「姉上、今回はありがとうございました」
「ほな素子。しっかり勉学と剣術の修行に励むんやで?」
「もちろんです、姉上。ところで京都行き新幹線じゃなくて、埼玉行きの電車に乗るんです?」
「ふふふ・・・・・・」
「な、何です、その笑いは?」
「素子はん、知っとらんかったんどすか? まあ、それも仕方ない事こと」
「何をです?」
「ほな、麻帆良学園都市に保護されているルークに会いに行ってきますわ」
「ルークですって!? ルークが麻帆良にいるのですか、姉上!?」
「さて、どうだったか・・・・・・?」
「今言ったじゃないですかぁ~~~~~~~~~!!」
「ふふふ・・・♪ ハァ~、久しぶりにルークに会えるかと思ったら、体が疼いてしょうがありまへんわ」
「あ、姉上?」
「まずは挨拶やろうなぁ。どんな挨拶がええかなぁ・・・・・・フフフフフフフフフフフフフフフフフ」
第24章 初めてのボーリング、そしてトクナガ
「うらあああああああああああああああああああああああああああああ!」
「くううぅぅぅぅぅっ!!」
雄叫びを上げながら物凄い勢いで降りていくのは、赤髪の少年と黒髪の少女。
少女の方が赤髪の少年より背が大きく、スタイルも大人びている。しかしその少女の方は今現現在も進行形で行われている『特訓』に付いていくだけで精一杯であった。
そう。
今行われているのは、エヴァンジェリンの別荘内にある、白い塔内にある螺旋階段を駆け下りてまた上る、それを何往復もするという、思いっきり体育会系の肉体改造であった。
ルークとしては『後々の為に体力が必要になる』だろうし、シンクの件からも肉体改造の必要があると判断してのトレーニングだったのだが、長身黒髪のロングの少女・。大河内アキラがルークの特訓に付き合うと言ってから、特訓は凄まじい様子を見せ始めた。
階段の登り降りというのは、物凄く靭帯を傷つける行為である。
それを全力のスピードで降りていき、怪我をすれば魔法で強制的に癒すというのだから、自分の肉体など知ったことではないと言わんばかりの速度で降りていく。
アキラもどういうつもりでルークの特訓に付き合っているのかは解らないが、彼女は進んでルークと特訓していた。
彼女はクラスの中でも、実は上位に位置するほど身体能力が高い。
しかしそんな彼女でもこの特訓は肉体の限界範囲を超えていた。
スクール水着という、何ともピンポイント・・・・・・・いや、ナイスバディな体型を惜しげもなく晒し、全身からキラキラと汗が零れ落ち、彼女の美しさを引き立てる。それは中学3年生という未熟な年頃の女性が持つ特有の魅力が、隣を追走するルークを惑わせる。
ルークは『色々な雑念』から逃れる意味でも叫び声をあげて駆け抜けた。
「ゼーハー・・・・・・ゼーハー・・・・・・・」
「ル・・・・・・ルーク君・・・・・・さすが・・・・・・ですね。体力には・・・・・・自信があった・・・・・・んだけど」
「大河内こそ・・・・・・まさか・・・・・・付いて来れる・・・・・・なんて・・・・・・思わなかった・・・・・・ぞ」
「ご主人さま! アキラさん! 大丈夫ですの!?」
「ミュウ・・・・・・なかなか・・・・・・肉体改造は・・・・・・しんどいぜ」
地面に転がっているルークと膝をついて苦しそうにしているアキラ。
二人に心配そうに駆け寄るミュウ。手にはタオルを持っていて、よちよちと駆け寄ってきた。
両者共に体力の限界が来ていたが、若干の余裕があるのはなんとアキラの方であった。倒れていないだけアキラの方が余裕があるのだ。そんな事実がルークもショックであり、まだまだ未熟だと思ったのである。
苦しそうにしながらも両者を称え合うルークたちを見て、面白くないのは亜子であった。彼女は体育会系のマネージャーをしているが、彼女自身は運動タイプではない。従って最初の一往復目でダウンしてしまった。
アキラは持ち前の根性で震える足をこらえ、必死で立ち上がろうとして、そして無理が祟ってしまった。
ガクリと膝の力が抜けてしまったのだ。
従って、体は崩れ落ちる。その先に待っているのは、仰向けに倒れていたルークの顔。
その上目掛けて特攻するのは、アキラのスクール水着(新式)に包まれた豊満の肉体。
ポヨンッ♪
「ぶっ!!」
「ひゃうっ!?」
真っ赤になるアキラと大慌てのルーク。しかしお互いに両足や肉体が限界を迎えている事や、プルプルと震えて痙攣している足の所為で、すぐに立つことができない。
だが立とうとして動くものだから、余計に胸を押し付けることになってしまう。
「むぐっ!! ん~!! んんんん~~~~~!!」
「あっ・・・・・・! ちょ、ちょっとルーク君。顔動かさないで! あっ! んんっ!! ちょ、そこを口で挟んじゃダメだっ!」
「モガモガモガ~~~~!(息が苦しいっつーの!)」
「アキラさん。ご主人さまが苦しそうですの!」
「う、うん、あ、ちょ、ちょっとっ―――そんなに、押し付けたらっ」
「・・・・・・・・・・・・」
ポテッ
ルークはアキラの『胸』で窒息してしまった(笑)
「・・・・・・女性に近寄られた時のガイみたいね」
傍でジッと見ていたティアは、気絶したルークを見てポツリとそんな事を呟いたとか。
ちなみに、自分の胸を寄せて、なにやら確かめるようにポニョポニョと触っていたのだが・・・・・・何を考えての事かはわからない。
「ん~~~~~~~~~! えいッ!」
スカッ
「うぅ・・・・・・ちっとも当たらへん」
藁の的までわざわざ用意したというのに、練習用の弓を引いても、矢はまったく当たらない。
弓道の基本を1から弓道部の人に学び、姿勢から形まで写真に収めて、一々確認しながらフォームを取っているのに、まったく当たる気配がない。それも距離としては10mほどしかないのにだ。
ドーンと落ち込む亜子を、柿崎と夕映とのどかが慰める。
「和泉さん、フォームは綺麗だと思うですよ」
「う、うん。弓道やってる人と変わらないと思う」
「そうね。わざわざ写真に撮ってまでフォームを確認してんだから。後は時間をかけるだけよ」
「そうかなぁ」
傍で魔法の練習をしていた夕映とのどか、魔法という幼い頃に夢見ていたものが使えるという事で喜んで練習に参加している美砂が気遣う。
魔法の練習には最初の段階が重要で、初期魔法使用には数十時間という膨大な修行時間が必要となる。
その段階を必死に練習しつつ、お互い『恋』という厄介かつ胸躍るものをする同士として励ましあっているのだ。
亜子は彼女たちの励ましに助けられつつ、弦を引く。
そんな亜子を見て夕映がポツリとつぶやいた。
「弓道というのは、邪念や煩悩があってはいけないと、よく耳にしますね」
「邪念?」
美砂が首を傾げる。
「そうです。射る時に余計な事を考えたり、迷いがあったりしたら当たらないと言われていた筈です。弓道というのは精神的なモノが顕著に結果に現れるって聞いた事があります。だから心を無にするとかカラッポにするとか、そうする人が多いとも聞いています。ですよね、のどか?」
「うん。よく小説とかにも弓道やってる人物とかいて、そんな感じの言葉とか出てきたと記憶してます―――」
「ああ・・・・・・そう言われて見れば、テレビとかでも見たことあるかも」
「カラッポに・・・・・・雑念とかはダメなんか・・・・・・」
亜子は目を瞑って何も考えないようにしようとする。
―――が。
「ゆえゆえ~、和泉さんって必死だね~」
「そうですね・・・・・・まさか、それほど―――いえいえ、私は何を考えているですか。アホですか」
「ん~~? 何を考えたのかなぁ」
「な、何も考えてないです。関心していただけです。おそらく和泉さんのがんばりは明確な目標があるからだと、そういった事をかんがえていただけです」
「ふーん、まあそういう事にしといてあげる。でもゆえ吉だってすっごいじゃん、。わたしこんなに真面目にやってるゆえ吉って初めて見たし」
「み、未知なるものへの探求ですから、当然の事でしょう!」
「ゆえゆえ、もう少し素直になった方が・・・・・・」
「のどか!?」
「まあ、ルーク君への愛のなせる情熱だよねぇ・・・・・・わかるわぁ」
「だからっ!」
「ルーク君ってさ、優しいし凄くさり気ない所まで気を回してるし、しぐさの一つが物凄く上品でさ。何となく物語の王子様って、ルーク君みたいな人なんじゃないかなぁって私は思う訳ですよ」
「・・・・・・たしかに、不思議なほど上品だと思った事はありますが・・・・・・王子様って。子供じゃないんですから」
美砂のアホな言葉に突っ込む夕映。
だが悲しいかな。美砂の言葉は世界は違えど、間違いなくルークの立場をドンピシャで当てていた。
そんな3人の会話が嫌でも耳に飛び込んでくる亜子は、弓を放り投げて怒鳴った。
「もう! そんな会話してた気が散るやん!!」
「「「ご、ごめん」」」
亜子の修行もまだ長そうだ。
平日の学校。
この日は至って変わった事もない普通の日だった。そして放課後。
誰もいないはずの3-Aの教室に、ある少女がいた。
その少女の名前は相坂さよ。
・・・・・・実はこの少女、すでに故人である。
彼女はおよそ60年前から自縛霊をしている、極めて霊的濃度が薄い幽霊だ。
「皆さん・・・・・・楽しそうです」
さよはポツリと呟く。
60年以上もこうして毎日、何気ない日常と生徒たちを眺めてきた。夜は怖いから近くのコンビニで過ごし、誰にも話しかけれない、気づいてくれない、孤独な時間を過ごしてきた。
それは退屈でもあったし、こうした何気ない日常が一番大切なのだと実感したこともあった。だが『いつまで自分はこのままなのだろう』と思ったことがある。
そんな無限地獄ともいえる日常に、ちょっとした変化があった。
昔から今日まで、いろんなハプニングがあったものだが、今年は今までとは比較にならない程の事件性に満ちたイベントが多発している。
10歳の子供が教師になったり、燃えるような髪の外国の男の子が入ってきたりした。その男の子の知り合いらしく、信じられない位に綺麗な女性も現れた。
なんだかこれまでと違う。
そう思って期待していたのだが・・・・・・やはりいつもの日常と同じだった。
彼女はルークに対して、密かに好感を抱いていた。転校初日からやりたい放題ともいえる彼。ネギという少年に対して誤解を受けやすい過激な発言を繰り返す人。クラスの3分の1の子は彼を苦手、もしくは嫌っている。
それも仕方が無いだろうと相坂は思うが、彼女自身はルークの発言の裏、彼の気持ちを察していた。曲がりなりにも長年生きてきたのだ。そのくらいを察する余裕と観察力は持っているつもりだ。
「・・・・・・さびしい、ですね」
ポロリと漏れた彼女の言葉は、本当に寂しそうで。
だから。
「よう、何泣いてるんだ?」
扉には、妙な熊のヌイグルミを持った赤髪の男の子・ルーク・フォン・ファブレが立っていた。
1時間前。
ルークは終礼が行われている中、最前列の空席を眺めていた。
(何であそこだけ空席なんだ? 普通空席ができるところって、最後列じゃないのか?)
不思議な事に、誰もそこに座ろうとしない。そこに『座らないのが当たり前』のように。
ルークは何か呪い的な音素が関わっているんじゃ、と気が付いて瞳に魔力を集める。身体能力増強と同じ理屈だ。こうして目に魔力を集めた状態で視認してみると、そこには。
(女の子・・・・・・幽霊ってことか?)
なるほど。霊的存在がそこにいるなら、誰も座らないのは仕方がないかもしれない。みた所あれは自縛霊という類だし、自縛霊が無理やり繋がれている場所にいると、普通の人間には背筋が寒く感じてそこにはいられない。
彼女の様子を観察していると、彼女は実に楽しそうにネギの言葉やそれに反応する周囲を眺めてニコニコしている。
しかしルークは彼女の瞳の濁り具合を見逃さなかった。
彼女の瞳と存在感が、自分がアクゼリュスを消滅させた頃と似ていてどこか希薄なのだ。そこにいるのにココにいない、みたいに。
しかし彼女と自分には大きな違いがある。
それは故人とだから、という意味ではない。あの頃の自分の未来が見えて使命を果たして死亡というルークと、誰からも無視されて喋る事がない地獄を歩み続けているさよ。
『自分は何の為の存在で、誰が自分を必要としていて、自分とはなんだ』
それを問い続けなくてはならなかった。
このまま、彼女を放って置いていいのかルーク・フォン・ファブレ。
否。
だがどうやって?
自分の最高の力、神々の領域の力でもある『超振動と第2超振動』
あれは全てを破壊する力。どんなものだろうが破壊し、そして構成する力。
肉体が無い彼女にこの力は効かない。というより、したら存在が消えてしまう。レイズデッドやアイテム系すら意味がない。
ではどうすればいいのか。
ルークはムムム~~~と唸りながら考え、そして突然表情を輝かせて、号令がかかった瞬間に物凄い勢いで飛び出していった。
街中へ飛び出したルークは、何か『媒介』するものを探していた。
そう。
人形等にさよを憑依させようというのだ。
「あ~・・・・・・どんなのがいいかな。女の子だからな・・・・・・やっぱ可愛い感じがいいかな。それともソックリな感じがいいか?」
さよは真っ白い髪に、目がクリッとしていた。見た目はおしとやかそうだが、どこか快活な印象も受けた。
そうなると・・・・・・。
プルルルルルルルルル
「ハイ、もしもし?」
『あ、ルーク、ウチやねんけど、今大丈夫?』
「ああ、木乃香。どうかしたのか?」
『ルークが凄い勢いで飛び出してったから伝えられんかったんやけどな、この後ボーリングやるんやって、クラスのみんなと。ルークも来れる?』
「ボーリングかぁ・・・・・・いいな、OK。俺も用事が終わったらボーリングに行くよ。麻帆良ボーリングセンターだろ?』
『そうや。待っとこうか?』
「いや、先に始めといてくれ」
『わかった。はやく来てな』
「おお」
ピッと電源を切る。どうやらこの後の予定を考えると、そこまで時間を掛けていられないようだ。
だが適当なモノにする訳にもいかない。
ルークがキョロキョロと辺りを見回し、そこである一点にふと目が留まる。
「うおっ! アレは!」
「えええええええええええええええええええ! 可愛くないですぅ!!」
「もう遅ぇっつーの!」
大きな悲鳴を上げたさよ。
ヌイグルミを持って現れたルーク。しかし彼女の姿は確認できても声を聞くことができなかった。
したがって、一方的に事の次第を伝えたのだ。自縛霊ではなくて人形に憑依させる、そしたら移動もできるし声も発することができる、モノだって持てる、と。
相坂さよはルークの言葉に大喜びしたのだが・・・・・・その人形が問題だったのだ。
それは人形に憑依完了した今現在ですら悲しみの声を上げるほどだ。
そう。
それは・・・・・・。
「泣くな! それはな、俺の戦友が大切にしていた相棒ソックリなんだぞ!」
「でも可愛くないですぅ!」
「大丈夫! 話すときは今みたいにヌイグルミから体を出して話せばいいだけだろ!」
「でもでも~!」
「いいか、ソイツの名前はトクナガってんだ!」
「もっと可愛い名前にしましょうよ~~~~~~~~~」
・・・・・・可哀相なさよであった。
「ほら、さっさと行こうぜ」
「ひゃう!? ど、どこに行くんですか?」
いきなり自分が入っている人形を持ち上げられてビックリしたさよだったが、言葉とは裏腹に穏やかに微笑むルークをみて少し落ち着く。
「ボーリングだってさ」
「ボ、ボーリングですか!? わたし会話でしか聞いたことなかったんです!」
「だろ? その人形だと持つのはムリかもしれなけどさ。転がすことくらいはできるだろ?」
「ハイ! ルークさん・・・・・・ありがとうございますぅ!」
「いちいち泣くな!」
肩に人形を置いて話しかけるルークは、周囲の生徒に少し不気味がられていた。
「やっとゲートポートに到着しましたね。意外と遠かったです」
「あ、あの―――」
「で、アレは何なのよ?」
アスナが半目になってルークに問う。少し怖い。
ハハハと笑って誤魔化すルークであったが、目の前にボーリングの玉を必死で転がして押す人形の姿が。しかも「えいっ」とか掛け声が聞こえてくるのだから誤魔化しようがなかった。
「人形が動いとるなんて、カワエエなぁ~」
「だろ?」
「誤魔化すな!」
「ま、まあいいじゃねぇか、何でもさ」
コロコロと転がっていく子供用のボーリング玉。大人用だと重くてダメだからだ。ちなみに倒れたピンは初めての割りには旨く、7ピンだった。
「あら・・・・・・トクナガじゃないの、あの人形」
アスナたちに誘われて一緒に来ていたティアが、よちよちと戻ってきた人形を見てびっくりした表情を浮かべていた。まあ、それも当然だろう。
「ティアさん、知ってるんですか、アレ!」
「ええ・・・・・・人形は、だけど。でもアレって・・・・・・ん? ・・・・・・ああ、そういう事ね。だから動いてるんだ」
ティアは人形を凝視し、スペクタクルを使って覗き込んだ。メガネには情報が事細かく表示され、ゲームセンターで捕ってきたという人形であること、中にいるのが相坂さよという霊である事が記されていた。
トクナガことさよに近寄り、声をかけるティア。
「初めまして、相坂さよさん。私はメシュティアリカ・アウラ・フェンデと言います」
「え、あ、初めまして! 相坂さよと言います! この度はルークさんに助けてもらって、このような形になりました! 貴方の事も知ってます!」
「そう。よろしくね」
「ハイ!」
人形に挨拶しているティアは、事情を知らない人から見れば少し滑稽だった。
アスナと木乃香と刹那、亜子とアキラもティアが覗き込んでいたメガネを手に取り覗きこんだ。
「・・・・・・そういう事か。だけど幽霊って」
「ですが相坂さよという名前はウチのクラス名簿でみた事があります」
「そうやなぁ。でもええんちゃう? カワエエんやし」
「人形の方は・・・・・そうでもないと思うけど」
「アキラ、そんなにハッキリ言ったらあかんって!」
そんな事をブツブツと話している間に、ティアとさよは仲良くなったらしく、トクナガを膝の上に置いて談笑していた。
そして、次の投球者がルークになった。
「よし、次は俺だな! 狙うぞ、ストライク!」
物凄く意気込んでボールを構えるルーク。それを見て苦笑するもの、何故か可哀相な目で見る者など、まるで結果が判り切っているかのようだ。
ダダダと助走をつけて凄い勢いでボールを投げる。
ゴロゴロというより、ブオッという風切り音が響き渡り・・・・・・
ガシャン。
「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! なぜだああああああああああああ!」
表示:G
見事に5連続Gという素敵な結果であった。
ここまで来ると見事としかいえない。
「何であんなに力入れて投げるのかしら」
「ルークさんって下手なんですね」
何気に酷いことを言っているさよとティアであった。
ちなみにティアはストライクのターキーが3連続。そしてスペアを挟んでまたストライクと、何気に物凄く上手い。初めてやるスポーツなのに上手くこなすティアは、やはりリグレットの教え子なのだと、どちらかといえば文科系より運動系なのだと理解せざるを得なかった(笑)
「どうやら全員にご飯を奢るのはルークになりそうね」
「ルーク、ごちそうになります」
「元気だしてな、ルーク」
ポンポンと肩を叩いて慰めるアスナと刹那と木乃香。
このゲームは希望すれば誰でも賭けに参加できるというゲームで、スコアが最低の者は参加者に奢るというものだった。
だから文科系だったり運動が苦手だったりボーリングが苦手な者、つまりのどか達は参加しなかったのだが・・・・・・。
「こうなったら、参加しとけばよかったです」
「う、うん。でも、ルーク君可哀相・・・・・・」
「のどか! あんた友達の心配よりもネギ先生にアピールする事を考えなきゃ! 最近はネギ君、長谷川さんとか茶々丸さんとか古とかと怪しいんだからさ!」
「ハ、ハイ!」
ハルナのラブ臭感知器は凄いなぁ。
一同がそう思ったそうな。
ボーリングが終わり、焼肉を全員に奢るハメになったルーク。
全てが終わってからエヴァの別荘にやってきた。
彼は波打ち際で魔法力の解放の練習をしていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴウッと暴風が吹き荒れ、ルークの周りには彼の魔力が吹き荒れていた。
20分ほど全力の開放状態が続き、力尽きたように砂に倒れこむ。
もう、潜在的な魔力も気も完全にコントロールできるようになった。
シグムント流だって、技のキレを上げるだけで、既に完璧に使えるようになった。
だが、強くなった気がしない。
「焦っているようだな」
「エヴァ・・・・・・」
ルークの特訓を見ていたエヴァとティアだったが、急に声をかけてきた。
「何をそんなに焦っている。お前はもう十分に強いだろう。だからこその300万ドルの賞金首なのだから」
「分かってる・・・・・・」
「それに・・・・・・まだお前は力を隠しているだろ?」
「え・・・・・・」
エヴァの言葉に驚いたのはティア。彼女から見てもルークの全力が今の行程だけだと思っていたのだ。
それをエヴァが否定した。
いや、彼女は完全に見抜いていた。長久の歳月を過ごしてきた、その真実を見抜く瞳で。
ルークはエヴァの言葉に驚いていたが、いきなりププッと笑い出した。
「いや、さすがだな、エヴァンジェリン」
「ふん・・・・・・普通に考えれば分かることだ。お前は魔力に気、音素を完全に操っている。だが一つだけやっていない事がある。それに気が付いたら自然と答えは見えてくるものさ」
「いや、ふつうは分からないけどさ」
ルークはポリポリと頭をかき、仕方がなさそうに言った。
「あれは、こっちの世界に来て数年経過した時のことだった。イスタンブールに訪れた俺は、ある騒動に巻き込まれた」
「騒動?」
ティアが首を傾げる。
「ああ。いわゆる悪い魔法使い達がソコにいてさ。たまたまソイツらを見つけてしまった女性がいた。その人はまっすぐな人でさ。放っておかずにソイツらと戦ってた」
「そしてお前が加勢した、か?」
「ああ。俺はそのやられそうになってた女性、ネカネという人と共に戦った。彼女は普段は学校の職員をやっているようで戦闘に慣れている訳じゃなかったんでな」
ルークは砂を払い落とし、膝が浸かるところまで海に入る。
「戦いは完全にソイツらのペースだった。全員が凄い実力者だった事もあって、俺たちは追い込まれた」
「・・・・・・」
「その時、俺は自分自身の戦闘スタイルに致命的な欠陥があるのに気が付いたんだ」
それは、音素の魔法を唱えるとき。その瞬間は一歩も動くことができない。物に乗った状態ですら唱える事はできないのだ。箒に乗った状態で唱えようとしても、それはキャンセルしてしまう。
それが、この世界の魔法との致命的な差だった。
「追い込まれて・・・・・・そして俺は土壇場でその力の契約を果たした。たまたま契約魔方陣がしかれていた場所に転がり落ちたのだ原因でさ」
「・・・・・・・・・・・・そういう事か」
納得したと言わんばかりにエヴァはうなずく。
ティアは予想がつかないようで、その事に悔しく感じていた。
「どういう事?」
「ティア、俺がソレをしたら、なかなか体に負担がかかるんだ。だから戦闘終了後、ネカネは俺にそれを使うことを禁じた」
「その女、なかなか聡いようだ。そしてその判断は正しい。お前にコチラのソレを合わなかったんだろう」
エヴァの言葉にルークはうなずき、そして浮遊術で浮かび上がる。
エヴァの言葉は少し間違っている。アレは自分の肉体が耐え切れていなかっただけだ。
だから。
「だけど、そうも言ってられない。俺は全力で戦わないといけない。ティアやミュウや木乃香、夕映や刹那や亜子やアスナ、そしてイオンを守るために」
ルークは空へと飛び上がり、左手を天へと翳して歌った。
「――――――――」
その瞬間、別荘内が鳴動した。
翌日、別荘に訪れたネギやアスナたちは、ボロボロになって死んだように眠るルークを見て心配し、看病に勤しんだのであった。
あとがき
おひさしぶりです。
就職してから新人研修とかセミナーとかで体力が続かず、今まで更新が滞ってました。
これからゆっくりと更新していきたいと思います。週1、もしくは週2で一回くらい・・・・・・かもしれません。
ただもうちょっと書き足していくので、加筆は頻繁にあるかもしれません。
次回予告
新たな力を使おうとするルーク。
そんな彼の前に、ある鬼神の女性が襲来する。
彼女の愛情という名の雷光剣の前に、ルークの明日はあるのか!?
いそいでくれ、イオンちゃん!
つづく