第一話 聖なる焔の光、悠久の風に出会う。



「やっぱり、ルークや! 久しぶりやぁ!!」
「木乃香! 大きくなったな!」
「それを言うたらルークこそやん!」
   パァッと明るい顔をした木乃香はルークにギュッと抱きついてきた。

 ―――うぉ! 柔らかい・・・・・・いい匂いかも―――

 ルークは焦りまくる。彼はそういうことにはまったく慣れていなかった。
 ぶんぶんと手を掴んで振りまくる彼女はとても嬉しそうだ。
「ちょ、木乃香! この優男と知り合いなの!?」
 またも失礼極まる言葉を吐く、鈴をつけた女。
 ルークのイライラ値が+100。ルークは彼女が嫌いになった(はやっ!)。
「うん、ルークは幼馴染でもあるし、お兄ちゃんでもあるんやえ」
「幼馴染!? 兄!?」
「そうや♪」
 ノリノリの木乃香に放置されて呆然としている赤毛の子供。
 そこへ中年の男性から声がかけられた。
「ははは・・・・・・ようこそ、魔帆良学園へ。ネギ先生、そしてルークくん」
 場が沈黙に包まれた。
 先生?
 ルークでもなく女性徒たちでもない。となる消去方で全員の目が残りの1人へと向いた。
「え、先生?」と呟く木乃香。
「あ、はい。そうです」
 それに肯定した子供はペコリと頭を下げて自己紹介をした。
「この度、この学校で英語の教師をすることになりました、ネギ・スプリングフィールドです」
(ハハハ・・・・・・非常識にも程があるぞ、おぃ)
 ルークは呆れ果てて事態を静観する。木乃香もビックリしているようだ。
 なんでこんなガキが!? とか、頭がイイから大丈夫などを鈴の女性徒と中年の男性がやり取りをしている。
 あ、今度は子供の方に掴みかかった。
「そんなぁ、私こんな子イヤです! だってコイツ、さっき私に失礼な事を言ったんですよ!?」
「いえ、ホントなんですよ」
「本当いうなぁ〜〜〜〜!?」
 女性徒の怒りは最高潮に達していた。担任の教師と言われた子供の胸元を掴んで揺すりまくりだ。
 そんな中で、俺は気になる言葉があったので木乃香に聞いてみる。
「何があったんだ?」
「えっとぉ、簡単に説明するとな、アスナな初対面でイキナリ、アナタに失恋の相が出てる〜って言われたんよ」
「なるほど・・・・・・」
 ルークは完全に呆れていた。ここは礼儀も知らない人間の集まりか? と思い、以前の自分を思い出した。
 すると、鈴をつけた女性徒・アスナに対して、少年はクシャミをする予兆を見せる。
(ん? 魔力が急速に集まっている・・・・・・この坊主は魔法使いか・・・・・・ってオイオイ、まさか・・・・・・)
 ルークは咄嗟に届く範囲にいた木乃香の前に出て、彼女を庇う位置についた。
 そして、それは起こった。

 ハックション!!

 アスナの服が弾け飛んだ。そして露出するブラジャー、クマ柄のパンツ。
 ルークは自分の着ていたコートをサッと脱いで彼女に着せる。元公爵という貴族の頃の嗜みだ。
 ギリギリで高畑には見えなかったようだ。
 だが、アスナの悲鳴は上がる。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 ペタンと座り込むアスナ。
 なぜかアスナに対して頬を膨らませてプンプンと怒っているネギを見て、ルークの眉はつり上がった。
「おい、おまえ」
 ドスが効いた声を響かせて、ネギに向かって拳骨が振り落とされた。
「あぅ!? な、何をするんです!?」 「おまえこそ何怒ってんだコラ。まず初対面の人間に対して失恋するなんて言ったお前に原因があるだろうが」
「え・・・・・・」
「大体、女の子を全裸に近い格好にさせといて、謝りもしないで怒ってるなんて、おまえ何様のつもりだ」
「あ、あうあうあうあうあう」
 ルークに怒りを向けられたネギは、意味不明な言葉を洩らしながらも何も言うことはできない。
 そんなルークに対して中年の男、見るに見かねたのか声を挟んできた。
「ま、まあとりあえず学園長室に行こうか。彼女には僕から新しい制服を用意しておくから」
「・・・・・・まあ、いいだろう」
 怒り心頭なルークはズカズカと校舎内に入っていったのだった。
  「アイツ・・・・・・」
「ルークもめっちゃ怒ったなぁ」
 燃えるような紅い髪で、後ろを短く揃えられたルークという男のコートを着たアスナは、以外な男の優しさに驚いていた。
 女しかいないとはいえ、外で全裸になんかなりたくない。それを絶妙なタイミングで隠してくれたのだ。少しポーットなっても仕方がない。
 木乃香はイライラしながらネギを引きずっていくルークを眺めてそう呟いていた。
「じゃ、アスナくんたちも一緒に行こうか」



「フォッフォッフォ、よく来たの、ネギくん。修行のために日本で教師など、また大変な課題を貰ったようじゃのぉ」
 目の前に鎮座しているのは、この魔帆良学園都市をまとめ上げていて、各学園の学園長を務めている近衛近右衛門である。
(宇宙人か・・・・・・? いや、悪魔? モンスターか? ってかあの後頭部の長さはありえねぇだろ)
 律儀に突っ込みを入れまくるルークであった。
 そして着替えをしたのか、遅れた入ってきたのは木乃香と明日菜である。
「は、はい。よろしくお願いします!」
「学園長! こんな子供が担任っておかしいじゃないですか!」
「フォッフォッフォッフォッフォ、この修行は大変じゃぞネギくん。失敗したら帰らなければならない。それでもやるかの?」
「はい! やらせてください!」
 見事に明日菜の言葉をスルーする学園長。良い根性している。
 力強く頷いたネギに学園長は満足すると、今度はルークに目を向けた。
「それで・・・・・・よく来てくれたの、ルーク・フォン・ファブレ君」
「お初にお目にかかります、近衛近右衛門学園長」
「うむ、会えて嬉しいぞぃ」
 がっしりと手を握るとニッコリと笑う学園長。
 ルークと学園長は海外にいた時に電話で何度か依頼を受けたことがあり、今回が初めての対面だった。
「で、今回は俺にどんな用事があって呼んだんでしょう?」
「ん? 詠春は説明せんかたのか?」
「ええ、全く聞いてません。アハハハハ・・・・・・」
「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォ」
 何もきかずにやってきたというルークの計画性の皆無に学園長は笑うしかない。
「まあ、簡単に言えば生徒をやってもらいたいんじゃ。木乃香のクラスに編入じゃな」
「・・・・・・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください! ウチは女子校ですよ!? 男の人を入れるなんておかしいじゃないですか!」
 明日菜は当然のように抗議の声を上げた。
 彼女の抗議はまったくもって正常な意見だ。
 だがルークは無言でこの言葉の裏の真意を考える。
(・・・・・・木乃香のクラスに編入させる・・・・・・木乃香は極東一の魔力の持ち主・・・・・・狙う人間は多いはずだ・・・・・・となるとその護衛か)
「どうじゃ、ルーク君?」
「・・・・・・解りました。俺に断ることはできませんよ」
「ええええぇぇぇぇぇ!?」
「やったぁ! ルークもウチとクラスメイトになるんや♪」
 まったくもって、適当な人物たちであった。





 とりあえず、今日一日はその格好でいいと言われたので、ルークは昔の服装のままで、この世界にないアクセサリーばかりを見につけていたが、学園長に許可
されてはしょうがない。ルークは担任となったネギと一緒に教室に向かった。
 教室前に着くと、ネギは出席簿を開いて生徒を確認している。
 その後ろ姿をルークは何も言わずに見ていた。
「じゃ、じゃあルークさん。僕が呼んだら入ってきてください」
「わかった」
 ネギはどうやらルークに対して苦手意識を持っているようだ。
 まあ、自分が悪いとはいえ、いきなり説教されては仕方がないだろう。
 ネギが扉を開けると、頭上から黒板消しが降ってきた。
(イタズラか・・・・・・って、おい!)
 黒板消しがネギの後頭部に当たる直前でストップしたのだ。
 つまり、一般人の前で魔法を使ったのだ。
 魔法はコチラの世界では完全に秘匿されているものである。一般人には絶対に知られてはならない。
 ルークの中では、ネギの評価がどんどん暴落していっていた。
 その直後にはロープに足を取られて転び、バケツが降ってきて直撃し、おもちゃの矢が命中したりとさんざんだ。
(どうやらかなり騒がしいクラスのようだな・・・・・・アニスが30人いると思ったらいいかも・・・・・・・・・・・・いやいや、疲れるって)
 自分で想像しておきながら、ゲッソリして肩を落とすルーク。
 ハッキリいってバカである。
 それでもクラス内では騒ぎが止まらない。
 ネギに質問の嵐が起こっているらしく、騒ぎは収まりを見せない。
 すると、ネギについて来ていた『源しずな』 先生が号令をかけることでやっと静かになる。
「・・・・・・それで、本日は転入生がいます」
「「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」」
 クラスの騒動が再び息を吹き返した。
『この私がそんな特ダネを逃すとは』とか『楽しみです』とか『どんな娘かな』という声がガンガン聞こえてきた。
(な〜んか、入りにくいな)
 ルークは天を仰ぎながら溜息を吐く。
「ティア〜、助けてくれ〜」
 思わず、愛しの女性の名前を読んでしまう。
「では、入ってきてください」
 ネギの声にルークは扉を開けてツカツカと入る。
 クラスの女子生徒は呆然としている。
 まあ、当然の反応である。
「では、自己紹介をお願いします」
「はい。えー、この度、この魔帆良学園に転入してきました、ルーク・フォン・ファブレです。よろしくお願いします」

 シーン。

「・・・・・・・・・・・・」
 ルークはサッと視線を巡らせると、気になる視線がいくつかあった。
 もう1人の幼馴染の刹那の驚きの表情。洒落にならない殺気を向けてきているのが2人。探る目が1人だ。
「かっ・・・・・・・・・・・・」
(かっ?)

「「「「「「カッコイイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」」」」」」

「うぉ!?」
 まさに怒号といっても良い。
 全員が目を輝かせてルークを見てくる。
 ―――そう。
 ルークは容姿はズバ抜けてカッコイイのだ。
 紅い髪に緑の瞳。引き締まった体躯に、辛い過去から滲み出る優しく儚げな気配。
「ハイハイハイハイ、しつも〜ん!」
 という言葉が、あらゆるところから聞こえてくる。
 ルークは出席簿をネギから借りて、順番に当てる。
「じゃあ、えっと・・・カスガさん?」
「は〜い! なんで男子が女子中等部にいるんですか!」
「学園長の陰謀に巻き込まれた為に、理由はわからない」

「次は、ササキさん?」
「どこから来たんですかぁ!」
「中東からだ」

「次は、イズミさん」
「えっとぉ、ルークさんは何で私服なんですか?」
「今日の朝にこっちについたばかりなんで、この格好なんだ」

「次は、ああ、アサクラさん」
「はいはいはい。この新聞部の朝倉がバンバン聞いちゃうよぉ!」
「お手柔らかに」
(まあ、たいしたことは聞かれないだろ)
「まずは、その髪は地毛ですか?」
「ああ。生まれてからずっとこれだ」
「えっと、出身はどこですか?」
「ヨーロッパだ」
(なんてアバウトな答え・・・・・・)
 全員がそう思った。
「では、一番の重要な質問です!」
「ああ、何だ?」
「彼女はいますか!」

 教室内が静まり返った。
 ルークは目を瞑って、ティアの最後の泣きそうな顔を思い出した。
 そう、俺はティアが大好きだ。愛している。
 だけど、今、この世界にティアはいない。俺はティアの傍にいないんだ。
 だから、こう答えるしかない。この事に関しては嘘は吐きたくないから。
「まあ、前はいたよ。とても大事な奴がね」
「って事は今はフリーって事ですね」
 どうにも無神経な台詞だったが、今はそれに救われた。
「じゃあ、最後です! このクラスの子の中で誰が一番の好みですか!」
「まだみなさんの事を詳しくしらないから、容姿のみの答えになるけどいい?」
「それで十分!」
「とりあえず、俺と幼馴染の木乃香と刹那。後は・・・・・・・・・・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんかな」
「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
  (ほぉ・・・・・・この小僧・・・・・・私にカマかけてきているな)
 未曾有の混乱が発生し、木乃香はニコニコとルークとの関係を話し、刹那は真っ赤になってうろたえている。
 エヴァンジェリンは「うるさい!」と喚きながら、じゃれついてくるクラスメイトを蹴っていた。
 こうして、ルーク・フォン・ファブレは『学生』となったのである。


つづく