第3話  始まる日常・そして動き出すローレライ



『我の声にこたえよ・・・・・・』

『汝の望み・・・・・・我が答えよう・・・・・・故に我を求めよ』

『汝と彼のモノの交わりし場所で・・・・・・再び・・・・・・』

 

「・・・・・・アー、よく寝た」
 翌朝、ロフトで寝ていたルークは頭をガリガリとかきながら目を覚ました。
 ふと隣を見ると、そこには布団に包まって眠る木乃香や刹那、アスナや柿崎たちの姿が。
 ―――こいつら、本気で泊まっていきやがった―――。
 いやいや、もちろん何かする気なんてさらさらないぞ?
 だけどな、これはどうかと思うぞ? 俺は女か?
 レプリカで作り物だった俺が、今度は女か?
 本気で俺の運命に対してキレそうだぞ?
 寝相が悪いアスナと柿崎は、パジャマが捲くれてお腹を出している。
「・・・・・・ティアに見られたら殺されるな」
 朝風呂に入ってくるか、とぶつぶつ言いながら風呂場に向かい、シャワーを浴びるルーク。
 柑橘系のシャンプーをして頭をしっかりと洗い。ボディーソープで身体をよく洗う。
 ドライヤーは使わずに濡れた髪のままで出てくると、そこには木乃香と釘宮まどかと柿崎美砂が朝ごはんの用意をしていた。
「おお、美味そうな匂いだな。っと、そうだ、おはよう」
「あ、ルーク。おはよ〜」
「おはよ〜!」
「おはよ〜ルークくん」
 どうやら朝食の食材は自分たちの部屋からもってきたらしい。
 実に日本食ともいえるメニューで、ルークとしては実に7年ぶりの日本料理である。
 ルークは首にロケットをつけると、学生服として高畑に渡された学生服を着込む。
 そして腰にアクセサリーを全部つけて支度を済ませる。  装着したのは、フェアリィリングにデモンスシールにクローナシンボル。ブラックオニキスという装備品だ。
 それぞれ、魔力・気の消費を半減する効果・成長を2倍促進・状態異常効果無効。
 他にもたくさんあるが、今は装飾具の袋に入れてあるのだ。
 そして指にはそれぞれの攻撃魔法属性を上昇させる指輪と、耐性アップの指輪ばかり。
 自分でも卑怯だと思うが、これがなければ今まで生き残るのは不可能だった。
 ルークはロフトに寝ていた連中を起こすが、すでにアスナの姿はない。
 どうやら風呂に入っている間にアスナはバイトに行ったようだ。
 ・・・・・・実はルークは1時間も風呂に入るという、長風呂の癖があるのだ。
「さ、飯を食ってさっさと行こうぜ」
「そうだね〜」
 全員が食卓に着くと、アスナも7時には戻ってきた。
 いただきま〜す、と言うと、ルークはさっそくご飯と魚、煮物に味噌汁に手を出す。
「うん、うまい。この煮物の味は木乃香だな。おばさんの味に似てる」
「そうやー。うれしいわぁ」
「ルークくん、私の玉子焼きは?」
「うまい! 何か隠し味が入ってるな。これはうめえよ」
「おお! 嬉しいなぁ!」
 釘宮は嬉しそうにしながらご飯を食べる。
 ネギは縮こまりながら日本食を食べている。初めての日本食に満足しているのか、ニヤけ顔だ。
「ネギくん、美味しい?」
 木乃香がそう尋ねると、ネギは笑って応える。
「はい! とっても美味しいです!」
「そう、それはよかったわ」
 ニュースを見ながら朝食を摂ると、一同は慌てて学校へと向かった。
 クラスに慌てて駆け込むと、ルークは学園長から受け取った教科書を引き出しに突っ込む。
 すると強い視線を感じて横に向けた。
 そこにいたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
「はじめまして。聖なる焔の光」
「・・・・・・はじめまして。闇の福音」
 両者の間に緊張が高まる。
 すると、エヴァンジェリンは口パクでこちらに話しかけてくる。
『ふふ・・・・・・先日いきなり300万ドルの賞金首になった男か。どんな男かと思ったら、お前みたいな子供とはな』
 待て。
 今、とても聞き逃せない言葉があったぞ。
『おまえこそ・・・・・・闇の福音600万ドルがまさか幼女とはな・・・・・・お前の名前を出席簿で見つけた時は驚いたぜ』

「「フフフフフフふふふふふふふふふふふふふふふふふ」」 

 お互いに見詰め合って挨拶以降に無言になった2人。
 そして突然、不気味な笑いを零し始める2人。
 気持ち悪い事この上ない。
『どうだろう。この発動体をやるから、お前のそれを私に譲らないか?』
 ルークの腰にあるアクセサリーを指差すエヴァンジェリン。
(確かエヴァンジェリンは、英雄・千の呪文の男ナギ・スプリングフィールドに負けてこの地に封印されてんだったな)
『・・・・・・お断り、だな。』
 下手にアイテムを渡す訳にはいかない。グミなんかももちろんだダメだ。
『そうか、そうか』
『無理やり奪おうとするなら、いつでも相手になるぜ? ただし、封印状態のお前がオレに勝てるのならの話だがな』
『ふふ、私はお前を過小評価してないさ。力を封印している現在、手を出すわけないだろう?」
『そうか』
 物騒なやり取りを目でやりつつ、お互いを見詰め合っていた2人は、ネギが入ってくるまで無言で前を見ていた。
   ああ〜、胃に穴が空きそうだな。



 そんなこんなで始まったネギの授業。
 英語の授業の訳だが、生徒たちはネギの学力の高さに感心しているようだ。スラスラと本文を読むネギ。
「今のところを誰かに訳してもらおうかなぁ・・・・・・え〜と」
 すぐさまネギと顔を逸らす一同。
(まあ異国の言葉なんざ、俺も現地で慣れるまでさっぱり解らんかったからな。当然の反応だ)
 そう。
 ルークは実は英語はペラペラだ。
 まあ、7年も放浪していれば、例え知らない言葉でも理解できるというものだ。
 公爵の時も勉強はした。もちろん解らないこともたくさんあったが、決して好きという訳ではなかった。
 ましてや、それを大勢の前で受け答えするのは、度胸がいるだろう。
 ネギが振り返った先にはアスナがいた。そのアスナはネギの視線から逃げるように首を背ける。
「じゃあ、アスナさん」
「なんでよ!? 普通は出席番号の早い人からとか、名前順からでしょ!?」
「でもアスナさんは『あ行』ですし・・・・・・」
「アスナは名前じゃん!!」
 まあ、どっちもどっちだな。
 すると案の定というか、雪広が立ち上がった。
「要するに、解らないんですわねアスナさん」
「な!?」
「変わって、委員長ののわたくしが変わりに」
「やるわよ! やればいいんでしょ!」
 勢いで立ち上がったアスナは英語の教科書と睨み合いながら必死で訳していく。
 そこに妥協やいい加減さはなく、本気で取り組んで、そして分からずに的外れな答えを出しているのだと察することができる。
 まあ、内容はハッキリいってボロボロだ。
 こうしてなんとか答えたアスナに対して、ネギはこう言った。
「アスナさん・・・・・・英語ダメなんですね」
「「「「「「アハハハハ」」」」」
「なっ・・・・・・!?」
 湧き上がる爆笑の声。
   いわゆる晒し者になった事で、真っ赤になるアスナ。
「アスナは英語だけじゃなく数学もダメですよ」
「国語も社会も」
「理科もネ」
「要するにバカなんですわ。良いのは保険体育くらいで・・・・・・ヤラシイ人ですわ」
 委員長の雪広は溜息を吐いて肩を竦めた。
 ますます赤くなるアスナに、オロオロしている木乃香に刹那。皆に呆れているエヴァ。
 ルークはさすがにコレは、今まで以上にキレた。
「おい、ガキ」
 ルークの怒り声がクラス中に響く。
 いきなりの声に、笑っていたクラスが静まり返った。
 ネギはビクリと驚いてルークへ振り返った。
 エヴァンジェリンは何を言い出すのかと、興味深そうにしている。
「おまえ、何度言わせりゃ気が済むんだコラ?」
「え、え?」
「ここは学校だろうが。解らないからソレを学ぶために勉強するんだろうが。学ぶんだろうが」
「あ・・・・・・」
「それをなんだテメェ・・・・・・ヘラヘラ笑いやがって。師が教え子を貶めて気持ちいいか? それでも担任かおまえ?」
「あうあうあう」
「ガキだからって何でも許されると思うな・・・・・・」 
 シーンと静まり返る一同。
 ようやく自分たちが深い意味はなく軽い気持ちでやっていた事に気がついたのだろう。
 自分がやられたらどれだけ傷つくか、想像したのだろう。
 ルークは、ケッと吐き捨てるとズカズカと後ろから出て行く。
「アハハハハハ!!」
 と、突然エヴァンジェリンという、クラスでも喋らない生徒が爆笑しだしたのでクラスは目が点になる。
 ひとしきり笑ったエヴァンジェリンは、ルークに続くように立ち上がって彼と同じように外に出て行った。
「あいつ・・・・・・」
 アスナはルークが言った言葉に、幾分か助けられていた。



 ムカついたルークは屋上にやってきていた。
 購買部でジュースと昼飯を買い占めたルークはむしゃむしゃとご飯を食べている。
 すると下から屋上の扉を開けた音が聞こえた。
「おお、ここにいたか」
「ん、エヴァンジェリンか」
「これもらうぞ」
 何も答えていないのに勝手に桃のジュースとおにぎりをとって目の前に座るエヴァ。
 ルークはスポーツドリンクを片手にメロンパンを食べている。
 すると、エヴァが愉快そうに訊いてきた。
「さっきは中々心地よい程の苦言だったぞ」
「ふん・・・・・・あのガキが、昔の自分に愚か過ぎるほど似ていたからな。腹が立つんだ」
「なるほど。それは解りやすい」
 くくく、と愉快そうに笑うエヴァ。
 ルークはもぐもぐと口を動かしてエヴァに問う。
「で、何の用だ? アイテムはやらないぞ」
「いや、ただ一層興味をもったから、色々と話をしたくてな」
「話って・・・・・・何を聞きたいんだ?」
「そうだな・・・・・・お前は不思議な力を使うとは本当か?」
「ああ。二つ名にあるだろ? 異界の譜歌使いってな。俺は異世界の住人なんだよ」
「ふむ・・・・・・ではその世界の魔法を譜歌というのか」
「まあ、大体そうだな」
 譜歌は音素というものが関係する。だがこちらは魔力というものを取り込んで魔法を発動する。
 そこは違うはずなんだが、こちらにきて魔力を使うようになってから、魔力で譜歌を歌っているから、不思議な話だ。
「・・・・・・ソレはロケットか?」
 エヴァはペンダントに指差して訊いてきた。
「ああ」
「自己紹介の時の『大切な女』ってのが、その元の世界にいる女のことか」
「鋭すぎるってのも考えもんだな」
「ふん、当然だろ・・・・・・それを見せろ」
 この世には、上から下をみる言い方をする人間は、ほとんどが嫌われる。
 だが、稀にそれを言うのが許される奴がいる。その言い方が不快にもならず、その資格をもつモノ。
 それが目の前の少女、数百年という時を生き抜いてきた真祖の吸血鬼だ。
 ルークは苦笑してカッターシャツの中からロケットを取り出す。
 ロケットを開けて中の写真を見えるようにかざした。
 その中の女性にエヴァンジェリンは目を細める。
  「ほぅ・・・・・・・・・・・・私が数百年見て来た中でも3本に入る程の美しさだな」
「ハハ・・・・・・だろ?」
「ふ〜む、これがお前の想い人か。なかなかではないか」
「ありがとさん」
 そうやって陽気に話していると、エヴァは学園を覆う結界内に何者かが侵入したのを感じた。
 エヴァの様子が変化した事にルークは気がついた。
「どうした?」
「侵入者だ」
「なに!?」
 ひょい、っと飛び降りるエヴァ。
「付いて来い、ルーク」
「もちろんだ」
 エヴァンジェリンとルークは屋上から駆け下りて侵入者を追いかけ始めた。
 初めて、魔帆良学園の最強の戦力がタッグを組んだのである。



 目の前に広がっているのは、昼間なのにも関わらず悪魔が5匹ほど。
 林の中に潜んでいる鬼を見つけたエヴァンジェリンは結界魔法を発動して空間を遮断する。
「・・・・・・はぐれ悪魔か」
「はぐれ悪魔?」
「ああ、まあ言わば悪魔の集団から漏れ出した迷子だ。遠慮なく殺ろうじゃないか。害にしかならないからな」
 悪魔がそれぞれ散開した。
「遠慮なく、か」
「実力を見せてもらうぞ」
 ニヤリと笑ったエヴァンジェリンは上空へと跳躍する。そのまま詠唱へ。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 氷の精霊17頭、集い来たりて敵を切り裂け!『魔法の射手・連弾・氷の17矢』!!」
 17の氷の矢がエヴァンジェリンから打ち出され、その攻撃により1体が消滅し、他は回避する。
(ちっ・・・・・・昼間のうちで、しかも満月じゃないから負担が大きい!)
 あまりにも情けない状態に、エヴァは舌打ちする。
 その時、下でルークが木の上に立っていて、何かを唱えていることに気がついた。
 エヴァンジェリンの氷の矢が良い牽制になり、全員の動きが数秒だけ止まる。
 その瞬間をルークは見逃さなかった。
「狂乱せし地霊の宴よ・・・・・・ロックブレイク!!」
 ルークが唱えると、悪魔たちの足元の地面が割れ、その衝撃で3体がトドメを刺された。
 そしてラスト1体は上空へと弾き飛ばされる。
 その悪魔を目掛けてルークは飛翔した。
「あばよ! 崩襲脚!!」
 悪魔の脇腹にルークの蹴りが炸裂し、衝撃で叩きつけられた悪魔は消滅した。
「ふぅ・・・・・・」
 地面に降りたルークは頭上から降りてきたエヴァをみると、彼女は実に楽しそうな顔をしていた。
「あれが異界の魔法・・・・・・譜術か。なるほど、実に興味深い」
「こちらの住人が唱えるのはムリだぞ」
「なぜだ?」
「どうやら俺が特別らしくてな。本来は音素で唱えるはずの魔法だから、俺が唱えるときに魔力を取り込んで、それを音素に変換しているみたいなんだ。詳しいことは解んねぇけど」
「ふむ・・・・・・まあ、お前がこっちに来てから数年立ってるなら、その呪文を誰かが唱えるはずだからな。その情報がないという事は誰も唱えられてないということだう」
 コキコキと首を鳴らして息を抜くルークに、結界を解除するエヴァ。電話で連絡しているのは学園長だろうか。
 侵入者の殲滅を伝えているのだろう。
 連絡が終わったエヴァは鼻を携帯を乱暴に片付けると、ルークに言った。
「ルーク、私との初戦闘・初勝利だ。お前の部屋で飲むぞ」
「おお、いいねぇ♪」
「賞金首同士の共闘だ。祝して私の秘蔵の酒を出そうじゃないか」
「お、いいねぇ。なら酒のつまみは俺が買ってこよう」
 2人はめちゃくちゃご機嫌に林から出て行ったのであった。



 圧倒的な力で蹂躙している鬼のような2人とは別に、もう一方の教室の方はというと。
 ルークに指摘されて落ち込んだネギは使い物にならなくて、英語は結局潰れてしまった。
 こうなると、悪役はルークだと思われがちだが、そ思って憤慨しているのは10人程度の少数派で、他多数は違った。
 彼の言い方は子供とはいえ教師に対しては失礼であるが、指摘した事は誠に事実であり、正しかった。
 だからルークの評価が下がることはなかった。
 まあ、意外に粗暴な一面を持つと思われたかもしれないが。
「ウチ、ちょっとルークんところ行ってくるわ」
「あ、あたしも行くわ。様子をみたいし」
「このちゃん、私も行きます」
「「「「私もいく!」」」」
 例によって、朝のメンバーは皆が部活の後の帰宅後、ルークの部屋へ様子を見に行くことにした。
 彼女たちは、転入2日目でいきなりエスケープしたルークを心配しているのだ。
 7階に上がって扉をこっそり開ける。
 何となく、自分達がフォローを入れる事を考えていた。
 だが、それは大きく的を外すことになった。
 扉を開けると、漂ってきたのはいろいろな食べ物の匂いと、お酒の匂い。
 慌てて中へ駆け込むと、そこに広がっていた光景は、酒が乱舞し、ピザや刺身、酒のつまみ系のものが所狭しとあるではないか。
 しかも、エヴァンジェリンまでも一緒にいて、お互いに酒を飲んでいるではないか。
 これには一同呆気にとられるしかない。
 特にエヴァンジェリンの格好はすごい。そう、あられもない姿という例えが一番だ。
「お! よう、みんな! 帰ってきたのか!」
「うむ? おお、帰ったのか!」 
 ルークもエヴァもテンションが異様に高い。
 良いように気分が高揚しているらしい。
 自分達の心配が全くの杞憂だったと知った一同は肩透かしを喰らった気分だったが、すぐに美味しそうな食事とお酒に興味を出して加わった。
 そして仲良さそうに話すエヴァとルークに柿崎が興味を示した。
「ねえねえ、ルークくんとエヴァンジェリンさんって仲が良いんだね」
 その言葉に木乃香とアスナ、刹那が一瞬で硬直する。
 その反応をエヴァが見逃すはずはない。
「ん、あ、どうだ「その通りだ、仲は良いぞ」・・・・・・」
「へ〜、いつの間に仲よくなったの?」
「いや、べつに「こいつの秘密もしっているしな」・・・・・・」

「「「「おおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!」」」」

「いやいやいや、信じるなよ・・・・・・」
 ルークの言葉は全く聞いていなかった。
 こうして大勢で始まった宴会。
 すると途中でネギの隣に座っていたアスナがルークに尋ねてきた。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
「んあ?」
「あんたさ、ネギの事が嫌いなの?」
 アスナの直球の言葉にネギがビクリと震える。
 それを知りながら、あえてルークははっきりと言うことにした。
「ああ。今のこいつでは、俺は教師とも先生とも師とも呼べねぇな」
「・・・・・・」
「なんで、って聞いていい? もしかして私の事があったから?」
「いや、それはただのきっかけに過ぎない。問題はこいつの本質さ」
「本質?」
 言葉の意味が解らないのか、アスナは首を傾げた。
「いいか? 人に教え導くってのはな、相手の人生を大きく左右する存在なんだ。まあ、その大きさや重要性ってのはまだ理解できんだろうがな」
「だから?」
「だからな、そんな重要なポジションに浅はか・無思慮・適当の三拍子が揃ったガキを認める訳ねぇだろ」
「・・・・・・な、何もそこまで言わなくても」
 アスナはルークの毒舌っぷりに、隣で落ち込むネギが気の毒になってフォローをしようとした。
 ―――が。
「じゃあ、簡単な事を聞こうか。おい、ネギ」
「え、あ、は、はい」
「ある施設をテロリストが襲いました。死者は数十人にも及ぶ被害がでました。さてこのニュースを聞いてお前は何を思う?」
 ルークの突然の例え話に、酔って騒いでいた連中は聞き耳を立ててこちらを見ており、エヴァはニヤニヤしながら聞いている。
 ネギは、その設定の浅さが気になったが、正直に思った事を言った。
「えと、たくさんの人を殺したテロリストは最低だと思います」
 ルークの質問は、実はネギが目指している『偉大なる魔法使い』の根底に触れることである。
 ルークはその回答に大きな溜息を吐いた。
「・・・・・・だからお前はダメだと言うんだ」
 ルークの一刀両断な回答に、ネギは思わず声を荒げる。
「え・・・・・・でも! テロリストは自分勝手な理由でたくさんの人を殺すんだから、やっぱり許せません!」
「どんな事柄にも一方的な悪などない。テロリスト側にはそこを襲うだけの理由があって、人を殺すだけの恨みがある。テロリストを肯定するつもりはないが、何も情報を得ていない段階で悪だと決め付けるなど、それこそ悪だといわざるを得ない」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、人を殺すなんて・・・・・・」
「中東にはな、生きる為に、親友や恋人、家族を守る為に施設や政府、ゲリラを襲う人たちがたくさんいる。お前の理屈じゃな、人を殺すのはいけないことだから貴方たちは死ぬ道を選んでください。極論だがそう言ってるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「その逆も然りだ。そんな両者の立場の考えがきない奴が、最も難しい他人を導く仕事をするだ? 俺から言わせればなめんじゃねぇ、だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「初日の朝もそうだ。あんな事をしながらお前は反省すらせずむしろ憤慨してたな? お前、あの事が相手の一生のトラウマになることだってある。お前はそれを平気でやったんだ。正に下種な行為だろ」
 本当はもっと言いたい事がある。
 だが魔法の事は今は言えないから、ボカすしかない。
「そんなことすら自覚してないで、英国紳士とか振りかざしてるガキを、何で先生なんて呼はなきゃなんねえんだよ」
「ちょ、あんたそれ言いすぎ・・・・・・」
 アスナはさっきよりハッキリと声を荒げてルークを非難する。
 しかし、ルークは今度はアスナに言う。
「俺はな、7歳の時に信じていた先生に裏切られて殺されかけて嵌められて、何十人もの人を不幸にしちまったんだよ」
「「「「なっ!?」」」」
「だがな、そんな人でも学ぶ所が多くあったし、今の俺に大きく関わってんだよ。お前は過去の俺に似すぎだ。自分の世界を盲目的に正しいと信じている。だから現時点のお前は認めねえ」
「・・・・・・・・・・・・僕はまだルークさんの言葉の意味がわかりません。だけどいつか、認めてもらいます!」
 ネギが、やっぱり解っていない事を口にする。
 『いつか』など、時間があって準備する余裕が与えられるなら、人は苦労しない。
 エヴァは俺とネギの会話を心地よく聞いていて、その言葉に口を挟んだ。
「・・・・・・小僧。やってもいない、できてもいない、理解してもいない奴が『できたら』なんて口にするのはマイナスだぞ?」
「は、はい・・・・・・」
「フフフ・・・・・・やはりルーク、お前は私と気が合うな。思ったとおりだ」
「まあ普通なら、んな人生送らないからな。日本人は」
「そうだな。まあ、いい。乾杯のし直しだ」
「おっしゃ。乾杯!!」
「乾杯や〜!!」
「乾杯です」
 そうして何度も飲みなおした。話題についてこれたのはエヴァと木乃香、刹那だけで、ほかの人はルークが辿った人生の重さに乾杯する気など起きなかった。



 あるところの、ある草原に、1人の女性が訪れていた。

 その女性の頬から、涙が零れ落ちた。

 女性の唇から、想いが零れ落ちる。

「ルーク・・・・・・貴方に会いたい」




つづく