「ゆえ・・・・・・なんでこんな無茶を・・・・・・」
「いいのです、のどか・・・・・・最悪の結果だけ逃れられただけで幸運でした」
「そんな―――っ! こんなにボロボロで、腕だって折れてるのに! 目だって―――っ!」
「右目は見えてますし、左目だって一月経たずに見えるようになるです。身体の怪我だっていずれ治るですよ」
「ゆえ・・・・・・」
「たしかに包帯だらけのこの姿では良しとはいえないかもしれないですが、その分、得たものも大きいのです」
「・・・・・・ルーク君のパートナー、だから?」
「そうですね。私がルークのパートナーだから・・・・・・いいえ、それは建前ですね」
「建前?」
「私が、彼の事が好きだから・・・・・・ただ、それだけの理由です」
「ゆえ・・・・・・なんだか、凄く変わったね」
「そうですか? もし変わったとすれば、それは私が死線というものを経験して、それによって何らかのものを得たからじゃないでしょうか」
「?」
「いえ、そんなに難しい事ではないと思うです。なんというか、迷っていた答えが出た、というところですから」
「迷い?」
「まあ、説明し辛いですから気にしないで下さい。それより、私はどうやってライガを倒したのでしょう?」
「え・・・・・・覚えてないの?」
「ええ、ほとんど無我夢中でやったことでしたから何も・・・・・・」
「ゆえ・・・・・・すごい」
第32章 代償と笑顔
深夜にも関わらず、それが起った事によりエヴァンジェリンの別荘内は大騒ぎになった。
夕映の負傷を見たのどかの叫びによって、寝ていたアスナたちはたたき起こされ、何事かと集まった。
そうして眠い目を擦って起きた結果、クラスメイトの、アスナたちにとってはその中でも付き合いが深くなってきた、そしてなるだろう人物の惨状を目の当たりにしたのだった。
「夕映ちゃん!!」
「夕映!!」
「綾瀬さん!!」
「夕映さん!」
「夕映殿!!」
皆が焦るのも仕方が無いだろう。
夕映の状態は酷いものだった。腕は左腕が折れて有り得ない方へ曲がっていて、背中から折られた腕にかけて爪あとの裂傷が走っていた。
身体中も打ち身だらけで青痣だらけで、頭部からはダラダラと血が流れていて半分を流血で覆っている。
そして・・・・・・左目が茶色の、黒の瞳孔の瞳が、蒼天のような真っ青のビー玉のように変色していた。
出血量から、ルークと同じくらいに瀕死の状態であった。
「ティア!」
「はい、イオン様!」
「うちも!」
イオンとティア、そして木乃香は回復魔法を唱えて癒す。
「「キュア!」」
「「クーラ!」」
「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」
固唾を飲んで見守る一同。
酷い裂傷跡がどんどん治っていく。数分もしない内に大きな傷は塞がり、うっすらと傷跡が残るだけになった。
イオンはふぅと溜息を吐いて、一同に分かりやすいように言う。
「もう大丈夫です。危険な状態から脱しました」
「よかったぁ―――!!」
イオンの言葉に、皆の表情がパッと明るくなる。
しかしルークの表情は厳しかった。
「だが、なんで夕映はこんなことになったんだ?」
「それは・・・・・・」
「それにこの傷跡・・・・・・獣の傷跡だろ? 大きな爪の傷跡・・・・・・どこかで」
「・・・・・・・・・・・・」
「そ、そうよ! こんな大怪我しちゃって! いったいどういうことなの!?」
アスナがルークの言葉に思い出したように勢い込んで、目の前で治療を続けるティアとイオン、夕映の惨状を楽しそうに見ていたエヴァに問う。
「綾瀬夕映本人が望んで魔物と、しかもボス級の奴と殺し合いをしたんだよ」
「殺し合いって・・・・・・」
「いえ、実際に行ったのは殺し合いですが、正確には召喚による主従関係確立の為の試練と言うべきでしょうか」
「「「「「「??」」」」」」
イオンの言葉に意味が分からず、首を傾げる新裏加入組み。少なくても動植物の主従関係については例を知っている刹那と木乃香(鶴子の場合は鶴を従えていた)
魔物の主従関係と聞いて、亜子はルークの世界の妖獣のアリエッタを思い浮かべたが、まさかね、と思ってその想像を打ち消す。
「じゃあ、この大怪我は夕映ちゃん自身の所為だっていうの!?」
「そうだ。お前等も裏世界に関わろうとしているなら、この程度の怪我でごちゃごちゃ喚くな」
「う・・・・・・」
エヴァの鋭い眼光に、うっと怯む新加入組み。
この程度というが、ぶっちゃけ自分たちにとっては夕映の怪我は重態というべき怪我で、これ以上の怪我なんて、死亡というものしかないんじゃ? と思ってしまう。
「まさか、この程度の怪我が重傷などと思ってるんじゃないだろうな?」
「え・・・・・・」
「手足がもがれた訳でもない。臓物が抉られたわけでもない。腹に風穴を開けられた訳でもない。どこが重傷なんだ? この程度の怪我は軽症というものだ」
「うっ―――」
「エヴァンジェリン。そんなにみんなを試さないの。不器用なのね、貴方は」
「ちがうわっ!! なんだ、その温かい目で見おって!!」
「もうちょっと素直な方がいいですよ、エヴァンジェリンさん」
「人の話を聞け!!」
あっさりと避わしてからかう言葉を言うティアとイオン。
彼女たちは皆に視線を向けて、こう言った。
「このような大怪我を負わないように援護するつもりだったのですが、予想以上に展開が早くて・・・・・・僕たちの完全なミスです。夕映さんの治療は責任もって見ますから、みなさんは安心して眠ってください」
「そうね」
「・・・・・・まあ、命に別状はないみたいだし、怪我もちゃんと治るみたいだから・・・・・・いっか」
「うん・・・・・・ゆえきち自身の意思で戦かったみたいやし。ウチは何も言わへんよ」
「私もです。むしろ綾瀬さんを見直しました」
木乃香と刹那は感心したように夕映を覗き込み、賞賛の声を上げる。
とりあえずベッドに運ぶわ、というティアの言葉で夕映は奥へと運ばれていった。
それを見送るルークは、険しい顔で見送っていた。
「・・・・・・気付いたか?」
ルークの横に経つエヴァ。2人の様子に気がついた柿崎とアキラと亜子はそっと耳を澄ます。
「・・・・・・夕映の怪我は俺の所為か?」
「ふむ・・・・・・半分はお前と共にいるため。半分は自分のためといったところか。よかったな。男としては嬉しい限りじゃないか」
「いや・・・・・・まあ・・・・・・」
「綾瀬夕映の事は嫌いじゃないんだろ? むしろ気に入ってるんだろ?」
「ああ。それは間違いないけど・・・・・・俺なんかの為にあそこまでしなくても、って思ってしまうからさ」
ルークは焔の髪をかき上げて、ポリポリと頬をかく。
そんなルークに、エヴァは目を細めて問う。
「では小僧のように遠ざけるか?」
ルークはその言葉に反応し、エヴァンジェリンを睨みつける。
「―――まさか。ただ夕映の気持ちはありがたい、彼女を守ろう、彼女とも共にいよう、そう思っただけだ」
「クククッ! さすがに小僧とお前は違うな。どちらの答えも正解であり間違いではない。だが私は遠ざけようとするより、共にいて自分の力の限り守るというお前の理屈の方が好みだぞ。男気とでもいうか、気概とでもいうべきか」
「夕映は守られるだけは嫌みたいだけどな」
「ふむ・・・・・・その意気や良し、実力はこれから次第といったところか。少し評価を上げてやらねばな」
エヴァは楽しそうに笑いながらスタスタと大浴場の方へと歩いて行った。
ルークは自分たちの会話をジッと聴いていた柿崎とアキラと亜子へ振り返り、と笑った。
柿崎たちは、臭い言葉を平然と口にした、けれど全然違和感がない事から無関係ながらも顔を真っ赤にして、ルークを見つめていた。
「夕映が起きたら、寮に戻ろうぜ!」
「―――うんっ!」
彼女たちとルークは、笑顔で夕映が眠るところへ向かった。
その後、皆で夕映が眠る部屋で睡眠を取り、気付けば夕映とのどかが起きて何か話しをしていた。
夕映の身体の傷はうっすらと目を凝らさないと分からない程度の痕が残ってしまった。一応傷が開くといけないので、負傷した場所は全部包帯で巻いたのだが、ぶっちゃけ腕と頭部と片目と右足を包帯で巻いているせいでミイラ女のようになってしまった。
夕映自身が「平気ですから心配無用ですよ」と言っても、周囲はその格好故に安心できなかった。
一同がエヴァの別荘を出ると、まだ外は暗くなり始めたばかりで、部活帰りの生徒たちがたくさんいた。
女子寮に戻る一同と、何故か付いて来る鶴子。
誰もつっこんじゃないけない。
イオンは学園長室に向かっていった。いろいろと手続きがあるらしい。
(なんか、俺の部屋がどんどん合宿所みたいに大所帯になっていくような気がするなぁ)
鶴子がニコニコしていたことに不吉な予感を覚え、とりあえず寝る所をどうしようかと考える。
すると夕映が隣に来て、ルークに話しかけてきた。
「ルーク」
「夕映、身体は大丈夫か?」
「はい。戦闘の時は正直言って気が狂いそうになるくらい痛かったですが、今は特になんともないです」
「そうか。ほんとによかった」
「はい。ライガと戦って気を失ってからどうして殺されなかったか不思議ですが、ティアさんたちから、あれからどうなったか、私がどうやって生き残ったのか、聞きました」
夕映は目を覚ましてのどかと会話を交わした後、すぐにティアとイオンの下へと向かった。
あの戦いの顛末は、自分ですら信じられないものだった。
自分が大木に叩きつけられ、ライガクイーンが喰らおうとする素振りを見せた瞬間、信じられない事が起ったのだと。
それは、この世界で生まれ、裏世界へ数週間前に足を踏み入れ、初等魔法が精一杯の自分が、『譜術』の術式を展開し、サンダーブレードという中の上の譜術を使ったのだという。
あっちの世界の人間以外が譜術を使ったのは自分が初めてで、無理に限界以上の魔力を消費した所為と負傷により意識を失い、サンダーブレードはライガクイーンに命中した。
自分は無理に譜術を使った所為で、左目の視力を一時的に失い、数箇所の皮膚裂傷を生んだ。
そして一番の謎。それはライガクイーンはサンダーブレードに当たった後、起き上がりって自分の後ろに立ち、今度は何もせずに夕映を見つめるような仕草をした後、召喚魔法が切れて消滅した。
ここで注目すべき点は、夕映が譜術を唱えようとした瞬間、契約者のイオンからも魔力が吸い上げられたという事。夕映の魔力が足りないからイオンから吸い上げたということだった。
譜術士と契約を結ぶとその者も譜術を使えるようになるのだろうか。
否。
その仮説が正しいのなら、ルークと契約を結んだ後、別荘で譜術を使おうとした時に夕映が使えなかったのはおかしい。
たまたま失敗していたという事も有り得るが、それは根拠としては薄い。本契約、それも血液を交換しての契約だったからだろうか。
血液の交換により、通常の仮契約・契約とは違う両者の間にラインが出来た。
形が見えない仮契約のラインなんかではない。血の交換により体内に刻み込まれた形あるライン。
博学知識を誇るイオンが独自の契約方法を編み出し、実験用マウスではなく人間とは初めて試して、やはり成功した。
ただし、これは本契約のみ。
しかも本契約だから、対象が死亡するまでは1人ぽっきり。そんな貴重な枠に自分が入ってよかったのかと夕映が尋ねると、イオンはクスっと微笑み「ルークのパートナーである貴方とはこれからも長い付き合いになるでしょうし、何の不都合があるでしょうか」と言ったのであった。
その言葉、イオンの笑顔に夕映は、記憶の見た時から好感を持っていたが一層の好感とテレていたのであった。
「そうか・・・・・・そんなことが」
経緯を聴いたルークはボリボリと頭をかいて、夜空を仰いで、
「じゃあ、譜術使い・妖獣の綾瀬として、これから修行ってことか?」
「ええ。ライガは私を認めてないかもしれませんが、他の魔物を召喚して認めてもらえれば、私は妖獣使いとしてルーク、貴方の戦力に成れるですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
寮が近づいてきて、出入り口の玄関には他クラスの生徒たちが談笑したり部屋に戻ったり出かけたりと、穏やかな生活感が漂っている。
そんな暖かな光景とは裏腹に、夕映の言葉と表情を見て、ルークは胸騒ぎがした。
夕映が危うく見えた訳ではなかった。勘だって、別に彼女がこの先危険だとか、そういう警報を鳴らしている訳ではない。少なくてもそう感じている。
ただ、何となくこの瞬間に言わなくてはならない事があるような気がした。
「夕映」
「?」
足が止まって、ルークと夕映の2人だけが停止し、その2人の様子に気付いたティアたち別荘組はロビーで足を止めて振り返る。
のどかは夕映とルークの様子がおかしいことに気付き、でも長瀬が背負っているネギを放っておくことができず、夕映の下に駆け寄れない。
彼女はそっと耳を傾けた。
2人の会話が、全員の耳に聞こえた。
「・・・・・・頼むから、無茶はやめてくれ」
「無茶なんて―――」
「してないっていうのか? その姿で」
「わ、私は・・・・・・」
「違うんだ。怒ってるんじゃない。責めてるんじゃない。ただ俺は・・・・・・自分の所為で誰かが傷ついたり、死んだりするのが嫌なんだ」
「・・・・・・アクゼリュスでの崩落が、ルークをそう思わせてるですね」
「そうだ・・・・・・矛盾してるかもしれないしおかしいかもしれない、悪人を殺す事に苦悩はあるけど躊躇いはしない。だけど、俺の所為で露骨に誰かが命を落としたり、傷ついたりするのは堪えられないんだ」
「・・・・・・私は、貴方が好き、です」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
いきなり何事!? という表情を浮かべるアスナたちと、その場に居合わせた他クラスの生徒たち。
こういう色恋沙汰の言葉というのは、不思議なくらいに響くものだ。
「好きだから、傍にいるために、力を求めるのは悪いことですか?」
「ちがう、そうじゃない。俺だって夕映の事は大好きだ。大切だし、傍にいて欲しいと思う。だけど、急いては事を仕損じるという言葉があるように、がんばるのは良いが焦るのはダメだ」
ルークは何度もティアから言われた。焦っちゃダメ、出来ることからやりましょうルーク、と。
その言葉に何度助けられたか。その言葉によってここまで成長できた。その言葉があったから、これまで生きてこられた。
ルークは包帯で固定された腕に気を配り、そっと夕映を抱きしめた。
「「「「「「「「「「――――――っ!」」」」」」」」」」
ビシッと石化する、一同。鶴子だけ「ホホホ」と笑っているのは、さすがというべきか怖いというべきか。
事情を知らない女性徒たちは、ただそのラブシーンに顔を真っ赤にしていた。
「ルー・・・・・・ク・・・・・・あ、あ、あ、あ、あああああああああの、あのあの!」
夕映も呂律が回っていなかった、が。
「本当に・・・・・・よかった、無事で」
「ルー・・・・・・ク」
心底安堵した声が聞こえた。
大好きな人の言葉が、想いが伝わってくる。
今になって、恐怖が蘇ってきた。
「今度から、1人で戦おうとするな。俺やティアを呼ぶんだ。仲間たちを頼るんだ・・・・・・それゆえのパーティーなんだから」
言葉が震える。身体がガクガクと震えて、涙が零れ落ちる。
ああ、心配かけたんだなと、今さらながら思った。
「ハイ・・・・・・です」
その日の深夜。夕映は物思いに耽っていた。
あの後、夕映を冷やかす友や羨ましいという目を向けてくる仲間たちを宥めるのに、すごい体力が必要だったのだ。
鈍痛が走る目と腕を我慢して、真っ暗な室内でハルナとのどかの寝息を耳にしつつジッとどこか遠いところを眺めていた。
同室のハルナは、夕映のケガを見て大騒ぎしたものだが、のどかのフォローもあってなんとか誤魔化せたハズだが、本当に言い訳に疲れた。
ハルナの動揺っぷりを思い出し、クスっと笑って、
物凄い1日だった。ただ必死に全力で走り抜けた1日だった。
恋をしていた、いや、愛していた人の過去を知った。
異世界という範疇外の事実、信じられない道徳心、人と人がぶつかり合う悲しさ、避けられなかった死。
仮に、自分がルークと同じ立場になった時、自分は最後まで戦えるだろうか。そう考えてみる。
すると、すぐに無理だという答えがでた。きっと自分は自殺してしまう。親から見離され、親友たちから見放され、世界から見捨てられる。
それは想像できないからこそ、計り知れない恐怖があった。だから、自分には無理だと思う。
夕映はジワっと浮かぶ涙を慌てて拭う。
「・・・・・・・・・」
オールドラント最強の人物たちの戦いは常軌を逸していた。ただ圧倒された。それは間違いない。けれど、それ以上に悲しかった。
正直いって、ルークの仲間たちよりも、敵であった六人将とヴァン、そしてルークに同情した。
自分の力ではどうにもならない、理不尽な運命に翻弄され、それに抵抗する為に戦って死んでいった。
あの戦いで、自分の運命に抵抗したものたちは皆死んだ。ルークの仲間たちは納得できないから戦い、そして勝ち残った。
きっと、ソレが一番悲しかったんだと思う。
アッシュという、ルークと同じ容姿の人物が死ぬ瞬間。それはルーク自身の最後を見ているような錯覚さえ起こった。だから心臓が止まる思いさえしたものだ。
そして消滅の瞬間。あれを見たとき自分の運命は変わってしまった。決まったも同然だった。
彼の全てを受け入れよう、彼に付いて行こう、彼と共に歩こう、彼とずっと一緒にと願ったのだ。
けれど、ネギと戦う彼を見て、自分の決意は嘘ではない、しかし確かなものではないと気がついた。
きっとこのままでは駄目だと。何の為にルークの過去を見て学んだつもりになっていたのだと、頭を殴られたようだった。
だから、イオンと契約さえ結んで力を求め、行動でルークに示した。しかし自分は急ぎすぎたのかもしれない。
「・・・・・・・・・仲間」
かつてルークが得て、失って、再び得た存在。
ティアさんに全幅の信頼を置いていて、彼が背中合わせに戦う存在、それが仲間。今の彼にはティアとミュウしかいない。
かつての世界で、走り抜けた6・7人のメンバー。
世界を駆け抜け、戦い、繋がり、笑いあったパーティー・
あの中に、自分が入れる。
「・・・・・・・・・・・・っ!!」
激しく身震いした。凄まじい喜びだった
ただの友達という繋がりでもなく、親友という繋がりでもない、ある意味で家族以上に深い絆で結ばれた赤の他人同士の仲間。
間違いなく、自分の運命は変わった。
本来辿るはずだった道から、抜け落ちた。
いや、ひょっとしたら変わったように思えるこの道こそが、自分が辿る運命なのかもしれない。
「いえ、運命なんて言葉を使っちゃ駄目ですね。預言を覆したルークの隣にいる私が使って良い言葉じゃないです」
賞金首の彼と一緒にいる事が、平穏・常識の生活を送れるとは思っていない。離れるつもりはないから、一生そのままのはずだ。
父や母、そして死んだ祖父。両親たちは自分に普通の人生を送って欲しかったはずだ。それを裏切る結果になって申し訳ない。
だが、自分はもう普通に戻るつもりはない。
ここから先、私は自分の望む道をいく。親に怒られようと、周りが止めようと蔑もうと、私はルークの仲間として共にいるだろう。
「ふふっ・・・・・・・・・・・・」
夕映は笑った。
とても幸せそうな微笑みであった。
ひょっとしたらその笑顔は、古い綾瀬夕映が死に、新しい綾瀬夕映が誕生した自分への祝福の笑顔だったのかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・で、何でこうなったんだ?」
翌朝、ロフトで寝ていたルークは、今の状況に呆然となっていた。
昨日の『658(ロビー告白抱擁)事件』(アスナ命名。しかもセンスないと美砂に突っ込まれてた)のあと、さんざん皆から説教されたのだった。
例えばアスナの『この女たらし!』とか、刹那の『・・・・・・・・・・・・』とか、木乃香の『なんか恋愛原子核って言葉が浮かんできたえ』などなど。
とりあえず別世界にいる白い銀の男の特殊能力は意味不明なので置いておいて、ルークは部屋へと逃げ込み、鶴子とイオン用の布団を用意した。
ロフトとベッドの2つ。それで寝る場所が埋まってしまったので、ルークはソファで寝る予定だったはずなのだが・・・・・・。
イオンが戻ってきて、鶴子とティアが晩御飯を作ってみんなで食べて、女性徒たちの大浴場入浴時間に鶴子に拉致&GOされそうになったから抵抗して、ミュウと一緒に風呂に入ってアニメ見ながらのんびりしてたらウトウトして寝てしまったのだ。
だが、それなら今の状況はなんだ?
両腕を広げて、両脇にティアと鶴子が抱きつくように眠っていて、上にはイオンが乗っかるように胸元に顔を擦り付けて寝ていた。
「問題は・・・・・・なぜ全員が素っ裸って事だが」
考えたくない現実にルークの思考は逃避気味・・・・・・いや、完全逃避だった。
ルークは直視しないように目を瞑り、そして高速思考に入った。
―――これはアレか?アレというやつかしかし自分はまったくおぼえてないし酒を飲んでいたわけじゃないからおぼえてないのは変じゃないかというより仮にそうならおぼえてないのはもったいないというかおとことしてそれはどうかなというかいやいやそれよりもおとことしてせきにんをというかてぃあのメロンがおおきすぎるだろきょにゅうのつるこさんよりおおきいってどういうことだというかいおんのかんしょくもやばいだろというかいおんはもとおとこであってでもいまはおんなだしもとからおんなっぽかったからあまりいわかんはないからなというかはやくおきてにげないとまずいというかきのうのきょうでこれはひととしてどうかとおもうがははうえにばれたらころされるというかきっとなかれるようなぁ―――
そっとイオンを布団に降ろして起き上がり、シーツを目を瞑りながら被せ、ふぅと溜息を吐いて目を開けて階段を下りようとして―――。
白いシーツに包まれる3女神の生足や谷間が微妙に隠れていて、むしろ美しさを助長させた。
「は、はなぢが―――っ!?」
ルークはバタバタと風呂場へと駆け込んだのだった。
ちなみに、本来なら昨夜に悪魔の襲撃があったのだが、彼の者の依頼者である組織が潰された事が限界であり、また魔法界でとある男が暴れ過ぎていて、悪魔たちが総動員されている事も原因だったのだが、それをルークたちは知る術はなかった。
そしてルークが風呂場に突入すると同時に目を開ける3人。
ティアとイオンは顔を真っ赤にしてテレていて、鶴子はホホホと笑って、
「作戦は成功どすなぁ」
と言った。
「や、やっぱり恥ずかしいですよ、これ」
ティアは普段見られる事がなかった太腿までの肌とか、胸とかを見られたのはやはり恥ずかしかった。イオンにしても同じだったらしく、密着度が一番高かった彼女には一番堪えたようだ。
「ぼくもとても恥ずかしかったです」
「何をおっしゃっとるんどすか。このままでは2人ともいつまでたっても進展ないままズルズルいってしまうんとちゃいますか?」
「「!」」
「ティアはんには邪魔が入り、イオンはんは何時まで経っても昔の男だったイメージが抜けん・・・・・・それでええと?」
「いえ、それは嫌です」
ティアがハッキリと言い、イオンもコクリと頷く。
「そうでっしゃろう。ではこれからもしっかりとアピールしていきましょ。ウチは今日から京都へ一旦戻らせてもらいますが、学園祭までには戻りますゆえ」
「はい、待ってますね」
イオンは服を着込みながら言う。ティアもブラウスを着て、大きな真っ白い胸を隠した。
鶴子も袴を着て、前時代的な格好となる。
3人の間にあるのは、1つの同盟。
老衰を迎えるまで、皆仲良くしようという協定。
3人は強い絆で結ばれて―――
「この子が性別が何かくらいは、次に会う時くらいには判明しておることやろうしなぁ」
お腹をそっと押さえてポッと頬を赤らめる鶴子。その言葉が冗談か真実か、それは分からない。
「「ななっ!?」」
・・・・・・3人の絆は以外と脆そうだ。
「夕映!? あんたそれどうしたの!!」
「夕映きちっ!?」
翌朝、登校してきた綾瀬夕映の姿を見たクラスメイトたちは、夕映の姿を見てギョッとすることになった。
包帯だらけの夕映の惨状を見て、クラス中が駆け寄ってくる。
早乙女も困惑した様子で、どうやら問い詰めたがはぐらかされたというところだろうか。
皆がどうしたんだ、何があったのと問い詰めると、夕映はこう答えた。
「転んだです」
「いや、嘘でしょ!(全員)」
即答だった。
それからは心配するクラスメイトたちがずっと夕映に声をかけ続け、ルークは席に座ってそんな彼女たちの様子を見ていた。
すると教室にネギが入ってきた。
「おはようございま~す!」
一見、ネギは普通に入室してきたように見える。しかしルークがいる方角へは絶対に目を向けていない。
明らかに怯えて、いや、拒否していた。
「では出席を取りますので―――」
そんなネギの些細な様子を見逃さなかったのは数名いたのだが、それは本当に些細な事であった為に事情を知らない者は勘違いだと判断した。
こうして始まった学校。
結局ルークとネギは一言も言葉を交わさないまま放課後になった。
両者の冷戦状態とまではいかないが、気まずい雰囲気は微妙な膠着状態のまま1日終了となり、アスナやのどか達はだいぶ困った様子だった。
ルークはHRが終わって席を立ち、さっさと帰ろうと思った。
すると、懐の携帯がぶるぶると震えたので、まだクラスメイトがたくさんいる中で携帯をとる。ネギという教師がまだいる中で取るとは良い度胸してるなぁと皆は思った。
「はい、もしもし・・・・・・ああ、イオンか。どうしたんだ? うん・・・・・・ああ・・・・・・分かった。じゃあ今から行くから」
そう言って、ブツリと電話を切る。
すると、木乃香がどうしたのか尋ねてきた。
「イオン様から電話?」
(イオン『様』!?(全員))
「ああ、イオンからでさ、生活用品揃えたいから、これからティアと買い物にでかけるけど一緒に行かないかだと」
「いいですね」
「亜子たちはどうする?」
「あ、ごめんねルーク君。うち等はバンドの練習があんねん」
「ごめんねぇ、ルーク君」
「そっかぁ・・・・・・仕方がないよな」
「うん。残念やけど」
「じゃあ・・・・・・夕飯は食べにこいよ」
「え、ええの?」
「ああ。亜子とアキラと美砂の分は作っとくから」
「やったぁ!!」
「わ、わたしも行きたいですぅ! ゆ、幽霊ですけど」
「ア、アハハハハ」
アスナの乾き笑いでぞろぞろと移動した。
時期は、学園祭1ヶ月前のことだった。
現実の世界を離れた、別の次元に存在する、けれど確かに繋がっている世界、魔法界。
メインゲートが南端に存在するメガロメセンブリア。
商業公益都市、また娯楽施設が多いメガロメセンブリアは魔法界の中でも代表的な大都市であった。
だがそんな都市も、もう見る陰がなくなっていた。完全に崩壊している。
人はたくさん死に、傷つき、倒れ苦しんでいた。
破壊機械兵が暴れ周り、そして荒れ狂う気を放出する1人の侵略者。
その男の前に、シンクがたった一人で立ち塞がった。
男が、一流の強者の気配を漂わせるシンクに興味を持ち、問う。
「貴様は英雄か?」
「違うね。僕は世界の反逆者だ。だがそんな事はどうでもいい。世界最強だとか言ってる井の中の蛙のアンタに現実という奴を教えてやるよ」
「笑止!! 我を倒そうなど不可能なこと!! 我が最強!!」
「いちいち声が大きいんだよ。そういうセリフは僕に勝ってからいいなよ」
「望むところ!!」
「いくよ!!」
「ぶるぅあああああああああああああああああ!!」
「はぁああああああああああああああああああ!!」
魔法界のメガロメセンブリアにて、2メートルの巨漢の男と緑の髪の青年が激突した。
この日。
魔法界に長くの残る歴史の一コマ。
『六・二二メガロメセンブリア壊滅』と。
あとがき
ども、遅くなりました。
私生活にて仕事が忙しいのと、今度社会人野球大会に出る為に休日練習しているのとで、書く余裕がありませんでした。
関係ない話ですが、私の好みが変わりつつあるようです。
いえ、ティアのような女性が好みなのですが、巨乳はもう飽きました(笑)
これからの時代は、スレンダーな体型が一番かもしれません!
いえ、どうでもいい話ですね。
では次回は、亜子・アキラ編になります。
わずかにアスナ編に入ります。
つづく