「早く助けに行かないと!」

「ああ、そうだな。どうやら鬼供も一掃できたみたいだし」

「油断せずに行きましょう。何だか嫌な予感がするわ」

「そうだな」

「で、貴方たちはどうする?」

「ついていくです!」

「「私も!」」

「うぉ! いたのかよ!?」

「気付くのが遅いわよ、ルーク」

「うぐっ」

「・・・・・・この先にあるのは、無慈悲な戦いよ。何が起こるかわからない。それでもいいの?」

「・・・・・・それでも、見たいです」

「そう・・・・・・ならついてきてもいいけど・・・・・・そこの彼女たちから離れちゃダメ。わかった?」

「はいです! よろしくお願いします、龍宮さん」
 
「ああ、わかった」



     第21章 月下の戦い

 


「魔法の射手・光の36矢!!」

 囲まれた詠春を救出するべく、ネギは中国拳法で接近し『戒めの風矢』でルビカンテを拘束した。

 そこを逃さず、全方向から魔法の射手を打ち込む。

 光の矢は鬼のルビカンテに見事に直撃し、霧散化していく。どうやら還されたようだ。

「よっしゃあ! 兄貴っ! 俺っちはアスナの姐さんたちの様子を見てくるから、西の長の援護を!」

「うん、お願いしたよカモ君!」

 カモはネギの肩から飛び降りて、うずくまりながら緑の髪の仮面をつけた男と相対しているアスナたちへ駆け寄った。

 近くにいる詠春は、アスナたちを守りながら刀を白髪の少年・フェイトに向ける。

 仮面の少年の笑いが収まり、場に緊張が漂いつつあった。

 その瞬間。

 夜空から無数の流星が降ってきて、自分達から離れた場所に着弾したではないか。

「うおおおおぉ!?」

 激震に全員が体勢を崩して地面に手を付く。アスナが堪らないように叫んだ。

「な、なんなの今の!? 隕石!? っていうか、あっちの方ってルークたちがいる方向じゃないの!?」

「たぶんルークかティアさんの魔法だと思います・・・・・・鬼が魔法を使えるはずありませんから」

「す、すごい・・・・・・」

 詠春の傍に駆け寄ったネギも、その桁外れかつ常識外の魔法に感嘆の声を上げる。

 揺れ方と魔法の衝撃から硬直していたネギたちと千草一派達だったが、仮面の男が鼻笑いをした事で動き出す。

「・・・・・・フフン、少しは成長しているようだな、ヴァンの妹もレプリカルークも」

「・・・・・・っ!! 黙れ!! その名でルークを呼ぶな!!」

 刹那は痛む脇腹を気にせずに立ち上がり、刹那は斬りかかる。

 青年は刹那の横一閃を容易く屈んで避けて刃を蹴り上げた。刹那は上体を衝撃によって反転して着地する。

「ふーん、どうやらあいつの事情を知っているようだね。なら僕の事も知っていることになるかな?」

 刹那の目の前に瞬間的に移動した青年は、口元に笑みを浮かべながら拳を突き出してくる。

 刹那は感じていた。この瞬間でも前の青年は明らかに手加減していることを。

「僕もあいつと同じ存在さ。向こうでは烈風の称号を得ていた」

「・・・・・・うろ覚えだが・・・・・・確か烈風のシンク!

「ククク・・・・・・・・・アハハハハハハッ!!」

 刹那の言葉に青年は高笑いをして、交差した両腕を蹴り飛ばした。

 衝撃で飛ばされた刹那は地面に刃を付き立てて何とか止まることができた。

「いいよ、僕の事を知っていた褒美だ。あいつらが来る前に相手をしてやるよ」

 シンクの言葉に刹那は身体を強張らせて構えた。

 だが、そんな2人に待ったの声がかかる。その声の主は少女であった。

「ちょっと待ってもらえませんか~。刹那センパイは私にやらせて欲しいですけど~」

 いきなり現れて要求してくる少女に、シンクは思案した素振りを見せるが、すぐに譲った。

「ふ~ん、まあ、いいけど」

「ありがとうございます~。それではいきますえ~、刹那センパイ♪」

「月詠!!」

 陰から現れたのは月詠。未だに拘っていたらしく、ニコニコしながら二刀の刃を構えて向かってくる。

 刹那は歯噛みした。ただでさえ情勢が悪かったのに、更に月詠まで現れたのだ。数も実力も悪すぎた。

 いや。

 否、まだ手はある。

「・・・・・・すぐに片付けさせてもらう」

「そんな事言わずに~、楽しみましょうよ刹那センパイ♪」

「断る!!」

 自分が月詠をさっさと片付けて、援護に回ればいいだけのこと。

 刹那は夕凪を両手で携え、月詠に向かって跳躍した。





「ネギ君、白髪の少年の足止め、できますか?」

「・・・・・・時間稼ぎなら、何とかやってみます。長さんは?」

「私はスクナの相手をします。決してムリをしてはなりませんよ。わかりましたね?」

「・・・・・・はい」

 自分の実力不足を痛感するネギ。だが今は自分ができる事をしようと決意する。

「かかってくるの? いいだろう・・・・・・相手をしよう」

「では、いきますよ!」

「はい!」

 詠春はスクナに向かって跳躍し、宙で停止する。だが極大雷鳴剣など威力のある剣術を使うことはできない。何故なら木乃香を巻き込んでしまうから。

 となると、小さい攻撃でこつこつと削っていくしかない。

 長期戦になるな、と詠春は覚悟してスクナへ特攻した。

 一方でネギはと言うと、明らかに実力負けをしていた。

 古に教わっている中国拳法は、少年が使ってくる拳法に圧倒的に劣っていていつ沈められてもおかしくない。

 それなのに今まで保っていられるのも、フェイトという少年が自分を探っている、もしくは力量を測っているからに他ならない。

 ましてや、魔法すら使ってないのだ。

「くっ・・・・・・」

「やっぱりその程度か・・・・・・つまらないね」

「!!」

「出直してきなよ。今の君では僕に触れる事すら叶わない」

 少年は腰を深く落とし、一呼吸置く。そしてその次の瞬間。

 ネギは彼の姿を見失い、気付けば懐で自分の鳩尾に肘を入れられている事を、まるで第三者のように遠くから眺めてみていた。

「ネギっ!!」

 アスナは吹っ飛んたネギに駆け寄り彼を起こす。

「アス・・・・・・ナ・・・・・・さん」

「しっかりしなさいよ!! ルーク達が来るまでの辛抱でしょ!?」

「そうっすよ、兄貴!」

「は、はい・・・・・・」

 ネギは痛む腹部を押さえて懸命に上体を起こそうとするが、やはり起き上がれずに蹲る体勢しか取れない。

 そんなネギを背に、守るように立ちはだかるアスナ。

 2人と1匹のまえに、フェイトと仮面の少年がやってきた。そして仮面の少年が何かに気付いたかのようにアスナに顔を向ける。

「あんたの顔、どっかで見たことあるんだよね・・・・・・どこだっけ」

「な、なによ! あたしはあんたたちなんか知らないわよ!」

「確か7・8年前だった気がするんだけど・・・・・・まあいいや。それよりさ、あんた、何でここにいるの?」

「え?」

「レプリカルークの何って聞いてるのさ。あいつ、まだレプリカの癖に何かを得ようとしてるの?」

「な、何訳わかんないこといってんのよ!!」

 仮面の少年の言葉はアスナにはさっぱりわからない。ただ、言葉の端々からとっても嫌悪感を感じる。

 目の前の少年の言葉を聞いてはならない、そんな脅迫的ともいえる観念に突き動かされて怒鳴り返していた。

「・・・・・・ふ~ん、まあどっちでもいいか・・・・・・ん? 来たみたいだね」

 何かに気付いたように、アスナの背後を見る青年。アスナも振り返ると、遠くから真っ赤な髪の少年が駆けて来るのがわかる。

 青年は外套をサッと翻して、その身を透明化させた。

 青年がいなくなった事にアスナは目を見開いたが、背後から聴こえて来たありえない声に意識がそちらに向いてしまった。

「「アスナ~~~!! ネギせんせい~~~!!」」

「みなさん、何でここに!?」

「和泉さん夕映ちゃん、無事だったんだ! よかったぁ・・・・・・って、柿崎!? なんでここに!? 龍宮さんに古までいるし」

「そんな事どうだっていいじゃない! それよりあんたこそ大丈夫なの?」

「なんとかね。だけどこのかが、あのデカブツの肩のところに捕まってるの。このかのお父さんが頑張ってるみたいだけど・・・・・・」

 亜子と柿崎に支えられて起きたアスナ。皆はアスナに言われた巨大なスクナへ視線を向け、目の前にいるフェイトと呼ばれる少年に視線を向けた。

 そこへ、アスナたち前にルークとティアが出てきた。

「ようやく来たね、ルーク・フォン・ファブレ」

「またお前か。今はお前に構ってる暇はないんだよ」

「・・・・・・別に無視しても構わないけどね。ただその時は君のお仲間さんが石化するだろう!!」

 フェイトは空高く飛び上がり、詠唱魔法を唱える。

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。小さき王、八つ足の蚸蝪、邪眼の主よ―――」

「な、何!? これは呪文始動キー!? こいつ西洋魔術師!! しかもこれはっ! 兄貴! 姐さんアイツの詠唱を止め――」

「カモ君、間に合わない!!」

「時を奪う毒の吐息を。石の息吹!!」

 やられるっ!

 ネギを含めた全員がそう思った。

 少年の指先から高密度の魔力が感じられ、そこから石化する放射光がでるはずだった。

 だが。

「無駄だ!」

 天へと手を翳したルークが叫び、その瞬間フェイトの周りのみに魔力が完全になくなってしまった。

 強制的に他者が介入し、魔法詠唱を無理やり無効化させたのだ。

 彼の周りに空間異常が視認できたから、それが原因かもしれない。しかしそれが何なのかネギたちにはさっぱりわからなかった。

 とにかく出鱈目なその現象に、一番知識が深いカモが衝撃を受けていたのだった。

「―――そんなっ!?」

 無機質かつ気持ち悪い程の能面顔だったフェイトの表情に、初めて驚愕の表情が浮かんだ。

 彼は自分の実力をよく理解していたし、自信もあった。しかしそれが初めて揺らいでしまった。

 そしてその隙を、ティアや龍宮は見逃さなかった。

「無慈悲なる白銀の抱擁! アブソリュート!」

 フェイトの周囲に白い光の粒子が集まり、そこから雷の放電現象と粒子の爆発が次元を捻る程の威力を生み出し、フェイトの身体をめちゃくちゃに焼き切る。

 そこへ龍宮の遠距離用のライフルによる、対捕獲用の麻酔弾を彼の体に打ち込む。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 大きな悲鳴を上げ、地面に墜落してくるフェイト。しかし彼は力を振り絞って隠し持っていた転移用の魔法符を発動させた。

「・・・・・・今日のところはここで引かせてもらうよ。さすがに分が悪い」

 フェイトの身体がどんどん水のように溶けて消えていく。

 いわば負け惜しみのごとく言葉を残して逃げ出したフェイト。最大の危機が去ったことでアスナやカモは大きな溜息を吐いた。

 すぐ向こうで刹那が月詠と斬り結んでいるが、安堵した故に腰が抜けてしまい、すぐに駆けつけれそうにない。

「さてと・・・・・・あのデカブツを倒すか」

「ええ。でもルーク、あなた今超振動を使ったのよ? あれ程の規模の相手に同等の超振動を起こせる?」

 彼の身を案じるティア。彼女はとにかくルークの身体のことが心配だった。

 たとえ普通んも肉体とはいえ、大きな力を行使するのは術者に多大な負担を要する。

「大丈夫だ。それに刹那の方も決着つきそうだからコントロールする必要もないからさ」

「え?」

 アスナはルークの言葉に振り返る。

 そこには刀を天へと振りかざし、目を瞑って深呼吸する刹那と、身を深く屈めて小太刀を構える月詠の姿があった。

 2人の周りに流れる緊迫した空気の流れで、誰もが察知する。

 最後の一撃を放とうとしているのだと。

 真剣による戦い。生き残るのはどちらか1人か、それとも相打ちか、まさか刹那の死という結果か。

 その光景に亜子や夕映、美砂はゴクリと息を呑んでクラスメイトの死闘を見守っていた。

 そして、ついに両者が激突したのだった。





 私は何をしている?

 ルークやこのちゃんを守ると言っておきながら、目の前の月詠に足止めを喰らっている。

「斬空掌!!」

「にとーれんげきざんてつせ~ん」

 私の斬空掌が叩き落された。

 空では長がスクナ相手に雷鳴剣や雷光剣などの技を使えずに圧倒的不利な情勢で戦っているのに、私はこの様だ。

 あのガキ、いやネギ程度でも格上の相手にがんばって奮戦しているというのに、私はこれか?

「そこをどけ―――!!」

「いやです~。もっと戦りましょうよセンパイ」

 鋭い一閃を私は受け止める。そのまま押し合いとなり、私は力負けをして後ろへ弾き飛ばされる。

 何故力負けなんかする?

 なんでこんなに押されている?

 気がつけば、ルークを狙う仮面の青年が消えていて、遠くからルークたちが駆けつけてくるのが見えた。

 実力は信じていたけど、大量の鬼相手に無事である事にほっとする。

 その時、ふと前に言っていたルークの言葉を思い出した。

 ―――私の剣撃が軽すぎる、と。

 例えば青山鶴子師範の一撃なんかは、マンモス象を刃に乗せてるのではないかと思うほど重たい。

 だがあの人と私にそこまで筋力の差はない。あの人はあくまでも女性の範囲の筋力だ。ではなぜそこまでの差がある?

 体格的に師範と同じの刀子さん。あの人の一撃を私は受け止める事ができる。

 ではそこの違いはなんだ?

 ・・・・・・・・・・・・。

『あかんなぁ、刹那はん。剣術はいわば技術や。技術で拮抗している相手に技術と力押しで戦うというのは愚の骨頂どす』

『意味が、わかりません』

『そうでっしゃろう。でもいつか、私の言葉の意味が解る日が来るでしょう。ちゃんと覚えておきなはれ』

 ・・・・・・・・・・・・。
「そう・・・・・・いうことか」

「どないしたんですか~? 続きをしましょう~」

「ああ、いいだろう。ただし、次が最後の一撃だ」

「? わかりました~、ではお互いに悔いがないよう」

 月詠がいつもどおり、いや、少し剣先をいつもより高めに構えて腰を落としている。

 私は両手で夕凪を持ち、刃先を天へと向け構える。

 答えは簡単だった。

 私は躊躇いがあった。

 人を斬ることに。斬った事で背負わねばならない色々なモノに。命を奪うことに。

 だけど、それを覚悟しよう。

 やらなければ、私はこのちゃんの親友でいる資格などない。ルークの隣にいることもできない。

 私のような“化け物”の血を引く女を、大切に想ってくれている幼馴染たちの力になるために。

 私は――――。

 私は、剣を振るう!!






 瞬動術で突っ込んだ刹那。

 彼女は技ですらない、ただ純粋な振り下ろしという基本の一撃を月詠に下した。

 月詠も交差系の剣閃のようで、お互いの刀が火花を起こしてこれまでと同じよぷにぶつかり合った。

 だが、その結果は今までとは違った。

 月詠の2刀の刃が刹那の一撃により砕かれ、月詠の身体は刹那の攻撃で引き裂かれた。

 俺は、初めてみた。

 刹那が人を斬った事を。そしてあんなにも決意に満ち溢れた顔をしているのを。

 何よりも、あんなに綺麗な女性であることを。

「「「刹那さん・・・・・・」」」

「流石だな、刹那」

「あいや~、今のはすっごく重い一撃ヨ。受け止めるは難しいネ」

 夕映たちは目の前で人が斬られた事を、斬ったのがクラスメイトであることで身体を強張らせていた。龍宮と古はその攻撃に素直に賞賛していた。

 刹那が夕凪に付着した血を振り落とし、俺の前までやってきた。

「遅くなりました!」

「いや・・・・・・桜咲刹那という一撃を見せてもらった。すごい攻撃だったぜ」

「恥ずかしいから、やめてくださいルーク」

 頬をほんのり染める刹那はとても可愛らしい。思わず抱きしめたくなるほどだ。

 だが今はそんな事をしている場合じゃない。

 俺は自分が考えていた事を促す。

「俺が浮遊術でこのか救出してもいいんだが・・・・・・どうする?」

「いえ、私がいきます。ルークは仮面の青年の相手をお願いします。すぐに私も援護に来ますから」

「わかった。けど、仮面の青年?」

 首を傾げる。

 そんな青年などどこにもいないからだ。

 刹那はルークの言葉を待たずに、背中をぐっと丸めて彼女の綺麗な肌から両翼の天使の羽が出現した。

 いきなりの光景に、その場が息を呑んだのが感じられた。

 刹那はアスナたちに視線を向けて、寂しそうな表情で語る。

「私は見ての通り化け物です。正確には人間とのハーフですが・・・・・・ですが、それでも私はこのちゃんとルークの幼馴染です。2人が大切です。だから―――」

 その瞬間、心底嬉しそうに笑った。

「2人の力になってくれて、みなさん、ありがとうございましたっ!」

 刹那は空へ飛び立とうと腰を深く落とす。

 そんな刹那へ、アスナ達が慌てて声をかけた。

 まるで、親友を無くした、とでも言わんばかりの必死な顔だった。

「刹那さん! 私は、刹那さんの友達だからね!!」

「そうです! 私はそんなこと位で差別もしませんし、クラスメイトも友達も辞めたりしないです」

「そうそう。それに私的にはカッコイイし」

「うちも、綺麗やと思う! だから、なんて言っていいかわからんけど、がんばって!!」

 本当に、イイ連中だと思う。3-Aのみんなは。

 学園長はきっとソコにも期待したんじゃないだろうか。何となくだけど、そう感じた。

「・・・・・・みんな、ありがとう!!」

 刹那は空へと飛翔し、詠春の攻撃に必死に防御している天ヶ崎千草の背後に回り、不意を突く形で襲い掛かった。

 背後からの攻撃に気付かなかった天ヶ崎千草は刹那に木乃香を奪われてしまった。

 そして戦域離脱する詠春と刹那。

 ここからは俺の出番。

「さあ、やろうか」

「私が支えてるから、しっかりね」

「ああ、頼むティア」

 両手を制御する木乃香がいなくなった事で暴走するスクナへ向ける。

 ティアが俺の背に来て、そっと両手で俺を抱きしめてくれた。

 グッと力を入れると、身体からオレンジ色の光が溢れ出して包み込む。

 すると、スクナの周りに巨大な魔法陣が出現し、魔力と時空間の暴走が始まった。

「終わりだ、大鬼神!!」

 フィィィィィィィィィィィィィィンという低周波のような耳障りの音が響いて、思わず夕映やネギたちは耳を押さえた。

 一際魔法陣が強い光を発し、その瞬間。

 飛騨の伝説の大鬼神スクナはこの世から『消滅』した。

 存在を、消されてしまったのだった。

「おおおおおおおお! ルーク君すご~い!」

「ほんまに凄いわ、どうやったんか解らんかったけど」

 わっと駆け寄ってくる皆。ネギも一安心したのか、笑顔で走ってくる。

 ティアはルークの身体を触り、どこにも異常がないことに一安心して離れた。

 空からは詠春と刹那、そして抱きかかえられた木乃香が降りてきて、皆に笑顔を向けた。

「やりましたね、皆さん。大丈夫でしたか?」

「皆さんおつかれさまです」

「皆、ウチのことで皆に迷惑かけてしもうたみたいで、ホンマにゴメンな。そして、ありがとう」

 ペコリと頭を下げて感謝する木乃香。皆はそんな木乃香に、気にしなくていいのよ、友達でしょ? と声をかけている。

 その場に、和やかなムードが漂っていた。

 だが。

「あ、そうだ! ルーク、さっきあんたの事を狙ってる仮面の男がいたんだけど!」

「ああ、それさっき刹那から聞いたが、何のことだ?」

 ポンと手を叩き首を傾げるルーク。ネギも彼がいないことに気がつき、辺りを警戒している。

 そこへ刹那が表情を険しくしながら語ろうとした、その時だった。

「いえそれが、その仮面の男というのは―――」

 戦いは終わってなどおらず、むしろ。


「久しぶりだね、レプリカルーク」


 召喚台に立っていたのは、仮面をつけた、緑の髪の青年。

 その姿を視たルーク、ティア、ミュウは驚愕の表情を浮かべた。

 そう。

 戦いの本番は、むしろこれからだったのだ。








「シンク!!」

 ルークはフォニックブレードを構え、目の前にいるはずのない男の名を呼ぶ。

 台の上で佇む青年は、ゆっくりと仮面を外した。

 そこにいたのは、歳は間違いなく20歳前半ともいうほど成長した、あの『烈風のシンク』の姿がそこにあった。

 アスナたちは、そしてネギは見た。

 青年の異様な程ほとばしる殺気と、虚無を映し出す絶望の瞳を。

 彼女たちは否応がなく呑まれてしまった。

「久しぶりだね、レプリカルーク。そしてメシュティアリカ。あんたまで来てるとは思ってなかったから驚いたよ」

「・・・・・・どうしてお前がこの世界にいるんだ? それにお前は―――」

「そう、僕は死んださ、お前達に敗れてね」

「「「「「「!?」」」」」」

「だけど僕を構成する音素が乖離を起こして完全消滅する瞬間、こちらの世界のフェイトたち一味に召喚されたのさ。まあ、それは本当に偶然であり彼らも意図した訳ではなかったんだけどさ」

 本当に僕自身も驚いたよ、とおどけたようにシンクは言う。

 ネギは少年の態度に思わず力を抜きかけたが、アスナたちは警戒心がむき出しだ。

「ここに来た時は驚いたよ。身体が3歳の姿にまで縮んでるしさ。魔法世界は大戦真っ只中だったし」

「・・・・・・それで、貴方は何をしているの? いえ、何をしようとしているのかしら?」

「そんなの決まってるだろ?」

 刹那、シンクからの殺気が桁外れに膨れ上がる。

 ルークもティアも構え、アスナは咸化法を発動し、刹那も詠春も刀を構えた。木乃香は怪我をしている刹那や詠春の治療に当たる。

「・・・・・・お前達を、いや、この世界を壊す為さっ!!」

 彼の怒りの声は、ビリビリと肌を突き刺し、気圧される。

 既に夕映たちは腰を抜かしていた。

「この20年、この世界を観て実にくだらないと思った。第七音素のない世界に来たと思ったら、やはりこちらにも第七音素は存在した!! まだ発見されてないだけでね」

 シンクは鼻笑いをし、手袋をつけ始める。

「いい加減ウンザリだよ・・・・・・能天気なこの世界も、第七音素の能力者だる魔法無効化能力者を狙う魔法世界の人間もね!!」

「じゃあ、何でお前はさっきの奴らと一緒にいた!?」

「それは役割だからさ。あいつらの目的を叶える事が、ほどよく僕の目的にも近づく。そして何より、あいつらはこの僕に意味を与えてくれた」

 シンクの言葉に初めて憤怒以外の感情が宿る。

 それは、喜び。

 彼の言葉の意味が解るから、ルークたちは顔を顰めた。

「もう、ただの肉隗なんかじゃない。そして今度はあんた達は2人しかいない。どこにも負ける要素なんかない!!」


 ―――パンッ!!―――


 シンクは掌に拳を打ちつけ、重ね合わせる。

「前とは違う。僕のこの身体ももはや普通の肉体。能力は未だに劣化しているとはいえ、この20年でかなり鍛えた導師の力!!」

 ゴゴゴゴゴゴと、大地が震え、激震が彼らを襲う。

 そこで初めて、この揺れはシンクと呼ばれている少年が起こしているのだと、夕映やネギたちが理解し、驚愕した。

「今度こそ決着をつけようよ。この世界では、どちらを生かそうとしてるのかさぁ!!!!!」

 シンクの身体が消えた。

 その瞬間、ルークの目の前に出現し、高速の蹴りをぶつけてくる。

 その凄まじい程のキレは、何発かは確実に入ってしまった。

 シンクは笑いながら叫ぶ。

「良いこと教えてあげるよ、レプリカルーク! 僕はこっちの世界にきてディストを手伝っていた記憶から、カイザーディスト号を作り上げた。あれを世に放ったらどうなるかな?」

「なっ!?」

 左切り上げを見舞うが、それを何なく避けられ、シンクは再び高速移動を始める。

 詠春と刹那の目の前に現れたシンクは、眼を大きく見開き大きく身体を捻り上げ、回天する。

「あんた達もどうかしてるよね、造り者のレプリカを友だなんて思ってるんだからさぁ!!」

「黙れッ! 神鳴流奥義! 雷鳴剣!!」

「家族になるのに、それが条件に入る訳ではないでしょう!!」

 天から落ちてきた落雷は、シンクに見事に直撃する。

 龍宮に促されて後ろに避難していた夕映たちは、確実に命中した事で、ムカツク言葉を吐く悪者のお兄さんを倒した、そう思った。

 だが、まるで何でもないかのように、シンクの動きは止まらない。その事に信じられないといった顔をする刹那。

 シンクはニィッと笑って、己の奥義を放った。

「連撃行くよ…!《疾風雷閃舞! これでとどめだぁッ!》」

「ぐっ!!」

「ガハッ!!」

 刹那の雷鳴を纏ったシンクの高速体術による、閃光のような連撃は刹那たちを痛めつけ、地面にたたきつけた。

「刹那!! 詠春さん!!」

「せっちゃん!! お父様!!」

 ルークはシンクへ飛び掛り、連続突きの秋沙雨からFOF変化を起こす!!

「ただで済むかよ!《烈震! 千衝破!》」

「聖なる槍よ、敵を貫け!ホーリーランス!」

「魔法の射手・光の11矢!!」

 ルークの目にも留まらぬ連続突きはシンクの白い衣装を切り刻み、光の巨大な槍はシンクの肩を貫いて血が舞い散る。それを見逃さず、ネギは横から魔法の矢を打ち込んだ。

 さすがのシンクもこれには吹き飛ばされ、地面に手をついて止まった。

 刹那と詠春はシンクにやられたダメージが大きく、身動きが取れない。

「ふ~ん・・・・・・どうやら今度もアンタにはお仲間さんがいるみたいだね」

「ああ、俺には勿体無いくらいの、いい子たちだ」

「・・・・・・やっぱりイラつくよ、アンタも、そしてお前らもさぁ!!」

 シンクとルークはお互いに激突し、だが体格からルークが押されてしまう。

 ようやく留めた場所は、ちょうどティアやネギ、アスナたちがいる場所の中央。

 その立ち位置に、ハッとなった。

「みんな離れ―――」


「もうおそいよ!! これでとどめだぁッ! アカシック・トーメント!


「きゃああああああああああああ!!」

「うわあああああああああああああああ!!」

「ぐっ―――!!」

「きゃっ!!」

 地面に巨大な譜術式が浮かび上がり、そこから光の粒子が彼らを痛めつけるように、全身を襲った。

 アカシック・トーメント、それはシンクの最強必殺技。

 その粉塵爆発、もしくは核粒子爆発でも打ち込まれたかのような衝撃に、ティアも刹那も木乃香もアスナも詠春もネギも、そしてルークまでもが倒れこんだ。

「「「みんな!」」」

 夕映や亜子、美砂は遠くから見ていた為に被害はなかったが、それでもあまりの光に目が眩んだほどだ。そして友人と想い人が倒れている姿を見て顔色を変え、慌てて駆けつけようとする。

 だがそれも古に止められた。

「いっては駄目ネ。実力が違いすぎる。殺されるだけヨ」

「でもっ!!」

「私も行きたいんだけどネ。恐怖で身体が動こうとしないよ。こんなの初めてネ」

「私もだ」

 古も龍宮も、シンクの世界を憎む憎悪を肌で感じとり、その凄まじいほどの憎悪に身体が硬直していたのだった。

 彼女達は、夕映たちを逃がすだけで精一杯だった。

 一方でみんなが倒れた場所では、何故かシンクが驚いた顔を浮かべていた。

 なぜなら自分の譜術を混ぜた攻撃を、ほんの僅かとはいえ、軽減した者がいたからだ。

 その者の名は、神楽坂アスナ。

 アスナは呻き声を上げながら、ゆっくりと顔を上げる。

「いたぃ・・・・・・今のなんなの・・・・・・シャレにならないわよ、この痛さ」

「へえ・・・・・・君、まさかセブンスフォニマー? しかも超振動を1人で起こせるレプリカルークと同じで生粋の第七音素集合体か」

「・・・・・・え?」

「今、無効化しようとしたでしょ? さすがに同じ第七音素の攻撃は完全には無効化できなかったみたいだけど」

「無効化? ・・・・・・第七音素? なに、それ」

 ズルリ、と身体を引き摺り起こす。

 この事は、聞かねばならないと、アスナの直感が警鐘を鳴らした。

 だがシンクはアスナの髪の色、そして両眼の眼をみて、何かに気付いたように目を見開いた呟いた。

「まさか・・・・・・お前はあの時の・・・・・・」

「え?」

「・・・・・・驚いたよ。まさかあの時の女が生きて、ここにいるんだから」

「な、何言ってるのよ!?」

「さてね・・・・・・それより、あんたの親友はいいのかい? 未だに魔法界で放浪してるみたいだけど」

「親・・・・・・友?」

 ズキリと走る鈍い痛み。一瞬だけ、なぜか目の前の青年と姿がダブり、それを即座に否定した。

「なんだ忘れたんだ。まあいいけど。僕もアイツなんかどうでもいい。死のうが知ったことか」

 シンクはクククッと笑ってルークへ近づいていく。

 ルークは必死に身体を起こし、膝とつく程度までは上体を起こすことに成功したが、まだ身体が言う事を利かない。
 
 ルークは実は超振動を2度も使ったことで、身体にガタがきていた。だからシンクの必殺技の第七音素を第2超振動で打ち消すことができなかったのである。

「無様なものだね。コチラの世界のお仲間は役立たずばかり。そしてアンタは結局は何もできなかった」

「・・・・・・だからどうした」

「手始めに、まずは彼女たちから殺してあげようか? そうしてジワジワと甚振っていくのさ!」

「シンクぅ!!」

「何その目は。あんたは僕に負けたんだよ。認めたらどうだい? 自分がやったスコアが未来の選択肢の1つだなんてくだらない理想であることも、あんたがアッシュのレプリカであり使い捨ての人形であることもさ」

 シンクの言葉に、倒れていた刹那と詠春、木乃香とティア、ミュウも立ち上がり始めた。

 彼の言葉は、彼女たちに怒りの炎を灯したようだった。

 そしてルークの口から、彼女たちにとっては嬉しく、そして悲しい言葉が零れ落ちた。

「・・・・・・俺は、自分の歩んできた道を、皆と出会って悲しんで辛い想いをして、絶望しても後悔はしたりしない!」

 ルークは叫ぶ。

「例え昔に戻れたとしても、きっと俺は何度でも同じ道を選ぶ! 世界を救うし、シンク、お前が変わらない限り俺はお前と戦う! だからシンク、お前の言葉なんか俺は聞かない!!」

「・・・・・・あっそ。もういいや。あんたムカツクから、もう殺してあげるよ」

「シンク! やめてぇ!!」

「ご主人さまっ!!」

 シンクは手等を振りかざし、魔力で強化した硬度な拳を彼の頭部へと振り下ろした。

「「「「ダメ~~~~~~~~~!!!!!!」」」」

 彼女たちの叫びは、月が照らす宵闇の湖畔にとどろいた。

 シンクの手等は無情にもルークの頭部へ迫り、頭を叩き割ろうと振り下ろされた。

 そして・・・・・・。

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パシッ!!





















小僧・・・私の親友に手を出すとはいい度胸だな

























「エヴァンジェリンさん!!」

「エヴァちゃん!!」

 シンクの手等が頭部に叩き込まれるその瞬間、ルークの陰から腕が出現し、シンクの腕を絡め捕った。

 その手の主は、ヴァンパイアの真祖・エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。

 ルークの酒飲み友達にして、密かにお互いを親友と感じていたお姫様だった。

 彼女の登場に、アスナや刹那・木乃香が喜び、ネギが安心したようにエヴァの名前を呼ぶ。

 一方で地獄の底から這い出てくる死神のような声に戦慄したのはシンクである。

「陰を使った転移魔法!?」

「死ね! エクスキューショナーソード!!」


ドガンッ!!


 ゼロ距離で放ったエヴァの攻撃は、シンクをはるか先まで吹き飛ばした。

「大丈夫ですか、ルークさん」

「茶々丸・・・・・・助かったよ」

 エヴァがぶっ放す直前にルークを掻っ攫った茶々丸。そのお陰でエヴァは躊躇いなく攻撃したのだが・・・・・・。

 あと一歩でも遅かったら直撃だったんじゃ?

 その事にヒヤリと背が寒くなるルーク。

「おいルーク、大丈夫か? ずいぶんとやられたようじゃないか。詠春もな」

「ハハハ・・・助かったぜ、エヴァ」

「助かりました、エヴァンジェリン。貴方がまさか来ていただけるとは」

「ふん・・・私はこいつの親友なんでな。それにコイツには借りがある」

 借り? ふとルークは首を傾げ、そしてペンダントのことだとやっと気付く。

 エヴァは吹き飛んで湖に叩き込まれたシンクの方を見遣りながら、意地悪そうに言う。

「それにしても、私を除け者にして面白そうな奴と戦ってるじゃないか。あいつは何者だ、ルーク」

「あいつは・・・・・・烈風のシンク。世界最強と称された連中の1人だ」

「ほぅ・・・・・・まあ、先の力の波動ではそれも当たり前か」

 大気を、そして地上を振動させたシンクの力を視ていたエヴァは、フムと頷き、遠くを見つめる。

「エヴァ」

「ん? なんだ?」

「黒のパンツが見えてる」

「死ね!! 殺す!! っていうかドコを見ている!!」

「いや、だってこんな近くで飛び上がってるから・・・・・・」

「でも見るな~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

「ああ、マスター。とても楽しそう、いえ、嬉しそうです」

「そこのボケロボ! 眼科にいけ!! っていうか、この状況でソレはいろんな意味でヤバイぞ!?」

 ルークの頬を張り飛ばし、ガクガクと首を揺するエヴァ。

 ゼーハーゼーハーと荒い息を零すルークとエヴァ。実に滑稽だ。

 エヴァは気を取り直すように外套を翻し、チラリと泉を見た。

「チッ、逃げたか」

 エヴァはつまらなそうに漏らすが、ルーク達の下へやってきた全員に、どこからともなく声がかけられる。

『今日のところはこの辺でやめとくよ。だけどよく覚えておくんだね。レプリカルーク、メシュティアリカ。そして第七音素の姫君。魔法世界はこれから激動の乱世に突入するだろう。いずれ君達のいる麻帆良学園も戦場になる。覚悟しとくことだ!!』

 シンクの言葉が、激戦となった湖畔に響き渡った。

 ただ、誰もがシンクの言葉が真実だと理解し、これから先の未来に不安を覚える。

 それでも、今は敵の脅威が去り、自分達は戦いに勝利し守れることができたんだと、ルークたちは安堵の溜息を漏らすのであった。











あとがき。
シンクつえええええええええええええええ。

っていうか、アスナの親友が誰かモロバレじゃん!(笑)

とりあえず、修学旅行編は次回で終わりです。

次回はもっと楽しくしたいなぁ。

 
 執筆中BGM 【Peace of mind】