第5話  マギステル・マギを目指す者として



『応援はいりません・・・・・・俺のことで、迷惑をかけるわけにはいかない』

『だがのぉ・・・・・・君が賞金首になってから、初めて組織単位で動いてくるのじゃ。相手も予想外かつ外道な手段を取る可能性は高いぞぃ』

『ああ・・・・・・だけど、それでも迷惑をかける訳にはいかない』

『・・・・・・なかなか強情じゃのぉ』

『ハハ・・・・・・それでは、おそらく襲撃してくるだろう、学園都市全体停電の日に迎撃します』





 暖かな陽が辺りを包んでいる休日、来訪者が現れた。
   ネギが女子寮の廊下を歩いていると、どこからか声がする。
「兄貴! 兄貴! お久しぶりっす!」
「え・・・・・・あ! カモくん!?」
 足元にいたのは、ネギの古くからの知りありであり、オコジョ妖精のアルベール・カモミールだ。
「兄貴! 受けた恩を返しにきましたぜ!」
 恩とは昔、カモが人間の捕獲罠に捕まってしまった時にネギが助けたという逸話の事である。
 ネギとカモは仲良さそうに部屋へと入っていく。
 中にはアスナと木乃香がいた。
「あれ? そのペットどうしたん?」
「あの、僕の友達でカモくんって言うんですけど・・・・・・飼っちゃダメですか?」
「いいんじゃない? ウチの寮はペットOKだし」
「ほんなら、うちが許可取ってくるな!」
「あ、お願いします!」
 木乃香が出て行くのを確認すると、ネギはアスナに言う。
「アスナさん、実はカモくんは僕等側の存在なんです」
  「は!? ホントに!?」
 アスナの反応にカモは、魔法の事がバレていて、それでも黙っていてくれてるのかと察する。
 そしてここは礼儀正しく挨拶だ。
「初めまして。オイラはアルベール・カモミールっていうもんでさ。カモって呼んでくだせぇ、アスナの姐さん」
「う・・・・・・オコジョが喋った」
 アスナはかなりのショックを受けたようだ。
 私の日常が壊れていく・・・・・・、とブツブツ呟いているが、深くは追求すまい。
 そんなアスナを尻目にカモがネギに語りかける。
「それにしてもよぉ、兄貴。まったく進んでないみたいじゃないですか」
「え、何が?」
「パートナー選びッスよ! パートナー! いいパートナーを探さないと立派な魔法使いになるにもカッコがつかないっす!!」
「う・・・・・・そうなんだけど、僕は今はそれどころじゃなくて」
 カモの指摘にネギは、うっと声を詰まらせる。
 アスナはカモの言葉に眉を顰めた。
「ああ・・・・・・魔法使いの従者って奴ね。一緒に戦い・魔法使いを守る存在で、今となっては恋人っていうかそんな感じになってるっていう」
「そうッス。姐さん詳しいっスね」
「ネギに聞いたのよ」
「そうッスか。でも兄貴、なんでそれどころじゃないんスか?」
「うん・・・・・・実は」  ネギは説明した。
 これまでの経緯、ルークという生徒とエヴァンジェリンという生徒に指摘されたこと。
 教師として認めてもらう為にどうすればいいか、ずっと悩んでいるということ。
 カモはふんふんと頷いていたが、ルークという名前を聞いて眉を顰めた。
「兄貴・・・・・・ちょっとソイツの写真か何かありやすかい?」
「うん。出席簿でよければ」
 出席簿を開いて、この人とこの人だよ、とルークとエヴァを指す。
 カモはその顔と名前を確認してから、ギョッとなって目を見開いた。
「こいつらはっ!!」
 カモは慌ててパソコンを自分が持ってきたバッグから器用に取り出し、起動してなにやら叩き始めた。
 その画面をネギとアスナは覗き込んで「どうしたの? 何かあるの?」と聞く。
「今、魔法界で話題になってる奴がいるんス。連日ニュースにも流れて、いろんな奴が探してる悪党なんスけど」
「それがどうしたのよ?」
「これっス!!」
 カモはバシッとボタンを叩くと、ある画面を呼び出してアスナとネギに見せる。
 ネギは即座にその画面に映るものの意味を理解し驚愕に目を見開き、アスナも最初は判ってなかったが、しばらくして意味を理解して大声を上げた。
「えええええええええええ!? これってルークじゃない! ちょ、何よデッドオアアライブって! しかも・・・・・・300万ドル!?」
「そんな・・・・・・ルークさんが」
「奴は裏の組織を悉く潰してまわったらしく、大勢の人間を殺したらしいッス。初頭手配で300万ドルっていう規格外の化け物で、魔法界にも衝撃が走ってるっスよ」
 アスナとネギは画面から目を離せない。
 2つ名があって『聖なる焔の光』『異界の譜歌使い』。
 正義の組織をいくつか潰され、危険すぎる力を持っている事から賞金首になったと罪状が書いてあった。
「それだけじゃないっス! エヴァンジェリンって名前、どこかで聞き覚えがあるなと思ったら、これのことだったんスよ!」
 そうして表示されたのは、エヴァンジェリンの画面。
 彼女も同じように賞金首で、しかも彼女はあの伝説の悪魔と謳われた『闇の福音』だ。
 たしかに魔法界には賞金首はいっぱいいる。
 だが、それでもここまでの大物は、もう殆どいないといってもいい。
 アスナとネギはショックで俯いてしまった。
「何してるんスか、兄貴! ここの学園長は魔法界でもトップクラスの実力者っス。頼んで協力してもらって、ボコっちまいやしょうぜ!」
「そんなっ! 僕は先生だしっ!」
「何言ってるんスか! こいつらは極悪非道の悪ですぜ! まだ事は起こしてないみたいっスけど、やられる前にボコって魔法法廷界に突き出した方がいいに決まってる!」
「でも・・・・・・」
「躊躇してる暇はないかもしれないんですぜ! 他の生徒に被害が及んでもいいんですか!? それを食い止められるし、実践経験は積める、協力者も多いだろうから安全だし、賞金も入るしで、兄貴には良い事尽くめですぜ!」
 カモの言葉にハッとなるネギ。
 たしかにそうだ。
 生徒を売るなんて真似はしたくない。そんなのは凄く嫌だし、心苦しい。
 だが賞金首になるほどだから、よほどの悪事を働いたのだろう。
 そんな人だと、どんな卑怯な手段をとられるか判ったものじゃない。
 それにこの一月、悩み続けた悩みのタネが消えるのだ。
 心労がなくなるのだ。それは10歳のネギには麻薬の魅力があった。
「うん・・・・・・そうだね。僕は先生で、皆の安全を守らないといけないし」
「そうですぜ! そうと決まれば、まずは学園長に連絡して、ハンター達も日本に呼びましょう!」
 カモは大張り切りで飛び出していき、ネギも杖をもって追いかける。
 アスナは終始無言で通していた。
 彼女はこの一月で触れ合ったルークの人格を信じたかったのだ。
「だって・・・・・・あんなに優しくて・・・・・・寂しそうなやつなんだもん・・・・・・そんなはずないよ」
 何度も首を振って、必死に否定する。
 しかし目の前に表示された情報がルークの罪状を刻銘に表示する。
 アスナは迷う。
 優しいルークと意外な一面を見せるようになったエヴァちゃん。
 この一月はとても楽しかったのだ。
 苦手な勉強も、ルークがすっごく解りやすく英語を教えてくれた。
 エヴァちゃんは意地悪だったけど、それでも楽しく話もした。
 そんなルークたちが魔法関係の人だったことは確かに驚いたけど、それでも思い出の前には、それがどうした、だ。
 でも人を殺してきたなら・・・・・・。
 いや、それでも自分は嫌なのだ。
 どうすればいい、どうすれば、どうしたら。
 アスナは、俯いて動けなかった。


 ネギとカモにとっては運が悪かったといっていいだろう。
 学園長はタイミングが悪くて学園長室にはいなかったのだ。
 仕方がなく、カモはハンター寄り合い所に情報を提供し、仲間を募った。
 するとどうだ。
 ある『血の組織』がこいつを狩りに明日に日本に来る予定だという情報が入ったではないか。
 この組織はそれなりにデカイ。
 その規模の大きさと条件提示から、ハンターも大勢が参加してきた。
 カモは自分を助けてくれた兄貴、ネギを助けるために必死で奔走したのである。
 そして手筈が整ったのは夜中になってからで、カモは計画内容に満足してグッスリと眠ったのであった。


 そんな動きがあったとは知らないルーク。
 学園長から組織については聞いたので、装備を整えて道具袋に入れ、すっかり戦闘準備は整っていた。
 その荷物をエヴァの家に置かせてもらう為に、エヴァの家にやってきた。
 彼女は呪いの事もあり、寮には住んでいない。
 だから都合が良かった。
 ルークを家に招きいれたのは、同じクラスの茶々丸という生徒。
 ハイテクノロジーで造られたガイノイドという、完全のスタンドアローンなロボである。
 そしてエヴァの現在の従者でもある。
 荷物を置いたルークに、後ろからエヴァが声をかけてきた。
「おいルーク・・・・・・お前をあの『血の組織』が襲おうとする計画があるらしいな」
「ああ。明日の夜に迎えうつよ」
 あっさり肯定するルーク。
 エヴァはチラチラと見てきながらそっぽを向く。
「・・・・・・私も手伝ってやろう。明日は満月だからな。5割程度の力とはいえ戦力になるはずだ」
 エヴァの意外な言葉にルークは目を丸くし、そして笑った。
「いや、迷惑がかかるからな。大丈夫だよ。ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・」
 ルークの言葉を予想していたのだろう。
 エヴァは小さく溜息を吐いて、確認するかのように問う。
「刹那や近衛には言わなくていいのか?」
「・・・・・・言わないさ。あの子たちを巻き込むのは危険だ。それに万が一でも木乃香が攫われたらどうする」
「まあ、たしかにその通りだな」
「だろう?」
「だが・・・・・・正直、キツイ戦いになるぞ」
   エヴァは今度はしっかり目を見据えて言ってくる。
 彼女が言うからにはそうなのだろう。
 確かに逃走すれば問題ないし、その分なら十分な力量がある。
 だがそれをすれば、ついでとばかりに学園の、特に要人が集まったうちのクラスの皆が襲われる。
 つまり、逃げる訳にはいかないのだ。
 ルークは心配そうに見つめるエヴァに近づき、彼女の頭を優しく撫でる。
「ありがとな・・・・・・心配してくれて」
「ふん・・・・・・死ぬんじゃないぞ。お前がいないとつまらんからな」
 エヴァの言葉にルークは何度も頷き、まるで最後の晩餐であるかのように宴会に突入するのであった。



 翌日の学校はルークはサボった。
 何気ない日常の一ページ。
 だが、今日は違う。
「今日は夜の8時から電気施設の修理の為に街が停電になるそうなので、皆さんはいつもより早目に帰宅して、寮でジッとしていましょう」
 ネギの言葉に騒がしくなる教室。
 ローソク買わなきゃ、とかそんな声がする。停電対策ということだろう。他にも枕投げとか怖いとか言っている。
 また、久しぶりというか、珍しい位に陽気で明るいネギに、生徒の皆も嬉しそうな顔をしていた。
 元気がなかったから、心配していたのだ。
 エヴァはジッと目を閉じて座っていたが、苛立ちは隠せなかった。
 そしてそんな気配を感じて眉を顰めたのだが、裏に所属する戦闘系の生徒たち。
(エヴァンジェリンさん、どうして苛立ってるんだろうか・・・・・・ルークも今日はいないし。何かあったんでしょうか)
(ふむ・・・・・・これはこのクラスの騒がしさに苛立っているのか? だが珍しいな、こんな騒ぎは幾度となくあっただろうに)
(なにやら穏やかな気配はしないでゴザルな・・・・・・これは停電と何か関係があるでゴザルかな・・・・・・ニンニン)
 そしてロングホームルームが終盤に差し掛かると、ついにエヴァは限界を迎えたのである。
 ガタン、と立ち上がり、クラスの視線が集まるのを感じるなか、エヴァはスタスタと教室を出て行った。
 みんなはいきなりの展開に呆然としていたが、珍しくネギが何もエヴァに言わないので、全員が首を傾げた。
(エヴァンジェリンさんには悪いけど、他の生徒の身を守るためだし・・・・・・とても心苦しいけど)
 ネギは昨夜からずっと葛藤をしていたが、大勢の命や平穏の前に、悪人という彼等の命は軽かった。
 事実、自分は『大勢の人をなるべくたくさん救う、偉大なるマギステル・マギ』になるのだから。
 そしてアスナ。
 彼女もまたずっと悩んでいた。
 木乃香の幼馴染がそんな悪人だったなんて、と。
 彼女にどう告げればいいのか解らなかったのだ。
 こうして、各々がそれぞれ悩み苦しむ中、刻は夕方に差し掛かったのである。





あとがき

えー、完全なオリジナル内容となっております。この作品はルークと○○○がメインです。
テイルズがメインですが、もちろんネギも活躍させる気であります。
そしてラブコメ&バトルが主題です。
原作ではここはエヴァ対ネギになるのですが、オリジナルでこうなりました。
まあ、マギステル・マギを目指すネギは、この選択しか有り得ないと思ったのです。この設定では。
そしてルーク。
彼はゲーム本編の終盤では、周囲に頼らず、自分の内に押し殺していたようにアリムーは感じたのです。
ですから、こんなルークになりました。
まあ、これからはラブコメが強くなるので、どんどん壊れていきますが(笑)
次回から圧倒的な魔法&剣術バトルになります。
アスナの位置に驚かれた方もいるでしょうし、アスナはやっぱネギとじゃないと! という人がいましたら、すいません。
いえ、もちろんネギはアスナとなんですが、今はまだルーク寄りです。
次回をお楽しみに!

執筆中BGM 『カルマ:ルーク対アッシュ時のアレンジ版です』
      『カルマ:オルゴール版のやつです』

 



つづく