐いて、ルークは改めてゆっくり鑑賞するか、と呟いたところで気がついた。

 木乃香は起きていたのだ。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 ジーッと重なり合う視線。

 ルークはだらだらと汗を流し、木乃香は着崩れて丸見えの自分の胸元を見て、ルークを見詰める。

 木乃香はそっと手を胸元に持っていき、隠すように胸の上に手のひらをおいた。

 少し悲しそうにするルーク。

 こんな時にも、己の欲望に忠実なルーク・フォン・ファブレであった。少しは自重しろ。

「・・・・・・えっち」

「・・・・・・すまん」

 だったらはやく服を直して欲しいんだが、とルークは洩らす。

 すると木乃香は何を想ったのか、更に密着してルークに聞いた。

「・・・・・・ウチみたいな体型でも、興奮した?」

「・・・・・・するに決まってるだろ」

「襲いたくなった?」

「実はすでにリミット限界」

 ゆっくりと、木乃香の手がどけられる。

「子供みたいやよ? ウチ」

「それでどう思うかは、相手次第だ」

 ズリズリと這い上がり、ルークを抱きしめる。

 ルークの額の位置に木乃香の顔が来た。

「・・・・・・ウチのこと、好き?」

「もちろん」

「ちゃんと言葉で言って欲しいな」

「―――大好きだ」

「ウチもルークのこと、めっちゃ好きや。昔からずっと・・・・・・愛してる」

「このか・・・・・・」

 ――――チュッ、と。

 額にキスが落とされた。

「別に2番目でも3番目でもええねん。ううん、もちろん独り占めにできるならしたし一番がええねんけど、それでも選ばれんかったり、捨てられるんだけは一番嫌や」

「・・・・・・・・・・・・」

「ティアさんもイオン様も好きや。でもウチは見ての通り、発育悪いし、女として自信ないねん」

 目先に、さくらんぼが晒された。

 木乃香がぎゅっと、ルークの頭を抱え込む。

「だから―――――」

 そこから先は、ルークは何も言わせなかった。






あとがき


 祝☆悲願

 とまぁ、バカな発言は置いてといて。
 ネギとのどかと長瀬とクーのシーンはカットされております。どんな会話がなされたのか、それは想像にお任せします。
 でも原作の長瀬との風呂シーンのような会話であることは保障しますw
 しかし原作のドラゴンボール化は、賛否両論でしょうなぁ。
 まあ、たとえネギが闇の魔法を覚えても、ルークには勝てませんね。理屈では第2超振動の範囲内に入ったら魔法は無効化されますから。

 しかし木乃香の3サイズは悲しいくらいにツルペタです。
 ですがきっとその分、美しい体のつくりをしていると、作者は妄想しております(バカ)
 大和撫子ですからねぇ、彼女。
 そして微エロシーンは丁寧に描写したかった・・・・・・。

 しかし、状況としてはすげぇな、と自分自身思っております。
・ティアはエヴァの別荘で。
・木乃香は野外で皆がいつ起きてもおかしくない早朝に。

 ↑ある意味痴女だw


 あ、そうそう。近々重大発表があります。TOPに載せる予定ですので、お楽しみに。
 次回はついに、学園祭に突入。
 そして『とある女性』の登場と、『この物語のカギ』となる人物が現れます。
 物語の転換点となるお話をお楽しみに。



 あ、これから感想は随時下に記入して載せていきます(^0^)/


 つづく




以下は読者からの感想になります。

K・Oさん

どうもです。病気でご無沙汰してしまいました。まだ完治していないので今回は簡潔にいかせていただきます。
聖なる焔の光の後世記>今回はとにかくのどか、とてもよい従者ぶり…ネギの心を支え、より高みへ…ってほどでもないけどとにかく本当に良い従者ぶり…大事なことなので二度…。
ネギもゆっくりですが成長の兆し、初期のネギならかたくなに信じなかったでしょうが辛くてもしっかり現実を見据えてのどかと頑張れ。
そのかわり高音の視野搾取というか盲信ぶりがより強調。
このかよ、おめでとう。次回本懐?
乙女はお姉さまと99代皇帝に恋してる>これはもう、管理人さんの美砂ヒロインはここでも鉄板だということですか。唯一の彼氏持ちという設定をこう絡めたことに「うまい」とおもいました。
それではまた。



えーるさん
前回は色々と感想を書き連ねたせいで、お見苦しいところを見せた事を…お詫びします。今さら、遅いかもしれませんが…。
それと同時に感想を書かせていただきたく書き込みました。

といっても、私の感想……今回も見る方によっては不快なので、管理人の方以外はそのままスル―することをお勧めします。
唯、私は苦情を書いてるわけではありません。利己的に言わせてもらえれば、そんなつもりもありません。思った疑問を訪ねたいのです。

まず、ルークとネギたちとシンクたちの会合ですが…何故、ここに木乃香や刹那、更に言えばアスナがいるのは無茶な気がするんです。
「あいつら『紅き翼』は自分たちが思うように戦闘行為をし……」
このセリフはナギだけじゃなくて、詠春、ガトウ、クウネルも入ってるという解釈ですよね?

何故、この関係者のアスナ、詠春の部下の刹那、そして愛娘の木乃香が平然としてられるのか全く分からないんです。
私が見落としてるだけでフォローしてる描写もあるかもしれませんが;
でも、それにしても栞や焔たちがネギだけを敵視してる風に見えるのが疑問符が浮かびます。
イオンとシンクが話しているのはまだ、分からないでもないですけど…。でも、ナギの友達である以上かなりキツイ様な…。実際紅き翼なんですよね?

それに木乃香側も前は敵だったシンクたちに対して(レプリカといってルークを蔑んだものに対して、穏やかにノーリアクション)という態度も。
ネギなんか許されないこととはいえ、未だにこのかや刹那とぎくしゃくしてるのに、ルーク殺そうとしたシンクに対して、友好的にすら感じるシンクたちとの会合は訳が分からないです。

ネギが本人の意思にかかわらずゼロレクイエムやってるような違和感があります。
ネギを含めた加害者の関係者と被害者の関係者が同じ場所に居て、ネギだけ憎まれて……どう見えても展開的にかなりきつく感じます。

今回の展開に対しては、紅き翼関係者はキビしめの展開が普通だと思います。
ネギだけが気に入らない理由がはっきりと書かれていないので、かなり浮いてるように思います。
クロスオーバーとしては面白い試みだとは思うんですけど、どういう立ち位置なのか判りにくくなってます。

傍から見ててこんな感想を見てしまって面白くないかもしれませんが、でもあえて言わせてもらいました。
のどかものどかでそれに突っ込んでほしかったです。別にナギだけでやらかしたわけではないんですし。




スクリームさん
最新話更新お疲れさまでした。今回も非常に面白かったです。
のどか、ちゃんと従者らしくなってきてますね!
シンク達との木乃香等のかけあいがほのぼのしてよかったです。主であるルークが警戒せず接しているから、従者である自分達も当然、という雰囲気が伝わってきます。
次話には物語の核となる人物が出るそうですが、非常に楽しみですね!
お体に気を付けて、頑張ってください!




彼岸さん
更新お疲れ様でした。
ついに木乃香もルークとCに!?近い内にルークの彼女達によるベッドインバトルが勃発しそうな予感が・・・。
あとがきに書いてある女性の登場て、もしかしてネカネが登場するのでしょうか?

あと第38章のHEAD TITLEが第37章 学園祭迫る!になっているので修正したほうがいいですよ。
それでは次回の更新を楽しみにまっています。