子供のように無邪気に夢を見てるのではなく。
大人のようにただ現実を受け入れるのでもなく。
この世に絶望があることを知り、孤独があることを知り、悲しみがあることを知り、不条理があるを知り。
それでも、己らしく生きることを諦めないこと。
著:イオン・ダアト
「やっと見つけました、シンク様」
「ああ、あんた達か。なに、生きてたの?」
「はい。私たちは辛うじて難を逃れまして」
「―――様に認められ、想われた貴方なら、生きていると確信してました。お会いできてよかったです」
「私たちへ命令を下さい、シンク様」
「命令?」
「はい。あのバルバトスという男を倒せと」
「無理だね。フェイトたちですらやられたのに、あいつらに劣るあんた達が勝つなんて」
「ですが―――っ!」
「別に闘わないなんて言ってない。付いて来なよ」
「―――! ではっ!!」
「そうだよ・・・・・・あいつとは僕が戦う。あいつは、―――との最後の場所をぶち壊しやがったんだからね」
「シンク様・・・・・・貴方は、そこまで―――」
「無駄話はここまでだ。いくよ」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お供いたします、貴方に、ずっと・・・・・・」
第29章 来訪 イオン・ダアト
「ルーク!! ルーク、しっかりして!!」
のどかに圧し掛かる形で倒れたルークへ駆け寄るティア、夕映、亜子、アキラ、刹那、木乃香、美砂、トクナガ(さよ)。
彼の服の背中はボロボロに焼け焦げ、皮膚は焼け爛れて血が零れている。頭部からも流血はひどく、呼吸も不規則で意識がない。
明らかに、致命的な傷であった。
ネギは追い詰められダメージが限界を迎えたからか、それとものどかが助かったことで安堵したのか、彼は気を失って倒れていた。
のどかは喉が潰れるように泣き叫ぶが、このままではのどかが危険だと判断したエヴァが、額にトンと指先を当て、彼女を眠らせた。
のどかとネギは、茶々丸姉妹によってベッドへと運ばれていった。
「すぐに治療に入るわ! このかちゃん、手伝って!!」
「うん!!」
「女神の慈歌を奏でし癒しの旋律よ!! キュア!!」
ティアは唇を噛みしめながら、自分が咄嗟に動けなかったことを悔やむ。
未熟な子供が先生になっているという事がひっかかりがあった所為か、今回のルークの暴走は、あの子供の成長という意味で調度良い機会だと思っていた。
ルークが最後に放ったコチラの世界の魔法。
あれは、非常に威力がある。
上級譜術のインディグネイションに匹敵する威力だと思う。だが本来は音素によって構成されたルークの身体は、コチラの世界に召喚された際に強制的に魔力で構成されたルークの身体ではあるが、たとえ体の作りが変わっても、本来の資質は変わらない。
彼は第七音素を操る剣士。
本来なら譜術ですら基礎が限界なのだ。
だから、あのレベルの魔法を唱えるのは非常に燃費が悪く、発動にも多大に負荷がかかる。基本的にこの類の詠唱をするのはルークにとってはマイナスにしかならないのだ。
だが、あの瞬間は違った。
あれは確実にネギに当たっていたし、そうなれば彼は瀕死の状態で闘うことなどできなかった。だからトドメを刺すという意味では間違えていなかった。
けれど予想外な存在が介入した。それは宮崎のどか。別荘内にいる中で、あらゆる意味で最も弱いと思われていた彼女が、ここ一番で動くとは思わなかった。誰もがのどかの死を予感したその瞬間、ルークの魔力と気、気配が桁違いに跳ね上がった。そして気がつけばルークがのどかを庇って倒れていたのだった。
アレは何だったのか。魔法詠唱は別荘内で先日みせてもらったからそこまで驚いてはない。まあ、あのレベルの魔法を使えるとは知らなかったけど。
けれど、アレは違った。
アレは何だったのか。動きすら目に見えなかったから何が起ったのか分からなかったが、奥の手だということは察した。
そしてそれがルークの―――身体のダメージを拡大させていることに。
「そんな、効果が薄すぎる!」
「ティアさん、ウチがやる!!」
ティアの魔法効果が無いに等しいと見た木乃香は、刹那と相互契約として手に入れた仮契約カードを取り出した木乃香は、ルークを召喚した時より鍛えてきた己の魔法を発動させた。
「氣吹戸大祓、高天原爾禪留坐、禪漏伎禪漏彌命似、皇禪等前爾白久、苦患吾友乎、護惠比幸給閉止」
巫女の衣装を身に纏い、和の独特の動きで舞い発動する。
「藤原朝臣近衛木乃香能 生魂乎宇豆乃幣帛爾 備奉事乎諸聞食!!」
木乃香のパクティオーカードの機能を最大限に引き出す呪文。この呪文は傷口を強制的に治癒しているように見えるが、怪我をしたという因果を打ち払うものでもある。
しかし。
傷口を塞いだはずのルークは、一向に顔色が良くならない。
むしろ呼吸がどんどん荒れていた。
「なんでなん!? 傷は塞がってるのに!!」
「たぶん・・・・・・からだの中にあるローレライの鍵が、第七音素が邪魔してるのよ!」
「ほな、ティアさんの魔法が効きにくいのはおかしいやん!」
「違うのよ。私たち第七譜術士はオールドラントでは音素を使ってた。でもこちらで使ってるのは音素じゃない。実はこちらの世界の魔力も7系統に分かれていて、そして第7譜術士はその7番目の系統に該当する魔力を使ってるの!」
「それが何なんです!?」
刹那はもどかしそうに声を荒げて、茶々丸が急いで持ってきた救急道具を片手に治療を施している。
明日菜も亜子も夕映も必死にルークを呼ぶが、彼は何の反応も返せない。
「だから! アッチの世界の純粋な第七音素の塊であるローレライの鍵が邪魔するのよ! 混ざり物が純粋な物を透過できる訳ないでしょう!」
「でも、修学旅行では石化した人たちの解除は成功してましたよね!?」
「状態解除なんて訳ないわ。その為のアイテムも持ってたし、石化の分子に対して解除分子を送ってただけなんだから」
「な、なるほど」
「そんな話より、早くルークをあっちのベッドに移すぞ!」
ルークの状態が一向によくならい事で、きちんとしたベッドで休ませる事を提案するエヴァ。少なくても石の地面よりは何倍もマシだろう。
エヴァの言葉に異論がない一同は、ティアがルークを背負って移動したのだった。
結局、ティアと木乃香が魔力がある限りずっと回復魔法を唱え続けるという事しか方法はなかった。
こちらの回復アイテムなども、譜術も、陰陽術も、全てローレライの鍵に邪魔される。でも効果が全くない訳ではない。
肉体が極限状態まで弱りきっている中、内臓のダメージも甚大、かつ魔力も枯渇しているという状態では休眠療養しか方法はないのだが、放置していれば死亡する確率が高いのだから、例え今の彼の状態では毒になりうるかもしれない回復魔法でも、かけない訳にはいかなかった。
ルークに想いを寄せる少女たちは片時も離れようとせず、またティアと木乃香の身体も気遣って必死にサポートしていた。
一方で、問題なのはネギとのどかであった。
のどかは自分の目の前で血だらけになった親しい人物を見た事でショックを受けた故に気絶しただけだから、今は寝かせておくのが一番であり、何もできることはない。
ネギは全身に痣、打ち身、内臓に甚大なダメージを負っていたが、魔法薬を茶々丸姉妹が飲ませたから、身体の方は問題なかった。だが精神状態に不安があり。
茶々丸はそのように判断した。
古や長瀬、朝倉はネギの傍にいるようで、彼女達も自分に何ができるだろうか、そして先ほどの戦闘の意味は? と、一重に心の問題という難問についてずっと考えていた。
「・・・・・・判らない事が1つだけあるでござる」
「なに?」
「ルークがあそこまで怒らなければならなかった理由アルね?」
「うむ、そうでござる。ルーク殿は最初から我を忘れて攻撃しているように見えたでござるが、ネギ坊主が“生きている”ことから、手加減していたと考えるのが妥当。その証拠に剣士のルーク殿が素手でござったからな」
「だが、やりすぎと言えばやりすぎアル。あれは説教だけでもよかったんじゃないアルか?」
「アレはいくらルーク君でもやりすぎだと私は思うけど・・・・・・」
「そうでござるな・・・・・・近親憎悪とでも言える程の怒りを感じたし、けれど殺しはしなかった・・・・・・最後の魔法だって、直撃させるつもりはなかったように思えるでござる」
「確かに。その証拠にネギ坊主と離れた所に割って入ったのどかに直撃しそうになってたアルよ。あれは余波だけでネギ坊主を倒そうとしてた証拠アル。まあ、その威力も洒落にならなかったと思うヨ」
「俺っちもそこが気になってたんスよ。まあ、それでもアニキは敵わなかったんスけど」
古は窓からレーベンシュルト城の崩壊した場所、先ほどまで自分たちがいた場所を眺め、粉々に吹き飛んでいる一角に目をやり、冷や汗を流した。
古と長瀬、2人は見ていた。ネギがルークへ魔法を放ち、直撃した時に頬を歪ませて笑っていることに。初めて見た彼の闇をどうすれば拭えるのか。2人はネギの力になると決めた故に頭を悩ませていた。
一方で朝倉は納得はできない。ネギはまだ10歳に満たない子供なのだ。そんな子供が考えた上でのどかの身の安全を考えて、立派に面と向かって言ったのだから、それだけで合格点じゃないか、そう思っていた。
もちろん、自分が宮崎のどかの立場だったらという視点を考えないようにして、だが。
カモはネギが眠る傍で座り込み、疲れ果てたようにぐったりとしていた。
「しかしルーク殿が呪文詠唱できるとは驚きでござった。ただの剣士だとばかり思っていたでござる」
「そうネ。あれが世界最強という部類の強者の高みネ」
「うむ。拙者もお手合わせ願いたいでござるよ。そうすれば、更なる高みへ・・・・・・」
「ワクワクするヨ♪」
楓も古も、根っからの戦士であった。そしてそんな2人に朝倉は苦笑いしながら、ネギの額に乗せてるおしぼりを取り替えたのだった。
ルークを看病している一同は、皆が一部屋に集まって傍で見守っていた。
小康状態を保っているルークであったが、以前として具合は悪そうである。
だが魔法を使えない者には、心配する気持ちはもちろんあるのだが、何もできないのも事実であった。
従って、亜子はルークのベッドに寄りかかりながら、新曲『カルマ』の歌詞を書きながら、何か口ずさんでいる。
「亜子、何だかすごい哲学的意味合いを含んだ歌詞だね」
「うん、まあ・・・そうなるんやろうね」
歌詞は順調に作りあがっているようだ。アキラも亜子があまりに真剣に書いている
同じように隣のベッドで眠るのどかは、付着した血液を綺麗に洗い流されて穏やかに眠っていた。
もちろん傍には夕映がいて、彼女は自分のアーティファクトを開き、新たな訓練方法について検索かけていた。
ティアも木乃香も、そして刹那も。幼馴染として彼の気持ちを十分に理解していた。
「きっと、ショックやったんやろなぁ。信じられへんかったんやろうな、ルーク」
「何がですか?」
さよが突然、ポツリともらした言葉に首を傾げた。
木乃香が、先ほどから訳の解らない事態に憤慨している明日菜へ顔を向けて、言う。
「ネギくんが、一般的には非常識かつ親失格なことしてるお父さんの事、信じとるやろ? まったく疑ってないやろ? 恨んでないやろ?」
「それが何なのよ?」
明日菜は、自分だけが知らない事を木乃香たちが知っているという状況にイライラしていた。独りだけ除け者にされている感じがして嫌だった。
「だからな、そんなネギ君が、お父さんだけやなく、パートナーまでも切り捨てようとしたネギ君を信じられへんかったんやと思う」
一同が、木乃香に注目していた。
事情を知る夕映と亜子、ティアと刹那は悲しそうに目を落とし、エヴァはジッとルークを見つめていた。
そして、木乃香から出た言葉に一同は衝撃を受けた。
「・・・・・・・・・・・・お父さんから、死ぬことを良しとされて、見捨てられたルークには」
「「「「!!」」」」
アキラが、さよが、美砂がそして明日菜が、驚愕の表情を浮かべた。
そんな彼女達を尻目に言葉を継ぐ刹那。
「お父さんだけではありません。親戚・一族一同みんなです。当時7歳だったルークは、直接『死ね』とは言われてませんが、それと同義の事をされました。いえ、むしろもっと残酷かもしれません」
「そんなっ!? あ、ありえないでしょ! そんなバカな話が・・・・・・」
美砂は笑い飛ばそうとするが、刹那たちの目が笑っていないことに、むしろ悲しそうに目を潤ませていることに気付き、それ以上発せなかった。
むしろ、彼が来た最初の頃の話が次々と思い出され、それが真実であると本能が告げていた。
「まあ、お母さんの方はどうか解らへんかったみたいやけど・・・・・・どちらにしろ変わりないと思う」
「そんな・・・・・・」
重い空気が漂い始めた時、エヴァが一番重要な事を忘れているぞ、という。
これ以上何があるのか、と明日菜は震える足を押さえながら聞く。
「じゅ、重要なこと?」
「そだ。正にその瞬間まで、当時のルークは純粋培養された子供だったという事だ。世間の悪意や汚いこと、人間の善悪などまったく触れることのない楽園のような所にいたのに、いきなり地獄へ叩き落されたことだ。その衝撃は計り知れなかっただろうな・・・・・・私にはよく解るよ」
「・・・・・・・・・・・・」
誰もが声を失った。
そして、彼の瞳がいつも悲しそうだったのは、これのことだったのだ、と妙に納得してしまった。
その時だった。
「―――ハァッ! ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・グゥっ!」
「ルーク!」
ティアが声を荒げた。
ルークはいきなり苦しみだし、どんどん呼吸は荒れる。
「ティアさん! もう一度魔法を!」
「ええ!」
「師範はどこに!? あの人なら気孔も使えるはずです!」
「青山鶴子は、数時間前に買い物に出て行ったきり、帰ってきてない!」
刹那の提案を一蹴するエヴァ。
ティアと木乃香は、すでにギリギリの魔力を総動員して呪文を紡ぐ。
しかし、それでも回復の兆候はまったく見られなかった。
「ルーク、しっかりして!」
「ご主人様!!」
「ルーク!」
「ルーク、しっかりしてください!」
「ルークさん!」
「ルーク君!!」
皆が駆け寄り、必死にルークに声をかけ続ける。
脂汗がひどく、呼吸も荒れている。エヴァは一目で危険な状態だと確信した。
こうなったら、吸血鬼化でもして助けるか、と最終手段を実行する可能性を頭に過ぎらせた瞬間、事態はさらに変化を見せる。
誰かが、別荘に入ってきたのだ。
「・・・・・・ええい、こんな時に! 私の別荘に許可なく侵入するとは良い度胸じゃないか!」
「「!!」」
この別荘には部外者が入ってくることなど、そうそう有り得ない。
となると、それは敵の可能性もあるのだ。
全員がパッと窓から顔を出し、侵入者を確認しようとして、そしてその人物に見覚えがあるものが心底驚きの声を上げたのだった。
それは、刹那と木乃化と夕映と亜子。そして夕映の頭に飛び乗ったミュウ。
ルークたちの世界を観た事があるものたち。
そして侵入者は、白いブラウスを着て紺のジーパンという格好の、可愛らしさと色気を見に纏った二十歳位の女性。
緑の髪という非常に珍しい髪の色だけれど、まったく違和感がなく、ふわふわと流れる髪はなんだか触りたくなる。
表情は柔らかく、優しい。
胸は大きいとはいえないようで、僅かな膨らみしかないが、全体的にスレンダーな体型ではむしろ似合っている。
きっと、女王様や女神様というのは、目の前の人物のことを言うのではないだろうかと、そう思ってしまう程のオーラがある女性。
その人物の名は―――。
「「「「「―――イオン様!!」」」」」
「こちらの方でしょうか・・・・・・?」
麻帆良の地に到着したとある女性は、まずは学園長に挨拶に行くべきと判断する。
しかし、いったん麻帆良の地に到着するとその巨大かつ迷路のような地に、すっかり迷子になってしまっていた。
おそらく、最奥側には到着したと思うが・・・・・・?
キョロキョロと辺りを見回す女性は、自然と目を引いていたが、本人はまったく気付いていない。
すると、その女性にある者が声をかけていた。
「・・・・・・もしかして、イオンかい?」
「はい? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、タカミチでしょうか?」
「イオン! 久しぶりだね!」
「タカミチ! しばらく合わない間に、すっかりガトウさんに似てきましたね」
どうやら面識があるらしい高畑とイオンと呼ばれる女性は、久しぶりの再会という事で懐かしがって話していた。
周囲は、デスメガネの愛人か!? とヒソヒソと話をしていて、妙な誤解が広がっているようだ。
「ところで、どうしてここに来たんだい? ラカンさんは?」
「ああ、ラカンさんは向こうにいますよ。今回来たのは学園長先生に呼ばれたのですが・・・・・・その前に聞きたい事があります」
「なんだい?」
彼女は、ゴクリと唾を飲み込み一呼吸してから、高畑に聞いた。
「ここに・・・・・・ルーク・フォン・ファブレという男性はいますか? 彼とは知り合いなのですが」
「彼を知っているのか!?」
接点が全く無いように思える2人が、知り合いということに驚く高畑。
しかも昔からの仲間という事で彼女をよく知る高畑は、彼女の彼を呼ぶ声や瞳に、知人以上の感情が籠っていることに気付いていた。
「やっぱり彼はこの世界に・・・・・・それで彼はどこに?」
「た、たぶんエヴァの屋敷の別荘だと思うけど」
「そうですか・・・・・・では、そこへ案内して頂けませんか? 学園長の元には後できちんと伺いますから」
「わかった、では案内しよう」
こうして高畑に案内されたログハウス。
きちんとノックをして声をかけ、お邪魔します、と言って入室。
内装の可愛らしさに感心しつつ、高畑に促されて地下へ入った。
するとそこには球体が置かれていて、高畑にこの中にいるはずだよ、と言われる。
「ありがとうございます、タカミチ」
「いや、いいんだよ。じゃあ、僕はまだ仕事が残ってるから、また今度」
「はい、解りました」
イオンと呼ばれる女性はタカミチが出て行ったのを見届けると、球体に近づいてそれに触れた。
その瞬間、見知らぬ場所へと転送される。
「これは・・・・・・驚きましたね。これほどの規模のものがあるとは・・・・・・さすがはエヴァンジェリンさんという事でしょうか」
感心しつつ入り口付近から移動するイオン。
こんなリゾート地のような所にいるなんて楽しそうですね、とイオンは思いながら人の気配がする中央タワーに近づく。
すると、吹き抜けになっているところから、いくつかの顔が自分を見ていた。その顔にイオンは覚えがない。だが、その中の一人の頭に飛び乗った者がいて、その者だけは見覚えがあった。
あの子がここにいるはずないのだが、久しぶりにミュウをみて思わず頬が緩む。
「「「「「イオン様!!」」」」」
(何で僕のことを知ってるのでしょう?)
見知らぬ少女たちが自分の名を、しかも昔の呼称で呼ぶことにビックリしたイオンであった。
「―――という訳で、ルークが危険な状態なんです!」
ティアとも再会したイオンは、一同と初の顔会わせをしたのだが、傍のベッドで苦しむルークを見て、イオンは顔色を変えて説明を求めた。
ティアに簡単な説明を受けたイオンは、なるほどと納得してルークに近づく。
「―――僕に任せてください」
「!! なんとかできるんですか!?」
イオンの言葉で、皆に喜びの光が差し込む。
イオンはニコリと微笑むと、両手を翳して片手を額に、片手を腹部へ当てる。
すると彼女の身体が淡く光だし、凄まじい魔力が、音素が発生する。
「ダアト式・・・・・・譜術」
以前より安定感を増している、そして桁違いに魔力が高まっているイオンに、ティアは呆然とした。
―――ルーク、会えるはずがなかったのに奇跡が起って再会できたのです・・・・・・はやく笑顔を僕に―――。
イオンは愛しげにルークを見つめる。
この世界にいるという事は、結果はどうであれ消滅したということ。
自分はこの世界に来て、ナギたちと旅をしている時でも、1日とてルークを考えない日はなかった。
自分の苦しみを、レプリカとしての悩みを、誰よりも理解してくれている、人。
男として2年間。そして女として20年間。
正直、自分の性別は何なんだろう、と危ない悩みを抱えていた数年間。そして開き直った近年。
ああ、そうだ。わかっていた。
彼に再会して、それを確信した。
イオンはルークの上にそっと顔を落とす。
そして。
こんな非常事態にも関わらず、皆は次の彼女の行動に絶句してしまったのだった。
いや、大爆発した。
―――そう。
彼女の唇が、ルークの唇に重なっていたのだ。
俗いう、チュー。
言い方を変えれば、チュー。
恋人同士がする、チュー。
『男』と『女』がする、チュー。
男と、女?
「「「「「「「「「ああああああああああああああああああああ!!」」」」」」」」」
少女たちには、すでにルークの身体が回復したかどうかなど目に入っていなかった。
とにかく必死でイオンを引き剥がし、キャンキャンと喚いて、イオンに自分たちの恋人なんだから、と説明していたのであった。
とりあえず、ルークの顔色が良くなって、穏やかな笑みを浮かべている事を補足しておこう。
あとがき
BLは私は苦手です!
だから、なるべくイオンが女性である事を強調する描写を多く含めたのですが、不快に感じたならごめんなさい。
次回からイオン様とルークの絡み、そして各女性たちのイベントを書きつつ、学園祭直前の原作内容に絡めたいと思います。
今回は短くてすいませんでした。
つづく