「では、すぐに本山の石化した者たちを治しましょう。お願いできますか?」

「はい、喜んで協力させてもらいます」

「どうもありがとうございます」

「ありがとな、ティア」

「いいのよ。石化してる姿なんて見たくないし、それにルークのお母さんも早く治してあげなくちゃね」

「ティアさん、ありがとうな」

「気にしないで、木乃香ちゃん。私もちょっと聞きたい事があるのよ」

「聞きたいことですか?」

「そうなのよ、刹那さん。今後の私達に関することで、ね」

「「!!」」

「まあ、正しくは聞きたい事じゃなくて、確認の意味合いが強いんだけどね」

(―――っ!? 何か、背筋に寒気がっ!?)











     第22章 木乃葉とティアの常識

 











 全ての騒動に決着が着き、ネギは東の長である近衛近右衛門に連絡を入れた。

 詠春とルークとティア、ルークの肩に乗っているミュウとカモ。そんな彼らに付いて回るアスナたちと、今回初めて裏世界という魔法の実態を知った夕映たち。

 次々と石化から解けていく使用人の人たちを見てホッと一安心するアスナ達は本当に嬉しそうだ。

 同じように石化したクラスメイトの大河内アキラとか朝倉和美、宮崎のどかや早乙女ハルナを解呪すると、亜子は涙を浮かべながらアキラに抱きついていた。

 そして最後に木乃葉母上の解呪。

 ルークとティア、詠春と木乃香と刹那、そしてアスナとネギ&カモがその場に立ち会った。

 ティアが美しすぎるユリアの譜歌を口ずさみ、高まった魔力で石化などの状態解呪の魔法を唱えた。

「穢れを浄化せよ、リカバー!」

「うわぁ・・・・・・」

「すごい・・・・・・」

 キラキラと光の粒が頭上から零れ落ち、服も肌も髪も石になっていた灰色の部分が、どんどん正常に治っていく。

 その光景に、皆は息を呑んで感心していた。

 特にネギはその魔法に強い興味を持っていた。

 石化が解けた木乃葉は、最初は目の前で心配そうな顔で、そして涙を浮かべて喜ぶ面々に首を傾げてようやく自分の身に起った事態を理解した。そして石化を解呪したのがルークと隣にいる女性であり、自分が石化している間に戦いがあったのだとボロボロの姿で察した。

「木乃葉母さん、だいじょ―――」


「ああ、ルーク!! 私の可愛いルーク!

   母を助ける為にがんばってくれたのね!?」



「ぶはぁ!?」

 ムギュっと豊満な胸の中に抱きいれる木乃葉。スリスリと頬を擦りつけてギュッとする。石化されても相変わらずの木乃葉に皆も苦笑していた。

「では皆さん、とりあえず戦いの疲れを取る為にお風呂でもどうです? その間に食事の用意をさせましょう」

「「「賛成~~~~!!」」」

「僕もおなか減りました!」

「私も久々の戦闘で疲れましたよ」

「俺も腹減ったな」

 詠春とネギ、そして満足して開放されたルークは和気藹々としながら出ていった。一方で部屋に残っていたのはティアたち女性陣。

 彼女たちも出て行こうとしたのだが、ティアが真剣な顔をして木乃葉を見詰めているので、アスナたちは困惑しているのだ。

「何か用かしら? ティアさん・・・・・・といったかしら」

 木乃葉はニコニコとしながらティアに尋ねた。

 すると、ティアは頭を下げて挨拶すると、いきなり妙な事を尋ねだした。

「不躾で申し訳ないのですが・・・・・・1つ訊きたい事があるんです」

「何でしょう? あの子を支えて貰ったお礼に、私で解る範囲でならお教えしますえ」

「では・・・・・・」

 何かを躊躇うように息を吐くティア。

 その真剣な空気に、アスナと刹那がゴクリと息を呑んだ。何を言い出すのか気になるのだろう。

 そして、右目を覆うように長い前髪をサッと払って、ティアは口を開いた。

 それは、衝撃的な発言。

 後に、ティアご乱心事件として、末永く刹那たちの記憶に残る会話の始まりであった。


「・・・・・・正妻である木乃葉さん以外に、側室は何人いるんですか? 私達
 の為に教えて欲しいのですが」


 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 沈黙という名の、びみょ~な空気が漂った。

 アスナや刹那は、何いっちゃってるのこの人、とでも言いだげな顔である。木乃香は不思議そうな表情でティアを見ていた。

 一方で困った顔をしているのは木乃葉である。

 彼女は、ティアの発言する意図が、いまいち掴みきれていなかった。

 う~んそうねぇ~、と言いながら理解しようと考えをめぐらせる。

 そして、ティアが妙に古臭い表現の『正妻』や『側室』といった事、そしてルークと同じで異世界から来ていて、どうやら愛しの息子の恋人らしいという事を察していた木乃葉は、ある仮定に辿りついたのである。

「夫の詠春は、正妻である私しか娶っていませんよ」

「そうなんですか?」

「ええ。それはあの人が私しか選ばなかったという理由もありますし、私しかいなかったという事でもありますが」

「では・・・・・・?」

 目を光らせるティアに、木乃葉は己の仮定が間違っていなかった事を悟り、ニヤリと心の中で笑う。

 彼女はとにかく息子のルークの為ならば、手段を選ばない人であった。

「ええ、貴方が正妻で、このかを側室にすればいいんじゃないかしら? もしくはそれが許される国に籍を移すのも手ですね」

「なるほど・・・・・・」

「「「!?」」」

 ぶっとんだ単語が唐突に出てきた展開に、アスナを筆頭に驚愕の表情を浮かべる刹那たち。

 さて。

 ここでティアの勘違いしている部分を話そう。

 ティアはこの世界に来て、まず言語以外に歴史を勉強した。その際に戦国時代について興味を持っていて、だから映画村でも武将の格好をしていたのだが、それはどうでもいい。

 とにかくティアは未だこの日本が“一夫多妻制”が普通に可能だと思っていたのだ。

 またキムラスカでもマルクトでも、王族には普通に妾やらなにやらが普通にいたし、作ることも可能だった。

 おそらくそれもティアの思い込みに関係している。そしてそれだけではない。

 ミュウが見ていたテレビで、男1人に対して女性複数が一つ屋根の下といったアニメ、家族○画やフル○タのふもっふといった、少し誤解を招くような内容を観てしまったことも原因の1つである。

 とにかくティアはそれを見てそう思ってしまったのである。また彼女は木乃香と刹那の扱いに困り果てていた事もあった。

 何故なら、木乃香は間違いなくルークの命の恩人であり、ある意味でマスターなのだ。そして刹那はその木乃香の守り人であり幼馴染。ティアの目から見ても2人がルークに好意を抱いているのは一目瞭然だった。

 また、ルーク自身も木乃香たちに対して特別な感情をもっている事も見抜いていた。

 ここでティアは慌てなかった。

 彼女はルークの中で自分という存在を確かに愛してくれている事をしっかり把握していたからだ。

 だから彼女は、ルークとずっと傍にいることができて、尚且つ木乃香たちが悲しまない方法としてソレが一番の方法じゃないかと選択した訳だが・・・・・・。

 天国で妹と弟子を見守っていたシスコン兄貴は、妹は普通人に思えて実は天然であるという真実に涙を流して「懐が広くなったな、メシュティアリカ」と喜んでいたらしい。

 とりあえずシスコン兄貴は銃使いで妹の教官に横から突っ込まれていたのだが、ここは無視しよう。

「ありがとうございます。これでスッキリしました」

「いえいえ、いいんですよ。ルークの傍に女性が増えれば増えるほど、あの子は苦労するでしょうが、それと同時に満たされるでしょうし」

「木乃葉さん・・・・・」

「私はね、本当にルークの母になりたいのですよ」

「・・・・・・ありがとうございます」

「いやですわ! そんなに他人行儀にせんと! ウチの娘になるかもしれんのに♪ それも現時点でこのかを含めて4人も♪」

 そんな天然な女性2人に、置いてけぼりを喰らった3人。

 いや、2人。

 木乃香は「これでみんなと一緒におれるな~♪」と言って喜んでいるので、とりあえず除外。

 問題のアスナと刹那、つまり常識人の2人は、ポカ~~~~~~~~~~~~~~~ンとして放心状態になっていたのだった。







 祝勝会のような感じになった宴であったがそれも無事に終わり、激動の戦いがあった翌朝。

 ルークたちは関西呪術協会を出発し、急いでクラスメイトたちがいる嵐山の旅館へ戻ろうとしていた。

 もちろん別れを告げるときにはルークは再び木乃葉に窒息するほど抱きしめられて別れを惜しまれた。

 また、木乃葉から「はやく孫の顔がみたいわ、最低4人くらい♪」と、ルークは意味不明な言葉をかけられたのだが、彼はその意味が漠然とし過ぎていて理解不能だった。

 そんな一幕があった後、電車内でルークは刹那と話しをしていた。アスナとティアと木乃香が何か真剣に話しているので輪に入っていけないのだ。

「刹那」

「?」

「みんなが、お前のことを受け入れてくれてよかったな。黙っていてくれるって言ってくれてよかったな」

「・・・・・・ええ。本当に、イイ人たちばかりです」

 嬉しそうに呟く刹那。

 ルークも刹那の気持ちが伝わってきたのか、口元を緩ませて微笑んでいた。

 アキラに何かを説明している亜子と柿崎。何かあったのかと疑っている早乙女を必死で誤魔化している宮崎と夕映。

 真っ赤な顔をしてテレた表情のアスナと嬉しそうな顔で笑う木乃香。そんな2人へ微笑んでいるティア。

 助っ人としてわざわざやってきてくれた長瀬と龍宮と古。そして15年振りに麻帆良の外を体感して喜びを隠しているようで隠しきれていないエヴァとその従者の茶々丸&チャチャゼロ。

 本当に、イイ連中過ぎた。

 この人たちをしっかりと守りたいと、刹那とルークは思っていた。

「今回のことで、私は力不足を痛感しました。帰ったら修行をつけてください、ルーク」

「俺でいいのか?」

「はい。同じ剣士として貴方がいいのです」

「そ、そっか。なんかテレるが・・・・・・いいぞ」

「あ、ありがとうございます」

 微妙に恥ずかしい発言をしたと気付いた刹那は頬を赤くして微笑む。

 告白みたいだなぁと、ルークは思ったのだが、ここは気付いていないフリをするのが男ってものだ。

「まあ、俺ももっとパワーアップというか、耐久力をつけなくちゃいけないしな」

「烈風のシンク・・・・・・ですね」

 ルークは神妙な顔つきで頷く。その2人の会話を、ハルナの誤魔化しに成功した夕映が見詰めて聞いていた。

 昔を思い出すように、言葉を紡ぐ。

「昔のシンクは、ただ世界を憎んでいた。己は空っぽだと言って、ただの肉塊としてしか生まれなかった自分の生をくだらないって。だが今のアイツは・・・・・・」

「今のアイツは・・・・・・?」

「何ていえばいいのか・・・・・・憎しみ、というよりも哀しみを強く感じた、ような気がする」

「哀しみ?」

 刹那には全くそう感じなかったらしく、訝しげな表情を浮かべる。

 ルークは、いや何となくだけど、と前置きしてから、

「やっぱり第七音素である事やレプリカである事を嘆いていたのは同じだったけど・・・・・・言葉の響きが前と違ったからさ」

「それは・・・・・・20年も生きてきたら、彼だって多少は成長するでしょう? その違いじゃ?」

「ああ・・・・・・きっとそうなんだろうけど、さ」

 どこか納得してないルークの様子に、刹那も己のシンクに対する認識を少し変えなくてはと判断する。彼の身に、こちらの世界に来て何かあったんじゃないかと、ルークの言葉の裏を察して一応理解しておくことにした。

 すると会話が途切れたと判断したのか、今まで黙って聞いていた夕映が口を開いた。

「あの、ルーク」

「何だ? 夕映」

(いつの間に呼び捨てで呼び合う仲に!?)

 ぎょっとする刹那を他所に話しは進む。

「私に・・・・・・あれを使う方法を教えて欲しいです。私もきたえて欲しいです」

「・・・・・・」

「・・・・・・なんですか、そのアホな子を見るような顔は」

「い、いやそんなつもりはないんだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気か?」

「本気です」

 コクリと力強く頷く夕映。

 彼女は仮契約カードをぎゅっと握り締めてルークを見詰めてくる。その瞳は、ただの好奇心からきた子供のようでもあったし、反面で国の為に奔走する気高き女性・ナタリアのような瞳にも見えた。

 錯覚かもしれないが、少なくてもルークには容姿が限りなくアリエッタに似ている夕映が、全く似ていないナタリアの姿とダブった。

「ナタリア・・・・・・」

「え?」

「ああ、ごめん! えっと、昨日の戦いのような目にあうかもしれないんだぞ? 痛いなんて事は日常茶飯事だ。それでもか?」

「・・・・・・はい。まだ命を賭ける覚悟はできてませんし、桜咲さんのように戦う覚悟もできてませんが・・・・・・少なくても、痛みを甘んじて受ける覚悟なら」

「・・・・・・そうか。ならいいぜ。教えてやる」

「ホントですか!? ありがとうございます!!」

 嬉しさ余りにルークの手をギュッと握り締めて喜ぶ夕映。

 ―――うん、この表情はどちらかというとアリエッタの方だろうな。とは言ってもアリエッタの笑顔なんて見たことないけど。でもよかった・・・・・・ナタリアとダブった夕映にドキドキするなんて、アッシュじゃあるまいし―――。

 どうやらルークもいろんな意味で焦っていたようだ。

「エヴァ!」

「ん? 何だ?」

 電車内で座席に膝をつき、外を眺めているエヴァ。うん、その姿は実に年齢通りの行動だぞエヴァンジェリン。

「帰ったら別荘を貸してくれよ」

「ああ、別に構わんが―――」

「対価はサファイアリングでどうだ?」

 ルークは自分の指からリングを外してエヴァへと放り投げる。

 それを指にはめたエヴァは、その効果にギョっとして呆れながら言った。

「お前な・・・・・・この指輪で別荘利用など、お釣りが出るにもほどがあるぞ。私は別に対価などいらなかったんだがな。もちろんそれは友人であるお前のみだが」

「サンキュー、エヴァ。まあ今回の事の俺の感謝の気持ちでもあるから、受け取ってくれよ」

「・・・・・・わかった。ありがたく貰っておく」

 はめた指輪を宙へとかざしたエヴァは、なんだか嬉しそう。

 まあ、サファイアリングは魔法力使用量を25%減少してくれる。その効果は計り知れない程大きなものだ。

「別荘?」

 言葉の意味がわからない刹那や夕映は、首を傾げていた。








 嵐山に戻ったメンバーは、とんでもない光景におもいっきり吹き出すことになった。

 それは自分達の身代わりが、身代わりルークを襲っていたからである。なんというか、指定が入りそうなほどの襲いっぷりで描写は自重するが、クラスメイトたちは真っ赤な顔をして身代わりアスナたちを落ち着かせようとしていた。

 まったく困ったものである。

 普通ならこの事態で彼女たちの名誉は失墜したといっても過言ではないが、それは3-Aクラスの軽さが爆発し、数十分後にはどうでもよくなっていた。恐るべし3-A。

 その後ゆっくりと休養をとったルークたちは、ネギの父親の別荘に行くことになった。特に行くところがないからだ。

 どうやらネギは、この修学旅行の一番の目的が父親の別荘に行くことだったらしい。今回の近衛家に泊まったメンバーは皆付いてくることになったのだが、それはネギにとっても問題ないようだ。

 途中で詠春と合流して山道を進んでいくと、天文台が備え付けられている一軒家が見えてきた。

 その洋風建築の家が、魔法界の英雄ナギ・スプリングフィールドの別荘だった。

 室内に入ると、モダンな内装が際立ち、なかなかに良いセンスをしていると伺える。ティアも前の世界になかったデザインの部屋に、こんな感じなのいいかもと呟いていた。

 そして部屋を物色し始める一同。ネギも本など資料を探り、何かヒントはないか必死に探していた。

 そんな彼女等&彼を見詰めているルークと詠春、そしてエヴァとティア。彼等は2階の席に座ってネギの傍で話しをしていた。

「今回の一件で天ヶ崎千草には多少の処罰と厳重注意を、犬上小太郎には重くはならない程度の処罰が与えられるでしょう」

「そっか・・・・・・」

 小太郎に友情でも感じていたのか、ネギがホッとしたようなそんな表情を見せる。

「またスクナの完全消滅を確認しました。ルークには本当に感謝しています」

「ああ」

「ほぉ・・・・・・もはや霊的存在かつ神格化しつつあったスクナを、か。なるほどな・・・・・・」

 エヴァが興味深そうに呟いた。もちろんルークは誤魔化すために口笛を吹いていたのだが・・・・・・音が鳴っていなかった。

「それより問題はあの白髪の少年と緑の髪の青年です。今のところ彼が自ら名乗った名が『フェイト・アーウェルンクス』である事と、1ヶ月前にイスタンブールの魔法協会から日本に研修で派遣されてきたということしか。おそらく偽称でしょう」

「ふん・・・・・・それより問題なのはあのシンクとかいう名の男の方だ」

「はい。彼の名はシンク。ルークによりますと『烈風のシンク』という呼び名をつけられる程の使い手で、ルークと同じ境遇の者です」

「・・・・・・・・・・・・」

「ルークさんと同じ境遇?」

 意味が解らないネギは口にするが、それには誰も応えない。

 詠春は難しい顔をして言った。

「とりあえず、彼の言葉が本当だとすれば、近々魔法界で何か動きがあるはずです。私も魔法界に伝手がありますから、何か解れば連絡しましょう」

「お願いします、詠春さん」

「ここで、1つルークすら知らない事実があります・・・・・ちょうどアスナ君もいないようなので言いますが」

「アスナに聞かれたらマズイって事ですか?」

「ええ。というより彼女は・・・・・・」

「ああ、なるほど。アスナに関するアレの情報ね」

「知ってるのですか、ルーク?」

「ああ。じっちゃんに全部教えてもらってる」

「それではコレは知ってますか? 彼女が記憶を失う前、あの子には親友がいたのです」

「親友?」

 そういえば、と全員が思い出した。シンクはアスナに対して色々と興味深いセリフを言っていた。その中でも親友がどうとか言っていた気がする。

 それを思い出したルークは、眉を顰めて尋ねる。ネギは彼女が魔法世界にもっと昔から関わっていたことに驚いていた。

「はい。アスナ君を我々が助けて共に行動する前に、ナギがある時クシャミをして召喚魔法陣を暴走させた事があったんです」

「クシャミって・・・・・・アイツは相変わらずのバカだな」

 エヴァは楽しそうに笑う。

「その時に召喚されたのが、1人の人間の赤子でした。彼女はアスナ君が我々のパーティーに入って以降、ずっと仲良くしていました。ですがある日、謎の男、いえ狂気に暴走する男が我々を襲ってきて、メンバーがバラバラになり、その直後に彼女とラカンが行方不明になりました」

「狂気の男?」

「はい。その男は突如空間より割って入ってくるように現れ、『英雄を殺す』と言って我等紅き翼に襲い掛かりました」

「1人でか? バカだろう、その男! ん・・・・・・? メンバーがバラバラになったという事はまさか・・・・・・」

 エヴァが一笑に伏すが、はたと気が付き顔を歪める。

「はい・・・・・・おそるべき力を持った男に我々は壊滅寸前まで追い込まれ、個別に私、ナギ、アル、ラカンと彼女、ガトウにタカミチにアスナ君とパーティーを分断されました」

「そんなバカな・・・・・・」

「ですが話しで重要なのはソコではありません。彼女は今は・・・・・・19歳ですか。その年齢になり今も魔法界でラカンと行動を共にしているはずです」

「・・・・・・あのラカンと一緒だなんて、大丈夫かその女?」

「詠春さん。その子の名前は何ていうんですか?」

 エヴァがラカンと一緒だというまだ見ぬ少女を心配し、ネギがその子に興味を持った。

 アスナと親友だったという事が効いたのであろう。


「彼女の名前はイオン・ダアトと言います」

「はあ!? イオンだって!? ってかイオンが女!?」

「ミュ!? イオンさんが生きてるんですの!?」

「イオン様が・・・・・・女性?」

 唾をばしばしと飛ばしまくって叫ぶように驚いたのはルーク。

 彼はその驚きの余りに椅子を弾き飛ばすし、ネギの頭を掴んで机に叩きつけるわで、どれだけ動揺しているかが解る。

 ティアもミュウも呆然としている。よほど驚いたのか、それともイオンが女性だという事に実感が湧かないのか。

「知ってるんですか? ってまさか・・・・・・」

「ああ・・・・・・イオンとは『前から』の知り合いだ」

「なるほど・・・・・・だからあの子は強大な魔力があったのにも関わらず、魔法を使おうとしなかったんですね」

 詠春が納得したといわんばかりに頷く。エヴァはその会話でルークと同じ異世界の人物だと察し、どうやら性別は男だったんだなと気付いた。

 そして肝心なことがまだ残っていた。

「それで? その女、いや男? いや女がどうかしたのか? シンクというあの男の話しとどんな関係がある?」

「ええ、それが・・・・・・」

 詠春はその事でルークをチラリと伺う。

 彼が言い渋るのも察せた。だからルークが変わりに口にする。

 その残酷な運命だった少年たちの特徴を。

「シンクとイオンは・・・・・・顔がそっくりなんだ」

「そっくり、だと?」

「まあ、双子のように似た顔だと受け取ってくれていい。とにかくこれで全て解った」

 ルークは立ち上がり、窓から外を眺めた。

 後ろで詠春がネギにナギが10年前に行方不明になったとか話しをしているが、ルークにはそれどころじゃない。

「ルーク」

「ティア・・・・・・」

「よかったわね。イオン様がこちらの世界で生きていてくれて」

 そう。

 生きてるのなら、いつか会える。

 何も悲観することなんかないし、動揺するのも間違っている。

 ティアの言うとおり、良かったんだ。

「ああ・・・・・・本当に良かった。イオンが無事で」

 イオンはルークにとって、特別な人物だった。

 ティアに匹敵するくらいに、ルークの事を信頼し、理解していてくれた人物。

 詠春さんにお願いして、ラカンとかいう人物に連絡をとってもらい、イオンを麻帆良に呼ぼうと心に決めるルーク。

「イオンと、もうすぐ会えるかもしれないんだ!!」

 ルークの頭の中は、すっかりイオンが生きていたという喜びと、もうすぐ会えるかもしれないという喜びが充満していた。

 従って、彼が女になってしまったという事をスッカリ忘れてしまったのである。










 こうして、麻帆良学園女子中等部の修学旅行は終わった。

 いろいろな真実が発覚していく中で、初めて裏世界を知った者は心にある決意を秘め。

 またある者はもっと強くなろうと心に誓い。

 またある者は、己がルークの妻になる(なった)事に動揺やら歓喜やらテレやらを必死に隠していた。








あとがき。
すいません、ちょっと場面を端折りました。

まあ、この話しはルークとネギまヒロインたちに焦点を当てる話しですので。

次回以降から、かなり話しをのんびりと進め、また各ヒロインの話しと絡みをしっかり書いていきたいと思います。

そして明らかになった、アスナの親友。

ぶるぅあああああああああな人との逸話。

これから、ほぼオリジナルストーリーに入ります。とはいっても大まかな流れは変わりありませんが。

ではまた会いましょう。

P.S

引越しの準備とか家探しとかで、更新が遅くなるかもしれません。

いえ、わからないですが。