「ご、ごめんなさい・・・・・・考えずに譜術使っちゃったわ」

「まあ、向こうは魔物とかモンスターが普通にいたからな・・・・・・別に壊したとしても追い払ったら感謝されたくらいだったし」

「モンスター、ですか。ゲームみたいですね」

「まあ、魔物って表現が正しいかもしれないけど、モンスターって言っても差し支えないかもな」

「へ〜、そうなんや〜」

「中にはめちゃくちゃ強いやつもいたなぁ」

「そうね・・・・・・そう考えると、この世界は本当に平和よ」

「そうだな」

「見てみたいような・・・・・・でも、こわいな〜」

「いろいろ良い事もあるんだぜ? お金は落としてくれるし回復アイテムも落としてくれる。敵によっては武器防具もだ」

「な、なんていうか、滅茶苦茶というか本当にゲームですね」

「ハハハハハッ!!」









     第19章 近衛木乃葉とルーク

 








 シネマ村から逃げ出した(バックレた)ルーク達は、関西呪術協会総本山前にやってきた。

 ルークとティア、そして刹那と木乃香。付いてきた夕映とハルナ、そして朝倉と必死に付いてきた亜子とアキラがいた。

 亜子とアキラはルークたちに撒かれることなく付いてきたのだが、柿崎たちとはハグれてしまった。

(さすがに奴等も一般人には手を出さないはずだが・・・・・・亜子たちも仮契約しちまったからな)

 仮契約した者はやはり一般人とは違う。それがバレたらマズイ。よって雪広たちは安全だと考えたルークだったが、彼女たちや夕映たちがついてくる事を良しとしたのだった。

「うわぁ・・・・・・ここなんて神社?」

 関西呪術協会総本山前に着くと、その全体図を見たハルナや夕映は感嘆の声を上げた。

 彼女たち(主にハルナ)からのシネマ村での一件に関しての追求はあったのだが、ルークが惚けるので聞いても仕方が無いと踏んだようで、それ以降は何も聞いてこなかった。

 ハルナはそこら辺の割り切りやケジメがとても優秀のようだ。

 鳥居を潜りしばらく歩いていくと、そこにはボロボロになってアザだらけのネギと、くたびれているアスナ、そして宮崎のどかの姿があった。

「「「大丈夫、ネギ先生!?」」」

 ネギの怪我に驚いた早乙女たちは驚いてネギに駆け寄り心配そうに尋ねる。

 子供が中々酷い怪我をしていたら、誰だって心配するだろう。そしてルークはその怪我の様子、そしてアスナが怪我をしていない事、のどかがこの場にいて特に普段と変わってない事で事態を察した。

 ネギはルークがジッと見ているのに気付いて、心配するアキラ達から抜け出し、ルークの前へ出てきた。

「・・・・・・大変だったみたいだな」

「はい、とても強かったです。僕1人の力で勝つつもりでしたけど、正直のどかさんの力とアスナさんがいなければ危なかったです」

「それでいいんじゃないか? そしてお前なりにがんばったんだろう?」

「え・・・・・・は、はい! もちろんです!」

「そっか。よくやったな」

 ネギは予想外のルークの言葉にビックリし、そして嬉しそうに笑った。

「アスナ、大丈夫だったか?」

「平気よ・・・・・・私なんて無視されてただけだったし・・・・・・ハハハ」

「ま、まあ、次にがんばればいいんじゃないか?」

「そうよね! よーし、がんばるぞぉ!」

 落ち込みっぷりが凄いアスナだったが、復活も早かった。

 ルークもニッと笑って、ネギの頭をガシガシと撫で、そして皆に言った。

「そんじゃ、いこうか?」

「はいな♪」

「ええ」

 ルークの横をティアが連れ添いながら、最後の鳥居を潜る。

 するとそこには、正に京都の屋敷、とでも評すべき巨大な屋敷が構えていた。

「うわあああああああああ」

「すごいです」

「うひゃ〜、これは凄いね」

 亜子・夕映・朝倉がビックリしたように声を上げた。ティアもすごい、と呟いて眺めていた。

 ルークや木乃香、刹那にとってもここは久しぶりの場所だ。

 そして皆が呆然としていると、正門からわらわらと巫女服衣装の女性たちが出てきて、一斉に頭を下げて言った。

「「「「「「「お帰りなさいませ、このかお嬢様っ――――!!!!」」」」」」」

「「「「「「「えええええええええええ!?」」」」」」」

 みんなの盛大な叫び声が、辺りに響き渡ったのだった。

 ・・・・・・なんでネギまで驚いてんだ?







「うっひゃ〜〜〜、家広〜い」

「このか、すっごいお金持ちだったんだね!」

「なんで教えてくれなかったの!?」

「すご〜い」

 通路を抜けて本堂へと入るその道すがら、彼女たちは関心しっぱなしだ。

 いいんちょの雪広の家で大きな家には慣れているとはいえ、和風の屋敷はまた別の凄さがあった。

 そして、道行く人々が全て腰を落として、歓迎の意を示してくるのだ。

 そこでふと気がついた亜子が、ルークへ聞いた。

「ルーク君ってさ、ここに住んでた事あったよね? ・・・・・・たしかそう聞いた覚えがあるんやけど」

「おお、よく覚えてたな。7歳の時に2ヶ月くらいな」

「懐かしい?」

「ああ、そりゃあな。かれこれ7年ぶりかな。刹那も久しぶりだろ?」

「ええ、もちろんです」

「そっかぁ、あんたもここに住んでたのね」

 ふ〜むと頷くアスナ。

 本堂に入り、面会用の部屋へ着くと、そこには煌びやかな建築風が広がっていて、巫女さんの使用人さんがたくさんいた。

 ルークたちは用意されていた座布団に座り、長が来るのを待つ。

 あまりの歓迎ムードに、夕映達のように初めて訪れた子たちは緊張していた。

 すると、小槌を叩く音と共に奥の暖簾の裏から、和装の中年男性が現れた。

「お待たせしました。ようこそ明日菜君、このかのクラスメイトの皆さん。担任のネギ先生」

「お父様! 久しぶりや〜♪」

「ははは、これこれ、このか」

「はぁ〜、このかさんのお父さんが西の長だったんですね」(ネギ)

「こんなお屋敷に住んでる割に普通の人だねー」(ハルナ)

「ってゆうか、ちょっと顔色悪いカンジだけど・・・」(朝倉)

「し、渋くてステキかも」

「あんたの趣味はわからんわっ――――!!」(朝倉)

「失礼ですよっ、朝倉さん」(夕映)

 何とも言いたい放題の反応である。何人かが長に対しての無礼な言葉に青筋立ててる人もいるが・・・・・・見なかった事にしよう。

 ネギは一枚の封筒を取り出し渡した。

「長さん、これを・・・・・・」

 渡したのは、東の長から西の長への親書。

「はい、確かに承りました、ネギ君。大変だったようですね」

「い、いえ」

 中を改める西の長・近衛詠春。

 なんか苦笑いを浮かべているが・・・・・・どんな事が書かれてあるんだろうか。

「・・・・・・いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。任務ご苦労!! ネギ・スプリングフィールド君!!」

「あ・・・・・・ハイ!!」

「「「お―――、おめでと〜〜! 先生!(何かよくわかんないけど)」」」

 詠春の言葉に、ワッと騒ぐ皆。

 彼はそんな皆をニコニコしながら眺めていたが、ふと笑顔が消えてルークへと向き直った。

「ルーク・・・・・・こうして直接会うのは、7年ぶりですね」

「はい。お久しぶりです、詠春さん」

「よかった・・・・・・」

 詠春は近寄ってきて、正座しているルークの前で屈み、彼を抱きしめた。

 とても心配していたと、ありありと伝わってきた。

 そんな彼らのやり取りに、騒いでいたハルナたちもピタリと止めて凝視する。

「・・・・・・心配していたんですよ、私も妻も、君を知る者たちも。そして青山の人たちも」

「自分の我が侭を聞いてもらって・・・・・・申し訳なかったです」

「いえ、それはいいんです。ですが皆へ顔を出してやってください。私が言いたいのはそれだけです」

「わかりました」

 身体を離した詠春は、ルークの隣に座る女性、ティアへと目を向けた。

「あ、詠春さん、彼女は」

「察しています。君から昔聞いた人ですね?」

 詠春の言葉に、ティアは立ち上がってペコリと頭を下げた。

「はじめまして、メシュティアリカ・アウラ・フェンデと申します。ルークを娘さん共々助けて頂いたようで、本当に感謝しています」

「いえ、それはこちらこそ。私は近衛詠春と申します。これからも、彼を助けてあげてください」

「はい、それはもちろん」

 ニコリと笑う衛春。どうやら彼は彼女の人となりを何となく理解したようだ。

 そしてティアも本当に感謝の念は絶えないという表情でお礼をしていた。

 そんな彼らのやり取りを見ていた夕映たちは口を挟むことができなかった。

 何の事かさっぱりわからなかったが、とても横やりを入れる空気ではなかったし、何よりも行方不明の子供を見つけたとでもいうかのような、そんな再会の空気が流れていたからだ。

 だがそんな空気は、ある足音によって破られる。


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタ、ドテッ!! タタタタタタタタタタタタタタタ


 床をすり足で走るような音が遠くから聞こえてくる。

「げっ・・・・・・」

 ルークが呻き声を上げた。

 そしてどんどん顔は真っ青になり、逃げ腰になる。こんな彼を見るのは皆にとって初めてで、いったい何事かと思った。

「ああ・・・・・・大変ですね、ルーク」

「ホンマやわぁ・・・・・・ティアさんも大変や〜」

「え?」

 何の事か解らないティアだったが、次の瞬間『思い当たる話』を思い出したのである。

 それは・・・・・・・・・・・・・。


「ああっ!! 私のルークっ!! 私の息子!! 

おかえりなさいっ!!」


 ドガッ!!

「ぐはっ――――――!!」

 暖簾の奥からやってきた、ある1人の綺麗な、京美人。木乃香をそのまま大人にしたような感じの女性。

 2階の高さからジャンプして抱きついてきたその女性の、フライングボディーアタックをもろに喰らったルークは気を失った。

 そして気絶したルークにお構いなしで抱きつく女性。

 皆が突然起った事態に凍り付いていたのだが、木乃香の言葉によって解凍した。

「お母様、ルーク気絶しとるよ〜」

「「「「「「「お母様!?」」」」」」

 こんな若い人がいるのか!? とでも言いたげな皆さんの驚愕の声。

 やはり巫女服を着たその女性は、木乃香と一緒で柔らかでのほほんとした空気を纏っていて、だが娘と違って胸も出ている女性だった。

 ちなみに木乃香の指摘はまったくもって正しく、彼は口から泡を吹いて気絶していた。
 
 だが、その噂のお母様はまったく娘の言葉を聞いちゃいなかった。

「ああ、この感触。懐かしぃ・・・・・・大きくなって・・・・・・」

 スリスリと頬擦りする母親。

「まあ大変、汚れておすなぁ。ささっ、久しぶりに母と湯浴みに行きましょ」

 ズリズリズリ。

 気絶したルークを引き摺って去っていく母親。

 まるでルークが人形かおもちゃだ。

 こうして、その女性がルークを連れ去っていって姿が見えなくなっても、ティアを含めたクラスメイトたちは呆気にとられていたのだった。

 そして彼女たちは、断末魔の叫び声のような、ルークの恥ずかしさからきた悲鳴でやっと我に返るのであった。





 さて、こうして遥々やってきた彼女達を歓迎する宴会が盛大に開かれた。

 総本山へ入った事で安全になったのだから、刹那も肩の力を抜いて満喫していたのだが。

 宴会場に転がっている、ボロボロのルークは悲惨な状態だった。

 風呂から出てきた彼を待っていたのは、ティアとアスナの『攻撃』と朝倉たちの『口撃』であった。

 そして再起不能になった訳だが・・・・・・その隣でルークを膝枕している木乃香の母親・近衛木乃葉は何だか嬉しそう。

 またルークを挟んだ場所にティアが座っていて、スッキリした顔の彼女は前の京料理をミュウと一緒に美味しく頂いていた。

「ほんま、この可愛い可愛いルークは私を心配させるんやから」

「・・・・・・スイマセンでした」

「特別に、明日は鶴子はんか素子はんを呼んで、お仕置きしてもらいましょう♪」

「許してください!! すいませんでした!!」

「冗談や♪ 2人とも今は京都におれへんのよ」

「そうなんですか?」

「そうや。素子はんの大学生活の視察にいってしもうて」

「ああ、なるほど」

 納得しながらルークは起き上がる。

「ちょっと酔いを醒ましてきます、木乃葉母上」

「はい、いってらっしゃい♪」

 この人は何歳になっても変わらないな、と思いながら、ルークは外へと出ていった。






 刻は少し前。

 ルークが真っ赤な顔をしてお風呂から出てきて、ティアを含めたアスナたちがルークをボコり、スッキリしたアスナたちはお風呂にやってきた。

 彼女達はティアと一緒にお風呂にやってきた。

 ひのきの大浴場は、寮ほど広くはないが、寮よりも遥かに和風感が強く、精神的に癒される空間が漂っている。

「うわぁ〜、なんかすごいね」

「そうね、なんか温泉に来たみたい! 卓球をやりたくなってきたよぉ!」

「う、うん。そうだねー」

 朝倉とハルナが身体を隠さず堂々と裸体を晒し、個人の風呂とは思えない規模に感嘆の息を吐いている。のどかはタオルで前を隠しながら恥ずかしそうに頷いた。

 彼女達は風呂に関心していたのだが、アスナたちが無言でいる事に不思議に思ったらしく振り返った。すると、アスナや刹那、木乃香や夕映やアキラなどの面々がある一角を凝視していた。

 その先にいるのは、お湯で身体を流していた亜麻色髪の女性、ティア。

「よ、予想以上に、大きいわ」

「そ、それに・・・・・・腰が細いです」

「足もかなり長いえ」

「ガリガリの不健康というより、無駄が無さ過ぎる身体と言っていいのではないでしょうか」

「・・・・・・腰が括れてるし、それが調度いいのか胸の大きさが一層強調してるみたい・・・・・・」

「さ、さすがティアお姉さん・・・・・・女のウチでも綺麗って思うわぁ」

 驚愕の表情を浮かべるアスナに、感心した面持ちの刹那と木乃香。そして羨ましそうな表情の夕映や亜子、アキラたち。

 確かに彼女の身体は綺麗過ぎた。

 例えばティアと同格の大きさを誇る那波千鶴。彼女も胸は大きいし、体格もデブいという訳ではない。だが細い訳でもなく、どちらかといえばふっくらとした標準体型である。そしてそれが母性溢れる彼女の特徴といってもいいだろう。

 だがティアは違う。彼女はリグレットという特別教官を持ち、ローレライ教団に所属していた軍隊出身の人間だ。

 リグレットに直接鍛えられた彼女の脂肪は、とにかく全身から削ぎ落とされて無駄のない肉体で締まった体となった。そして嫌味なほどの手足の細さと長さ。

 そんな細い体型で括れた腰があるのに、彼女の胸はデカい。そして垂れ下がってなどおらず、見事な張り具合だ。

 そんな女性がめちゃくちゃ長い綺麗な亜麻色の髪をサラりと流して湯浴みしているのだから、妙に艶かしくて綺麗だった。

 そんなティアの外観にショックを受けた一同は、負けるかとでも言わんばかりの勢いで身体をゴシゴシと洗いまくっていた。

「?」

 真っ赤に腫れ上がるほど磨いている彼女たちに、ティアは首を傾げて不思議そうな顔を浮かべていた。

 そしてやっとお湯に浸かるアスナ。彼女は先ほどから刹那と木乃香から、木乃香が魔法使いであることや潜在的にサウザンドマスターを凌ぐ魔法量がある事を、秘密裏に話していた。

 そして今回の修学旅行、木乃香を狙った関西呪術協会の人間が狙っているのだと説明した。

 そんな彼女たちの様子を眺めていたティアは、いつの間にか隣に夕映が来ていることに気がついた。

「綾瀬夕映と言います。よろしくです」

「メシュティアリカ・アウラ・フェンデです。よろしくね」

「あの、少し聞きたい事があるです」

「なに?」

「シネマ村で城の屋根を壊してたですが、どうやったですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 ティアの辞書の中に、こちらの世界の『CG』とか『手品』とか、そんな言葉は登録されていなかった(笑)

「・・・・・・コ、コホン。ル、ルークが待ってるわ・・・・・・早く出なきゃ!」

 ついには逃走を開始した。なかなか潔い女性である。

 いきなり逃げ出したティアに、夕映は自分の予測が正しいかもしれないと、確信を深める。

 そんな彼女達の様子に苦笑しながら、アスナは木乃香に尋ねた。

「ねえ、あいつ・・・ルークってさ、ここに7歳の時に来たんだよね?」

「そうや〜。ルークもウチらも7歳の時に、裏の山で出会ったんよ」

「山で? 何で山なんかにいたの?」

 ハルナが首を傾げて尋ねた。

「あの時は迷子だと思ったんですよ、そうですよねこのちゃん」

「そ、そうなんよ」

「ふ〜ん」

「でさ、あいつって子供の頃どんな感じだったの?」

 アスナはもじもじと指をこねながら聞いてくる。

 彼女のタカハタ先生命というプライドが、微妙に影響しているようだ。

「・・・・・・あの頃のルーク、ですか」

「・・・・・・・・・・・・」

 そう言って表情が曇り口籠もってしまう刹那たち。何だか言い辛い、ということもあるが表現し難いという感じでもある。

 皆が興味半分、疑問半分で2人の言葉を待つ。そしてゆっくりと刹那が口を開いた。

「あの頃のルークは・・・・・・なんというか、とても寂しい人でした」

「寂しい?」

「そうや。それに・・・・・・性格だって、もっと卑屈っぽかったし・・・・・・なんやいつも泣きそうな目やった」

 ポツリポツリと木乃香が口にする。そんな彼女たちの言葉に亜子たちは驚いた。

 だって今のルークとは似ても似つかないイメージだから。

 そしてその理由を木乃香たちは知っている。もちろん詠春や木乃葉、青山姉妹、刀子さんも知っている。

「そういえば、ルーク君の親って何してる人なの? 木乃香の両親が親ってな訳ないんだし」

 先ほどのパワーと勢い溢れる母を思い出して苦笑しながら聞くアスナ。しかしそれは地雷だった。

 刹那の言葉で、一瞬で周りが静まり返ってしまったのだ。

「彼の両親は・・・・・・もう、ここにはいません」

 ポチャンと、水滴の音が響いた。

「それにな、アスナ。ルークは、お父さんから一度、殺してもいいと認められて殺されかけた事があんねん」

「「「「「なっ!?」」」」」

 殺す、という生々しく、そして嫌悪しか覚えない言葉に戦慄する一同。

「だから、お父様やお母様がルークの両親になるって言っとって、身元引受人もウチなんよ」

「だから、皆さんにお願いです。ルークに両親の話とかをしないでください」

「も、もちろんよ! っていうか、何それ・・・・・・腹立つわね」

「そういう・・・・・・ことですか」

 必死で懇願してくる木乃香と刹那。

 彼女たちはルークと出会った当初、彼を助けたいと一生懸命だった。そしてほんの少しだがルークを助けれたはずなのだ。

 木乃香と刹那は、ルークが昔に戻ってしまうのを恐れていた。

 アスナは爪をガジガジと噛んで苛立ちを隠さずに憤慨し、夕映は彼が妙に優しい訳を、そしていろんなものを失ったといった時の表情を、たまに浮かぶ悲しげな瞳に、やっと合点がいった。

「う〜ん・・・・・・こんな話、さすがの私も記事なんかにしたくないね」

「っていうか、親は子供を大切にするのが普通じゃん。義務じゃん。当然のことじゃない?」

「う、うん」

 ハルナも眉を顰めて不機嫌そうにのどかに振った。のどかもショックを受けたように瞳に涙を浮かべ、コクコクと頷いていた。

「うちも、何かできることあるんやろうか」

 亜子は初めて、ルークに自分が何かしたい、してあげたいと、本気で思って考え始めたのである。

 だが彼女たちはまだ知らない。

 この話には、もっと残酷で不愉快なふざけた真実があるということを。







 夕食会場から逃げてきたルーク。彼は外に涼みに出ていた。

 外の季節外れの桜が、ティアの浴衣やクラスメイトたちの着物姿と被る。

 ・・・・・・みんなの浴衣は可愛いすぎだ。

 思わず湧き上がってきた、思春期特有の劣情。

 それ関連で、ルークは木乃葉母上が風呂場で『いろいろ』やってきた事を思い出し、思わず鼻を押さえる。

 何があったかは秘密だ。

「ルーク」

「ん? 夕映か、どうした? もうご飯はいいのか?」

「はい、それは大丈夫です。それより聞きたい事があるです」

「なんだ?」

 夕映は手すりに座っているルークの隣に腰かけた。

 そして緊張した面持ちで、ルークに問いかける。

「ルーク、このカードは一体なんなんです? それにシネマ村での一件もそうです」

「・・・・・・何が言いたいんだ?」

「ハッキリ言うです・・・・・・これは、そしてあれは異常でした・・・・・・まるで」

「シネマ村での一件はCGとかワイヤーアクションだぜ?」

「私をあの人たちと一緒にしないで下さいです! そんな事では誤魔化されません!」

 夕映は確信した面持ちでルークに詰め寄る。

「教えてくださいです」

「・・・・・・もう夕映の中では答えが出てるんだろ? ならそれがきっと正解さ」

 どれだけ隠しても無駄だと判断したルークは、はにかみながら言った。

 その言葉に夕映は瞳を大きく開き、そして「やっぱりそうですか」と呟いた。

「それで、夕映はどうするんだ?」

「え・・・・・・どう・・・・・・?」

「能力の切っ掛けを手に入れて、いわゆる裏の世界へ足を踏み入れて、どうするんだ?」

「わ、わたし、は・・・・・・」

 動揺する夕映は、上手く言葉を発することができなかった。

 しばらくお互いに静寂が漂い、そして夕映が口を開こうとした瞬間だった。

「・・・・・・・・・・・・わた」

「――――夕映っ!!」

 総本山全体に、凄まじい魔力の波が襲い掛かったのだ。

 とっさにルークは腕の中に夕映を抱き込んで、クローナシンボルという指輪をつけた人差し指を翳した。これは状態異常無効化の力がある。

 それによって無事に石化から逃れたのだが・・・・・・これが意味するところは。

「敵かっ!!」

 敵が総本山へ攻めてきた合図だった。








あとがき。
 あら・・・・・・なんかふざけようかと思ったのにマジメな話に・・・・・・。

 でも、ここでしか過去の話ができませんからね・・・・・・許して下さい(必死)

 母上登場! そしてついに始まる戦い。

 おそらく次はテイルズ混ざりまくりの、より一層壊れた卑怯合戦になります(笑)


 予告:

 ついに攻撃を開始した、サル軍団! サル女を筆頭に大量の鬼が召喚され、白髪の少年は宵闇に舞う!

 迎えるはルーク軍団! 出るのか、宇宙魔法!?

 戦いは終盤に突入し、あるモノが乱入する。それは果たして!?

 大空へ羽ばたけ、『僕はカラッポさぁ!!』




 
 執筆中BGM 【FATE アルバム】