「夢であるように~♪ 瞳を~♪ 閉じて~♪」
「ご、ご機嫌ですね、ティアさん」
「だって刹那ちゃん、それは当然よ。勘違いがきっかけとはいえ、やっとルークと結ばれたんだもの」
「そ、そそそそ、そうですね。って、歩き方おかしいですけど、どこか痛めたんですか?」
「い、いえ、ちょっと腰が抜けた所為か違和感があって・・・・・・」
「~~~~~~~~~~~っ!?」
「ええなぁ~~~、ってルークもどうしたん?」
「ああ、木乃香。いや、腰を使いすぎた所為か痛くて痛くて・・・・・・」
「世界最強でも腰痛には勝てないということですね」
「お、おう。興奮しすぎはよくないってことだな。今戦闘になったら俺は負ける。絶対に」
「威張んなくたっていいわよ! このエロ魔人!」
「うぐっ・・・・・・っ!」
第35章 この世界中の誰よりも<中編>
雪広家のプライベート船に乗り込み、雪広家所有の個人リゾートアイランドへと出発した。
破格のお嬢様っぷりが伺えるが、3-Aの一同は気にしてないようで、全員が楽しく遊んでいるようだ。
そんな中、あやかの許可を得てティアとイオンも同行して、船内の椅子に座ってのんびりとしている。
ブリッジに出て、皆がワイワイと楽しんでいる中、ティアとイオンとミュウ。そして夕映と亜子と美砂とアキラの6人と1匹は椅子に座っていた。
まあ、その理由はティアの足腰がガクガクしていてしっかりと歩けないからで、例の現場の目撃者である夕映たちは、お姉さん的立場のティアにドキドキしながら感想を聞いたり、経緯を聴いたりしていた(笑)
一方、容疑者ルーク・フォン・ファブレはいろいろと複雑な事情から、激痛が走る腰の痛みを我慢して外に出て潮風に当たっていた。
何度となく船内からどよめきと色めき立つ声が聞こえてくるが・・・・・・全力で気にしないことにしたルークであった。
それにしても、昨日のティアとの睦み事は幸せだった。
初めて幸福を感じた。
我に返った2回戦の時、ティアは正気に戻ったルークを見て苦しそうに微笑み、そして泣いたのだ。
自分が酷いことをしたからではなかった。
それは問うまでもなく、感じた。
彼女の自分への想いを感じ、自分も涙が止まらずに泣きながら唇を重ねて、動いた。
それからはとにかくお互いに気持ちのぶつけ合いだった。
お互いの汗が溶け合い、そんなものが不快にならず、むしろ甘美に感じて余計に興奮した。
そして、今まで生きてきて一番の幸福を感じた。
本当に、幸せだった。
一番嬉しかったのはティアが追いかけてコチラに来てくれた時だ。
嬉しいのではなく、幸福なのだ。
ティアとの出会いから今日までの日常・戦いの思い出が浮かび、ティアの艶かしく熱い吐息と潤んだ瞳、そして自分を呼ぶ声で溶けていった。
そこでふと、ルークはアニスやナタリアの言葉を思い出した。
アニスはよくティアの胸をメロンだメロンだと言っていた。
「―――その言葉の意味、よーく分かったぜアニス」
ボソッと口に出して、今はいない異世界の仲間に話しかけた。
ティア以上に胸のサイズを誇る人物などたくさんいる。雑誌をみれば牛じゃないかと思えるような胸の女だってたくさんいた。
自分がこれまで出会った7年間の世界の人たちの中にも巨乳ともいえるティア以上のサイズの人だっていた。
紛争地帯であったが故に、負傷の手当てをする為や心臓マッサージなどで胸に触れることだってあった。
無我夢中だったし、そんな事を考えるなんて罰当たりだったからまったく考えてもなかったが・・・・・・。
確かに、ティアの胸はメロンだった!
メロン。
それは決して型崩れなどしない真ん丸とした球体。
果物の中でも嫌いな人などほとんどおらず、万人に好まれ、味は抜群。
舌ざわりも最高で、とろける甘みは何個食べても止められない。
ほんと~~~~~~~~~に、甘かった。
ほんと~~~~~~~~~に、感触は凡人とは違った。
そこまで考えて、自分って今、変態じゃないかと気付く。
ドーンと落ち込みそうになって、慌てて意識を海へと向けた。
「海・・・・・・か」
ルークにとって日本の海をじっくり見るのは初めて。いや、7年前に日本出向の際に見ている。
しかし、当時のルークにとって海は人々を飲み込む元の世界の瘴気の海に重なって見え、碌に見ていなかった。
だが、7年経過した今なら落ち着いて見れる。
死の海だった瘴気の海なんかじゃなく、心を写して母なる海と称される偉大なものなのだと。
そこへ背後から声がかけられた。
「な~に黄昏てんの?」
「ああ、釘宮に椎名・・・・・・って、どうかしたのか?」
「ちょっとだけ船酔いしちゃって・・・・・・ってそんなことはどうでもいいのよ」
「そうそう。な~んか切なそうな顔をしてさ。かっこつけてる?」
「いや、そんなんじゃなくてさ。まあ、あまり気にしないでくれ」
「ふ~ん・・・・・・あたしたちには言えないことなんだ?」
「ほほぅ~~~、私たちに魔法を教えてくれて、亜子との仲を取り持ってくれた人とは思えないなぁ」
少し不満気な釘宮と意地悪そうにニヤニヤしながら言う椎名。
2人はあの一件について感謝していた。もしルークが魔法の存在を教えてくれずに、隠されたまま自分たちだけ除け者にされてたら・・・・・・。
きっと自分たちの仲は微妙におかしくなっていた。それは親友でありたいと思う自分たちの願いを大きく裏切ることになる。
だから感謝してる、そうルークに言った。するとルークは、その気持ちは有難く受け取っとくが、と続ける。
「裏の世界を知ったお前等はどうする?」
「話を誤魔化された気がするけど・・・・・・まあ、いいや。ん~~~、どうすると言われてもねぇ」
「ねぇねぇ、魔法って私も使える?」
「訓練すればな」
「そっかぁ。でもさ、何か危険ありそうだよね? 亜子やアキラに美砂はそれを了解してるの?」
釘宮は裏世界という言葉に少し警戒する。
椎名も今気付いたと言わんばかりに、普段の能天気な彼女とは逆に身を堅くした。
「ああ。危険はあるし、3人はそれを分かってこっちに身を置いてる。もし魔法を学びたいなら危険を覚悟してもらうことになる。その場合は教えた責任と友として、全力で鍛えるし守る」
「「!!」」
「もちろん、このまま一切裏とは関わらず、今までの生活を送っても構わない。今なら戻れるし、何かあっても必ず守るから」
教えた責任として、ルークは彼女たちを命をかけて守る。
それが責任だ。
今回は亜子たちの友情を魔法界の規則よりも優先した。それが何よりも亜子たちの大切なものだと感じたから。
しかし自分がやった勝手なことは看過はできない。だからしっかり守ると心とルークの名に誓った。
これが正しいのかは分からない。けれど当事者の釘宮たちが感謝しているのだから、それで良しとしよう、ルークはそう思うことにしたのだった。
「・・・・・・あたしは、しばらく様子見ていい?」
「私も、じっくり考えたいかも」
意外と慎重な姿勢を見せる2人。彼女たちはその普段の姿と逆に慎重なのかもしれない。
彼女たちとしては学園祭が終わるまではバンドに集中したかった。
今現在は亜子が作詞作曲したカルマの完成度を高める為、あの日以来から必死だった。
亜子と美砂は別荘を利用している為に成長は早かったが、釘宮たちはそこを利用してない為に差がある。
釘宮たちはまずは学園祭で成功してからと考えたようだ。
「ああ。分かった。決心がついたらいつでも言ってくれ。どっちを選んでも、それは釘宮・椎名の選択だからさ。俺は嬉しいよ」
「・・・・・・ありがとう」
(にゃるほどね~~~。亜子が・・・・・・というか皆が好きになる訳だ)
釘宮はホッとした顔で笑い、椎名はルークの押し付けずに自分の意思を尊重してくれるやり方に感心した。
のほほんとした雰囲気で仲良く話すルークたち。
もっぱら最近の音楽事情に関する話しばかりで、ルークは聞き役だ。
そんなルークたちとは別に、委員長たちのネギ派の者達はデッキで景色を眺めつつ、少し離れたところに座るルークと釘宮たちをチラチラと見ていた。
当たり前だ。
彼女達はまだ中学3年生。
色恋真っ只中で、男の子と一緒にいるだけでそこに意味があり、話題になるのだから。
しかも、ルークは容姿は抜群。仕草も凄い丁寧で王子様のような雰囲気が滲み出ているのだ(王子様というのは事実だが)。
そう。
言うなら、TVに出てくるような芸能人のような男が身近にいるのだ。
例えネギに厳しい為にルークに負の印象を持っている人物でも、そこを気になるのは当然であった。
そして、今その人物は釘宮と椎名に挟まれるように座って談笑している。
ルークと親しい仲にあるという年上の2人の女性のことも気になるので、彼女たちとしてはそこら辺を彼女たちに聞いてみたいのだが、今は木乃香たちが囲んで船内で楽しそうに話をしているので、入っていけない。
そんな、微妙な空気が漂う中、アスナはひとりで離れたところからルークをジッと見ていた。
イオンに言われた言葉。
ルークの燃える真っ赤な髪。
必死に過去の記憶を掘り出そうとし、激痛が頭に走る。
知らなくては、と思う。
だが“何か”を知った時に、イオンが言っていた言葉のような事態に陥ったらどうしよう、その恐怖がアスナを立ち止まらせる。
自分だけなら気にしない。アスナはそんなもの力ずくでやっつけてやる、そう思う。
だが周囲の人を巻き込んでしまう、それは流石のアスナも躊躇する。
「・・・・・・・・・・・・何で・・・・・・こんなにモヤモヤしてるんだろ」
アスナは昨夜見たルークとティアのチョメチョメの現場に怒りを爆発させた。
罵倒しまくって殴りまくったが・・・・・・何故あんなに怒ったのか、今考えればおかしい。
だって、知っていたし分かっていた事なのだ。
ルークとティアがお互いに特別に想い合ってる関係だと。あまりにも自然なくらいに一緒にいるんだから。
大人な関係・行為をした事を恥ずかしいと思うことはあっても、それをしても全く不思議ではなかった。
何故、ここまでモヤモヤするのかが分からなかった。
そして、ネギとルークがあからさまにお互いを無視し合っているのも納得いかず、何とかしたかった。
彼等の雰囲気が尋常じゃないくらい険悪なのは、クラスメイト皆が気付いているはずだ。
ネギはその過去の体験故に頑固な思考で、過剰なくらいにファザコン。
ルークは例え子供であっても厳しく、その生き方と思想に誇りを持っている。
アスナとしては、自分が嫌いなガキであるはずのネギよりも、その賞金額が表すであろう厳しい人生を潜り抜けてきたであろうルークの方が正しい気がしていた
もっとも、どちらが正しいとかそういう話ではないはずだが、それでもアスナとしては正しさが必要だった。
しかしそれを考えると、ルークよりもネギについていないといけない気がする。
アイツは自分が目を離してたら危ないところに行ってしまう気がして、妙に危なっかしい。
対するルークは賞金額故に安心していられる。
この場合、自分はネギに付いている方が良い気がした。
自分がルークの傍にいる意味がないように思えた。
「なあ、ネギ。今日はあやか姉ちゃんの別荘にいくんやぞ? 何でスーツなんか着とんねん」
船室内でティアたちとは離れたところに座るネギ。ネギとカモは2人でこそこそと会話をしていた。
そんな2人に親しそうに話しかけるのは、京都の修学旅行で敵として戦った小太郎がそこにいた。
小太郎が関東麻帆良協会にいるのはちょっとした経緯があった。
関西呪術協会と関東麻帆良協会に敵対行為した天ヶ崎千草が幽閉され、月詠が重傷を負って静養しながらの幽閉。
しかし小太郎に関しては年齢の低さと認識の甘さ、ネギの嘆願から情状酌量の余地有りとされて麻帆良学園で小学生の身になるという処分が下された。
こうして小太郎は麻帆良小学校の4年生として派遣されてきたのだが、何故か那波・村上に巻き込まれ、半ば強制的に同居となり、彼も実はまんざらでもなさそうだった。
「うん、僕は先生だし。これでイイんだよ」
「はっ、さよか。マジメやなぁ」
呆れたように小太郎は椅子に寝転がり、ぐうぐうと眠りに入る。
ネギの後ろにはのどかが座っていて、まだ数日前の騒動からの疲労が残っているのか、スヤスヤと眠っていた。
「なあアニキぃ。いつまでルークの兄貴と仲違いしている気ですかい?」
「それは・・・・・・ボクもいけないって思うけど」
「兄貴が引っかかってるのは、ルークの兄貴が攻撃してきたからッスか? それともシンクとかいうやつ等を庇ったからッスか?」
「それは・・・・・・」
「のどか嬢ちゃんを危険な目に合わせたからッスか?」
「・・・・・・分からないよ」
ネギの言葉にカモは眉を寄せる。
ネギの表情は暗い。
カモとしては9歳にも関わらず桁違いの賞金首2人を生徒に持っていることの心労は察せた。
しかし、同時にこれは修行だということも理解している。
以前、ルークに言われた事を思い出したカモは、少し強気に出ることを決意した。
「なあ、アニキぃ」
「なに?」
「アニキは以前、こう言ったッスよね? 自分は父さんと同じように誰も殺さずに偉大なる魔法使いになる、って」
「うん。そう言ったよ。今だってそれは変わってない」
カモの言葉に、ネギは力強い表情で拳を握り締めて頷く。
しかしそんなネギにカモはくらっとした。
「で、でもアニキ。アニキは昨日、シンクたちを攻撃しようとしたッスよね? シンクは明らかに弱っていた。そこに攻撃したら死ぬことになってたんじゃないッスか?」
「え・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
カモの言葉に呆然となるネギ。
ネギはシンクの正体を知った時、何も考えずに本能のまま動いた。
父が戦ってきた敵、というだけで十分だった。
それだけで十分の悪だということだから。
また証明するように、修学旅行ではフェイト・アーウェルンクスと共に攻撃さえしてきたのだから。
しかし、確かに自分は彼等を攻撃した。
捕縛しようとしたが、そんな事は関係ない。事実として殺そうとしたのだ。
ネギは恐ろしくなって涙を目に溜め、席を立って「うわ~~~ん!」と逃げ出そうとする。
しかしそれをカモが許さなかった。
その前に、カモが塞ぐように言ってきた。
「アニキ。これだけは言っておきたいッス」
「う・・・・・・」
「サウザントマスターも、関西呪術協会の詠春も、タカミチも、別にヒーローに、英雄になりたかった訳じゃないんスよ」
「・・・・・・うそだ」
「彼等は、彼等の欲望に従って、ただ気に入らないからという理由で戦っただけッス。使命感とか魔法使いだからとか、正義だからとかそんな理由じゃないッス。後は成り行きで状況に流されるままに戦い、結果的にそれが魔法界の人たちに利益としてなったから、サウザンドマスターって呼ばれてるだけなんスよ」
ネギは首を何度も振るい、カモの言葉を否定する。
しかしカモはネギの肩に飛び乗り、小さな手でネギの頬を殴る。
カモが自分の頬を殴った。それだけでネギは呆然となった。
「アニキ。アニキがどんだけ父親に憧れているか、それは知ってる。分かっているつもりッスよ。だけど、これは変えようのない事実なんスよ」
「・・・・・・カモ・・・・・・君」
「タカミチの例が良いパターンだ。タカミチは魔法界の雑誌に載る程戦って、その功績・実力を認められてる。だけど何故“偉大なる魔法使い”の称号を授けられないのか、考えたことないっスか?」
「それは・・・・・・タカミチは呪文詠唱が出来ないから」
「・・・・・・・・・・・・それが理由だと、本当に信じてるんスか?」
「だって・・・・・・それしか考えつかないし・・・・・・」
「アニキ・・・・・・魔法使いは、決して崇高な存在でも、ましてや綺麗でも超人でも神様でもないんスよ」
カモが大きく溜め息を吐き、
「マギステル・マギの称号を授けると決定する機関を運営しているのも人間であり魔法使いで、そいつらにとって気に入らない・都合の悪い存在なら授けない。そういうものなんス」
カモとネギはこの日初めて、魔法使いと助言者という上下関係ではなく、対等なモノとして言葉を交わしたのであった。
雪広リゾートアイランドに到着した一行は、それぞれ割り当てられたコテージに移動した。
ルークはネギの隣のコテージ。その隣にティアやイオンが一緒で割り当てられた。
だがルークは知っている。その割り当ては無意味だと。結局はティアたちと雑魚寝することになるのは間違いないのだ。
とりあえず部屋に入ったルークは荷物を置き、ベランダに出て溜め息を吐く。水着に着替えようという声が別のコテージから聞こえてくる。
自分もとりあえず海パンに履き替え、上から備え付けのアロハシャツを着る。
しかし泳ぐ気はないので、外に出て事務所で釣竿を借りた。
わいわいと駆け抜けて海に飛び込む一同を眺めながら、ルークはブリッジに腰掛けて糸を垂らす。
あとはボーッと浮きが沈むのを見ていればいいだけだ。
「海には・・・・・・入れないよなぁ」
「ルークさん」
ポツリと呟いたルークの後ろからネギが話しかけてきた。
時は遡り、海に集まったクラスの面々は楽しそうに海で遊んでいた。
ビーチバレー、遠泳、貝殻集め、砂遊びなどやっていることはバラバラだ。
そこに、まるで元気がないネギを抱えた長瀬や古菲がやってきて海へと放り投げた。
わらわらと群がるネギ派の一同。一方で木乃香たちはビーチパラソルの下でゆっくりしていた。
連日の変化により、少しばかり疲れていたのだ。
彼女たちの格好はスクール水着という学校で着ているものと同じものだったが、千鶴や夏美、朝倉たちはしっかりと可愛らしい水着を着ていた。
水の中で遊んでいた鳴滝姉妹は、ビーチボールで朝倉や柿崎やまき絵たちと遊んでいたが、ふと目に飛び込んで来たモノに呆然となった。
それは、あまりにも大きなものだった。
「ちづるってやっぱり・・・・・・」
「おっぱい、大きいです・・・・・・」
「ま、奴がクラス№1だかんな」
鳴滝姉妹が自分たちの平地と比べてボソリと呟いた事に、律儀にフォローを入れる№3の巨乳をもつ朝倉。
彼女がフォローしてもあまり大きな効果はなく、逆に嫌味だった。
また、それは柿崎や亜子たちも同じだった。
彼女たちは恋愛真っ最中であり、彼の傍にいる『とある女性』の所為で自分の成長は気になるところであった。
「うちは、これからだもん・・・・・・」
「あたしも今後に期待かな~。もしくは実戦で」
「いや、実戦って。あんたどんどんはじけてきてるわね」
「うっさいクギミー。あんたは知らないからそんなに悠長にしてられんのよ」
「?」
「あたしはバスケしてると邪魔だけどなぁ」
「ゆうな! あんたそれ嫌味!?」
「なんの話しをしてるの~?」
ゆうなの胸が絶賛成長中ということで目をギラつかせる美砂や亜子であったが、そこに鳴滝姉妹がやってきた。
何の話が気になったようだ。ちなみにアキラは自分の胸を見て「うん・・・・・・大丈夫」と微妙に安心したように頷いていた。
鳴滝姉妹に美砂が説明すると、彼女たちも同意するように頷いたのは笑いを誘う光景だった。
そして、ここに真打が登場する。
コテージの方からやってきたのは、ティアとイオン。
彼女たちに視線が集まる。
「あ、ティアさ~~~~ん! イオンさま~~~!」
海に入りながら亜子が大きく手を振った。そんな亜子に笑顔で手を振り返すティア。
木乃香が駆け寄ってティアの手をとり、ビーチパラソルの元へ引っ張っていく。
実はティア。彼女は水着の上からシャツを着ていた。
そんな彼女を見て、鳴滝風香はニシシと笑った。
「何でシャツなんて来てるの? ・・・・・・あ、もしかして、実は胸ないんじゃない? 上げ底とか!」
「お、お姉ちゃん失礼だよ~~。あの人シャツ着てるけど、すっごく胸大きそうじゃん」
「だから上げ底だって! パットして大きく見せてるだけだね! 間違いない!」
断言する風香。その声色には、普段は底抜けに明るく無邪気が特徴の彼女らしくない敵意が滲んでいた。
実は彼女はルークのことが嫌いだった。きっかけはルークの発言により嫌いになったことだが、今は存在そのものに対して嫌悪している。
だから彼女にしてみれば、ルークの恋人だというティアも敵だった。理解不能、彼女の男趣味は最悪なんじゃないの? と言うほどであった。
そんな風香の気持ちを知ってから知らずか、美砂はやれやれといった風に首を振って言った。
「馬鹿だね風香。ティアさんは千鶴に匹敵するくらい大きいよ? 両腕両足も細いし。身体も脂肪とかを極限まで削ぎ落としてるから凄くバランス良いし」
美砂の言葉に頷く亜子、アキラといった深い親交のある者が頷いた。
千鶴はニコニコとして聞いていて、夏美は微妙に複雑そうにしている。
「シャツ着てるのは、大人の事情からだろうね、きっと。ま、今の私たちじゃ逆立ちしても敵わないよ」
そう。ティアがシャツを抜げないのは、ルークにあちこちに付けられた痕が残っているからだ。
その変を察している辺り、流石は美砂といったところだろうか。
美砂の言葉にガーンとショックを受けた風香は、妹の史香に慰められつついじけていた。
「まったく・・・・・・なんでこんなところに来なくちゃいけないのよ。しかもいいんちょのところの別荘に」
「まあまあ。ちょーど新聞配達もお休みやったし。ええやん。休みも必要やえ? それになんか悩んどるんやろ?」
「このか・・・・・・」
何も話してないのに気付いていた親友に感動し、しかし悩みの内容故に後ろめたくなってしまう。
傍でティアは焼けないように両腕両足首筋にオイルを塗り、イオンも同じように塗っている。
ちなみにイオンは亜子と同タイプの水着で、露出があまりないようにしている。
「ねえ、ルークとかネギはどこにいったの?」
「ルークならコテージ近くのテラス付近で釣りしてるわよ? ネギもそこにいるんじゃないかしら」
ティアの回答に感謝すると、アスナはコテージに向かって歩いていった。
そんなアスナたちとは別に、夕映は黒の水着に白い包帯を目に巻いた状態で、のどかや早乙女たちといた。
夕映の腰元には本契約カードがホルダーに入れられていて、またそれはイオンによって水に濡れても大丈夫なようにコーティングしてもらっている。
本契約カードを発動させると、彼女の戦闘衣装にも即時ドレスフォーム化が可能である。
夕映の肩には、ライガとの戦闘により爪で抉られた傷跡がわずかに残っている。
着替える時はハルナにその痕について問い詰められたが、適当に誤魔化した。彼女はしつこい性格であり勘ぐり易いが、答えを言わないのでバレはしない。
海でぷかぷかと浮いている夕映は、何もせずに真っ青な空を見ていた。
(空は高いですね・・・・・・・・・・・・って、何を現実逃避してるですか)
自分に突っ込みを入れつつも、身動きせずに波に身を委ねている夕映。
夕映はここ数日の修行を心から満喫していた。強くなっている自分。魔法を使う自分。妖獣を従える自分。
力に酔って自分を見失わないようにするため、常に心から慕っているルークと共にいた。仲間たちと共にいた。
(仲間・・・・・・私が、仲間・・・・・・世界を駆け抜けた・・・・・・あの人たちのパーティーの一員・・・・・・そうです。私は仲間です)
実は夕映は、ティアとルークの行為に動揺していた。そして、嫉妬するはずなのに喜んでいる自分が異常だと、理性が叫んでいるのを冷静に観ている自分がいるもの理解していた。
それでいいんだ、夕映は納得もしている。もう自分は戻るつもりもないし諦めるつもりもないのだから。
ただ・・・・・・そう、きっと、零れ落ちた昔の自分が悲しいだけ。
そして唯一の引っ掛かりが、ルークは自分を求めてくれるだろうかという点と、きちんと色々と行為について対応できるだろうかという点だ。
「―――――――って、何を考えてるんですか、私は!!」
あまりの恥ずかしさで、思わず近頃強化されてきた魔力を開放してしまい、周りの波を激しく叩き上げて水しぶきが舞った。
「うわっ! な、なにごと!?」
「きゃっ!」
近くにいたのどかとハルナが被害を被ってしまった・・・・・・ご愁傷様。
「まったく・・・・・・何をやってるのか・・・・・・」
「あら、あやか。いいじゃない、楽しそうで」
「よくありませんわ! 何の為にあたくしがこの旅行を企画したと!」
クラスメイトの各々が好き勝手に遊ぶ中、あやかは本来の企画通りにいっていない現状を悔しく思っていた。
今回の狙いは、いうまでもなくクラスの中の諍いとでもいうべき溝を埋めることである。
放っておけばいいのだが、あやかは彼女本来の人の良さから、ルークとその対立派を何とか仲良くできないかと思っていたのだ。
実は、その考えをよりにもよってライバルであるアスナから「ムリでしょ」と否定されたことから、反発するように企画したのだったが、あやかとしては自分が何も知らない気がして、取り残された焦燥感からきた企画でもあった。
「そもそも、ルークさんはどこに行ったのですか! ネギ先生もいませんし! アスナさんはどこかに行っちゃいますし!」
「ルーク君のところに行ったんじゃないかしら?」
「なら、そこにネギ先生もいるかもしれませんね。千鶴さんはどうします?」
「私も行くわ。あやかと一緒で、私も彼とは一度話しをしたかったから」
「そうですか。流石は千鶴さんですわ。では行きましょうか」
千鶴は鳴滝姉妹やまき絵ほどルークを嫌ってはいない。
ただ、彼女の中では『子供』は慈しみ守られるべき対象であり、その思想故にルークの行いは納得できない。
だがしかし、ルークの考えも何となく察している。千鶴の勘が決め付けてはいけないと警鐘を鳴らしていた。
(それに、あやかったら感情的になりそうだし・・・・・・私が行かないと不安だわ)
微妙に失礼だが、しかし事情を知る者が聞けば納得してしまう懸念事項であった。
こうしてあやかと千鶴2人でビーチから離れてルークとネギを探しに行くと、コテージ近くのレストラン、その近くの桟橋でルークとネギが釣りをしながら2人で並んで腰掛けている姿が飛び込んで来たのだった。
2人は顔を合わせて頷き、ゆっくりと近づいていく。
ネギが何かをルークに言い募っていて、ショックを受けたように走っていった。
その瞬間、あやかの眉が釣り上がり、ズンズンと早歩きでルークへと近づいていった。
千鶴は、物陰に隠れて聞いていたであろう人物がいるのに気付き、しかし知らぬ振りをして怒鳴っているあやかの元へ近づいていった。
ルークに話しかけてきたのは、ネギ。
ここ数日、ずっと彼が無視をしてきていて、自分たちの間に冷戦のような空気が漂っていた。
そんな彼が、強張った表情でルークの背後に立っていた。珍しいことにカモがいない。何かあったのだろうかとルークは訝しむ。
「あの・・・・・・ルークさん。お話があります」
「・・・・・・座れよ。釣りでもしようぜ」
ネギはルークの隣に座った。釣竿を渡されて最初はそんな気分じゃなかった為に断ったが、無理矢理渡されたので受け取った。
糸を垂らして水に放り込む。
2人で背中を丸めて、ボーッとしながら釣りを楽しむ。
「・・・・・・僕は間違ってるんでしょうか?」
「・・・・・・何について」
「僕は『偉大なる魔法使い<マギステル・マギ>』になるのが夢なんです。父さんに会いたくて、父さんのようになりたくて、その為に勉強してきました」
「・・・・・・・・・・・・お、かかった」
手元の微妙な振動で、ひょいっと吊り上げるルーク。釣り上げたカサゴを籠に入れて、またエサを付けて海に投げる。
「・・・・・・その修行で麻帆良学園に来て教師になって、のどかさんや楓さんたちが協力してくれるって言ってくれて、でも危険な目にあわせたくないから、拒否するのは間違ってるんでしょうか?」
「間違ってはないだろうな」
「そうです・・・・・・よね。でもルークさんはそんな僕に怒りましたよね?」
「お前が『パートナーが生徒だから』という理由じゃなくて、『パートナーが弱いから』という理由で遠ざけたからな」
「僕はそんなつもりはありません!」
思わず声を荒げるネギ。
だがルークは釣り竿をジーッと見つめたまま動かなかった。
「いいや。例えばパートナーがエヴァといっためちゃくちゃ強い者だった場合ならどうだ?」
「それは・・・・・・」
「そう。結局はそういうことなんだ。生徒だからという理由なのかもしれない。だが結局は突き詰めると『弱いから』という理由にたどり着く」
「・・・・・・・・・・・・」
「そうなると、お前は切り捨てた。だけど俺はちがう。俺の知っている戦士たちは違う。仲間や大切な人を全身全霊の力で、己の全てをかけて守ろうとしていた」
ラルゴ然り。ピオニー然り。アリエッタ然り。
「相手の意思を尊重して、己の理想を押し付けて相手の意思を殺してしまわないようにして、そして守るという制約を己にかけた」
「・・・・・・あのシンクとかいう人はどうなんでしょう?」
ネギはまだ納得いかない、理解できないという表情だったが、カモに指摘されたシンクの時の問題について問いたかった。
「まだアイツが起きてないから何とも言えないが・・・・・・とりあえず、俺の知ってるシンクではないな」
「だから学園長室では庇ったんですか?」
「じゃあ逆に問うが、お前はシンクの何を知ってるんだ? シンクを殺したかったのか? お前は誰も殺さない偶像の父親を目標としてるんじゃなかったのか?」
「だってあの人は修学旅行で襲ってきたし、父さんたちの敵だった組織のメンバーだというじゃないですか!!」
ネギは思わず立ち上がって怒鳴ってしまう。
カモに言われた言葉と、自分の頭では理解できない理屈に堪らなかったのだ。
「・・・・・・自分が理解できない理屈だからって、感情的になって怒鳴るのはやめろ。みっともないぞ」
「ルークさんこそ、何でも知っているような口振りはやめてください! 貴方こそ何様のつもりですか!!」
それは、4月からずっと溜まっていた不満が爆発した瞬間であった。
―――ああ、この姿はアクゼリュス消滅直前の俺と同じだ。
あまりにも『子供』な姿に哀れみさえ感じる。
普通の子供ならそれでもいいのかもしれない。しかしルークやネギは違う。それは許されない。
「1つ忠告してやる。現在の自分を否定されたからって、相手の考えが理解できないからって、そうやって頭ごなしに否定するのだけはやめろ」
「貴方だってそうやって―――!」
「お前にはもっと自分を導いてくれる、教えてくれる誰かが必要かもな・・・・・・」
「――――え?」
「いいか? 何かが起きてからでは遅いんだ。お前は血筋からして甘えは許されない。その立場にいることを理解しろ」
「そ、そんなこと―――っ! 貴方に言われなくても分かってますよ! 僕は教師なんですから!」
「・・・・・・そうかよ。じゃ、もう話しは終わりだ」
「――――ッ!」
怒り心頭というより、混乱した様子でどこかへ走っていくネギ。
やはり自分には教師役は務まらない。ガイみたいに世話役もムリだと感じるルークであった。
大きな溜め息を吐いて、再び釣りに没頭するルーク。
遠くから誰かがやって来る気配が感じるし、近くにアスナが隠れて聞いていた。
まだ隠れているが、とりあえずは近寄ってくる人物の対処が先かと考えるルーク。
ズカズカと怒りを露にして近づく人物は―――。
「ちょっと、ルークさん! あなた、ネギ先生に何をいったんですの!?」
「よう、雪広か」
「よう、じゃありませんわ! あなた、ネギ先生に何を言ったんです!? ネギ先生怒ってらしたんですのよ!」
「ふーん」
「ふーんって、反省しなさい!!」
「・・・・・・・・・・・・(無視)」
「キ――――!」
キャンキャンと横から怒鳴るあやかを無視して釣りに没頭するルーク。
事態はそのまま平行線を辿ると思われたが、ある人物が介入してくれたお陰で変化した。
「ルーク君。少し、お話いいかしら? あやかも感情的にならないの」
「・・・・・・ああ、いいぜ」
千鶴のニコニコした表情に、ルークは頷いた。
「で、何を話したいんだ?」
「ですから! 先ほどのネギ先生の―――」
「近頃、先生と仲が特に悪いようですね?」
椅子に座って用意したコーヒーや紅茶を一口飲んで、会話を切り出した。
ルークの言葉に机を叩いて憤慨するあやか。バンっという音で紅茶が少し零れた。
しかしそれを遮るように千鶴が言葉を挟んだ。そしてその点は見事にピンポイントだ。
「まあな・・・・・・というより、ネギが一人で悩んで怒ってるって感じだが」
「それは先生が貴方を無視するほどのものなのですか?」
「おどろいたな・・・・・・・・・・・・那波は観察眼が鋭いな」
「そう?」
「何の話なんですの!?」
ホホホっと笑う千鶴と感心するルークに、説明するように求めるあやか。
「そもそも、ルークさん! 貴方はネギ先生に対して、態度が悪すぎます! その言動がクラスの一部を困惑させていることを分かっておいでですの!?」
「まあ・・・・・・俺の苦言でネギが更なる苦労をしている事を認めるよ」
「だったら謝りなさい! それが最上の解決策なんですから」
あやかの言葉にルークは「う~~ん」と唸り、顎に手を当てて考え込んだ。
そのルークの様子に、千鶴はジッと見つめる。
そしてルークは言った。
「悪いが、ムリだな。俺は自分の言葉を撤回するつもりはない」
「何故です!?」
「・・・・・・・・・・・」
「う~~~~ん。じゃあお前等に聞くけどさ、本当にネギが教師であることに疑問をもったことってないのか?」
「・・・・・・え?」
あやかがピタリと止まり硬直する。千鶴はニコニコしていた表情がなくなる。
それは、元から察していたかのような表情。
「本当に、たかが10歳にも満たない子供が教師になれるとでも? 大学卒業の資格を持ってたら働けるとでも?」
「そ、それ、は・・・・・・」
ハァと溜め息を吐いて、ルークは遠くの夕日を眺める。
「俺たち15歳特有の、しかも思春期の女の気持ちを、たかが10歳にも満たない男のガキに分かると? それを相談できるのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「それは教師としてどうなんだろうな。そして悪気は無かったとアイツはよく言うが、じゃあ悪気がなければ何をしてもいいのか? どんな事をしようが、誰かの人生をめちゃくちゃにしても悪気がなければ許される、そういうことか?」
あやかは何も言い返せなかった。
確かに最初は誰もがネギに相談するのはちょっと・・・・・・と言っていて、そして確かに現在でも、アドバイスは受け入れても『自発的』に相談はしていない。
相談したとしても、頭が良いという事においては知っている『学業の知識』だけだ。
また、例えどんなに大人びて見えようが逞しく感じようが、ネギは明らかな子供の外見であり、たった10年しか生きていない子供相手に、年上の自分たちが人生相談をできるのかといったら、それは一笑に伏すところなのだから。
そして一度朝倉和美に対して、ルークが敵意を見せたことがある。誰かの過去を暴くなら自身の破滅も覚悟しろと。その時はそのあまりな言い方に激怒したものだが、よく考えれば当たり前のことしか言ってないのだ。
千鶴はルークの言葉に小さく頷いて視線をコーヒーに向ける。
「転入した日でもそうだ。アスナが勉強できなくて、でもあいつは必死に答えていた。それに対して出たネギの言葉が『勉強はダメなんですね』だ。あまりにも未熟。教師という子供を導く師匠のポジションを舐めてる」
「ですが、それは仕方ありませんこと? まだネギ先生は子供なんですよ?」
あやかは怒りが収まり、そして言葉を選ぶように問う。
それまでは子供のように憤慨するだけだったのが、急に雪広グループの娘の表情になる。
「そうだな。普通なら仕方ない。子供というのは守られるべき存在であり、ゆっくりと時間をかけて成長していくものなんだから。そうだろ、那波?」
「ええ、そうですね。だから私は疑問に思っていたんです。貴方はそれを何故言うのか。何故そこまで厳しくするのかって」
「・・・・・・・・・・・・あいつは例外中の例外。血統的にも、ゆっくりとした成長なんか待ってられないし許されない。手遅れになる前にあいつは知らなくちゃいけない」
夕日は、真っ赤だった。
アクゼリュス消滅時の地獄絵図だった光景に似ている。
今は綺麗だと思えない。あの時の人々の断末魔にしか思えなかった。
「ルーク・フォン・ファブレという男の子もそうだった。そういうことですか?」
「那波千鶴という女の子もそうだった・・・・・・だろう?」
「ええ・・・・・・それでも私は、今の自分が好きですわ。今までも、そしてこれからもずっと」
「ああ、それは俺もだ。実はさ、師匠が俺にこう言ったことがあるんだ。『お前は意味がなければ生きられないのか』と。それは未だに答えは出てないけど・・・・・・きっと俺は生まれた経緯から意味がなければ価値がないんだろう。それでも『この自分』が好きだ」
ルークと千鶴は視線が交錯し、そしてお互いに苦笑が洩れる。
もう千鶴の中でルークに対する敵意はなかった。
なぜネギに対してそこまでしなくてはならなかったのか、その答えが血統という解で得られた。
よくは分からないし知らないが、“ネギと同じ異分子”の彼が自分たちと同じ場所にいるのだから、彼は知っているのだろう。
千鶴は再びニッコリとした表情に戻ったのだった。
そしてあやかは未だに納得はできていないようだった。
しかし。
「・・・・・・分かりました。貴方の言いたいことも」
「そうか」
「ええ・・・・・・私も雪広グループを将来は継がなくてはいけませんから、理解くらいはできませんと」
「なるほど。大変だな、お前も」
「いえ。貴方がただの嫌な奴だけじゃないと分かっただけでも、今回の旅行は成功でした」
「ハッキリ言うなぁ、おい」
「そうね、あやか。まあ、もう少し皆と仲良くして欲しいなと思いますけど」
「まあ、努力はする。あと雪広、お前はネギを溺愛するのは構わんが、せめて16歳まで待ったらどうだ?」
「何をおっしゃってるんですか! 今のうちからネギ先生の中のわたくしの比率を高めておきませんと! ただでさえまき絵さんや宮崎さんなどライバルも多いというのに」
「那波も。小太郎がお前のところに住んでるのは聞いたが、保護だけが目的か?」
「フフ・・・・・・さて、どうでしょう? 夏美ちゃんの弟は大切にしたいと思っていますが」
「村上の弟?」
それからはショタコンだの年上キラーだの天然ジゴロだのと、笑いが堪えない雑談が続いた。
いつの間にか、陰で聞いていたアスナはいなくなっていた。
それからしばらくして、釣りに飽きたルークは皆がいたビーチで泳いでいた。
クラスの皆とは入れ替わりとなったが、ルークはまともに泳ぐのは初めてだったので、むしろ人目がつかない方が良い。
戦ってばかりの人生だったので、泳ぐ機会などあまり無かったし、あってもそれは川でといった水遊びの要素が大きかった。
最初は沈んでばかり、あっぷあっぷ状態であったルークだが、徐々にコツを掴むと浮くことは楽になった。
だが知らない泳ぎ方をいきなりできるわけがない。よって出来たのはバタ足という基本だけ。
(今度、アキラの泳ぎ方を見ておくか・・・・・・こんなのカッコ悪いもんな)
ひっそりと決意を固めるルークであった。
一方、ラウンジでお茶しながら恋愛話しに華を咲かせているのは、のどか・夕映・ハルナ・亜子・アキラ・明石・まき絵・美砂・円・桜子・鳴滝姉妹・夏美・小太郎のメンバーであった。
小太郎は微妙に居辛い感じだが、ジュースを飲むのを優先したようで美味しそうにゴクゴクと飲んでいた。
「最近の男子は情けないってゆーか、カッコ悪いってゆーか、元気ないところがあるよ」
「まーねー」
ハルナの言葉に笑いながら頷くのはまき絵。
どうやら近頃の男について評価していたらしい。そして最近の男の評価は下落しているようだ。
・・・・・・・・・・・・みんな、がんばろう。
ハルナは何を根拠にしているかは分からないが、とにかく自信満々に言い切る。
「やっぱり男は戦ってないとね♪ 目標にむけてさ」
「目標・・・・・・夢か・・・・・」
「ってことは、付き合うなら年上ってことかにゃー」
「あたしもそう思う~!」
ハルナの言葉を自分なりに解釈したアキラが夢と言葉を漏らすと、明石と鳴滝風香はそう断言した。
すると、史香が少しテレながら言う。
「でも~、私はネギ先生とかいいと思うけどなぁ」
「お。風香もネギ君のカッコ良さに気付いたか~!」
ライバル出現のはずなのに、妙に嬉しそうにして言うまき絵。
そんな彼女たちを横にして、亜子がポツリとつぶやいた。
「なら、ウチは大成功やなぁ。ルーク君は十分カッコエエし」
「フフ、そうだね亜子。私もそう思う」
「そうですね。私もパートナーとして最近はずっと一緒ですが、本当に魅力的だと思います」
亜子の独り言なのにバッチリと聞こえていたアキラと夕映。微妙にのろける彼女達に事情を知っているのどかは苦笑する。
のどかは、未だにルークが自分を庇った時のことを思うと胸をしめつけられるように苦しくなる。血を思い出して怖くなる。
だけどそれとは別に、彼女たちの言葉をとてもよく理解できていた。
「え~~~? そう? ちょっと目が悪いと思うな」
「え? なになに、パートナーって」
「ちょっと眼科に行ってきた方がいいよ?」
しかしルークを嫌っているまき絵やゴシップ好きのハルナ、毛嫌いしている鳴滝姉妹はそんな彼女達を諌めようとした。
ハルナは相変わらず勘繰りしかしないので、もはや夕映ものどかも放置だ。このスイッチが入ったら放っておくしかないのを知っている。
また、まき絵たちがルークを嫌うのも察していた。
きっと自分たちも、ルークたちの事情や裏世界について知らなかったら、彼女たちのように何も知らないのにこうやって暴言を吐いていたのだろう。
そう思うと怖くなる。夕映は改めて情報の大事さを痛感し、呆れた溜め息をして海へと見事な飛び込み、泳いでどこかへ行ってしまった。
「あ、待って夕映! あたしも行く―――――はやいっ!?」
「ウチも行く~! って、はやっ!」
夕映は魔法により身体能力を未熟ながらも強化していたので、まるで魚雷のような速度でドバババババと水飛沫を上げながら泳いでいたのだ。
そんな夕映に続くアキラと亜子。まき絵たちに視線を向けず、まるで無視するように海へと飛び込んでいった。
「なに? なにか悪いこと言った?」
「さあ?」
首を傾げるまき絵と鳴滝風香に、美砂はやれやれと首を振り、席を立ち上がった。
「あまり陰口は叩かない方がいいよ? ただの滑稽にしか見えないから」
「まあ、物事は一面性じゃないってことだよ」
「うんうん。好きな人の事を悪く言われても好い気はしないってこと♪」
そう言って、円も桜子も美砂の後に続き、コテージへと戻っていった。
せっかく旅行に来たのだから、気分も変わることだし魔法の練習をするようだ。
微妙な空気が漂い、少し反省した方がいいかも、と考えていたまき絵たち。そんな中、小太郎はまったく気にせずに御飯をむしゃむしゃと食べていた。
実はルークとクラスの女の子との不仲より、女の子同士の見解の違いの方が深刻な問題となりつつあったのであった。
魔法界。
壊滅したメガロメセンブリアにて酒と食にありついていた、最強の狂気の男は、何もいない空間に向かって話しかけていた。
「ほう・・・・・・あのナギ・スプリングフィールドの息子が日本に」
『――――――。―――――――――? ――――――」
「クク。いいだろう。これからすぐに向かってやる。俺を飛ばせ。場所は分かるか?」
『――――――』
「ああ、そうだったな。俺が最強なら、貴様は『異世界の魔法の神』だった。愚問だったな」
『――――――――』
「ほう・・・・・・そんなところにいるのか。いいだろう。この俺様がぶっ壊してやる」
その笑みは凄絶。
英雄は己にとっての最大の得物。ましてやその息子など、最高のターゲットだ。
男は己の武器を手に取ると、その姿が眩い七光りの魔法陣の発動によって、姿を消した。
そこには、誰もいなかった。
ネギ・スプリングフィールドはかつてない恐怖に襲われていた。
とにかく林の中を走り、カモが肩に掴まりながら何か言っているがまったく耳に入ってこない。
己が今まで信じていた根本的な正義が覆され、何を信じていいのか分からなくなっていたのだ。
父は正義の味方でヒーロで、ピンチになれば助けてくれる憧れの存在。
しかし、そのヒーローの経歴はただの気まぐれと成り行きからなっただけで、望んで成った訳ではなかった。
魔法使いはマギステル・マギを目指し、人々を助ける偉大な存在だと思っていた。しかし状況によっては魔法使いは疫病神と何ら変わりないという。
じゃあ、自分は何を信じればいい?
ネギは訳が分からなくなって、どうすればいいのか分からなかった。
砂浜に出たネギは海に入り、バシバシと海面を何度も叩く。
すると背後から、ある少女が声を掛けた。それは、救いの声だった。
「ネギ!」
「・・・・・・・・・・・・アスナさん」
「あんた・・・・・・何をそんなに怯えてんのよ」
ネギを追いかけてきたらしいアスナは、ネギの傍まで近寄る。
カモは何かを言おうとし、そして止めた。
大人しく静観する。
「だって―――!」
「ルークは何もおかしなことは言ってなかった。それは私も同意見よ」
「そんな・・・・・・」
アスナは小さく溜め息を吐いて、ネギの頭をガシガシと撫でる。
「私も同じことで悩んでるのよ・・・・・・私なんかがあいつの力になれるのかって」
「アスナさん・・・・・・」
「夕映ちゃんみたいに怪我までしてあいつの傍にいると誓った訳じゃない。あいつの過去に何があったかすら知らない。そんなあたしに何ができるのかって」
正面の夕日が沈み、徐々に辺りに暗闇が満ちてくる。
アスナはその光景をジッと見つめ、ポツリ、ポツリと呟く。
「分からない・・・・・・だけど、アイツのいう事は判る。あんたはごちゃごちゃ考えてないで、本屋ちゃんと一緒にあんたの心の望むままを突き進めばいいの!」
「へ?」
ポカーンとなるネギ。
彼女の言葉は言霊だ。強力な風だった。
「本屋ちゃんの事、嫌いじゃないんでしょ? ちょっとでも好意があるんでしょ? ならあんたの力で全力で守ればいいのよ! それで一緒にお父さんを探せばいいのよ!」
「・・・・・・・・・・・・」
モヤモヤした悩みが綺麗に吹き飛んでいた。自分の思想を他人の言葉で一気に持ち直せるとは思わなかった。
ネギの中での『正義』が、アスナという他人の言霊で形作られる。
そしてそれは、ネギの魂を揺さぶる。
ネギはポーッとしながらアスナに言った。
「アスナさん・・・・・・ありがとうございます」
「ん、分かればいいのよ!」
「はい。それで、あの、お願いがあるんですけど」
「何?」
「僕、また迷うかもしれません。ですから、あの、またその時は・・・・・・だから―――」
うるさかった波の音が、唐突に止んだ。
シーンと静まり返り、風によって擦れる葉の音が聞こえる中、ネギの言葉が告げられた。
「僕と仮契約<パクティオー>を結んでもらえませんか?」
ネギの言葉はアスナにとって予想外だったのだろう。
アスナはおもいっきり動揺する。仮契約とは一生のパートナーになるかもしれない存在であり、背中を守る人であり、キスする相手だ。
アスナの脳裏に、ルークの姿が過ぎった。
そしてティアとイオン、夕映と亜子が仲良くしている姿が、ティアとの昨日の情事の光景が過ぎり、痛烈な痛みが走った。
近かったネギが、更に一歩、アスナへと近寄る。
「え、ちょ、な、なに、言ってんのよ!」
「本気です・・・・・・僕、アスナさんが―――カモ君、お願い」
カモは悲しそうな表情をし、マスターの命令から言われるがままに魔法陣を描く。
アスナの下に魔法陣が描き、そこにネギが入る。
突然の事態にアスナは上手く身体が動かない。びっくりして硬直してしまっている。
「え、ちょっと待って! あんたには本屋ちゃんがいるのに―――っ! それに私は――――――」
アスナの小さなさくらんぼのような純潔の唇に、近づいた。
あとがき
すいません、中編・後編を分けて作ります。
物語の決着は後編です。アスナとネギはどうなるのか。
そして、ルークとアスナはどうなるのか。
次回に決着が着きますので、お楽しみに。
決して、昼ドラ的展開はなりませんwww
つづく