『ここは・・・・・・どこ?』
『あれは、ルークにアッシュじゃない!? なんで彼らが・・・・・・』
『それに・・・・・・あれは、モンスターじゃない』
『いいわ。ルーク、すぐに助けるから』
第8話 終幕・そしてユリアの譜歌
「アッシュ・・・・・・」
「チッ・・・・・・オリジナルが劣化レプリカごときに負けるとはな・・・・・・」
お互いの最強の技による衝突は、結果的にルークに勝敗が上がった。第2超振動とは、結局のところ魔法や音素、超振動を消す力である。
その力がアッシュの超振動を消し去った訳だが、剣撃の威力は相殺しきれず、お互いが吹っ飛ぶことになった。
ルークは背後の岩に叩きつけられ、そしてアッシュは吹っ飛んで後ろの木々にぶつかり、身体が徐々に消滅しようとしていた。
「まあいい・・・・・・さあいけ。これから先はお前の戦いだ」
「・・・・・・ああ」
「・・・・・・あばよ」
「・・・・・・ああ」
こうして、過去の記憶のアッシュは消滅した。
ルークは立ち上がろうとして、だが身体に力が入らないことに気が付いた。
どうやら第2超振動というのは信じられないほど身体に負担を掛けるらしい。だがそれに気が付くのは遅かった。
「恐ろしい力だな・・・・・・だが、これでお前にトドメを刺せる。全ては計算どおりだ! アハハハハハハハハ!!」
「くそっ・・・・・・」
どうやって生き残ったのか、全員吹き飛んだはずの場所に、一人だけ血の組織のリーダーらしき男が立っていた。
安全地帯から離れて様子を見ていた男は、余裕の表情を向けてルークへ掌をかざす。
「ではな、異界の譜歌使い、聖なる焔の光よ。
レイ・ゼル・ラ・キシュア・ブラームズ、契約に従い我に従え炎の覇王、来れ浄化の炎燃え盛る大剣
ほとばしれよソドムを焼きし火と硫黄、罪ありし者を死の塵に・・・・・・」
(やられる・・・・・・!)
殺される瞬間、まさにその瞬間。
『《穢れなき風、我に仇なす者を包み込まん・・・・・・イノセントシャイン!》』
聞こえるはずがない、だけど、ずっと求めていた愛しい声が背後から聞こえた。
森の中心部で起こった、大地を揺るがし、天を突き、雲を吹き飛ばした両者の激突は、森のあらゆるものを吹き飛ばした。
正に両者の技が激しく衝突をする、その瞬間にエヴァンエジェリンはその技の威力や効果を直感的に感じ取り、あの真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンが、逃走の為に全力を注いだのである。
それは影を使った転移魔法であるが、その場にいた全員を道連れに移動した訳だから、エヴァンジェリンの負担は相当なものだった。
だが、それをしなければ・・・・・・。
(なんて威力だ・・・・・・! エヴァンジェリンさんが転移魔法を使ってくれなかったら、障壁ごと私達は消し飛んでた!)
刹那や龍宮、長瀬は障壁がかき消されるのを移動する瞬間に見えていたので、あのままだったら自分達が死んでいたことに背筋が凍りつく。
エヴァンジェリンは皆が無事なのを確認すると、ガクリと膝を付いて苦しそうに顔を歪めた。
「マスター!? 大丈夫ですか!?」
「ちょ、エヴァちゃん! 大丈夫なの!?」
「エヴァンジェリンさん!」
従者の茶々丸やアスナたちが駆け寄るが、エヴァはそれに答える余裕がないのか、息が荒い。
それほど、あの瞬間にエヴァンジェリンは力を使ったということだ。
それはそうだろう。転移魔法という超高等魔法を数コンマで発動させたのだ。ましてや満月とはいえ彼女はまだ封印されている身。
エヴァンジェリンはしばらく動けないであろう。
「・・・・・・コンディションチェック完了。しばらく休息をすれば治りますが、今すぐの戦闘は不可能と判断します」
「そ、そう。でも身体が何ともなくてよかったぁ!」
「ほんまやわぁ」
ホッと一安心するアスナに木乃香。彼女達を尻目に、刹那は問題の爆心地にいるルークたちを注視する。
砂煙があがって視界が悪いが、それが序所に晴れていく。そしてその場にはボロボロになったルークとアッシュの姿があった。
「あれは・・・・・・! ルークは生きてます!」
「ホンマや!!」
「まったく・・・・・・心配かけさせて」
皆がホッと一安心した、その時だった。
ルークにそっくりな人が倒れているすぐ後ろに、フードを被ったこれまでとは別格の男が立っていたのは。
そしてその男は詠唱に入ったらしく、足元には魔方陣が展開される。
ルークはダメージが大きいの、悔しそうに唇を噛み締め地面に倒れていた。
「「ルークー!!」」
刹那と木乃香は大声を上げてルークの下へと走り出す。
間に合わないと解っていても、無駄であっても走らざるを得なかった。だってあれが当たればルークは死んでしまうから。
刹那と木乃香は絶望的気分を味わいながら、悲鳴のような声を上げて走った。
エヴァンジェリンは悔しそうにルーク見ながら必死に身体を起こそうとしているし、龍宮は慌てて長距離射撃ようのライフルを取り出している。
長瀬も瞬動術で必死に術者を潰そうとしているし、アスナも詠唱とか知らないはずなのに顔を青褪めさせて必死に走ってきている。
気が付けば、上空にいた学園長や高畑も慌ててコチラに向かっているようだ。
だが、全員の距離は、あまりにもありすぎた。
間に合うはずはなかった。
全員が絶望に叩き落される、その瞬間。
『《穢れなき風、我に仇なす者を包み込まん・・・・・・イノセントシャイン!》』
どこからか聞こえてきた、女神か歌姫のような透き通る声が辺りに響き渡り、術者の天空から先ほどのルークたちの技の威力に勝るとも劣らない魔法の白刃が振り注いだのであった。
「なっ!? ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
身体中を滅多刺しにされ、魔法によって全身を焼かれた術者の断末魔が上がった。
あまりの展開と桁外れの威力に一瞬だけ呆気に取られた木乃香たちだったが、ルークの下へと駆け寄った。
「ルーク、大丈夫なん!?」
「ルーク、大丈夫ですか!」
「い、いまの何なの!? あんたがやったの!?」
「ルーク殿、無事でよかったでござるよ」
「うむ・・・・・・クラスメイトが欠けるのは少々忍びないからな」
「おい、ルーク。どうした?」
全員がルークに声をかけてくるが、ルークは呆然としていて誰の問いかけにも答えない。
タカミチや学園長たちが降りてきた時、ようやくルークがある一点をジッと見つめていることに気が付き、全員がそれを見た。
それは、ルークとアッシュの第七音素の衝突によって消し飛んだ森の中心部。
白い煙がもくもくと立ち込めたその中心から、人影らしきものが浮かび上がり、こちらへと歩いてくる。
そこにいたのは、一人の女性。
腰元にまで及ぶ綺麗な亜麻色のロングヘアーに、スラリとしたスタイル。長くて細い手足。
そしてコバルトブルーの瞳には、とめどなく涙を溢れさせ、ポロポロと零れ落ちていた。
そんな絶世の美女ともいえる人物が煙の中から現れてこちらへと歩いてくる。
木乃香と刹那とアスナには見覚えがった。エヴァンジェリンは「あの女は・・・・・・」と呟いている。
ルークが、何かを求めるようにその女性へとフラフラと近寄る。
痛む体を引きずりながら、ポツリとこぼした。
「・・・・・・ティア」
まるで、迷子になった子供がようやく親を見つけたかのように。
「・・・・・・ルーク」
まるで、失った自分の半身を見つけたかのように、その女性も声を震わせて、呼ぶ。
「ティア!」
「ルーク!」
かつて同じ世界で出会い、そして男の死で別れた2人。
異世界にて、ついに邂逅を果たしたのであった。
「ティア・・・・・・本当にティアなのか?」
「ええ、本物の私よ・・・・・・ルークとずっと旅をしてた、ティア・グランツよ・・・・・・ルーク」
掻き毟るように抱きしめあった2人は、お互いの顔を両手で触り確かめ合いながら囁く。
「会いたかった・・・・・・ずっと」
「私もよ・・・・・・あれから2年も経ったんだもの」
「ごめんな・・・・・・独りぼっちにさせちまって」
「ううん・・・・・・いいの。貴方にこうして再びふれることがきるのなら」
「ああ。これからはずっといられる。消えることもないから」
「ほんとに? ずっと一緒にいられる?」
「ああ、ずっと」
ルークとティアの、余人の介入を躊躇わせる雰囲気を醸し出す世界を繰り広げていた2人。
そんな2人に声をかけた、最強の勇者、ある意味空気を読めない人物は近衛学園長であった。
「・・・・・・説明をして欲しいんじゃが、ちょっといいかのぉ〜、お2人とも」
「うわっ! 学園長のじいちゃん! 何でこんなところにいんだ!?」
「キャッ!」
「ティアさん! ミュウもいるですの! 放置しないで欲しいですの!」
「うお!? ミュウまでいるのか! 久しぶりだな!」
「はいですの! 会いたかったですのご主人様!」
恥ずかしさから怒鳴るルークと、自分達の体勢と状況にやっと気が付いたティアは顔を真っ赤にして身体を離した。
ルークはティア背に掛けられていたバッグから這い出てきたチーグル族のミュウを見つけると、嬉しそうに抱き上げ、嬉々として話しかけている。
そしてそんなルークたちに不満顔なのは刹那と木乃香で、アスナは複雑そう、エヴァンジェリンや長瀬・龍宮はニヤニヤしていた。
これが、ティア・グランツが異世界にやってきて、彼らとのファーストコンタクトの場面である。
あとがき
やっとティアが登場した〜〜〜〜!
こっからはひたすらラブな展開と少々のエロさを(笑)
そして学園物語と少々のバトルを混ぜる展開になっていきます!
ルークとティアの同棲生活に、彼らのファンはご期待ください。キャーーー\(≧▽≦)/
つづく