「・・・・・・仮契約、ね。よかったわねルーク」

「・・・・・・スイマセン」

「で、私を差し置いて他の子とキスして、その感想は?」

「ゴメンナサイ」

「・・・・・・私が一番、よね?」

「もちろんだ! それは誓って言える!」

「なら・・・・・・今度は私と仮契約しましょ?」

「ああ、もちろん。っていうか契約でいいと思うが」

「どっちでもいいわ」

「それにどっちかと言うと、俺が従者の方になった方が効率はいいわけだが」

「ルークが私の従者・・・・・・///」

「な、何を想像してるんだ!?」









     第18章 修学旅行3日目!

 








 地獄の正座が終了した翌朝、朝食が終了した面々は、昨夜の優勝者である宮崎のどかと綾瀬夕映と和泉亜子の元へ集まって豪華景品を眺めていた。

「おお〜、それが豪華景品かぁ〜!!」

「あ〜ん、カワイー♪」

「あー、見して見して―――!!」

 皆が覗き込んだ先には、のどか自身が描かれていて、不思議な本に囲まれている、そして綺麗な装飾されているというものだった。

 和泉亜子のカードには、天使のような羽をつけた亜子が艶やかな水色の鎧を着て、天使をイメージさせる弓を構えているところだった。

 綾瀬夕映のカードには、正に魔女っ子をイメージさせる格好をした夕映が、一冊の本を開いて構えているところだった。

「いいなぁ〜、コレ!!」

「何で亜子が弓? サッカーなら分かるけど」

「これは欲しかったなぁ〜!!」

 アキラが不思議がって首を傾げているが、とりあえず周囲は3人のカードを羨ましがっていた。

 そりゃあ仮契約カードなのだから、不思議な魅力を持っているし、ショボイ市販のカードとは素材からして違う。

 のどかへまき絵やあやかが「ライバルですわ!!」などと叫んでいるが、夕映と亜子からしてみればそれどころではない。

 同じ年齢の意中の人物とキスをして、あまつさえその証を手に入れたのだから、動揺指数120%である。

 そして何より、夕映は性格上の理由から、そのカードについて疑問を持っていた。

(これ何で出来てるです? 紙じゃないしプラスチックでもない・・・・・・妙な感じがするです)

 不思議なカードを前に喜びと疑問が交錯する。

「ゆえゆえ〜。よかったね」

「なっ!? の、のどか!? 何を言ってるですか!」

「か、隠さなくてもいいよぉ。昨日の事で分かっちゃったもん」

 仰天する夕映に、クスっと笑って微笑むのどか。夕映は真っ赤になり口をパクパクするが、反論の言葉が出てこないらしい。

 そんな夕映に、のどかはぼやくように言った。

「で、でも、何となく分かるな。あの人・・・ルーク君って、優しい人だって私も思うから」

「のどか・・・・・・」

「あっ! ち、ちがうよ? わ、私は本当にネギ先生がす、好きなの。ただルーク君には、ハルナ達へ向ける感情に近いの・・・・・・男の人なのに」

 男性恐怖症ののどかが、ルークへ私たちと同等の友情を感じている? その言葉に夕映は驚いた。

「だ、だから、お互いがんばろうね?」

「はい、です・・・・・・」

 夕映は完全に呆然としていた。なんとなく相打ちを打ち、なんとなくのどかの言葉に返事をする。

 そしていつの間にか手を引っ張られて通路を歩いていた。

 その先から、ルークやアスナ達の声が聞こえて来た。

 夕映たちは、そっと耳を澄ました。






「ちょっとどうすんのよネギ! ルーク! こんなにカード作っちゃって! 一体どう責任とるつもりなのよ!?」

「ス、スマン。油断した」

「えぅ!? 僕ですか!?」

「いや、スカカードは明らかに貴方のミスでしょう?」

 即座に謝るルークと、心外だと言わんばかりのネギ。それに即座に突っ込んだ刹那。

 ガックリするネギを放って置いて、話しは進む。

「まぁまぁ、姐さんたち」

「そうだよアスナ。もーかったって事でいいじゃん」

「朝倉とエロガモは黙ってなさい!!」

 アスナのキレっぷりは凄まじい。実は妬いている気持ちがあるのは内緒だ。

 そこへルークが言葉を挟んだ。

「いったい、どういうつもりで一般人を裏へ巻き込もうとしたんだ」

「いや、ルークの旦那とネギの兄貴にパートナーをと、親切心で・・・・・・」

「そ、そうそう。私たちは親切心っていうか、そんな感じで」

 ハハハっと笑いながら話す2人に、ルークとその胸ポケットにいるティアは、厳しい視線を向ける。

「・・・・・・これで無関係の一般人を、いつ死んでもおかしくない世界へ、彼女達の意思を聞かずに引きずり込んだ訳だ・・・・・・可哀相に」

 ポツリと呟いたルークは、カモと朝倉を凍りつかせるのに十分だった。

 朝倉はそれに対し、なんとか声を振り絞って反論する。

「で・・・・・・でもさ、だったらアスナは良い訳?」

 朝倉の言葉にギクリと身を震わせるアスナ。そう、彼女は別に仮契約をしている訳でもなければ、何かの事件に巻き込まれた訳でもない。

 たまたまルーク事件の目撃者となり、裏を知っただけだ。

 だが。

「俺は意思と真の覚悟さえあれば関わっても良いと思ってる。それにアスナについては別問題だ」

「別問題?」

 刹那が疑問の声をあげ、アスナは目をパチクリさせた。

「そうだな・・・・・・どうもアスナは引く気はないようだし、ここは1つ、戦い方を教えようか」

「え!?」

 ビックリした顔のアスナ。ルークは立ち上がって両手を広げ、こう構えてみ? と示す。

「な、何をするの?」

「アスナ、何も考えずに心をカラッポに。イメージしながら左手に魔力、右手に気を集めて、両手を重ねてみろ」

「で、できる訳ないじゃない!!」

「そ、それは『気と魔力の合一』! 究極戦闘技法・咸卦法じゃないですか!」

 刹那がルークの言葉にビックリした声を上げる。この技は刹那にだってできない技。会得難度だって超上級だ。

 だがルークはやってみろ、と促すばかりだ。

「まあ、とりあえず、こんな感じかなってだけでいいからやってみろ」

 アスナは恐る恐る両手を広げ、目を瞑ってイメージする。

 魔力とか気とかよく分からないけど、ネギから聞いた事では魔力とは空気中にあるエネルギーのようなものと教えてもらっている。

 それを集めるイメージで左手に。

 気は体力エネルギーという事。使いすぎたら疲れるらしい。

 それを体中から搾り出し、右手に集めるイメージで。

「「「「「「!!」」」」」」

 全員が視た。

 アスナの手に、魔力と気が集まるのを。

 そして両手を重ねると、いきなりアスナを中心に突風が巻き上がり、アスナの体全体に魔力と気が合わさったエネルギーが纏わり付いた。

「わわっ!? 何これ!? 身体が軽い!!」

「そんなっ!? アスナさんが一発で咸卦法を!?」

「アスナ凄いやんか!」

 びっくりしているアスナに声をかける木乃香。そして唖然とする刹那に置いていかれた朝倉。そして驚愕の表情を浮かべるネギとカモ。

 彼らはこの意味を十分に理解しているようだ。

 そしてこの瞬間、アスナの脳裏に激痛が走り、見た事もない光景が頭に過ぎる。

『ダメ! ガトウさん! いなくなっちゃやだぁ!!!』

『お前が・・・英雄ナギ・スプリングフィールドだな!?』

『英雄は殺す!! ぶるぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

『スイマセン・・・・・・アスナちゃん』

『イ――ちゃん!! どうしてぇ!!』

 覚えがない光景が、一瞬でアスナの頭の中を過ぎっていく。

 あの人たちは、誰?

 それに、最後の小さな子は・・・・・・あの“女の子”は一体?

 私の親友だったような・・・・・・。

 アスナは激痛を振り切るように頭を振って、忘れようとする。

 ルークは心の中でアスナが成功した事について、当然だなとひとりゴチる。調度良い機会だったからやってみたが、予想以上の成果だった。

 その完成度はかなり高い。そしてルークとティアがあげた腕輪により、持続時間は何倍にも跳ね上がっている。

 今度は魔力と気が同時に少しずつ回復するネックレスとか、消費を抑えるものとかをあげてもいいかもしれない。

「アスナ。今度もし戦うことがあれば、それをやってみ? そしたらアスナの蹴りでも十分に効果があるから」

「わかったわ! なんか、コレすごい!」

「でもな、アスナ。俺から言える事は、とりあえず逃げろ、だ。まだアスナは素人に近いんだからな?」

「う・・・・・・わかったわよ。もしもの時は全力で逃げるわ。それにアンタが守ってくれるんでしょ?」

「当たり前だ」

「なら、私もその時は隣に立たせてもらうわ」

「はは・・・・・・好きにしな」

 アスナはグッと拳に力を入れて宣言する。その姿に感心する一同。そして溜息を吐いて気を抜くと、ガス欠でも起こしたかのように咸卦法が解けた。

「わかっただろ、朝倉。彼女はちょっとした訳ありだ。従ってこちらにいなくてはならない。他に反論があれば聞くけど?」

「・・・・・・・・・・・・」

 ルークの言葉に朝倉は何も言う事ができない。

「と、とにかく、故意に宮崎さんたちにバラさない方で行きましょう」

「そうだな」

 刹那がアスナの成功に動揺しながら何とか締めくくる。

「・・・・・・そういえば、前に刹那と木乃香、仮契約結んでたよな?」

「え!? ホントなの!?」

「ええ、アスナさん。7歳の時に」

「ホンマやで、アスナ。せっちゃん見せたったら?」

「はい。これです・・・・・・『来れ:アデアット』」

 刹那が懐から取り出したカードは、幼き頃の刹那が描かれていて、彼女の言葉と同時に、小さな短刀が何本も出現する。

「すごい! 手品に使えそう!」

「おいおい・・・・・・」

「ハハハ・・・・・・で、しまう時は『去れ:アベアット』」

 刹那の言葉で短刀が消え失せる。その光景にティアはへぇ〜、と感嘆の声を上げて感心していた。

 その光景を、物陰からジッと見つめる者が4名いた。






「な、何なんです、あれは・・・・・・」

「う、うん。お話はよく聞こえなかったけど」

 目の前で起こったアスナの不思議な現象、そして刹那の手に突然現れた複数の短刀。明らかに異常だった。

 そんな2人に、背後からポツリと言葉が掛けられた。

「ほんとや・・・・・・今のなんやったんやろ」

「桜咲さんもカードもってたね・・・・・・」

「ひゃっ!? いつのまにそこにいたですか!」

 こっそり盗み聞きしてた2人に、更に後ろから和泉亜子と大河内アキラが盗み聞きしていたらしい。

 4人はカードをジッと見つめ、そしてカード所持者の3人がポツリと呟いた。アデアット、と。

 すると次の瞬間、眩い光を発してカードから物体を象り始める。

 ・・・・・・3人のスカートが風でふわりと上がって、可愛らしい下着、大人っぽい下着、清楚な下着が露出したのは内緒だ。

 彼女たちの手の中には、カードの代わりに本と弓が納まっていた。

「これは・・・・・・」

「これって、カードに描かれてた弓とちゃう?」

「・・・・・・不思議な光景。手品、だよね? どうやったの?」

「わ、わからないです」

 さらに3人の服装まで変身しているのだから、もはや言葉がない。

 夕映やのどかの手にはただの大きな本が。亜子の手には、水色の清潔感溢れた弓がある。

 遠くから足音が聴こえてくると、彼女達はビクリと震えて「アベアット」と呟く。すると完全に元の状態まで戻った。

 これから4人は自由行動の出発までの間、ずっとカードと睨めっこし、呼び出しては弄りまわしていた。







 3日目は完全な自由行動となっている。これにより各班ごとに京都・大阪・奈良とあちこちに散らばっていく。

 この日にネギは校長から頼まれた西の長への親書を渡す任務と時間があれば父親の別荘を訪れるという計画を練っていた。

 しかし、宿を抜け出したネギの目の前に現れたのは、頬を紅潮したのどかとその親友の早乙女ハルナ。

 そしてグッタリと気絶しているルークを抱えた木乃香とアスナ。そんな3人に苦笑している刹那。そしてそんなルークを気の毒そうに見ている夕映の6人だった。

「なな、なんで皆さんがここに!? というか、自由行動の予定はないんですか?」

 敢えてルークの事は触れない辺り、彼は賢いといえよう。

 ・・・・・・・・・・・・いったい何があったというのだろう。とりあえず怖いので聞かないでおく。

 ただ1つ言えるとすれば、ティアが頬を赤くして身体を抱きしめていることから、何となく予想できるが・・・・・・。

「まあいいじゃん。ネギ先生も行くところあるんでしょ? 私たちを連れていってよ」

「え、まあ、予定はありますけど・・・・・・」

 付いて来られると困る、と言いたいネギ。そんなネギにアスナがボソボソと囁いた。

「ごめん、ネギ。パルに見つかっちゃってさ。途中で抜け出せばいいからさ」

「そうですね。では行きましょう」

 こうして出発した5班の面々。とりあえずゲーセンに行くという、何とも微妙な場所に行き、カードゲームに熱中するネギ&ハルナ&のどか。

 ルークたちは外で京都限定プリクラを撮ったりしていた。

 夕映とルーク。アスナとルーク。木乃香とルーク。刹那とルーク。刹那と木乃香。そしてパナシーアボトルで一旦普通に戻ったティアとルーク。

 夕映がトイレに行った為にティアが普通に戻れたのは幸いだった。

 そして再び人形サイズに戻るティア。

 しかしこのゲームセンターにて、ネギは乱入者の少年とゲームバトルをした後、隙をみて脱走を図った。

「ごめん、ルーク。私もそっちに付いていきたいんだけど、あのガキんちょ1人で行かすのは不安だから、私も付いていくわ」

「ああ。それでいいんじゃないか? けどアスナ、ムリするなよ?」

「わかってるって!!」

 ルークたちから貰ったこの腕輪に誓ってね、とアスナは元気良く笑いながら走っていった。

 彼女がついていくなら安心だろう。ネギだって曲がりなりにも英雄の息子。そんなに簡単にはやられないはずだ。

 とりあえず2手に分かれた訳だが、この時、ルークは宮崎がネギの後をつけていくのを見ていた。

 のどかと夕映が手を取り合ってお互いに頷いていたのは、きっと気のせいだ。

 ルークたちは、アスナの身を案じながらも、次の場所へ移動を始めた。






「でもスミマセン、アスナさん。こんなことに付き合ってもらっちゃって。でもなんで付いてきたんですか?」

「だよなぁ〜。姐さんはルークの兄貴と一緒にいたかったんじゃないのか?」

「もちろんよ。でもガキんちょのあんた1人とエロガモの2人だけで行かすと、今度は何をやらかすかわかったもんじゃないじゃない?」

「あぅ・・・・・・」

「言わば監視ね。ま、普通にいけばいいでしょ。そんなに遠くないんでしょ?」

「はい」

「どうも、お待たせしました」

「うわっ! って、刹那さん・・・・・・小さい」

 現れたのは小さな刹那。本人いわく連絡係の分身らしく、『ちびせつな』というらしい。

「とりあえず協会までは私が案内します。門を潜れば敵もこないでしょうし」

「そっか。それじゃあお願い!」

 そんな彼らの予想は、この後あっさりと覆されることになる。

 ゲームセンターでネギにゲームバトルを挑んできた少年、犬神小太郎が襲い掛かってくるのだが・・・・・・今はまだ、何もしらない。



 ゲームセンターを出た一行は、京の街を散策し、写真撮影をしていた。

 夕映が本を手に、何かを読みふけっているのは気になるが、ルークはティアと風流を満喫していてそれどころじゃない。

「母上に・・・・・・京都の街を見せてやりたいな」

「ルーク・・・・・・」

「ルークの母上という事は・・・・・・ええっと、シュザンヌ様、でしたっけ?」

 刹那が記憶を辿り、名前を口にする。

「ああ。ティア・・・・・・母上はどうしてるか、知ってるか? 母上の事は気になってたんだ」

 ルークがティア意外の事で気になってた人物は、シュザンヌの事だけだ。

 あの最終決戦の前日、つまり消滅する前日、ルークはお別れの言葉を告げにファブレ家を訪れたのだ。

 そして、床に伏し泣きつかれたシュザンヌに言ったのだ。

『血の繋がりもない、赤の他人でレプリカの俺を育てていただきありがとうございました・・・・・・不愉快かもしれませんが、本当に感謝しています』

 シュザンヌのこの時の顔は、一生忘れないだろう。

『・・・・・・さようなら、母上。貴方の本当の息子は、ちゃんと返しますから』

 きっと、インゴベルト国王とファブレ公爵がルークを切り捨てた事を、殺す事を良しとした事を、シュザンヌは知らなかったのだろう。

 彼女は本当に体調を崩していたのだ。

 だからルークとして、気になっていた。

「・・・・・・私がこっちに来る前、アッシュが戻ってきたの」

「そっか。それは良かった・・・・・・ナタリアが喜ぶな」

「・・・・・・アッシュが戻ってからは、シュザンヌ様も徐々に回復の方へ向かってるそうよ」

 ティアが険しい表情で口にする、完全たる事実。

 木乃香は思わず訊いてしまった。

「他の人は、どうしとるん?」

 ティアの表情がより険しくなり、吐き捨てるように口にする。

「・・・・・・レプリカルーク・フォン・ファブレはユリアの預言を覆して世界を救った、ありがとう。それだけよ」

 つまり、ルークのポジションにアッシュが戻り、人々は何事もなかったかのように過ごしている、そういうことだ。

 中にはユリアのスコアが狂ったのはルークの所為だという人もいるくらいだ。それだけ人々にとってユリアの預言は必然的存在だったのだ。

 シュザンヌ婦人も、ルークの存在を忘れたかのようにアッシュと時間を取り戻しながら過ごしているらしい。

 おそらく、考えると心が潰れそうになるのだろう。ルークは特にシュザンヌに対して文句も恨みもなかった。

 何故ならば、あの人は自分を1人の人間としてみてくれていたから、ルーク・フォン・ファブレとして愛してくれたから。

「・・・・・・まっ、それは予想していたし、別に世界を救いたかった訳じゃないからな。母上が回復してるなら良かったよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 あまりの仕打ち、とでも言うべき結果に、木乃香はショックを受け涙を浮かべ、刹那は不愉快そうに、そして悲しそうに俯いた。

 そうだ。

 もう、あの世界にルークの居場所なんてないのだ。

 気まずい沈黙が流れ始めたその瞬間、刹那がビクリと震え、そして叫んだ。

「!! 大変です! アスナさん達の方で敵の襲撃が!」

「何!? 敵の数は!?」

「・・・・・・1人です! 従者の蜘蛛はアスナさんが一撃で殴り倒したようですが・・・・・・」

「さすがアスナ・・・・・・あいつのパンチは効くからな」

 頬を撫でながらボヤくルーク。

「どうします? 応援に駆けつけますか―――って、このちゃん!!」

「木乃香!!」

 いきなり後方より襲い掛かってきた、数本のナイフ。

 それを全て叩き落した。

「・・・・・・どうやら応援はムリなようだな。街中で襲い掛かってくるなんて、形振り構ってられないようだ」

「そのようですね」

「走るぞ!!」

 ルークはいきなり大声で叫び、前方を歩いていてビックリしている夕映の手を取り走り出す。

 木乃香は刹那が手を取って続く。

 ここに、マラソン大会が開始された!!(違う)







 鳥居を潜った所で相手の罠にかかり脱出できなくなって、しばらく進んだところで現れた蜘蛛に乗った少年。

 大胆不敵に現れた少年だったが、ルークに教わった咸卦法を咄嗟に使ったアスナのぶん殴りで、一撃で戦闘不能になってしまった。

 それに驚いた少年・犬神小太郎だったが、ネギを見て明らかに落胆した溜息を吐いた。

「あ〜あ、ついてないわ。ホントなら賞金首のルークの兄ちゃんと勝負したかったわ」

「むっ!」

 バカにした態度に、ネギはカチンとくる。

「なんやねん、そらそう思うに決まっとるやろ? 女に前衛やらせる腰抜け西洋魔術師より、たった1人で300万$まで掛けられて、潰した組織は数知れずの兄ちゃんの方が魅力があるに決まっとるやん」

 小太郎はハハンと鼻笑いをして、ネギの目線を一笑に伏す。

「だから西洋魔術師はキライなんや・・・・・・まあエエ。ネギ、お前はここで殺せてもらうわ」

「僕の力を・・・・・・西洋魔術師の力を見せてやる!!」

「ネギ! 挑発に乗っちゃダメ!!」

 戦いの歌を発動させたネギは、小太郎と激突した。






「どうします、ルーク? このままじゃ市民に被害がっ!」

 飛んでくるクナイのようなものを掴み取りながら刹那がルークへ訊いてくる。横からハルナの、何で急にマラソンに!? という声が聞こえてくるがここはスルーだ。

「・・・・・・あそこだ! シネマ村!」

「なるほど、あそこなら! 早乙女さん、私たちはシネマ村に用がありますので、ここで別れましょう! でわっ!」

 刹那は早口にそれだけを伝えると、木乃香を抱えてポーンとシネマ村の塀を飛び越えていった。

 ・・・・・・お金を払ってから入りましょう。

「綾瀬、悪いけど我慢してくれ!」

「夕映でいいです、って、へっ!?」

「じゃあ、夕映! 喋ってると舌噛むぞ!」

 刹那に続いてルークまでタダ入場。

 ・・・・・・だからお金払えって。

(このジャンプ力は何です!?)
「私1人置いていくなんて・・・・・・ヒドい」

 1人ポツンとシネマ村前で佇む早乙女ハルナ。彼女の言葉が誰かに聞こえる事はなかった。





「シネマ村・・・・・・面白いところに逃げ込みましたなぁ・・・・・・刹那せんぱいかぁ、仕事でなくても仕合いたいお方やわぁ」

「・・・・・・」

「ところで、フェイトはんもここで戦うんですかぁ?」

「そうだね。ここで彼と顔合わせしとくとするよ」

「ほんなら、打ち合わせ通りによろしゅう」





 シネマ村に侵入した木乃香たちは、変装の意味も兼ねて貸衣装を着ていた。

 木乃香は艶やかな着物を着て、実に可愛らしい舞妓さんのようだ。

 刹那が何故か男装で、幕末の新撰組の格好をしている・・・・・本人は可愛らしい服を着たがっていた。

 まあ、周りから木乃香とカップルのように見えると言われていて、満更でもなさそうだが・・・・・・彼女たちに百合の趣味は無いと断っておく。

 言うなら、一般的な友情関係の度を越えた関係だといっておく。つまり百合の一歩前。

 ちなみにルークは武者の格好だ・・・・・・赤髪が妙に似合っているらしく、撮影をめちゃくちゃ頼まれている。

「ルーク」

「・・・・・・おお」

 ティアが着ていたのは、意外にもルークと同じ武士衣装だ。

 貴婦人の格好とかいろいろあったのだが、彼女は男装を選んだようだ。

 だが意外にもめちゃくちゃ似合ってる。長いストレートの髪もひとつに纏めてポニーテールにしている。


「グッジョブ!!」


 サムズアップをして、歯を光らせるルーク。よほど嬉しかったらしい。

 ハッキリいってバカだ。

「そ、そう? なんだか不思議な衣装よね」

「かっこいいですの!」

 微妙にテレているティアとルーク。ミュウもルークの型に乗っていて、なんだかとってもお似合いだ。

 そんな彼らを覗き観ていたのは、置いてきぼりをくらったハルナと彼女を待って合流した夕映である。

「ひどいよ、みんな。私を置いてくなんてさ」

「そんなに落ち込まないで下さいです、ハルナ」

「いいんだいいんだ、私なんて・・・・・・ってそれより、何かラブ臭がたくさんするような・・・」

「・・・・・・気のせいでしょう」

 夕映は少し自分が目を離した隙に現れた、いつか教室で視た亜麻色髪の女性をジッと見ていた。

「なんか、刹那さんと木乃香って怪しいよねぇ〜。でも2人ともルーク君を狙っていたんじゃ? いや、もしかして複数!? うん、間違いない!」

「う〜ん、確かに怪しいよね」

「「わっ!! ビックリした!!」」

 後ろにいたのは、3班の雪広・那波・村上・朝倉・長谷川・ザジたち。

 そして声を発したのが、4班の明石・和泉・大河内・佐々木・椎名たちだった。

 最も、ザジと桜子はこの場にいなかったが。

 ハルナが事情を聞くと、どうやらあやか達は元からシネマ村の予定で、亜子たちは急遽予定を変更していいんちょたちに付いてきたらしい。

 どうやら朝倉を始めとし、村上や那波も刹那たちの関係を疑っているようだ。

 亜子はティアを見て、あっ、と小さく声をあげた。

「まあ、あの人がなんでこんな所にいますの?」

 あやかがティアの姿を見て、声を上げた。

 その言葉に村上も那波も不思議に思っていた事もあり、少なからず同意のようだ。

 というか、彼女達もしっかり貸衣装を着ている。

 ティアを見て、柿崎とゆうながムムっと、対抗心を燃やしていた。

 皆が刹那たちを眺めていると、村上が何かに気付いたように声を上げた。

「あ―――、なんか来たよ?」

 その声の先を見ると、1台の馬車が猛スピードでやってきた。





「刹那!」

「このちゃん! 後ろへ!」

 ルークの一声で事態を悟った刹那は、木乃香を背へ庇い、馬車に乗る人物を睨みつけた。

 木乃香もコクリと頷いて身構える。そしてティアが木乃香の横についた。ミュウも木乃香の肩に乗って威嚇している。

 馬車から降りてきた人物は2人。月詠と白髪の少年

 一昨日の夜に襲撃してきた神鳴流剣士だった。

「どうも〜、神鳴流―――じゃなかった、そこの東の洋館の貴婦人です〜〜〜。借金の形に木乃香お嬢様をいただきに参りましたえ〜〜」

「・・・・・・こんなに注目を集めていて、何のつもりだ」

 刹那は月詠を睨みながら問う。だがその魂胆もわかっていた。

(シネマ村の突発的な劇に見せかけて衆人環視の中、堂々とお嬢様を連れ去ろうという訳だな)

 月詠は刹那の言葉にニコニコと笑うだけで何も応えない。

「・・・・・・だがそうはさせん!! このちゃんは、木乃香お嬢様は私が守る!!」

「せっちゃん・・・・・・」

 ぎゅっと刹那の裾をつかむ木乃香。

「そうですか〜。ほんなら10分後、正門前日本橋付近で決闘を申し込ませてもらいますぅ♪ 木乃香お嬢様を賭けて♪」

 おお〜と興奮するギャラリー。一部が百合の世界に大興奮しているが・・・・・・主にハルナたち。

「逃げたらあきまへんえー、刹那先輩」

 殺気を開放した睨みを向けて、不敵な笑みを浮かべながら馬車へ乗り込んだ。

 そして変わるように出てきた白髪の少年。

 彼が出てきた途端、空気が変わった。場の空気が息苦しいほど緊張する。

 誰もが感じる。

 なんだか無機質で、奇妙な少年だと。

「・・・・・・君と僕がこうして話すのは初めてだね、ルーク・フォン・ファブレ」

「お前は・・・・・・」

 ルークは一歩前に歩み出て、相対する。

 両者の発する空気が痛い。

「君がイスタンブールやバグダットで潰してくれた組織の中に、僕の同士がいてね」

「・・・・・・ああ、あのなかなか強かったアイツらか。それでお前は敵討ちってか?」

「さてね・・・・・・ただ、僕と遊んでもらうよ」

 少年が、更に一歩前へ出た。

「そうそう、君の知り合いが僕の組織にいてね・・・・・・君を殺したがっていたよ」

「俺の・・・・・・知り合い?」

 誰の事だ、と呟くが少年は応えない。

「さあ、殺り合おうか。君を排除すれば後の計画もスムーズに実行できる」

「刹那、ティア、ミュウ。木乃香とクラスの奴らを頼む」

「わかったわ。負けないようにね、ルーク」

「・・・・・・お願いします」

「わかったですの!」

「ルークっ!!」

 木乃香はルークの名を呼ぶが、もう彼は振り返らない。

 3人はそそくさと場を離れようと後退する。

 ルークはティアへフォニックブレードが入った袋を投げ渡し、素手で構える。

 さすがに様子がおかしいと思い始めるクラスの面々。なぜなら余りにも両者の空気が険し過ぎたからだ。

 芝居という雰囲気ではない。

「「いくぞっ!!」」

 馬車が走り去った途端、2人の姿が一気に接近した。

 ゴキッという音と共に、2人の膝がぶつかり合った。そのまま回し蹴りを入れるが少年はしゃがんで避け、上空へと飛び上がる。

 ルークも跳躍し、およそ4階相当の高さで連続の蹴り合いが始まる。

「おお〜〜〜〜〜!! すごいワイヤーアクションだ!! このショーが終わったら日本橋の方にもいってみようぜ!」

「そうだな! なんだか期待できそうだ!」

 ・・・・・・観客は呑気だ。

 だがそれはクラスの面々にもいえた。夕映と朝倉、千雨を除いた面々は、すごいアクションだとかCGだとか、そんな事を口にしている。

(そんな、ありえないです! 今の高さは何です!? それにこの滞空時間の長さもおかしすぎます!)

(おかしいだろ、いまの! つっこめよ! つーか、何でいきなり殴り合ってんだ!)

(これが裏の戦いかぁ・・・・・・映画も真っ青だね、こりゃ)

 そんな3人の中で激しい葛藤が起っている最中、夕映たちの元に刹那たちがやってきた。

 思わず詰め寄るハルナたち。

「ちょっと桜咲さん、どういうこと! なんで略奪愛になってるのに教えてくれなかったのさ!」

「そーだよ! 水臭いよ!」

「もしかして昔の女とか!?」

「っていうか、ルーク君とあの男の子の関係は? なんでいきなり芝居なんか始めちゃってるの!?」

 興奮して詰め寄るまき絵たちは目を輝かせて、興奮しながら問い詰めてくる。

 言葉から何を考えているのか、およそ察した刹那。だが刹那たちはそれどころではない。

 木乃香はルークの方を心配そうに見つめているし、ティアの表情は険しい。

 そして何よりもたった今現在、命のやり取りをし、そして大切な幼馴染2人の命がかかっているのだ。刹那が煩わしいと思っても仕方が無いだろう。

「そんなことより、早く移動しましょう」

 刹那の表情は険しかった。

 そして亜子と夕映は、宙を移動しながら殴り合いをしているルークたちを追いかけていった。




 相打ちのように顔面を蹴り飛ばしたルークと少年は、移動しながら日本橋へやってきた。

 橋の柵の上に着地するルークと少年。

 ギャラリーも追いかけてきたらしく、人だかりもできていた。

「・・・・・・まさか体術で僕に匹敵するとはね。身体に一撃入れられたのは君が初めてだよ・・・・・・君は剣士だと聞いていたけど」

「お前こそ。魔法が使えないとはいえ、なかなかやるじゃん」

 口元の血を拭ってニッと笑うルーク。

「じゃあ、ちょっと出力を上げようか。その力、やはり邪魔だからね」

「いい度胸だ・・・・・・ちょうどここはシネマ村。なんとか誤魔化しが効くからな」

 いや、普通は効きません。

 どこからか、そんな声が聞こえた気がした。

「ここからは殺し合いをしよう」

「いいだろう」

 ふぅ、と息を吐く。

 周囲の歓声を他所に、彼らはお互いに息を潜め、魔力を体中に浸透させる。

 そして。

「崩蹴脚!!」

「―――っ!!」

 気で全身を強化した、裏の戦いが始まった。






 日本橋付近にやってきた刹那たち。後ろには早乙女ハルナたちが付いて来て、略奪愛の手伝いをする、とか言って息巻いている。

「ネギ先生の方も、どうやら戦いが終わらないらしく、援軍は難しいようですね」

「・・・・・・アスナは大丈夫なん?」

「ええ、どうやら男同士の対決、らしいです。アスナさんも攻撃しているようですが、敵に無視されてますし」

「あっちより、今はコチラをどうするか考えましょう」

 ティアが小さな声で相談している刹那と木乃香に声をかけた。

 刹那はとりあえず月詠の相手は自分がして、木乃香の護衛にティアとミュウが付く、ということにした。

「おそらくサルの女がどこかに隠れているハズですので、用心してください」

「ええ。わかったわ」

 ティアは袋の中からルークのフォニックブレードを取り出し、腰に携える。

 刹那はティアを信用していた。ルークの昔の仲間であり、彼と最後まで共にいたもの。信念も想いも、そして力も信頼できた。

「このかちゃん、刹那ちゃん。これを首にかけといて」

「ええけど、これ何やの?」

「リバースドールといって・・・・・・まあ、お守りよ」

「そっかぁ。ありがと〜」

「ありがとうございます」

 ティアが勧めてきたものだから、何かあるのだろうと判断した2人は素直にそれを首にかける。

 ミュウは木乃香の肩に乗り、いつでもスキル発動できるように準備している。

「では、お願いします!」

 刹那は橋の上に月詠が待っているのを見ると、走り出した。

「ふふふ・・・・・・たくさん連れてきましたなぁ。ほな始めましょうか、刹那センパイ」

「・・・・・・月詠、後ろの人たちは関係な―――」

「はい〜、心得てますえセンパイ♪ 興味本位で入り込む人たちには、少しおしおきが必要ですな〜」

「ちがう!!」

 刹那は即座に突っ込むが、月詠は聞いちゃいない。

「いでよ、ひゃっきやこー!!」

 一枚の札を放ち、そこから現れる百の低級妖怪。

 外見がとても可愛らしいので、見物人たちは大喜びだ。すごい手品だとかCGだとか言っている。

「何このカワイイの〜!」

「いやぁ〜、何このスケベ妖怪〜!」

「いわゆるショッ○ーですな! ザコキャラとはいえ重要な要素の1つ! みんな迎え撃て〜!」

 元気満々に叫ぶハルナたち。襲い来る妖怪に服を脱がされそうになったりと大混乱だ。

 だが脱がそうとしているだけで、命の危険はない。

 そう判断したティアは、安全な場所へ離れるべく木乃香の腕を取る。

「いくわよ!!」

「はいな!」

 2人は安全な場所へ隠れるべく、人ごみに紛れてこの場から離れた。

「にとーれんげきざんてつせーん!」

「はぁっ!!」

 月詠の2刀の小太刀から繰り出される剣戟を、刹那は夕凪とおもちゃの刀で迎え撃つ。

 強力な一撃を放つ攻撃は、ガキィンと大きな音を響かせ、おもちゃの刀はあっけなく崩れ去った。

 観客は、刹那たちの本気の殺陣に大喜びだ。

「最近の神鳴流は妖怪まで飼ってるのか?」

「あの子達は無害ですぅ。せいぜい脱がす程度ですわ。そしてウチは刹那センパイと剣を交えたいだけ・・・・・・」

「戦闘狂か。付き合わんぞ!」

 腰を深く落とし、抜刀術の構えをする刹那。視界の端にルークと白髪の少年が宙で気を使った激しい衝突を繰り返しているのが見えた。

 ・・・・・・あの少年は別格だ。

 刹那は己との実力の違いを一瞬で理解し、ルークに何とかしてもらうしかないと悟る。

「まあまあ、そんな冷たいこと言わんと・・・・・・遊びましょう、刹那センパイ♪」

 月詠の目が徐々に細くなり、そして彼女の姿が一瞬で消えた。

(瞬動術かっ!!)








 一方で木乃香を安全な場所へ避難させるべく走っているティアたちはというと。

 シネマ村の天守閣屋上で大ピンチに陥っていた。

 なんとなく城に隠れればいいと判断したティアだったが、そこに一昨日のサル女と一匹の鬼がいたではないか。

 なんとか逃げようとしたティアだったが、逃走ルートが制限されたので屋上に出るしかなく、そこでついに行き止まりになってしまった。

「ここでゲームオーバーや・・・・・・おっと! そこのアンタは何も喋ったらアカンで・・・・・・あんさんの魔法は強力すぎる」

 鬼が巨大な弓を携え、照準をコチラに定める。

 絶対絶命の状況に追い込まれたと、木乃香は思った。詠唱ができなければティアが魔法を唱える事はできない。そしてそれは自分も同じだ。

 また背後は絶壁であり、前からは矢で狙われている。

 どうしようもないと木乃香は思った。それで思わずティアの顔を見たのだが・・・・・・そこには涼しい顔をした彼女がいた。

「1つ、いいかしら?」

「なんどす? 最後の一言くらい話させたるわ」

「貴方・・・・・・このかを狙って何をするの?」

「そんなの、西洋魔術師への復讐に決まっとります! その為の準備も完璧や」

「そう・・・・・・だけど、彼女を渡す訳にはいかないのよ。ごめんなさいね」

「あんさん、この状況が解っとらんようですなぁ」

 サル女・天々崎千草は余裕綽綽とした表情だ。事実、普通ならここで完璧にチェックメイトだっただろう。

 だが、目の前にいる女性は例外だった。

 元軍人であり、銃のエキスパートの教官をもち、そして神々の子孫。

 世界を賭けた戦いに挑み、勝利した女性。

「やるなら、問答無用で襲い掛かりなさいね。経験不足よ」

 ティアは俯いて長い髪で口元を隠し、口を動かさずに何かを呟きはじめる。

 そして天々崎千草は、目の前の女性の実力を思い知る事になった。

「出でよ、敵を蹴散らす激しき水塊! セイントバブル!」

「なっ!?」

 魔力充填も詠唱すら、始動キーすら唱えないで完成させた、高速詠唱魔法。

 空間の中央にいきなり現れた無数の水泡は、寸分の狂いなく、鬼が矢を放つ暇を与えず襲い掛かった。

 そして・・・・・・。

「なああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「わぁ〜、ティアさんやっぱすごいなぁ〜」

 シネマ村の天守閣、最上部を屋根ごと吹き飛ばして、天々崎千草は空の彼方へと消えていった。

 ・・・・・・城の上部が壊してしまった。

 彼女は、これが娯楽施設なのだという事を、壊したら修理費を出せねばならない事をまだ理解していなかった。(笑)





 その少し前の刹那。

 彼女は月詠相手に苦戦していた。あまり派手な技が使えないからお互いに技の自重をしていたのだ。

 従って、純粋な基本の打ち合いとなり、なかなか勝負がつかずに長い攻め合いになっていたのだ。

 月詠だって表の住人に裏の事をバラすつもりはないのだ。だが、そんな彼女たちの配慮は無駄に終わった。

 刹那が観客の声で、城の上にいるティアと木乃香に気がついたのだ。そして彼女達は追い詰められていた。

「このちゃん!」

 思わず駆けつけようとする刹那。

 だが、そう簡単にはいかない。

「逃げるんどすか〜、刹那センパイ」

「くっ―――!!」

 月詠が邪魔で駆けつけれなかった。一瞬でも隙を見せればやられる。

 それを刹那もわかっていたのだ。

 また戦況有利になった事で月詠の余裕も大きくなる。

 だが、そんな彼女たちの気持ちとは裏腹に、とんでもない事が起った。


 ドガァァン!!


 有り得ない爆音に、我を忘れて振り返った刹那と月詠。

 その先には、無事な姿のティアと木乃香に、空高くに吹き飛ばされたサル女と城の最上部がぶっ壊れた光景が映ったのだ。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 お互いに顔を見合わせて・・・・・・。

「ほんならセンパイ、今日はこの辺で〜」

「おい! 逃げるな!」

「後始末はよろしゅ〜」

 月詠は逃げ出した(笑)

「くっ―――弁償させる気だなっ! だがそうはさせんぞ! 私たちも逃げる!」

 刹那は踏み倒しとばっくれを宣言し、大慌てでティアたちの方へと向かっていった。







「・・・・・・どうやら、ここまでのようだね」

 2人は川の宙から川の中に戦場を移したらしく、既にずぶ濡れだ。

 また、顔のあちこちにアザができていて、お互いにイイ男が台無しだ。

「ああ。ティアが壊しちゃったみたいだな、お前等の所為で」

「・・・・・・・・・・・・」

「おい」

「じゃ」

 少年も水の転移魔法で逃走していった。

「きたねぇ・・・・・・」

 ルークはボソリと呟くと、こうしちゃいられねぇ! と叫んで慌ててティア達の下へ向かった。

 もちろん、姿を覚えられて通報される前に。

 幸い、変装していたお陰でバレにくいだろう。

 ルークも意外とズルかった。









 こうして、シネマ村を舞台にした戦いは、敵ボスが上空へ消えた事によって幕を下ろした。

 ルークたちは外で合流すると、ネギたちがいる関西呪術協会総本山へと向かったのである。

 またこっそりと跡をつけてきた亜子や朝倉、柿崎や大河内や早乙女と夕映も合流したのである。

 そこでルークは、ある1人の母親兼処刑執行人と久しぶりに顔を合わせる事になるのだが・・・・・・。

 今はまだ誰も知らない。





あとがき。
 とりあえずここまでっす。スイマセン、何かウダウダした文章になっちゃいました。

 またスランプ再発かも・・・・・・(汗)

 総本山入りしてからは、かなりオリジナル要素が強くなると思います。そしてテイルズの卑怯技が炸裂ww

 そして今回は重要な要素がかなり入っています。

 おそらく次回もそうかと。

 戦闘描写も、もっと濃くしていくつもりです。

 次回は指定スレスレ、ちょっとした騒動が起ります。

 でわ。



 
 執筆中BGM 【名探偵コナン ベストアルバム】