頭が真っ白になった



父親にこだわる目の前の少年が信じられなかった



父親の為に仲間を切り捨てる少年が信じられなかった



形はどうあれ息子を捨てた父親



俺は、父上を信じたい



けれど、信じられない



1度は捨てられた、その事実が気持ちを邪魔する



ぐちゃぐちゃで、未だに父親に対する気持ちは定まらないけど



だけど、1つだけ確かな気持ちがある



それは・・・・・・



それは・・・・・・・・・・・・・・・















     第28章 父

 










 私、神楽坂アスナはその時初めて知った。

 これまでの修学旅行の戦い、血の組織との戦い。両方の戦いにおいて、ルークは本気で怒ってはいなかったのだという事を。

 本当に突然だった。

 空気に鉛が入ったように重く感じ、背中に氷を入れられたように、物凄い寒気と冷たさを感じた。

 それが直感で殺気と呼ばれるものだという事を察した。

 ルークが、嘆き悲しむような荒がる声を上げた直後、ドン、という何かを破壊する音が響き、レーベンスシュルト城自慢の真っ白な石の地面が砕かれていた。

 ゴキリと、鈍く嫌な音が響き、音のした方へ皆が振り向くと、ネギが頬を押さえて海へと弾き飛ばされている姿と、拳を振りぬくルークの姿であった。

 「「「「「「「!!」」」」」」」

 エヴァンジェリンとティアを除く全員が突然の事態に固まり、ルークが腰にある剣をティアに投げ渡して、ネギが落ちた海へと突撃して姿が見えなくなるまで誰も動けなかった。

「ルーク!! ネギ!!」

 岩壁に駆け寄り下を覗き込むと、海上で必死に何かを叫び逃げ惑うネギと、気で身体強化したルークが拳を突き出しネギに襲い掛かっている姿であった。

「あんたたち、何やってんのよ!! やめなさいよ―――!!」

 大声で怒鳴るが、彼等は止まらない。いや、彼が止まらない。

 隣では古菲やアキラさん、柿崎も叫んでいて、必死に止めようとしていた。しかし泣き崩れた本屋ちゃんや親友の夕映、少し躊躇しているものの止めない和泉さんや、ルークだいじょうぶかなぁ~、と呟いている木乃香と付き添う刹那。

 ―――何なの、このか達は仕方が無いとしても、何で和泉さん達までこんなにあっさりしてるの!?

 明日菜の困惑は止めようとしているアキラたちも同じようで、戦うルークたちと、仲間たちを何度も見遣る。

 そんな彼女たちの気持ちを察したエヴァは、ニヤニヤした顔でルークたちが戦っている所がよく見える位置に歩み寄りながら言う。

「やはりこうなったか」

「え?」

 エヴァの言葉で、皆が瞬時に理解した。

 この展開は、彼女の予想通りで、また誘導された未来であったという事に。

「いつまでも甘ったれた事ばかりしか言わないボウヤに対してどうかと思っていてな。するとボウヤの過去を知る調度良いきっかけが目の前に転がって来たわけだ。利用しない手はないだろう」

「ちょ、利用って―――!!」

 明日菜が声を荒げる。

 あの2人が争う切っ掛けを作ったのは目の前の彼女。彼女の所為で争わなくて良い2人が喧嘩を始めたのだ。

 許せない―――、そう思った明日菜だったのだが。

「まあ、さすがにルークが来たのは予想外だったが、アイツがボウヤの過去を読んだ時点でこうなるのは、ルークの過去を知っていたら容易に想像できるさ」

「ケケケケ。久シブリノ悪ダナ」

「・・・・・・いえ、そこまで予測するのはできませんが。ですが、確かにこうなったのは納得できます」

「そうやな~。お父さんを妄信してるっぽいネギ君を、ルークは信じられん筈やわ」

 エヴァの言葉に同意するとばかりに、刹那・木乃香が言い、エヴァの隣に立ってジッと見ていた。

 ドガンという激しい振動が城を襲い、辺りはシーンと静かになった。

 すると、今まで黙って親友の本屋ちゃんを慰めていた夕映ちゃんが口を開いた。

「確かにアスナさんの言い分ももっともです。どんな事情があれ、ルークにネギ先生を攻撃する権利はありません」

「そ、そうでしょ?」

「ですが、ネギ先生にも非はあると思うです。パートナーの付き添いを断るくらいなら、なぜ最初から仮契約などしたのか? 事故だったとしてもその後は認めていたのですから、カモさんの責任だけにはできないはずですし」

「でも、何も暴力振るわなくても・・・・・・」

 アキラが夕映の言葉に一部は同意できるところがあると頷き、でも全部は納得できないようだ。

 そんな言葉に同意するように、美砂や古が頷く。のどかは涙は止まったようで、本をぎゅっと抱き締めていた。

「譲れないものがあるです。どんな事情があっても認めてはならないことがあるです。何より、ルークは親友ののどかを泣かせた事に怒ってるです。だから、戦う理由はそれだけで十分なんだと思うですよ」

「・・・・・・そうなのかもしれないけど」

 夕映の言葉が妙に正論のように聞こえる。

 明日菜が言葉を濁した瞬間だった。

 ドガっと床が破壊され、下から痣だらけのネギが飛び出し転がってきて、穴からルークがゆっくりと浮かび上がってきたのだった。








 刻は遡る。

 ネギを魔力強化無しの渾身の力でぶん殴ったルークは、海へと落ちていったネギを追撃するため海へと突撃した。

 明日菜が上から何か叫んでいるが、耳に全く入ってこなかった。

 海面スレスレで停止したルークは、杖に乗りながら痛む頬を押さえているネギを睨みつける。

「な、なにするんですか!!」

「ルークの兄貴、落ち着いてくれ!!」

 必死でネギは叫ぶが、ルークは何も喋らない。

 その瞳から零れるのは、殺気という威圧感のみ。

 ネギは彼が怒った理由を考え、そしてそれがのどかを泣かせたことから来ている怒りなのだと察した。

 自分が危険だから置いていく、その言葉にのどかが泣き、それに対してルークが怒った。

 すると彼は、危険な場所にのどかを連れて行くといえば満足なのだろうか?

「待ってください、ルークさん! のどかさんを泣かせてしまったことは申し訳ないと思っていますが、ですが―――」

 ルークの姿が消え、咄嗟に掲げた腕に衝撃が走る。

 海面に叩きつけられ、砂浜にバウンドしながら転がった。

「くっ―――、なら、ルークさん!! 貴方はのどかさんを死ぬかもしれない所に連れて行けというのですか!?」

「―――それが、宮崎の意志なら!!」

「な!?」

 ネギはルークの言葉に絶句する。

 一方でカモは、ネギの肩に必死にしがみつきながら考え事をしていた。

(ルークの兄貴、怒ってるように見えて意外に冷静に見えねーか? それができるのが賞金首になる器なのか?)

 カモは、激情に駆られているなら付け入る隙はあると思っていたのだが、ルークが意外にも手数を繰り出してこないことや、受け答えがしっかりしている事からそれを察して感心する。

「どうした!? 『大好きな英雄のお父さん』を独りで探すんだろ!! この程度の力で探すつもりか!?」

 今度の瞬動術、それをネギは目で追えなかった。

 消えたと思った瞬間、顔面を掌で掴まれ、空いた片手で連撃を入れられる。

「ガッ―――!」

 余りの衝撃にネギは胃液を吐き出し、20発目でようやく開放される。ネギは必死に距離を取ろうとするが、体が言うことをきかなかった。

 宙に放り上げ、塔の壁に叩きつけられ・・・・・・。

「兄貴!!」

「!!」

 腹部に手を当てられた。彼の眼光は300万ドルの賞金首に相応しく恐ろしいもので―――。

「獅子戦吼!!」

 獣王の咆哮は、ネギの内臓全てに衝撃を与え、背後の塔の外壁を崩してネギの体を塔内部に押し込んだ。

 ルークはふう、と一息吐く。

(何が英国紳士として女性を危ないところに連れて行けないだ? お前は確かにそう思っているのかもしれんが、ここで長瀬や古、強者である刹那であったならむしろ頼んでいただろ? お前は宮崎が自足手まといになるのが面倒だったんだ)

 考えれば考えるほど、イライラしてくる。

(何が父親だ・・・・・・お前の父上だって自分の都合で息子を切り捨てて、見捨てて、一人ぼっちにさせた奴じゃねーか! そんな奴と傍にいてくれるパートナーを比べたら、パートナーの方が大事に決まってんだろ!!)

 のどかの泣く姿が忘れられない。弱々しい彼女の姿を見て、自分の中で凄まじい程の怒りが吹き上がってくる。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 魔力の開放をするルークは、怒りを胸に塔内へと突貫した。









 一方、塔内に押し込まれたネギは、激痛に苛まれる体と意識を必死で抑えこみ、塔内のとある部屋に逃げ込んでいた。

 内臓が激しくダメージを負っているらしく、先ほどから咳込めば血を吐くといった状態が続いている。

 もはや、間違いない。

 彼は、自分の生徒であるルークは、自分を殺そうとしている。

「ど、どうしよう・・・・・・カモくん」

「兄貴・・・・・・ここは必死に策を練った方がいいっすよ。ルークの兄貴は剣士ッスけど、どうやら拳で闘るらしい。となると勝機はあると思うッス」

「そ、そういえば、ルークさんは剣士だったね。となれば勝ち目はあるかも」

「でも甘く見ないことッス。ルークの兄貴は300万ドルの賞金首。あのヴァンパイア・エヴァンジェリンの600万ドルの半分とはいえ、たった7年で、さらに初等手配から300万という化け物ッスから」

「う、うん。そうだね」

 ネギは前から考えていた、ある考察を思い出す。

 ルークとティアと呼ばれる女性の魔法を何度か見た。その時、どういう事が判らないが全く知らない魔法系統の発動手順を踏んで未知の魔法を使っていた。

 それは脅威だが、彼はその弱点を見抜いていた。

(あの魔法・・・・・・詠唱中は全く動けないみたい。という事は、魔法を使わせるような状況に持ち込んで、魔法に関しては僕の方が上なんだからその隙をつけば・・・・・・勝てる!)

 ネギはコクンと頷き、ふと彼の怒りの理不尽さを察した。

 とりあえずネギは、とある魔法を唱えておいた。これは勝つための布石。

「そういえば・・・・・・なんで僕が殴られないといけないんだろう」

「・・・・・・兄貴?」

「カモ君も思うでしょ? だってのどかさんとの事は言ってみれば僕とのどかさん、2人の間で決めるべき事だし、ルークさんは全く関係ないじゃんか。そもそもルークさんが僕の何をわかるって言うのさ」

「・・・・・・・・・・・・」

「言ってみれば、プライベードに他人が口を出してきてるって事だよ。それってあんまりじゃないかな?」

「兄貴、それはその通りかもしれないッスけど、でも、ちが―――」

 ネギが怒りの色を滲ませ始めた事を察したカモは、ネギの言葉を否定しようとする。

 ―――が。

「極大魔神拳!!」

 魔力で強化し、放出量を最大量まで汲み上げた衝撃波はネギが隠れていた部屋の壁を崩落させ、ネギを含めた室内にあった棚や箱を吹き飛ばした。

「うわっ!!」

「兄貴!! 前!!」

「え!?」

 信じられない衝撃に埃が舞い、視界を遮られたのだが、カモの言葉にハッとなった。

「虎牙崩襲脚!!」

 足を大きく上げたそれは、誰もが知っている技。

 かかと落とし。

 辛うじて交わしたネギだったが、彼が叫んだ技名が連撃の名を混ぜている事を気付かなかった。

 地面がゴシャッと音を立てて陥没すると、ネギはカウンターで中国拳法の攉打頂肘を叩き込む。

 だが彼は判っていない。たかが4ヶ月程度の中国拳法で高額賞金首のレベルの人間には一発も入れることは叶わない。

 弱肉強食の世界は、そんなに甘くない。

「甘いんだよ!!」

 近接無手戦闘のエキスパートであるシンクと闘ったことがあるルークには、ネギの技など蟲が止まるようなものだ。

 地面に陥没している足を軸に、ルークは上体を反らすことで交わし、余った足を思いっきり振り上げる。

 虎牙破斬である2連撃の応用。即興の思いつき。

 だがそれは正確にネギの顔面を蹴り上げた。

 天井に衝突し、勢いはそのまま止まらずに天井を突き破っていく。

 ゴキっと音がした事から、ネギのどこかの骨が折れたのだろうが、知ったことではない。

 屋上まで突き飛ばされたネギを見ると、ルークは浮遊術でふわりと浮かび上がった。

 ズキリと、胸が痛んだ。

 ルークは父親を信じて疑わないネギが、羨ましかった。







「ネギ!!」

「先生!!」

 地面から突き破って飛び出してきたのは、かなりの量の血を付着させたネギであった。

 腕も足も顔も痣だらけ。口の周りには血の痕があり生々しさを感じさせる。

 肩が変な形に陥没していることから、脱臼もしくは折れていることもわかる。

 そんなネギと、同じ穴から浮かび上がってきたル-ク。

 チラリと視線をのどかへ向けると、大変な事態になってしまったと顔を青褪める姿だった。

 エヴァンジェリンはルークが予想以上に手加減せずに本気でダメージを与えているという事に少し動揺しているようだ。


 ルークは冷たい瞳を浮かべ、ネギへと容赦ない言葉を浴びせる。

「立て・・・・・・宮崎の力が必要ないというなら、いや、仲間なんぞ必要ないというのなら、てめぇの『パパから引き継いだ才能』って奴を見せたらどうだ?」

「っ・・・・・・・・・言われなくても、まだ終わってません!!」

「へぇ~、ならお前の得意の魔法で来いよ。俺も魔法でやってやる。その上で弱者の貴様をぶっ潰す」

「―――っ・・・・・・あまり見くびらないでください!! これでもマスターに修行をつけてもらってるんです。実力だって上がってます!」

「ごちゃごちゃ能書き垂れるガキだな・・・・・・いいから来いよ」

 ルークが上空に浮かんでいるのを、チャンスだと思ったのか、ネギは魔法詠唱を始める」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!! 闘夜切り裂く一条の光! 我が手に宿りて敵を喰らえ!

                       白き雷!!

 ネギの手から放出される雷の魔法。

 全員がその手加減なしの魔法を、相手の命を奪いかねないほどの魔力を込めた攻撃は、問答無用でルークへと襲い掛かる。

 ルークは動かない。例え避けようとしても、もはやタイミングを逸している。着弾は確実だった。

「ルーク!!」

 刹那が声を上げ、慌てて助けようとするが、間に合わない。

 ドン、という音と共に煙につつまれる。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・あ・・・・・・僕は、なに・・・・・・を」

 我に返ったネギは、今自分がした事に呆然となる。

 頭に血が上って回りが見えなくなってしまったが、今自分がしたことは、生徒を攻撃し、殺したのだ。

 自分の村を襲ったあの悪魔たちと、今の自分は、どこに違いがある?

 否。

 同じだ。

 不意に頭の中にルークの言葉が蘇った。何が悪で何が正義か、それは人によって変わってくる、と。

「あ・・・・・・あ・・・・・・」

 呆然となったネギはガクリと膝をつく。

 明日菜も刹那も木乃香も、亜子やアキラや美砂も呆然となった。

 しかし、ティアとエヴァだけは冷静だった。

 煙が晴れたところには、ルークが無傷で立っていたのだから。

「!?」

「どうした? この程度の力で殺したと思ったのか? お前、俺のことナメてんのか?」

「う・・・・・・あ・・・・・・」

「よほど自信過剰、自意識過剰らしいな。村が襲われたのは自分の所為なんじゃないかぁ~、自分の最大魔力が直撃したんだから死んだのは間違いない~・・・・・・・・・・・・ホントに愚かだよお前はさ。ウゼェくらいに昔の俺に似てやがる」

 彼は無傷だった。

 いやそれは違う。

 服には確かに裂傷が走っていたが、露骨なダメージが全く見受けられないのだ。

「父さん、父さん、父さん、父さん、父さん、父さん・・・・・・バカじゃねぇのか? 行方不明の親が、今のお前に何かしてくれんのかよ。現在のパートナーを捨ててまで、過去の父親か?」

「それは・・・・・・」

「貴様の親はてめぇの都合で勝手に消えうせたんだろうが。ましてや息子にてめぇの尻拭いをさせようだなんて・・・・・・サウザンドマスターって奴は、そんなにくだらない男なのか」

「!! あああああああああああああああああああああああああああ!!」

 父親をバカにされたネギは、また頭が沸騰する。

 父さんは自分を助けてくれた。大勢の人が崇拝し、感謝し、たくさんの人を助けた。

 そんな父を、たかが賞金首の、たかが『ちょっと強いくらいで何もしてこなかった』自分より少し年上程度の男になんか、言われたくない。

 ネギの怒りは頂点に達し、無意識に潜在能力が引き出された。

 ネギの姿が消えた。それはティアに匹敵する瞬動術の速度。体中から魔力が迸り、あっという間にルークとの距離を零に縮める。

「おっと」

 乱打の拳を紙一重で避けるルーク。その様子はまだ遊んでいた。

 左・右・左・回し蹴りといった連撃を全て避ける。

 その間もネギの表情は無表情。魔力の暴走状態だという事がわかる。

「あれは、魔力の暴走・オーバードライブだ!!」

「オーバードラ・・・!? 私は猫バージョン美夜子さん萌え!」

「古! あんたアホ!?」

 ネギが屋上へ吹き飛ばされた時に地面へ投げ出されたカモは、古の肩に乗って観戦していたのだが、するにネギの暴走状態に気付いた。

「まだ修行不足で使いこなせちゃいねーが、兄貴の最大魔力は膨大だ! それが何かのきっかけで開放されれば・・・!」

「無理だな」

 カモは勝てる、と言おうとしたが、それを今まで黙って観賞していたエヴァに遮られた。

 その間にも、ネギはルークを滅茶苦茶に攻撃するが、彼を捉えることはできない。

「ふん・・・・・・戦いの最中に我を見失うとはな。それも2度も連続で。情けない」

「だがなぁ・・・・・・正直、兄貴の最大魔力量は膨大だぜ? いくらルークの兄貴といえども――」

「あいつは全く本気で闘ってないぞ?」

「・・・・・・・・・・・・へ?」

 カモはエヴァの予想外の言葉に呆気に取られる。

「だが修学旅行の時の戦い方と一緒。あの時はルークの兄貴も本気だったはずだが・・・・・・」

「バカが。あれが本気なわけないだろう。そもそもルーク本来の力は全く使ってないだろうに」

「本来の?」

「・・・・・・アレだ」

 エヴァが指差した先には、ネギが遅延呪文で発動したらしい拘束の魔法を発動していて、ルークの拘束に成功していた。

 ネギは即座に空へと飛び上がり、魔法詠唱に入る。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 来れ雷精風の精、雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!

                  雷の暴風!!


「ネギ!! やめてぇ!!」

「「ネギ君! それはダメぇ!!」」

「ネギ坊主! ちょっと待つよ!」

「ネギ先生! ルーク君!!」

 明日菜と美砂、アキラが叫び、古が静止し、のどかが叫んだ。

 だが彼女たちの願いは遅かった。

 暴走状態の雷の暴風は荒れ狂った状態でルークへと襲い掛かった。

 どうやったか知らないが、一発目はきっと避けられた。だが拘束されたルークは今度こそ避けれない。

 ネギは無意識に唇を吊り上げ、手強い強者を倒したことで喜びの笑みを浮かべる。

 ルークは今度こそ死んだ。

 誰もがそう思った。

 しかし。

 ルークの事情を知る者たちは慌てなかった。

 慌てる必要なんかなかった。

 何故ならば。

「第2超振動よ!! 全てを打ち消せ!!」

 ルークが全身に黄色の光を纏い、裂帛の気合と共に第七音素を全方位に開放する。

 その直後、ルークに雷の暴風は直撃した。

「ああ・・・・・・私が、もっとしっかりしなかったから・・・・・・ルーク君は」

 のどかはペタリと地面に再び崩れ落ちる。

 自分がもっとしっかり気を張ってなかったから、優しいルークは怒った。

 こうなった時、ルークがどう動くかなんて、前に会話していたときに何となく察していたはずだったじゃないか。

 それを、こうして自分が弱いばかりに大好きな2人が殺し合いをして、ルークが死んでしまった。

 のどかはしゃくり声を上げながら嗚咽を零した。しかしそんなのどかに夕映から声がかかる。

「大丈夫です、のどか。ルークはネギ先生の実力ぐらいで、あの程度の攻撃くらいでは死にはしません」

「え・・・・・・」

 親友の声にハッとなって面を上げて見上げる。

 親友は不思議なくらいにルークの無事を確信していた。不思議なくらいにルークを信頼していた。

 その姿に、何故か胸がザワついた。

 この感情はなんだろうか。

 自分の胸の気持ちに戸惑うのどかだったが、煙が上がる中心から、またもや無傷のルークが出現したことで、全員が安堵の溜息を漏らしたことで再び我に返った。

「そん・・・・・・な」

 自分の中で最大の策をもって、最大の魔力で攻撃したのだろう。よほど手ごたえがあったのだろう。

 そんなネギはルークが無傷で現れたことに愕然となった。

 そう。

 これは本来のルーク自身のちから。第2超振動と呼ばれる力を直撃の瞬間に発動しただけだ。

「・・・・・・これで終わり、か。ならば今度はコチラから行くぞ」

「!!」

 ネギは傷む肩を押さえながら即座に立ち上がり、サッと構える。

「やめなさいよ、ルーク!!」

 そんな彼に、明日菜が怒鳴りつけた。

 だが彼から出た返答は。

「悪いな、アスナ。俺は・・・・・・大切な仲間を傷つけられて黙ってるほど腰抜けじゃないんだ」

「それは、判らなくもないけど・・・・・・」

「コイツは、自分の大切な女がいたら全力で守ってでも一緒にいるという選択肢がないらしい。そんな腰抜けな男に克を入れるんだよ」

「・・・・・・・・・・・・でも」

 明日菜もアキラも、目の前で子供が甚振られるのは微妙な気分になるようだ。

 そんな2人に、ルークは言う。

「これが裏の世界だ。子供だとか大人だとか関係ない。潰すか潰されるか、どちらかだ」

「そんなっ・・・・・・」

「そして俺は、このガキが許せない。父親を妄信して、目の前の大切な人を置いていこうとする、な」

 ルークはポツリと呟いた。

 その表情はどこか辛そうで、どこか寂しそうだった。

 その表情の意味を、明日菜もアキラも分からなかった。

「だから、ここで俺がコイツを粉砕する。こいつのアイデンティティの魔法で、な!!」

 ルークは飛び上がった。

 左手を天へと掲げ、大きく息を吸い込み、叫ぶ。

 それは、ネカネに禁じられた技の一端。

 ほんの一部。

 異世界出身のルークが、ネギも気付いた弱点を克服するために手に入れた新たな力。

 ネギは、それを聞いた途端に理解した。

 自分は無謀だったのだ。

 自分が長年鍛えてきた『この力』えさえ、ルークの前では魔力集束力ですら敵わない。

 全てが、劣っていた。

 中国拳法も全く当たらず、呆気なく暴走する始末。

 そして、魔法までも。


「フォニム・ア・ユリア・ローレライ!!」


「魔法詠唱!?」

 カモが驚愕の声を上げた。

 しかし、その後の呪文詠唱キーを聞いた途端、カモは真っ青になる。


『星光の輝き、怒りの炎帝、悔い改めよ不浄の大地。罷り通るは大天使の光輪、罪深き者に大星神の裁きを与えん!!』


 天空へ失われた複雑な魔法陣が展開され、彼女に
「ちょっと待てえええええええ!! それは禁呪、しかも広域殲滅特化型魔法じゃないか!」

 バシバシと唾を飛ばすエヴァは、大慌てで皆の前に魔法障壁を貼る。もちろんネギは彼女たちとは逆の位置にいるのだから当たる心配はないが、それでも念のためである。

 エヴァは意外と優しい所もある女性であった。

「まずい! 兄貴、全力で魔力障壁を!!」


『光あれ! 幸あれ! 裁きあれ!』


「七聖剣グランシャリオ!!」


 この瞬間、ルークは見失っていた。

 ネギとルークの間に、ある女性が飛び込んで来たのを。

















 天空に描かれた七つの星から裁きの鉄槌が打ち下ろされた。




 それは、間違いなくネギに向かっていたが。

 その間に入ってきたのは―――。





















 涙を零す宮崎のどかであった。




















「宮崎―――――――!!!!!」







 皆の悲鳴があがった。

 夕映の悲鳴が、痛かった。

 彼女の両手を広げる姿が、誰かに重なった。

 だから、ネカネから厳重注意を受けた規制を外して、それを発動した。














「・・・・・・・・・・・・」

 全員が、その先にある絶望の光景を見たくなかった。

 クラスメイトの、死。

 咄嗟にネギを庇ったのだろうと、皆は思った。殺されると思ったから、のどかはネギの前に飛び出したのだと。

 ネギも、動ける様子ではなかった。少なくとも、直撃の瞬間まではネギも硬直していた。精神的に追い込まれていたネギが動けるとは思えなかった。

 だが。

 その先に浮かび上がった光景は。





「宮崎・・・・・・大丈夫、か?」

「ルー・・・・・・ク・・・・・・くん」

 バシャリと何かが零れ落ちた。

 のどかの顔に、大量の何が落ちてくる。

 それは、自分に覆いかぶさるルークから零れ落ちた、血液。

 あの瞬間、とにかく行かなくてはと思った。

 これ以上、お互いに傷つけあう2人を見たくなかった。

 ネギが完全にパニック状態になっているのは一目で分かった。

 ルークが心で涙を流しているのは、彼の表情を見て一目で理解した。

 ただ、あの瞬間。

 自分は“ルークがネギを攻撃する”のを見たくなかった。

 これ以上、涙を流させたくないと思った。

 ―――なのに。

「すま・・・・・・ん・・・・・・俺は・・・・・・」



 グシャっと、ルークが倒れこんてきたのを抱きとめた。

 彼の体からは、おびただしい血が流れて、とても助かるとは思えなかった。





「いやああああああああああああああああああああああああああ!!」





 いくつもの悲鳴は、全員の心の悲鳴だったのかもしれない。









あとがき

 ハッキリ言いましょう。

 これはルークの自爆という結果に落ち着きました。

 もちろんネギもボコボコにされましたし、これ以上ないほど打ちのめされましたが、パートナーというイレギュラーの存在がいる以上、この展開も可能性は高い。

 どちらにも罰を、というとこです。

 説教・教える側にも、受ける側にも、どちらにも非があり、どちらにも相応の罰を受けるのが公平だと私は思います。

 それだけ何かを教えるというのは、重たい行為だと思います。

 そうプロット段階で決まりました。

 あ、詠唱始動キーでもっといい言葉があるなら、随時募集中です。

   これが一番悩んだところでもあり、もっとカッコイイのがあればそちらにしたいです。

 よろしくww







つづく