「では一応ネギ先生に、この式紙の札を渡しておきます」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

「いえ。本意ではないとはいえ、私個人の感情で皆に迷惑をかけるわけにはいきませんから」

「は、はい」

「そこに自分の名前を書けば、自分の身代わりが出ますから」

「わかりました」

「それでは、見回りおねがいします」

「あ、あの、桜咲さん。僕の事は・・・・・・やっぱり許せませんか? 正直いって今のままは心苦しくて・・・・・・」

「・・・・・・許せる訳ありません。お前は私の大切な人を、幼馴染を殺そうとした・・・・・・私にとって、お前は悪魔だ」

「僕が・・・・・・悪魔」

「そうやって許してもらおうと思ってる時点で・・・・・・お前は、いや貴様は悪だ」

「・・・・・・僕は・・・・・・」

「貴様は、取り返しのつかない事をしたんだ」








     第17章 ドキドキ☆キッス大作戦後編!!

 








『修学旅行特別企画!! くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生&ルーク君とラブラブキッス大作戦〜〜〜〜〜!!』

 ジャジャーンと壮大なテーマ曲と共に放送が始まった、ドロ沼な予感がする勝負の放送。

 各班のテレビにのみ映像がいきわたるようにセッティングし、旅館内のあちこちに隠しカメラを設置している事から、学生がやれる技術を遥かに越えている。

 こうして、それぞれの見学者組はわくわくしながら観ているのだが・・・・・・。

「う〜ん・・・・・・1人で観るってのは味気ないけど、ここは稼がせてもらい〜っと。美砂ごめんね〜、4班−5班の一点買いっと」

 1人あぶれてしまった桜子。自分も参加したかったのだが、賭けがあると聞いてはやらずにはいられない。

 桜子はいそいそと布団に入って戦況を眺めているのであった。




「うぐぐ・・・なんで私がこんなことを―――っ!」

「つべこべ言わず援護してくださいな! ルークさんの方はどうでもいいですがネギ先生の唇は私が死守します!」

(チッ・・・・・・私はあんな違法で働くガキよりも、まだ高感度が高いルークの方がいいぜ)

 ヤル気無しの千雨に対してヤル気度120%なあやか。この班はダークホースといってもいいだろう。

「1位になってしまたらどーしよアルかねー!? ネギ坊主とはいえワタシ初キスアルよ〜?」

「ん――、拙者は今回は古殿を手伝うでござるよ。超殿はどうするでござるか?」

「当然ワタシはルークね。今のうちに良い関係を築いておきたいアルね」

「チャオはルークアルか? おどろいたネ。チャオがルークを気に入ってたなんて」

「ワタシにも考えてる事があるアルよ。安心するネ。ルークの部屋はネギ坊主の部屋までのルートの途中アル。ちゃんと古たちについていくアル」

 各班のテレビにのみ映像がいきわたるようにセッティングし、旅館内のあちこちに隠しカメラを設置している事から、学生がやれる技術を遥かに越えている。

 こうして、それぞれの見学者組はわくわくしながら観ているのだが・・・・・・。

『やる気ゼロの千雨選手に対してネギ先生への偏愛と執着が衆知のいいんちょ、一点買いで人気bPです!』

 実況兼主催者の朝倉が画面にアップで映り、ニタニタしながら話している。

『一方、バカレンジャーから参戦の菲選手と楓選手、超選手も体力的には侮れないぞ! そして超選手のおかげで唯一の頭脳的作戦も万全か!?』

 物凄く失礼な事を言ってるな、朝倉。

「エヘヘー。ネギ君とキスかぁ♪ んふふ」

「よ〜し、絶対に勝つよ〜! 勝ってルーク君と・・・・・・ウヘヘ」

「がんばらんと・・・・・・っ! でも、ルーク君に返事もらってへんのに、キスやなんてっ!!」

「・・・・・・亜子、落ち着いて。私も協力するから」

 欲望ダダ漏れのまき絵とゆうなの2人、パニック状態の亜子をそっと支え励ますアキラ。

 彼女達は2人ずつの2組に分かれて行動していた。ゆうながまき絵に付いているのは、ひとえに1人では不利だとまき絵がゴネたからである。

 亜子も、そして内心では激しい葛藤があるアキラも、今は勝利と妨害の為に必死だった。

「ぬぅ〜! 私ひとりじゃ分身の術ができないよ!」

「いや、別に分身じゃないでしょ、あんたたち双子の場合」

「まあ、それで通用するならいいんじゃない? でも美砂、これからどうする?」

「とりあえず3人で見え難い所を移動しましょ。格闘技組とかいいんちょと当たったって、私たちじゃ勝てないわ」

「うん、たしかに。美砂意外と考えてるじゃん」

 なんだか見くびってました的発言をする円。ぶつくさ文句を垂れる風香を引き摺って、彼女達はある場所へと向かった。

「ゆ、ゆえ〜」

「全く、ウチのクラスはアホばっかりなんですから・・・・・・せっかくのどかが告白した時にこんなアホなイベントを・・・・・・」

「ゆえゆえ、いいよ〜。これはゲームなんだし・・・・・・」

「いいえ、ダメです。ル、ルークも応援してくれたでしょう? それだけネギ先生まマトモな部類に入る男性ということです。のどか、あなたの選択は間違ってないと思いますよ」

「ゆ、ゆえ・・・・・・」

 ジーンと感動するのどか。夕映はルークの名前を言う時、少しテレたがハッキリと断言した。

 しかし、そんな言葉に微妙な表情をしているのは木乃香だった。

「・・・・・・まあ、のどかがネギ君の事を好きなら応援するえ。ウチはルークやから途中から抜けるけど」

「・・・・・・? このかさん。貴方はネギ先生を良く思ってないですか?」

 意外そうな顔で木乃香を見つめる夕映。

「う〜ん・・・・・・そやなぁ、ネギ君が、ウチの大事な人にとんでもない事をやったから、正直言って良く思ってないんよ」

「・・・・・・それって・・・・・・もしかして前の、ネギ先生がとんでもない失敗したっていう、一件の事ですか?」

 夕映はこのかの人当たりを知っている。彼女は人畜無害であり誰でも隔たり無く話す。こんなに嫌悪を露わにする事など初めてだ。

 だから、そんなになるまで陥る程の事といえば、数週間前のネギが震えながら夜中にやってきた日にしか思い当たる事がなかった。

「う〜ん、それは内緒や♪ それにのどかがガンバレばエエ話やしな。ウチも親友として応援するえ」

 木乃香はいつもの明るい顔をして、楽しそうに廊下を駆けていく。

 夕映とのどかはビックリした顔をしていたが、慌てて木乃香の後を追ったのである。

『安定感あり運動部在籍、人数も最多数参加の4班! 未知数の麻帆良チアリーディングの2人の結束力がここで発揮となるか1班!? そして大穴の図書館組3人!! さあ、まだトトカルチョ参加間に合うよ〜! 詳細は私まで!!』

 朝倉の背後では、カモが「大金持ちだぜっ!」と大騒ぎだ。彼は本来の目的を忘れてるんじゃなかろうか?


『それでは、ゲーム開始!!』






 その頃、ネギの部屋では異常な現象が起っていた。刹那から貰った式紙の失敗作が、ネギへと変化し始めたのだ。

 ネギは筆で書くのは初めてだった為、名前を書くのを失敗してしまったのだ。それを破れば良かったのだが、彼はゴミ箱へ捨てただけ。

 その為に、なんと5人のネギが誕生してしまったのである。

 5人のネギは、『今はまだ』仲良くテレビを観ていた。


*************


「ふあ〜、ティアが風呂へ行ってると暇だな」

 アスナと刹那が風呂へ行くと言うので、ルークはミュウと一緒に部屋でお留守番だ。

 だが、ふと異様な気配を感じ取る。

「おわっ!? ・・・・・・な、なんなんだ、この禍々しい気配は・・・・・・やはり風邪か? いや、なんかココに居てはならないと俺の勘が警報を鳴らしている・・・・・・」

「ミュ? どうしたんですの?」

「・・・・・・何食ってんだよ」

「おまんじゅうですの!」

 ミュウにとってはどこでも平和だった(笑)






 観戦の生徒達が固唾を飲んで見守る中、急速に近づくグループがあった。

 それは3班のあやか&千雨ペアと4班の一部であるまき絵&ゆうなペアである。

 彼女たちは階段付近の角でいきなり遭遇を果たした!

「ぷっ!」

「へぷっ」

 反射的に動いたまき絵とあやかが枕でドツき合いを始め、見事に相打ちに終わる。

 そこへゆうながトドメを入れようとするが、千雨に足を掛けられて転倒しそうになった。

「エモノ発見アルー!! チャイナピロートリプルアターック!!」

「私もいくネ♪」

 突然乱入してきた2班の格闘バカ&天才の古と超。彼女達の乱入により、まくら投げはより一層の乱戦と化した。

 2班に対抗してあやか達は数で攻めに出る。もはやまくら投げではなく、まくら叩きであった。

 そんな彼女達の叩き合いは突如響き渡った、ある人物の悲鳴によりストップを告げた。

「こらっ長谷川!! 何をやっとるかぁ!!」

「ぎゃぴぃ〜〜〜!!」

『ああ〜っとぉ! ついに犠牲者が出てしまったぞ!! 長谷川千雨脱落決定!! 朝まで正座です、サヨ〜ナラ〜!!』

 朝倉のヒドい実況は聴こえない現場の彼女たちは、逃走を開始する。

 2班の傍観していた長瀬・古・超が即座に逃走を開始する。その際にゆうなを弾き飛ばした。

 あやかとまき絵はサッと物陰に隠れてやり過ごそうとする。

「むっ! 明石、お前もか!! 2人ともロビーで正座!!」

「「びえ〜〜〜〜ん!!」」

(うう〜。私だってルーク君の所に行きたかったのにっ! ここは仕方が無いから亜子のがんばりに期待ね!!)

 悲鳴を上げながらそんな事を考えている彼女たちを尻目に、あやかとまき絵は同胞を見捨てて協定を結んでいた。

 体力バカ&天才に対抗するために、一時的な協定らしいが・・・・・・これがどういう結果になるのだろうか。

 そして正座させられている2人を観て、観戦中の生徒たちは思った。

 可哀相に・・・・・・と。





 さて、ここで遥かに体力面で劣る図書館組の面々にスポットを当ててみよう。

 体力面と体格で圧倒的に不利な図書館組3名は、彼女達にはない頭脳面で対抗することにした。

 まさにそれは呆気にとられるしかない。何せ観戦者達のテレビで彼女達の現在位置を示す点滅が、『屋外』になっているのだから。

 窓から出て細い通路を進み、普通の人なら通らない空きスペースを進んでいく夕映たち。

「ゆ、ゆえ〜、何でネギ先生のとこ行くのにこんなとこ通ってるの〜〜〜? まるで部活みたいー」

「私の見立てではこのルートが安全かつ速いのです。ネギ先生やルークの部屋は端っこ付近ですので、どうやっても敵や新田先生に当たってしまいます」

「なるほどな〜。さすがやなぁ夕映」

「当然です。私たちでは古さんたちに勝てる訳ないです。それではルーク、いえ、ネギ先生の所にたどり着けないです」

「・・・・・・・・・・・・もしかして、ゆ、ゆえって」

「な、なんでもないです! 着いたですよ!」

 ワタワタと慌てる夕映をニコニコした顔で見る木乃香。のどかが何か気付いたようだが、夕映が言わせてくれなかった。

 非常口から侵入すると、そこら一帯の通路には誰もいなかった。

 チャンスとばかりに侵入した夕映たちは、ネギの部屋の前にたどり着く。このまま図書館組の勝ちかと思われたが、そうは問屋が卸さない。

 天井からスルリとハシゴが下ろされ、そこから柿崎たち1班が降りてきたではないか!

「のどか、このかさん、早く入るです! ここは私が食い止めますから!」

「ゆ、ゆえ!」

「夕映!」

 友の為に犠牲になろうとする夕映。だがジーンとするシーンのはずなのだが枕を持って飛び掛ってきた風香を叩いている事で、物凄く滑稽だ。

「そうはさせないよ、このか!」

「ルーク君の唇は、この私がっ!」

 木乃香は夕映の言葉に反応して、僅かに躊躇ったがルークの部屋へと走り出した。

 しかし時既に遅く、円が木乃香を後ろから羽交い絞めにして拘束。そして柿崎がネギの部屋の3つ前の部屋へと突入していった。

「くっ! 覚悟するです!」

 のどかは柿崎が突入した事で、彼女自身も勢いで夕映を心配しながら部屋へと入っていった。

 夕映は必殺の本を取り出し、枕の上から叩くという屁理屈満載のスタイルで円を攻撃しようとする。

 しかしそれも更なる乱入者によって頓挫してしまった。
 そう、2班の乱入である。

「およっ、見つけたアルよー」

 エモノ発見とばかりに飛び掛ってくる古だが、ここで想定外な事が起った。

「じゃ、ワタシはここで離脱ね♪」

「ちゃお〜!?」

 裏切られた古。超はルークの部屋へと突入しようとした。

 だが。

「きゃああああああああああああああああ!」

 のどかの悲鳴で、第2回戦乱闘大会は打ち切られた。

 一体、何があったというのだろうか。




 ここで果敢にも突入した柿崎がどうなったかというと・・・・・・。

「柿崎? どうしたんだ? なんか廊下が騒がしいけど」

 部屋にいたのは、お茶を飲みながら珍妙な動物と一緒にまんじゅうを食べながらテレビを観ていた、浴衣姿のルークである。

 ここにきて柿崎は恥ずかしくなってしまった。当然だ。これからやる事は自分と同じ年齢の超美形の男子とキスをするのである。

 それに何て言えばいいのか。

「え、えっと、ちょっとルーク君に用っていうか・・・・・・」

「何だ?」

 シーンと静まり返る室内。テレビの音が妙に響く。

 柿崎は訳の分からない言葉をぶつぶつと呟いて、顔を真っ赤にして俯いていた。

 ルークは怪訝な顔をして首を傾げているが、柿崎は堪らなくなりついにヤケクソになった!

「えいっ!!」

「うぉっ!! ちょ、マテ、お前!!」

 室内で押し倒す形になった柿崎。彼女の浴衣はたるんで胸元が全開で見えてしまう。

 うむ、お椀形で良い大きさで綺麗な乳白色のチ、ってそんな事言ってる場合じゃない!

 だが柿崎は、美砂はそんな余裕はなかった。


「「「「「「「「おおおおおおおおおおお、ゴクリっ」」」」」」」」


 その扇情的な光景に、観戦者たちはゴクリと生唾を飲み込む。妙にヤらしくて扇情的な光景だった。

『お、お〜〜〜っと!! 何か妙に興奮しますが、柿崎選手、ここで一気にイクのか〜〜〜〜!?』

 声が裏返っている朝倉。それも仕方が無いだろう。

「柿崎、お、おまえっ」

「と、とにかく! ジッとしてて! 目を瞑って!」

「イヤ、ムリだっつーの! と、とにかく逃げる! ミュウ!」

「ミュ!」

「きゃあっ!」

 柿崎の腰を掴んでクルリと回天することで脱出したルークは、ミュウを掴んで外へとダイブする。

 ちょっ、という声を皆が上げた。何故ならそこは2階の高さだからだ。

 しかし。

「ウイ―――――――――――――ング!!」


「「「「「「「「ちょ!?」」」」」」」」


 妙に可愛らしく見たことも無い小動物が、ルークをぶら下げて空をパタパタと飛び上げっているではないか!!

 その有り得ない、でも可愛らしい光景に唖然とした観戦者たち。

 ルークは無事に脱出したのであった。

(やっぱり何か起ってるみたいだな・・・・・・これはただ事じゃないぞ!)

 前かがみで屋根を走っているルーク。彼はいつでも元気だ!






「ねえアキラー。こんな事してて大丈夫なんかなぁ、うちら」

「大丈夫。ルーク君の性格上、この作戦で間違いない。普通にやったって逃げられるだけだよ」

 亜子と大河内アキラはある場所で準備をしていた。だからこれまで派手な行動に出れなかったのだ。

 彼女はこのゲームの展開と顛末をなんとなく予想していた。だからそれを逆手に取る。

 彼女は、亜子の親友なのだ。

 亜子を勝たせるために、とにかく必死だった。






 時は少し前に遡る。

 のどかの悲鳴を聞いてネギの部屋へ突入した木乃香や夕映、古や風香たち。

 しかし部屋に広がっていた光景は布団の上で気絶していたのどかの姿と、外へ逃げたらしき痕跡の開いた窓だけであった。

 真っ先に木乃香は何か思いついたように外へ飛び出していった。

 それを見た古たちも慌てて追いかけていったのだが、問題はのどかを布団で寝かせた夕映に降りかかった。

 いや、全員の目の前に、ある人物が姿を現したのだ。

『えーっと、5班宮崎のどかが果敢にもネギ部屋に突入しましたが、どうやらキスは失敗した模様! ネギ先生は逃走しました! 各オッズはかわらず!』

『ね、姉さん。朝倉の姉さん』

『何よ』

『な、なんか、ネギの兄貴が5人いるように見えるんだけど・・・・・・』

 モニターには、5人のネギの姿が映っていた。

「キス・・・してもいいですか? 夕映さん」

「キス・・・してもいいですか? いいんちょさん」

「チューしてもいいですか? まき絵さん」

「その、お願いがあって、その、キスを・・・」

「今から風香ちゃんの唇をいただきます」

 5人のネギがひとつの画面内で、バラバラの場所で、別々の人物に迫っていた。

『おお――――っと!? あれれ? これはどういう事だ!! ネギ先生が5人!? しかも一斉に告白ターイム!!』

 あちこちから、コレどーゆーこと!? という声が各部屋から聞こえる。

『あーわわわわわ、大変だ大変だ!! 兄貴が5人も〜〜〜!?』

『何なの何なの〜アレは〜!? アンタ妖精でしょ、何とかしなさいよ!! このままじゃルーク君に余計に処刑されちゃう!』

 大パニックの朝倉たちを他所に、告白された人物たちは各々に興奮状態だ。

 あやかは記念すべき瞬間の為にカメラのセッティングや化粧で大忙し。

 まき絵はテレて微妙なボティータッチを何度も繰り返し、言い訳めいた言葉を何度も口にしていた。

 古の方は、ネギを壁に叩きつけるように足で押さえつけて、ちょっとまつヨロシ、とか言って心の準備をしていた。

 一方で鳴滝風香は、この瞬間に微妙に恥ずかしくなったらしく、何度も深呼吸をしてカメラの向こうの妹へピースを何度もしていた。

 つまり、誰一人キスなどしていなかった。

 だがここで大変なのは夕映の方だった。

「いいですか? 夕映さん」

「あ、いえ、いや・・・・・・」

 思わぬ事態に頭が真っ白になった夕映。迫ってくるネギにジリジリと後退する。

 しかしのどかが眠る布団に躓いて仰向けに倒れてしまった。

 そこへネギが迫る。

「あ、ちょっ・・・・・・っ!!」

 夕映の視界に安らかに眠るのどかの寝顔が飛び込んで来たことで、夕映はなんとか気を持ち直す。

「見損ないましたよ、ネギ先生! のどかに告白されておいて、すぐに私に迫るだなんてそれはないでしょう!!」

「すいません。それでも・・・・・・夕映さんとキスしたいんです」

 夕映はこの状況に真っ赤なってテレていたが、それと同時に凄まじい怒りもあった。

 つまり怒りと訳の分からない状況、そしてネギの言葉で再び頭が真っ白になってしまったのだ。

 どんどん、ネギの顔が迫ってくる。

(ううう・・・・・・まさか、そんなネギ先生が私のことを・・・・・・!?)

 夕映はバカレンジャーのリーダーを勤めるほどの女性だが、彼女は実は恐るべき高速思考の持ち主だった。

(い、いえ待ちなさい! この状況は何か変です。唐突すぎる!! 確かに私はネギ先生に対して好印象は抱いているです。でもそれはあくまでも1人の人間としてです。それに格別、先生の気を引くような行動をした覚えも皆無です!)

「や、やめて・・・・・・」

 夕映の口から拒絶の声が洩れた。

(また他のクラスメイトに比して特に可愛いとも言えず、発育も極端に悪い私をネギ先生が気に入る理由が見当たらない。背丈が近いからか? いやそんな。それにです。たとえ仮に本当に私を好きだとしてのどかの告白の後にこのような行動に出る人でしょうか? いえ不自然です! 何か事情あっての演技!? それとも報道部・朝倉和美の罠!?)

 ぐいっと、夕映の頭を片手で持ち上げて、目と鼻の先までネギの顔が迫る。

「や、やだ・・・・・・私はっ」

 悲鳴のような声が、小さく洩れた。

 夕映の脳裏に、ある人物の笑った顔が過ぎった。

(いやです・・・・・・そうです、私はルークの事を。親友ののどかを後押ししてくれたあの人に。あの優しくてどこか悲しそうなルークを、私はっ)

 ついに、夕映は自分の気持ちを自覚し、そして認めた。

 唐突だが夕映は読書家だ。読書家にはロマンチストが多い。彼女はその枠にもれず、初恋の男性と初キスすることを夢見ていたのだ。

 それが今、別にどうとも思ってない、しかも9歳の子供に奪われようとしている。

 夕映にはそれが耐えられないほど悲しかった。

 それが、言葉となって洩れた。

「たすけて・・・・・・ルークっ!」

 唇が重なる、そう思って夕映の目から大粒の涙がこぼれた瞬間だった。

 一陣の旋風と共に、何かが飛び込んで来た。


 ドガッ!!


「何やってんだ、てめー! 嫌がってんじゃねぇか!!」

 窓から飛び込んで来たルークは、全力でネギの頭を蹴り飛ばしていた。

 そのルークの姿に、夕映は安堵感が込み上げてきて、ルークの腰へぎゅっと抱きついた。

「大丈夫か、綾瀬?」

「は・・・・・・はい、です。大丈夫です」

 ルークから離れた夕映は、乱れた浴衣を直してゴシゴシと涙を拭い、ルークへ笑いかけた。

 こんな時に不謹慎だが、ルークはその夕映を見て、思わず抱きしめたくなるほど、可愛く見えた。

 ブルブルとそれを頭から追い出す。

 するといきなり隣から悲鳴があがった。

「キャ―――――――ッ!」

 ビックリした夕映とルークが振り返ると、そこには騒ぎで起きたのどかと、ルークに蹴り飛ばされた顔が、いや何メートルにも伸びた首を引き摺るネギの姿があった。

「なっ!?」

 夕映が絶句してネギを見つめていると、ルークがつかつかと近寄り、さらにネギを蹴り飛ばした。

 そしてボカン、と爆発と共に一枚の紙が落ちてきて、轆轤首のネギは消滅した。

「ゲホエホッケホッ・・・・・・あっ、これは―――・・・!?」

「やはりニセモノ! 落ち着きなさいのどか。これはニセモノです。どうやったかは分かりませんが」

「ちょっとこの事態を収めてくる。もう大丈夫だよな、2人とも?」

「あ、ハイです。ありがとうです」

「何かあったら俺を呼んでくれ。そうしたら助けにいくから」

 そう言ったルークは慌てて廊下へと飛び出していった。

「・・・・・・ありがとう、です・・・・・・ルーク」

「・・・・・・・・・・・・」

 頬を染めながら、ポツリと呟く親友の姿を観て、のどかは己の勘が間違いではなかった事を悟った。





 廊下を飛び出していったルークは、いきなり横から飛び出してきた超に襲われていた。

 超の独特の動きにルークは面食らいながらも即座に避ける。

「今度は超か!? なんなんだいったい!? 今度は天下一武道会か!?」

「そのネタはちょっと古いネ♪ それに私も柿崎と狙いは同じヨ。さっきは柿崎の様子を見てたけど、今度は私の番ネ♪」

 ちょっとマテ〜! と叫ぶも超は止まらない。ルークの腕を絡め取って投げ技に持ち込み、組み倒そうとする、が。

 ルークは壁を使って綺麗に跳躍する事ですべて避ける。

「なんで避けるカ? 私のこと嫌いアルか?」

「普通避けるだろ! つーか、いったい何がしたいんだ!」

「内緒ネ♪ さあ、私のファーストを上げるから、私の軍門に下るネ」

「ファースト!? なんだそれ!? つか軍門って」

 左・右と連続の蹴り技にルークはしっかりとガードし、そして驚くべき行動に出た。

 このままでは埒が明かないと判断したらしい。女の子には強く攻撃できないからだ。

「これで終わりヨ!」

 ドアで逃げ道を塞がった超は、跳躍して蹴りを入れてくる。

 しかし次の瞬間、信じられない事が起った。

 ルークが扉を開けたのだ。

 跳躍した勢いで、中へ飛び込んでいく超。そしてそのままクローズ。

 ドアの前に表示されている文字は『男子トイレ』の文字。

「・・・・・・・・・・・・スマンな、超。お前の犠牲は無駄にはしないさ。ミュウ、出てこれないように見張っておいてくれ」

「はいですの!」

 おそらくトイレの中でガックリと落ち込んでいる超の方を向いて両手を合わせるルークだが、あっさりと身を翻して先へと走り出した。

 なんだか声が集まっている方へ向かっていたルークだったが、横からかけられた声に、敏感に反応してファイティングポーズをとってしまった。

「あれ、ルーク君? どうしたの、そんなに慌てて?」

 脇道から出てきたのは、風呂から上がったと思しきアキラと亜子の2人。微妙に髪が濡れていて洗面グッズを持っているから、そう判断した。

「なんだか騒がしいね。何かあったの?」

 亜子に告白されてから、初めての邂逅だった為に亜子はテレて俯いていた。ルークは仕方が無いよな、と思ってアキラの問いに答えた。

「いや、なんかさっきから妙に襲撃されてさ。よかったよ、お前等は違ってさ」

 ルークはふぅと溜息を吐いて気を抜いた。正にその瞬間、亜子とアキラは目線を合わせて即座に動いた。

 元々傍にいたこともあり、アキラが手を伸ばせばルークに触れる事ができた。従ってルークを羽交い絞めにして拘束する事など容易かった。

「な、何を!? ってお前等もか!?」

 ジタバタと暴れるルークだったが、アキラが女性ということもあり、派手に抵抗できない。

 アキラはその事も計算通りだった。

「さあ、亜子、チャンスだよ」

「う、うん」

 亜子が、近づいてくる。

「お、おい、和泉?」

 そこはかとなく、嫌な予感を覚えるルーク。

「ウ、ウチ・・・・・・ルーク君に言った言葉、嘘やないから・・・・・・だ、だから」

 顔が、ルークの顔に近づく。

 そして・・・・・・。

「ん・・・・・・んん・・・・・・」

「ちょ、和泉、まて、おまっ―――ムグっ!?」

 唇が重なった。

「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」

『おお〜〜〜〜っと! どこに隠れていたのか、4班の和泉&大河内ペア! ついに和泉選手がルーク君とキスを――――!!!!』

「・・・・・・キュ〜〜〜〜」

 亜子は緊張の余り、キスをしたまま気絶してしまった(笑)

「亜子!?」

 驚いたアキラは、亜子を抱き上げて介抱する。ルークは呆然となり、そして一連の出来事が一本のラインに繋がる。

 そして・・・・・・ロビー方面から聞こえてくる連続の爆発音が聞こえて来た瞬間、

「・・・・・・フフフフフフフフフフフフフ」

 と、不気味な笑い声と共にルークは走って行ってしまった。

 その顔が、耳まで真っ赤だった。






 ロビー前ではルークが到着した瞬間劇的な事が起っていた。

 ネギがのどかに告白の返事をしているではないか。

 ・・・・・・なんで新田先生が倒れて気絶しているのか、それはあまり考えたくない。というか、もはや背水の陣だ

 あちこちに黒こげになった生徒が落ちてる事から、爆発の原因は彼女たちらしい。

 何をして爆発したのかは、考えたくない。

「あの、お友達から始めませんか・・・・・・?」

「・・・・・・ハイっ!!」

 テレながら言うネギと、嬉しそうに微笑んで承諾するのどか。

 どうやら彼女の想いは無駄にならずに済んだようだ。よかったとルークは安堵して夕映へ近寄る。

「よかったな、夕映」

「ルーク・・・・・・はいです。よかったです」

「でよ、これからこの事件の発起人を絞めにいくんだが、夕映もいくか?」

「い、いえ。私も参加した口ですから・・・・・・」

 苦笑しながら夕映は断る。すると木乃香がやってきた。

「やっと一段落したようやなぁ」

「おお、木乃香。ちょっと聞いてくれよ」

「ちょっと待ってな、ルーク」

 ルークの言葉を遮る木乃香。そして夕映が、仲良さそうに戻ろうとするのどかの足をかけて転ばせたのだ。

 足をかけられたのどか。倒れそうになったその先には・・・・・・。

「「「「「「「「おおおお! のどかと亜子が勝ったぁ!!」」」」」」」」

 賭けが決まり、大声を上げる観戦者たち。

 見事にのどかとネギの唇が重なっていた。

 ・・・・・・先ほどの自分の姿と重なって落ち込むルーク。ガックリと膝を付いて落ち込んでいた。

 だがそれがいけなかった。

 キスしてしまった事で、のどかとネギはお互いにペコペコと頭を下げて謝っていた。もちろんその傍には夕映がいる訳で。

 思いがけない形で、夕映へのどかから仕返しが帰って来た。


 ドンっ!!


「えッ?」

 所謂、ヒップアタック。尻アタックを喰らった夕映。

 夕映はそのままのどかと同じように体勢を崩し、地面に膝を付き落ち込んでいるルークへ直行。

 その気配に気が付いたルークは、何事かと、顔を上げた。


 チュッ♪

「「@¢◆☆×▽□〜〜〜〜!?」」

 見事にお互いの唇が重なっていた。

 その瞬間、場の空気が凍りついた。

「「「「「「「「夕映も追加だった〜〜〜〜〜!! っていうかドンけつ!?」」」」」」」」

「む〜、ウチもウチも! って、マズイわ〜。ここはドサクサにまぎれて終了間際にキスしようかと思ってたけど、一時撤退や」

 木乃香は恐ろしい事を口にしながら、そそくさと逃げるように出て行った。

 真っ赤な顔で硬直している夕映と、ドンけつした所為で思わぬ親友へ手助けできたのどか。場は完全に固まっていた。

 そして、木乃香が逃走した理由が、次の瞬間に明らかになった。


「全員、朝まで正座〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 見事に木乃香を除いた参加者全員(超もトイレから救出)が、朝まで正座させられたのである。

 もちろん主犯の朝倉もである。

 そして朝倉&カモには、真っ赤になったルークが絶えることなく殺気を“贈り”続けていた。

 もちろん、物陰から見ていたティアも、さすがにお冠だったようで、物凄い怒りのオーラをアスナ&刹那付きでぶつけられていた。

 朝倉たちにも、そしてルークたちにも時間は長く感じたそうな。

 もっとも、気絶していた亜子と、それに限りなく近い夕映にとってはあっという間だったらしい。

 このか・・・・・・恐ろしい子!!














あとがき。
 スイマセン! もう、何がなんだか分からないけどスイマセン!

 最後の方は力尽きました。もうダメ・・・・・・Σ( ̄ロ ̄lll)

 というか、書いてて夕映っちの可愛らしさにアテられたww

 そして仮契約成立は、のどかと夕映、そして亜子になりました。アキラさん・・・・・・エエ女や。

 このかが活躍してないように思えますが、彼女は要所要所で実に要領がイイというのが、私のこのか像です。

 まあ、ぶっちゃけこのかとこの時点で仮契約してたら、戦いで呼び出して終わり、なんて事になってしまうからなんですけど。

 しかし柿崎が今回はお色気キャラになってしまった(笑)

 かなりキワドイ所まで・・・・・・え? きわどくない? わかりました。次はもっといきます(ムリです)

 とにかく夕映がピンチになって、そして助けることができてよかった。

 そして、バレンタインの日に、悲しみの男性諸君にこの話を贈ります。

 少しでも慰みになればイイのですが・・・・・・(号泣)



 
 執筆中BGM 【ZARD ファンアルバム】