「ううう・・・・・・ルークに見られちゃいました・・・・・・すべて」
「せっちゃん、今更なに言うてんの? 子供の頃一緒にお風呂に入った事あったやん」
「今と昔は違います!!」
「そういえば、私も見られてたんだ・・・・・・パイパンな場所も」
「・・・・・・もうちょっと経てば大人になるわよ、神楽坂さん」
「あたしの事はアスナって呼び捨てにしてください! フェンデさん!」
「そう? なら私の事もティアでいいわ」
「ならティアお姉さんって呼ばせてもらいます!」
「ええ。それにしてもルークったら・・・・・・浮気ばかりしてるのね。何かお詫びさせなくちゃ」
「殴り飛ばしたあたしが言うのも何ですけど、不可抗力だったんじゃないですか?」
「関係ないわ。私へのお詫びをもらわなくちゃ気がすまないもの」
「何かもらうん?」
「そうね・・・・・・・・・・・・ああ、良いこと思いついたわ」
「?」
第15章 決戦の舞台は京都駅!!
「いててて・・・・・・ティアたち手加減しないんだもんなぁ・・・・・・・・・まあ、当然といえば当然だけど」
ボロボロの姿で身体を引き摺りながら歩いているのはルーク・フォン・ファブレ。
羨ましい事に、ある剣道美少女の全裸を下半身から眺めてしまったという、とんでもない事をしてしまった為にボコボコにされたのだ。
しばらく気絶していたルークだったが、意識を取り戻すと外に放置されていた為に身体が冷えていたので、もう一度湯で温まったのだった。
「台車通りま〜す」
部屋へ戻る途中、向かいの廊下を横切った台車を押す作業員らしき女。ふとその気配と直感がその女に違和感を感じたのだが、ルークは気のせいだろうと思い部屋へと入った。
部屋に入ると、そこには人間サイズに戻ったティアがいた。
「あ、ティア。元に戻ったのか」
「ええ。遅かったわね、ルーク」
「・・・・・・分かってて言ってるだろ」
「何の事かしら?」
「・・・・・・ごめんなさい」
ガックリとうな垂れるルーク。そりゃあ自分の恋人が他の何の関係も持っていない女と絡み合っていたら怒りもするだろう。
ティアはぷいっとそっぽを向き、髪を弄くっていた。ミュウはティアの膝の上で困ったようにオロオロしている。
ルークはそっと背後に回り座り込んで、後ろからそっと抱きしめた。
「ごめんな、ティア。傷つけたなら謝る。すまない・・・・・・」
「・・・・・・ちがうのよ、ルーク」
ルークの手にそっと自分の手を重ね、ふるふると首を振るティア。
何が違うというのだろうか?
「不思議な事なんだけど、別にあの子たちとルークがあんな事になっても嫌な気分にならないのよ・・・・・・それが不思議で、戸惑ってるの」
「? そうなのか?」
ビックリした顔のルーク。
「ええ・・・・・・自分でもおかしいと思うのよ・・・・・・あの子たちの事を気に入ってるからかしら」
ティアはルークの手を弄くりながら、身体をそっとルークに預けた。
ルークもティアのお腹に手を当てながら、彼女の首筋に顔を当て、そっと囁いた。
「・・・・・・とにかく、どっちにしても、俺はティアの事が大好きだから・・・・・・一番大切だからな?」
「ありがとう・・・・・・私もよ、ルーク」
ティアは頬を赤らめながら、ルークとキスを交わした。
重なる唇を動かし、お互いを貪る。
両者の息が荒くなり、お互いの舌が絡まった、その時だった。
ピピピピと、携帯が鳴ったのだ。
無粋な電話にルークもティアも頬を膨らませながら電話に出た。
「はい、もしもし」
「ルーク! 大変です!」
相手は刹那だった。だが様子がおかしい。
「どうした!?」
その切羽詰まった感じから、ただならぬ事態が起った事を感じ取り、ルークも慌てて問う。
「このちゃんが敵に攫われました! サルの人形を着た女が駅へ向かって逃走中です!」
「分かった! 俺もすぐに行く! 電話はこのまま繋げとくぞ!」
「お願いします!」
電話をポケットにしまうとその声が聞こえていたのか、ティアは既に浴衣の姿ではなく戦闘用の服を着ていた。
彼女に、先刻までの女の気配はない。既に気持ちの切り替えは済んでいるようだ。
ルークは浴衣姿で武器のフォニックブレードを取り出す。
「急ぎましょう、ルーク」
「ああ」
「ミュウも行くですの!」
ルークの肩に乗って叫ぶミュウ。
3人は窓から飛び出すと、全力で走り出した。
電話で移動先を聞くのはミュウの役目。どうやら電車に乗ったらしく、方角は京都駅方面のようだ。
刹那たちは電車内で敵の攻撃により水中に溺れそうになり、だが刹那の斬空閃よって打開した。アスナとネギは彼女の実力に改めて驚いていた。
ルークたちはこのままでは間に合わないと判断し、近くを走っていた大型バイクを乗る男に詰め寄る。
「すまん! ちょっと貸してくれ!」
「ハァ!? ちょ、ちょっと、あんたら何なんだ!?」
男の言い分も最もである。
だが。
「ここに電話を入れろ! そしたら新品のバイクをお前に買ってやる! だから今は何も聞かずに貸してくれ!」
ルークは麻帆良学園の学園長の名刺を渡し、勝手に約束をこぎつける。
男はルークの言葉に呆然となり、なんとなくの勢いでバイクを渡してしまう。
そしてルークが乗り、二人乗りでティアとミュウが乗ったバイクが去っていったのを見届けた男は、こう呟いた。
「いったい、なんなんだ!?」
男はとりあえず、渡された名刺の番号に携帯でかけてみた。
「ふふふ・・・・・・なかなかやりますなぁ・・・・・・」
京都駅。そこに辿りついたアスナたちは、木乃香を眠らせて攫ったサル女を追い詰めていた。
最初は激しい火炎の呪符により、通せんぼを喰らったネギたちだったが、それをネギが得意の風の魔法『風花・風塵乱舞』により吹き飛ばした。
「逃がしませんよ! 今は認めて貰えてませんが、このかさんは僕の生徒です! 返してもらいます!」
サル女は呪符から善鬼護鬼となる、人形の護衛従者を召喚した。
「ホホホホホホ、なかなかやるボウヤのようどすが、ウチの猿鬼と熊鬼はなかなか強力ですえ。一生そいつらの相手でもしていなはれ」
「刹那さん!」
「ええ、行きます!」
刹那とネギは逃げようとする千草を食い止める為に、従者へと迫る。
(生半可な技ではダメだ。ルークに教わったではないか。どんな敵でも相手でも、全力の力でトドメを刺すと)
刹那は夕凪を構えると気の力を極限まで高め、必殺の一撃を放つ。
「神鳴流奥義! 斬岩剣!!」
本来なら岩を真っ二つにするその技は、圧倒的な圧力をもって熊鬼を受け止めようとした腕ごと切り裂いた。
「な!?」
一撃でやられた事に驚くサル女。見るとアスナも駆け寄ってきていて、サル女へと迫っていた。
ネギの方を振り返ると『戦いの歌』で自分へ魔力供給し、中国拳法で善鬼と殴り合っている彼の姿があった。
彼の方はこのまま任せて良いだろう。
刹那は気を取り直すと、夕凪をギラリと構え、サル女へと跳躍した。
「覚悟!」
「そう〜はさせませんよ〜〜〜〜〜〜〜」
「!!」
物陰から飛び出してきた人物の一撃を、辛うじて受け止める刹那。
(この剣筋・・・まさか神鳴流剣士が護衛についていたのか!? マズイ・・・・・・ルークたちはまだか!!)
「ど〜も〜おはつです〜。神鳴流です〜。あなたは神鳴流の先輩さんのようですが護衛に雇われたからには本気でいかせてもらいます〜わ」
その人物は女で、神鳴流を疑われるようなゴシックロリータな服装だ。
「こんなのが神鳴流とは・・・・・・時代も変わったな」
「フ・・・・・・甘く見るとケガしますえ。ほなよろしゅう月詠はん」
「はい〜。ではいきます。ひとつお手柔らかに〜」
月詠と呼ばれる少女が両手に太刀を構え、刹那へ襲い掛かる。その一閃一閃は容姿に似合わず意外とするどい。
神鳴流は長い太刀を使うのが主なのに、月詠は短い小太刀を使って襲い掛かってくる。刹那は慣れない戦闘スタイルに防戦一方だ。
(意外にできる! これは・・・・・・!!)
「刹那さん!」
するとどうだ。階段を上がってきたアスナがやっと辿りついたではないか。
アスナは刹那の心配もしたが、自分の師匠が負けるはずないと思い、サル女へ向き直って睨みつけた。
「このかを返してもらうわよ!」
「ホホホホホ。一般人で何の力ももってない小娘が何をできるというんどす?」
「くっ!!」
アスナは歯噛みした。なぜ竹刀だけでも持ってこなかったのかと、今更ながら後悔していた。
更に。
「ふしゅ〜〜〜〜〜〜〜」
「ちょ、ちょっとおおおおおおおおおおおおおお!?」
目の前に着地し現れた翼を生やした鬼。人外の化け物。それを見たアスナは悲鳴を上げた。
刹那もネギもその存在に焦るが、目の前の敵に精一杯で駆けつける事ができない。
「ほなさいなら。木乃香お嬢様はもらっていきますえ〜」
くるっと背を向けながら意地悪な笑みを浮かべるサル女。
このままでは逃げられてしまい、木乃香が何をされるかと絶望感に満ち溢れた時だった。
「ひとーつ、キサマを地獄へ送り♪」
ブオンブオンとエンジン音を響かせながら遠くからやってくる一台のバイク。
不思議なほど、声が自分たちに届いていた。
「ふたーつ、発覚、女の悪行三昧♪」
アスナたちは、否、この場の全員が固まっていた。
「みーっつ、キサマを粛清してあげましょう!!」
ドガッ!! ズザザザザザザザザザザ!! ガン!!
「あう〜!?」
バイクを乗り捨てて、瞬動術でサル女から木乃香を奪ったルークは綺麗に着地を決める。
奪った際にルークに体勢を崩されたサル女は、滑り転がってきた大型バイクに弾き飛ばされた。
「んー、ちょっと語呂が悪いかも」
こちらも綺麗に着地を決めたティアが、ルークの悪趣味な、そして微妙に古い歌を聴いて感想を言う。
この場は完全に彼等に支配されていた。
彼等の登場に固まっていた彼女たちだったが、真っ先に復活したのはアスナだった。
「遅いのよ、ルーク!」
「スマンスマン、アスナ。それより、木乃香を頼む」
「もちろん!」
「ミュウ、お前も木乃香についてやってくれ」
「わかったですの!」
ルークから木乃香を受け取ったアスナは、ミュウを肩に乗せて慌てて階段を降り、サル女たちから距離をとった。
刹那も安堵していた。木乃香を取り戻してルークも来てくれた。ましてや話しかしらないとはいえ、異世界を救ったメンバーの1人の女性がいるのだ。
頼もしいことこの上なかった。
「なななな、なんどすかあんさんたち!?」
意外と頑丈なのか、バイクに轢かれたのに復活したサル女。彼女の前に鬼が立ち、鬼と相対するようにルークとティアが構えた。
「さて・・・・・・久しぶりにティアとコンビで戦うな」
「そうね。いくわよ、ルーク」
「ああ!」
ティアが魔力を高め始め、ルークがフォニックブレードを抜いて鬼とぶつけ合う。
鬼の大剣は巨大で重量がある。力押しでは敵わない。
ルークと鬼の剣がギリギリと嫌な音を上げる。だがルークにはこいつを倒すつもりはなかった。つまり単なる時間かせぎ。
ティアは譜歌を唱えながら、ネギが先刻唱えた風塵乱舞の風が残っている事を感じていた。従って、唱えるべき譜歌はFOF変化を起こす魔法。
それは・・・・・・。
「炎帝の怒りを受けよ、吹き荒べ業火! フレアトーネード!」
彼の狙いは彼女へこの世界の戦いのレベルを知ってもらう為だった。
圧倒的な譜歌が完成し、鬼の足元から灼熱の地獄の業火が舞い上がり、京都駅天井へと舞い上がった。
・・・・・・天井が燃えなくて良かったよ。
炎の竜巻は鬼を見事に焼き尽くし、塵ひとつ残す事はなかった。
「・・・・・・つーか、中級譜歌でいいじゃん。そこまでやる必要なかったんじゃ」
「どの程度耐久力があるのか分からなかったから・・・・・・」
微妙に恥ずかしそうにしているティア。やりすぎた事で恥ずかしいようだ。
たしかにその魔法は圧倒的だった。
何しろ地面は焼け焦げていて、サル女は熱で火傷したくらいだった。
彼女はルークと離れ離れになっていた2年で、世界を旅し、譜歌の修行ばかりをしていた。おかげでその実力は飛躍的に上がっていたのだ。
「くっ・・・・・・ここは退散や」
手駒がなくなり、応援も来ない感じから、サル女は撤退を決める。
だが。
「逃がす訳ないだろ?」
ルークはフォニックブレードを構え、露骨な殺意を開放する。
そこにあるのは・・・・・・女を殺すこと、ただそれだけ。
「っ!!」
アスナは身を震わせ、刹那は一瞬だけ迷ったが、すぐに気を持ち直し月詠と剣を交える。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
殺気に身を硬くしたサル女は、ガタガタと振るえ、離脱用のサルを召喚したのに脱出できないでいた。
ルークがサル女を殺す、そう思った瞬間だった。
「ダメです、ルークさん!」
ネギから静止する声が入ったのだった。
ルークはほんの一瞬だけ動きを止めた。その瞬間に我に返ったサル女・天々崎千草は空へと逃走していった。月詠付きで。
敵がいなくなった事で、アスナは気を緩めた。
刹那は夕凪を収めて木乃香へと駆け寄り、どこか異常がないか調べ始めた。
しかしそんな2人を他所に、ルークとネギはお互いに睨みあっていた。
「なぜ止めた」
「僕は・・・・・・人が殺されるのを、目の前で起こっているのに見過ごすなんてできないからです!」
「・・・・・・」
ティアはネギを無視するように木乃香の元へ歩いていく。
静寂に包まれている京都駅で、ルークとネギの2人の声が響いていた。
ネギの気持ちは良く解る。
殺さないで済んだとして、人の想いで誰かを救えるなら、人の在り方を変える事ができるのなら。
ティアが兄のヴァンを殺さねばならない事はなかった。
イオンはシンクを救えたはずだった。
アニスとアリエッタは親友であれたはずだった。
アクゼリュスの人々を、消し去ってしまう事なんかなかったはずだ。
そんなに想っても、願っても、どうにもならない事があるのだと、ルークは知ったのだ。
「・・・・・・そういった青臭い正義感で、この先に悲劇が起ったとしたら。再び木乃香が拉致されたとしたら。あのサル女がクラスの誰かを人質にしたとしたら、誰かが『あの女に殺されたとしたら』。それはお前の責任だな」
「そんなっ!」
「カモ、おまえネギの助言者を気取るつもりなら、このガキに世の理と無情・理不尽さをしっかりと教えておくんだな」
「・・・・・・兄貴にはまだ早いと思ってたんスよ。ルークの兄貴」
「その結果が、今のコレだろ?」
死んでいった六神将たちは、自分達の想いに従って生きて、世界の敵になり、死んだ。
だが彼等はネギとは違う。全てを知り、どうなるかを知った上で、戦った。
彼等をあの時に逃がさず倒しておけばよかったと、後で何度思っただろう。
彼等へあの時に、何で救えなかったのだろうと、何度思っただろう。
だから、ルークは思う。
大切な事は、“知る事”だと。
「・・・・・・そうッスね」
ルークは木乃香へと近寄る。
木乃香には何の異常もなく、無事に救出できた。本当に良かったとルークは安堵した。
刹那もティアも目覚めた木乃香も、ネギには何も言わずに旅館へと戻った。アスナは迷っていたようだったが、ネギへ一声かけて一緒に旅館に戻ったのである。
ネギは、自分の想いが間違っているとは、どうしても思えなかった。
あとがき。
微妙〜な展開で中断。
原作のこの頃のネギは、きっとこう言うだろうと思いました。
それが間違っているとは思いませんが、中途半端な力を持つ者が大した出会いも経験もせずにモノを言うのはどうかと思うのです。
次はまたラブコメに戻ります! 不愉快な想いをした方、次で口直しをしてください!(笑)
執筆中BGM 【wing of destiny】【翔べ! イカロス】