「やるやないか新入り!」

「意外と楽だったよ。油断していてほとんど一発だったし」

「なるほど・・・・・・ほんなら、さっさと作戦最終段階に入りましょか」

「そうした方がいい。カード妨害の方は?」

「ここ周囲一帯に貼っとるから大丈夫や」

「そう・・・・・・なら早く作業に入った方がいい。僕も知り合いに増援を頼んである」

「気が利くやないか新入り。ほんなら、さっさと行きましょか」







     第20章 禁じられた宇宙魔法

 








「アスナさん! 無事でしたか!?」

 カモと一緒に廊下を歩いていたネギは、異様な魔法の力を感じて走り出し、屋敷内の使用人たちが石像にされている光景を視たのだった。

 思わず過去の記憶が脳裏に過ぎったが、生徒たちの事を思い出して皆がいる場所に急行した。

 障子を開けた先に広がっていた光景。

 それは、宮崎のどか・早乙女ハルナ・大河内アキラ・朝倉和美が石像にされた、物言わぬ姿であった。

「・・・・・・みなさんっ!!」

「兄貴! お嬢ちゃんたちは無事だっ! いずれ関西呪術協会の術者が治してくれるさ!」

「う・・・・・・ぐっ」

「きっと前襲ってきた奴等ですぜ! 早く体勢を立て直して長に助けてもらおう!」

 カモの言葉で悔しそうに歯噛みするネギ。ふと、京都駅でルークに言われた言葉を思い出した。

(どうしよう・・・・・・僕の所為だっ! ルークさんの言った通りになっちゃった・・・・・・僕のせいでっ!!)

「兄貴っ! ルークの兄貴や姐さんたちは無事かもしれない! 早く探さないと!」

「っ―――うん!」

 アスナたちのことを思い出したネギは、風呂の中で詠春から聞いた事情を思い出し、廊下へ飛び出した。

 すると、向こうの廊下からアスナや刹那や木乃香が走ってくる。

「ネギっ!」

「アスナさん! みなさん! 無事でしたか!」

「敵が来たんでしょ!? それでルークやティアさんと合流しようかと思って!」

「急ぎましょう! 石化された皆さんには手出しはしないはずですから、今は長たちと合流してっ―――」

「刹那くん・・・・・・木乃香・・・・・・ネギくん!」

 角からいきなり現れた詠春。聞こえてきた声に安堵した皆だったが、その姿を見て凍りついた。

「長っ!!」

「お父様!!」

「詠春さん!!」

「も、申し訳ない皆さん・・・・・・このか。本山の守護結界をいささか過信していました。平和に浸りすぎていた所為か、不意を喰らってこの様です。かつてのサウザンドマスターの盟友が情けない・・・妻も石化されました」

 徐々に、その身体が石化していく。

 このかはちゃんと治せると解っている。しかしそれでも辛くて悲しい。目には涙が浮かんでいた。

「いいですか、みなさん。白い髪の少年に気をつけなさい・・・・・・格が違う相手だ。おそらくルークほどのレベルでなければ対処できないでしょう・・・・・・っ」

「長っ!」

「学園長にも連絡しな・・・・・・さい・・・・・・スイマセン・・・・・・このかを、たの・・・・・・み」

 そして、ついに詠春は完全に石化してしまった。

 皆の間に、冷たい風が吹き抜ける。全身に寒気と嫌な汗が零れる。

 日本を2分する勢力の頂点の人物がやられたのだ。場に絶望が漂って誰も声を発することができない。

 その瞬間だった。

「皆、大丈夫か!」

「みんな、大丈夫!?」

 反対から走ってきたルークとその後ろにいる夕映。

 そして手前の部屋から、戦闘服に着替えたティアが険しい顔で出てきた。

「大丈夫だったか、よかった・・・・・・って、詠春さん! ・・・・・・なるほど、そういうことか」

「あの白い髪の少年の仕業みたいね。実力的にそれしか考えられないわ」

「そうだな・・・・・・って、待てよ・・・・・・ティア、あれだ!!」

「そうね!」

 ティアはごそごそと道具袋を漁り、1つのビンを取り出した。

「そんな無茶ですぜ! この石化は尋常じゃない魔力で施してある! そんな魔法骨董具なんかで!」

「いいから黙って見てろって」

 カモの叫びをルークが封じる。

 ティアはビンの蓋を抜いて石化した詠春に振りかけた。

 するとどうだ? 石化した詠春が徐々に元通りに戻っていくではないか。そして完全に回復するのに時間はかからなかった。

 そのビンは、『パナシーアボトル』という、どんな状態異常だろうが瞬時に回復する代物だ。

 ・・・・・・何て卑怯な。

「・・・・・・私は」

「お父様! よかったぁ!」

「長っ! ご無事で何よりです!」

「大丈夫ですか詠春さん。石化は道具を使って解呪したんで安心してください」

「そういう事ですか・・・・・・では急いで体勢を整えましょう!」

「木乃葉母上は!?」

「妻の事は後回しです。全て解決してから戻しましょう」

「・・・・・・そうですね。じゃあ―――」

「きゃああああああああああああ!!」

「っ―――しまった!!」

「このかっ!」

「このかちゃん!!」

「このちゃん!!」

 背後からの悲鳴に反射的に反応したルークたちだったが、視界に飛び込んで来た光景は、水の中に引きずり込まれて頭部しか出ていない木乃香の姿だった。

 全力の瞬動術で木乃香を掴もうとするが、強制転移魔法が一歩速く、木乃香は連れ去られてしまった。

「このちゃん!! このちゃん!!」

「このかさん!」

「「このか(さん)!!」」

 取り乱す刹那とネギ。アスナと夕映は真っ青な顔で何度もこのかを呼んだ。

 一方でルークと詠春、ティアは一瞬だけ動揺したが、すぐに引き締まった表情へ変わり、頷き合う。

「・・・・・・予定変更ですね。このかの救出にいきます」

「ああ。急ごう」

「私も全力でやるわ」

 ルークたちの言葉にハッとなった刹那たちは、コクリと頷いたのであった。





「なんやの、いったい・・・・・・うち、わけわかんないよ・・・・・・」

 森の中を走っている和泉亜子。

 彼女は突然自分に、いや自分達に降りかかった訳の解らない事態に混乱して、ただ走っていた。

「ルークくん・・・・・・助けてっ」

 部屋でトランプをしていた彼女たちは、停電と共にいきなり早乙女が石にされたのだ。

 悲鳴を上げた亜子だったが、のどかが石にされた途端、大河内と朝倉が亜子を外へと突き飛ばしたのだ。

『亜子、逃げて!』

『誰かに救援を求めるんだ! 頼んだよ!』

 親友と朝倉の言葉の直後、部屋を灰色の霧が吹き上がり、亜子は必死でその場から逃げ出したのだった。

 アキラはどうなったのか、自分の理解を斜め上に行く展開に混乱は激しくなる一途だった。

 だから、何度もルークに助けを求めていた。

 だが。

 彼女はギリギリのところで踏みとどまった。

 自分は彼の隣に立ちたいと願ったはずだ。尊敬していたはずだ。そんな自分が逃げ出してどうする? 助けばかり求めてどうする?

 亜子は、ガタガタと震える手でポケットから携帯を取り出して、朝倉との約束を果たそうとしたのであった。

 それが、現在の彼女の精一杯だった。





「待て! そこまでだ! お嬢様を放せ!」

「天ヶ崎千草、私の娘を解放してくれませんか? 明日には貴方を捕縛しに大勢の部隊がやってくるでしょう。今ならまだ罪も軽い」

「おや、長自ら来るとは・・・・・・ふふん、応援が何ぼのもんや。こっちにだって切り札があるんや。それよりアンタらにもお嬢様の力のいったんを見せたるわ」

 完全に拘束されたこのかは抵抗できず、そして胸元に札をつけられる。

 それは他者が付けた者の力を操ることができる札。

「オン・キリ・キリ・ヴァジャラ・ウーンハッタ!」

「んんっ!! ん〜〜〜!!」

「木乃香!!」

 苦しそうに悲鳴を上げる木乃香。彼女から強制的に莫大な魔力が捻出されるのを感じる。

 そしてそれは、召喚に使われることになった。

 ルークたちを取り囲むように出現した鬼の数は、およそ500体。

 あまりにも数が多すぎて、周りの景色がまったく見えない。

「ちょっと、ちょっと、こんなのありなの〜〜〜〜〜〜〜!?」

「やろ〜、このか姉さんの魔力で手当たり次第に召喚しやがったな・・・・・・だが多すぎるぜ、これは」

「あんたらにはその鬼と遊んでてもらおか。今日やおとついのお返し出血大サービスや。ま、ガキやし殺さんようにだけは言っとくわ。ほな、サイナラ」

 嫌な笑みを浮かべた千草や白髪の少年、そしてこのかを抱えた鬼・ルビカンテは空へと跳躍して去っていく。

 囲まれたルークたちは、全周囲警戒しながら、ボソボソと耳打ちしていた。

「ネギ」

「は、はい」

「少しの間、時間稼ぎになるような結界みたいなのないか?」

「あります!」

「じゃあ、頼む」

 ルークに頼まれたネギは『風花旋風・風障壁』と呼ばれる風の結界を発動させた。

 彼らだけが、風の竜巻の中でその身の安全が保障された。

 ただし、その時間は2・3分だ。

「よし、手短に作戦立てようぜ!? どうする、こいつはかなりまずい状況だ」

「2手に分かれましょう」

 カモの言葉に詠春が即座に返した。さすがは歴戦の勇士である。

「・・・・・・このかさんが攫われたのは、僕が原因です。ですから僕は救出の方に行きます」

「では私は―――」

 刹那がこの場に残る、そう口にしようとした時、それを制するようにティアが口を開いた。

「この場には私とルークだけ残ります。皆さんは救出に行ってください」

「そんな、2人でなんて無茶よ! 何人いると思ってんの、あれ!!」

 アスナは無謀だと叫ぶが、ルークは頷きながら口を開く。

 そしてティアは既に魔力を全身に溜め始めていた。

「いや、2人で十分だ。アスナたちはネギの手伝いをしてやってくれ」

 詠春は木乃香の父親なのだから、救出に行くのは当然だ。

 そしてそんなルークとティアの2人を見ていた詠春は、小さく、けれど力強い視線で頷いたのであった。

「わかりました。それで行きましょう」

「そんなっ!!」

「アスナ、親友を助けたいんだろ? ならここは俺達に任せろ。それに俺とティアは、多人数の相手するのは慣れている」

 不敵に笑うルークにアスナや刹那は呆気にとられ、そしてゆっくりと信じるように頷く。

「・・・・・・わかった! お願い!」

「ルーク、お願いします」

「任せとけって!」

 みんなが、全員を見やって頷きあう。

「それじゃあ、ここは手札が多い方がいいということで、兄貴と仮契約を―――」

「いやです」

「あんたはお金が目当てでしょうが、このエロガモ」

 嬉々として契約魔法陣を描き、張り切りながら言うカモだったが、あっさりと一蹴された。

 かなり哀れだ。

 だが。

 その魔法陣の上に自然な動作で乗ったティアは、ルークを引き寄せて頬を両手で挟み、そっと唇を重ねた。

「「あああああああああああ!?」」

「むほっ!♪」

 嘆きの声を上げるアスナと刹那に親父臭い声のカモ。そして詠春はそんな彼らを見て苦笑していた。

 ゆっくりと、ティアとルークの唇が離れた。

「・・・・・・ティア」

「約束したじゃない・・・・・・いいでしょ?」

「ああ・・・・・・・ホントにティアには驚かされるよ」

「ふふふ」

 微妙に照れているティアとルーク。彼女の手には一枚のカードが握られていた。

 それは、ティアがルークの従者になった証である。

「結界が収まります! 準備してください!」

 自分の結界の力にハッと気がついたネギは、魔力をぶっ放そうと始動キーを口にする。

 しかしそれすらティアに塞がれた。

「貴方は魔力に余裕を持たせておきなさい。ここは私に任せて」

「・・・・・・お願いします!」

 結界が、解ける。

 ティアは、ゆっくりと手を天空へと振り上げ、風の障壁が消えた瞬間、ハッキリと叫んだ。


「大地の咆哮、其は怒れる地竜の爪牙! グランドダッシャー!


 それは、広範囲用上級攻撃譜術。ジェイドの得意呪文だったやつだ。

 それをティアは、確実に彼以上の魔力によって一気に10分の1の鬼たちを押し潰したのである。

 その隙を見逃さないネギたちは、ネギのホウキにアスナが乗り、詠春が飛行用の札で刹那を引っ張り上げて千草たちを追いかけていった。

「さて、と。派手にいきますかティア」

「ええ。後ろの彼女達も手伝ってくれるみたいだし」

 そうティアが口にすると、草葉の陰から龍宮と古が出てきたのである。

「おまえら!!」

「ルーク。応援にきたヨ」

「助っ人料は学園長からもらえるらしい。私も微力ながら手伝おう」

 そんな彼女たちの後ろには、隠れるように亜子と夕映、そして柿崎がいたのだが・・・・・・それはルークたちからは見えなかった。

 そして鬼がニヤニヤとしながら近づいてくるを察知した彼らは真剣な表情で睨みつける。

 ティアは鬼を見据えながら、そっと呟いた。

「アデアット」

 手の中に現れた物は、不思議な形をした真っ白の『2丁の銃』であった。






 一方で空を飛んでいたネギたちは、泉に千草たちがいるのを確認すると、大急ぎで向かっていた。

 何か大規模な召喚をするらしく、とてつもなくデカい魔法陣を敷いていた。

「まさかスクナを復活させる気では」

「スクナ?」

 詠春の声は刹那たちに聞こえていたらしく、首を傾げて問う。

「ええ、昔私や―――危ない!」

 詠春は視角から飛んできた攻撃に、斬空衝という技を放ち迎撃する。

 皆が攻撃元を探すと、下にはネギが昼間に倒した小太郎と呼ばれていた少年が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「ネギ! どこにいくねん! 決着つけようやないか!」

「小太郎君!」

「ネギ君、ここは戦ってはいけません。先にこのかを救出しなくては」

「は、はい」

「なんや逃げるんか!?」

「むっ!」

 小太郎の挑発にあっさり乗るネギ。そんな彼に刹那も詠春も慌てた。

 そんなネギに、小太郎の背後からある人物が登場し、彼を諌めた。

「ネギ坊主。あっさり敵の挑発にのるなど、精進が足らぬでござるよ」

 その人物は、長瀬楓であった。

「長瀬さん!」

「和泉殿から柿崎殿経由で電話を貰ったでござる。さあ、ここは拙者に任せていくでござるよ」

「で、でも!」

「兄貴! あの姉さんはかなりデキルっすよ! ここは任せた方がいい!」

「う、うん。わかった」

 それでも躊躇いを露わにするネギは、業を煮やした刹那によって無理やり引っ張られていった。

 そんなネギたちを見て、小太郎は不満そうだ。

「なんやねんアイツ、結局逃げよった。なあ姉ちゃん、邪魔せんといてくれるか?」

「小太郎といったか。言葉を返すようでござるが、こちらからすれば小太郎の方が外道な連中に手を貸す上に邪魔しているでござる」

「・・・・・・言ってくれるやんか」

「ふ・・・・・・なに、事実を言ったまでのこと。甲賀中忍・長瀬楓、参る!!

 長瀬楓。彼女は相手を挑発し、戦いの空気を自分の有利な方へ巧みに持ち込んだ。

 彼女は、大局を見誤り、形として木乃香を後回し・見捨てる行為をやりかけたネギとは違い、非常に優秀であった。






「虎牙破斬!」

 ルークたち麻帆良組み対鬼500体の戦いは熾烈を極めた。

 上下への連続斬りで鬼を両断したルークだったが、止まる暇はなく剣を振り上げる。

 一方でアーティファクトを手に入れたティアはというと。

 彼女の銃は非常に優秀であった。何しろ弾を詰めなくてもいいのだ。

 弾は使用者の魔力で精製する。そしてそれは弾の大きさも自分の意思次第でどうにでもなるのだ。

 ドンドンドン

 激しい銃撃音が響かせて、ティアは鬼を次々に還していく。

 また龍宮もデザートイーグルを獲物に、次々と鉛球をぶち込み倒してく。古は基本的に自分と同じ程度の力量の相手と戦っている。

 彼女は裏の戦いが初めてなのだから、当然である。

「ルーク! 時間稼ぎをお願い!」

「わかった!!」

 堪らなくなったようにティアは叫び、そして大きく後ろへ跳躍し、夕映たちが隠れている前、つまり岩場の上に着地した。

「ひゃっ!」

「驚いたです」

「・・・・・・・・・・・・」

 いきなり人外の戦いを見せ付けられた夕映・亜子・美砂は、ティアの跳躍に驚いていた。

 ティアはそれを無視して力を解放していく。魔力の取り込み作業だ。

「・・・・・・・・・・・・」

 ぶつぶつと小さく囁き続ける彼女は、じっとりと額から汗を流す。

 それほど負担が大きいという事に変わりはなく、そしてそれは美砂たちが心配するほどのものだった。

「魔人剣!!」

 ルークは突っ込んでくる大群の群れにぶち込み、いっきに間合いを詰めて連続斬りを放つ。

 彼の鋭い剣閃は確実に鬼を始末していくが、いかんせん敵が多かった。

 徐々にジリ貧となってしまう。

 巨大な棍棒はルークを押し潰す圧迫感があるし、偶に見かける別格の鬼供。

 おそらく自分とティア対策でこの数を召喚しやがったな、とルークがは歯噛みする。随分と用心深いものだ。
 
「む・・・・・・こらいかん! 野郎ドモ、あの岩の上の姉ちゃんを早く殺せ!!」

 奇妙な魔力の流れを感じ取ったのか、鬼供のリーダーと思しきやつが叫ぶ。

「させるかよ!! 絶対にティアには近寄らせねぇ!!」

 ルークは瞬動術で道の前に立ちふさがり、移動中に溜めた魔法を開放した。

「終わりの安らぎを与えよ! フレイムバースト!」

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 豪火の塊は、正確に鬼の一団に着弾し、焼き尽くす。

 その炎の威力に驚愕したのは鬼であった。

「な、なんちゅう威力や! 最近の子供には強い奴が多いのぉ!」

「ハハハ・・・・・・俺のこの程度の魔法で驚いていたら、お前等次の魔法に耐えられるかな?」

「なに?」

 チェックメイトだ、そうルークは呟いた。

 その瞬間、鬼の400体近くは一斉に天空を見上げた。

 そして次に気付いたのは、古を抱えて回収したルークと龍宮がしっかり岩の上に上っていて、障壁を貼っているところ。

 ―――なんか、夜空の星が大きくなって、ないか?

 そう呟いたのは誰だったか。

 だがそれは錯覚じゃなかった。

 けれどどうして予想がつくだろうか。そんな魔法は聞いたことがないし、明らかに人間でできる範疇を越えている。

 鬼たちにとって嫌な悪夢は、まさに現実のものとして彼らに降りかかった。
 
「無数の流星よ、彼の地より来たれ! メテオスォーム!

 広大な天空から降ってきた無数の隕石軍。それは圧倒的な質量と圧迫感、そして蹂躙する力をもって破壊した。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「・・・・・・今の、軍事衛星とかに引っかかったんじゃないでしょうか?」

「っていうか、天体観測とかしてる人がおったら、喜ぶんちゃう?」

「なんか、隕石の着弾って、すごい綺麗でまぶしかったね」

 もはや非常識な展開に驚き疲れしてしまったのだろうか。夕映と亜子と美砂はお互いに突っ込みばかりやっていた。

 凄まじい衝撃は大地を大きく揺らし、未だに砂埃は消えることがない。

「・・・・・・やっぱり、負担が大きいわ」

 ティアは「ウッ・・・・・・」と呻き声を上げて、膝を着き蹲った。身体を抱きかかえている所から、魔力をほとんど使ったらしい。

 そりゃあ、宇宙まで自分の力を及ばせたら当たり前だろう。

「大丈夫か、ティア!」

「・・・・・・なんていうか、非常識すぎて声がでない気分だけど、とりあえず大丈夫かい?」

「すごいヨ! ほんとに驚いたネ!!」

 興奮する古に呆れ顔の龍宮。

 ルークはティアをそっと支えながら、心配そうに顔を覗き込んだ。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 やはり息が荒く、辛そうだ。

「もう魔法力は残ってないんだろう? 私達がネギ先生の応援に駆けつけてくるよ」

「そうネ。待ってるといいアルよ」

 ティアの様子に心配する2人。しかしそれは、『普通なら』の話であった。

「大丈夫だって2人とも。ほい、ティア」

「ありがとう、ルーク」

 彼から受け取ったのは、黄色のグミ。

 何をこんな時にお菓子なんか、そう龍宮は言おうとしたが、ティアが口に含んで飲み込んだ瞬間、それまで苦しそうだった彼女の顔がいきなり良くなったのだ。

「!?」

「ああ、これはパイングミと言ってな。魔力が60%回復できるんだ」

「なんだソレは!? そんなものがあったのか!? 私は知らないぞ!!」

 普段冷静かつあまり喋らない龍宮。

 その彼女が唾をとばしまくって叫んでいた。

 ・・・・・・物凄い驚きようだな。

 壊れた龍宮を宥めようと古と一緒に、まあまあどうどう、とするルークであったが、突如前方に現れた巨大な化け物に、驚愕の表情を浮かべたのであった。

「なんだアレは!?」

「なんアルか、あれは!?」

「・・・・・・マズイわね」

 それは、飛騨の大鬼神と呼ばれ称された、スクナの復活の狼煙であった。







「刹那くん! ネギくん! 明日菜くん! 大丈夫か!?」

 関西呪術協会の近衛詠春はピンチに陥っていた。

 現場に到着した詠春たちは、白髪の少年とルビカンテと呼ばれる鬼と激突した。

 詠春は長いこと実戦離れした所為で、本来なら倒せるはずの白髪の少年と良い勝負を繰り広げたし、ネギはルビカンテで精一杯であった。

 残ったアスナと刹那がこのかを救出しようと動くと、突如目の前に身長170a位のフードで全身を覆った仮面の男に道をふさがれ、彼が転移魔法で呼び寄せた妙な機械兵器に圧倒的に押されていたのだ。

「刹那さん! このままじゃこのかが!」

「くっ―――」

 真の力の解放をしようかと悩む刹那。だが彼女にはそんな余裕すら与えられなかった。

「どこ見てるの?」

 フードの中から聞こえてくる声。

 男だということは解るが、どんな奴なのかさっぱりわからない。

「しまっ―――」

「遅い!!」

 男の蹴りが脇腹に入り、動けなくなる刹那。

 その隙を逃さず、アスナを投げ飛ばして腹部を強打する。

「きゃっ!!」

 気で強化したアスナもあっさり動けなくなった。

 余りにも、力の差がありすぎた。

 そんな彼女たちに気付いた詠春は声を張り上げるが、状況は全く好転しない。

 ネギは急いで助けようとするが、焦りがミスを呼び、なかなか倒すことができない。

「無駄だよ・・・・・・その彼はね、僕らの組織が召喚したんだ。そして協力者であり、僕ら異常に無慈悲かつ強い」

「黙れ!! 神鳴流奥義・雷鳴剣!!」

 詠春の必殺の攻撃をあっさりと跳躍して回避する白髪の少年。

 すると詠春の背後にはフードの男が。

 前には白髪の少年が。

 左右には見たこともない機械兵器が取り囲んだ。

 詠春は、まずは機械から倒して突破しようと画策する。

 しかし。

「無駄だ。この機械は僕の同僚のマッドサイエンティストだった奴が造った、カイザーディスト号という奴でね。こちらの世界の技術を織り交ぜたからその力は鬼の数百体分さ」

 仮面で顔を隠した少年が、卑しく口元を歪ませて愉快そうに笑った。

 詠春は感じていた。

 白髪の少年。たしかに実戦離れしている自分は弱くなったが、それでもなんとか倒せるはずだ。

 だが目の前のフードの青年には勝てる気がしない。

 実力云々ではなく、彼から洩れ溢れ出す殺気の濃度と、世界を嫌っているとでも言いだけな憎悪は、まるで死神のようだ。

 おそらく、年の頃からして20歳程度だと思うが・・・・・・こんな青年がまだいたなんて!

 詠春は大戦時代を思い出し、表情を険しくする。

 そして、ついにこのかの方でも作業が終わってしまった。

「ふふふ・・・・・・残念でしたなぁ。新入りとその知り合いのお陰で、儀式はたった今終わりましたえ」

 ドドドオオオンという轟音と供に、泉の中から昔自分たちが封印したスクナが現れる。

 もはや情勢は絶望的だった。

「雷の暴風!!」

 横から発射された、ネギの中でも1・2位を争う威力を誇る魔法は、寸分の狂いもなくスクナに命中した。

 しかしスクナにはまったく効果がないようで、まるで変化がない。

「終わりどすなぁ」

「・・・・・・もうちょっと楽しめるかと思ったけど」

 千草の勝ち誇った顔と、白髪の少年・フェイトという少年が呟き、辺りに敗北感が漂い始めた時であった。

 目の前のフードを被る仮面の青年が、倒れているアスナと苦しそうに腹部を押さえている刹那を一瞥して言った。

「ねえ、はやくルーク・フォン・ファブレを呼んでくれない? 僕、アイツに用があるんだよね」

「あ、あんた・・・・・・ルークに何の用なのよ」

 アスナは咳き込みながらよろよろと立ち上がり、フードの青年をギロリと睨みつける。

 そんなアスナへ、青年は楽しそうに、だけど怒りを感じさせる声で笑った。

「そんなの決まってるだろ! 殺したいからさ! 僕は20年前にここに召喚されてね、それからはただ何となく無作為に生きていた。けれどアイツが現れてから、僕は狂喜したよ。こんなところまで現れるんだからさぁ!!」

 ハハハハハハハハっ!! と笑い出す青年。その笑いがアスナの堪忍袋の緒をあっさり切る。

「殺すってっ―――! そんなことさせない!」

「別に君の意見なんか聞いちゃいないし、そんなのどうでもいいのさっ! ははははは、今度こそ目障りなお前を殺してやるよ、レプリカルーク!!」

 現れた大鬼神より、白髪の少年の不気味さより、場の主役は彼であった。

 彼の狂喜の雄叫びは、刹那やアスナ。そしてネギと詠春をぞっとさせるほどの、そしてどこか虚しい矛盾した質を持ち合わせていたのであった。












あとがき。
 ついに彼が登場!

 勘がいい人ならもう気付いているでしょう。私は彼もお気に入りのキャラです。カッコイイですよね。

 そしておそらくここで、この小説の裏設定も勘付く人が出てくると思います。それは内緒にしといてくださいね。

 何せ世界を渡ってきたのは、共通点は1つしかないんですから。

 ・・・・・・というか1回で終わらなかった。

 スイマセン。次はひたすらテイルズフィーバーです。今回はそうでもありませんでした(汗)

 なんというか・・・・・・次の話でネギまキャラで活躍するのって、カッコイイのって、あの人だけになるかも(笑)

 
 執筆中BGM 【Peace of mind】