まもなく、俺は消える。

それは、覚悟していた事でもあったし、やらねばならない義務でもあった。

ルーク・フォン・ファブレは、その為だけの存在だったのだ。

いくらユリアの預言書に詠まれていた事とはいえ、アクゼリュスの人々を消滅させた事は事実だったから。

だから俺は、本当は生きていたかったけど、後悔なんかしていない。

だけど、俺の傍にいて、ずっと見守ってくれたティアが唯一の未練だった。

創り物の劣化品の俺でも、彼女と共に生きたかったな、と思う。

ローレライから運命の宣告を受けるその時だった。
『ルーク。何者かがお前の存在に干渉をしている』
「は?」
『だから、異世界ともいうべき人間が、お前をその世界に召喚しようとしているのだ。つまり、お前は消滅しない』
「ちょ、ちょっと待てよ・・・・・・異世界って・・・・・・俺は消えないでそこに行くのか? 帰ってくることはできるのか?」
『解らない。だが我は嬉しいぞ。ルークがこのまま消滅するのは、我としても心苦しかったからな』
「わからないって・・・・・・んな無責任な」
 唖然としながらルークは愚痴る。
『ルーク、異世界でもしっかり生きろ。これはローレライとして命令だ』
「ああ、解ってる。命を粗末にはしないさ。ただ1つだけお願いがある」
『なんだ?』
「帰れないかもしれないんだったら、俺が異世界にいる事を、そこで生きている事をティアに教えてやってくれ』
『わかった。約束しよう』
 ローレライの言葉にルークは頷いて、身体は序所に消滅を始める。
『達者でな・・・・・・そして、本当にありがとう』
 ローレライの鍵がが光り、それがルークの胸元に飛び込んでくるのを見届ける。
 ルーク・フォン・ファブレ。
 レプリカ・ルークは消滅し、異世界に転移した。




第一話 聖なる焔の光、悠久の風に出会う。




「キミ、誰?」
 ルークが目を開けると、いきなり飛び込んで来た言葉がそれだ。
 ルークは呆然としながらも、とりあえず人間がいるところなのか、と安心する。
 横に視線を移すと、そこには黒髪で黒い瞳という見たことも無い人種が目を丸くして俺をみていた。
「あ〜、ちょ、ちょっと待って」
 クラクラする頭を押さえながら辺りをキョロキョロと伺うと、見たことも無い建築風造りの家にいた
 ふと攻撃的な視線を感じて振り返ると、先ほどの女の子を守るようにして、もう1人、黒髪の女の子
がいた。
「だれだ、おまえは! さてはおじょうさまをねらうまほうつかいだな!」
「お嬢様? 魔法使い? 何のことだ? というか、お前達が俺の肉体を構成して呼び出したのか?」
「いったいなにをいっている!」
(こりゃあ、こっちの子に話しかけても無駄だな。話を聞く気もないし答える気もないみたいだ)
 ルークは途方に暮れた時だ。ふと違和感を感じたのだ。
 視線が妙に低いというか、位置が低いというか、空が高いというか。ふと視線を落としてみる。

 ―――ええええええぇぇ!? 身体が縮んでる!?―――

 そう、まるで身体が7歳程度の子供になっているじゃないか。
「いや・・・・・・待てよ・・・・・・俺の身体は新たに構成されたんだよな・・・・・・そうなると縮んでもおかしくない。それに、俺の実年齢は7歳だもんな・・・・・・ブツブツ」
 自分の身体をペタペタと触り、頭を抱えて蹲り、ポンと手を叩いて納得している姿は変人といって過言じゃない。
 女の子の2人は目を丸くしてルークを見ていたが、後ろから来た人物により事態は好転した。
「木乃香、刹那君、下がりなさい」 
「おとうさま!」
「おさ!」
 やってきた人物は、ルークが最後に倒したヴァンと同じくらいの年齢だ。
 ルークは立ち上がって、その人物に相対する。
「キミは何者かい?」
「俺の名前はルーク・フォン・ファブレ。そこのお嬢さんたちのどちらかに召喚されたモノだ・・・・・・たぶん」
 最後に自信が崩れたルークの言葉。
 ルークの言葉に、目の前のおじさん、日本を東西にわける勢力の西の長・近衛詠春という人は頷いた。



 とりあえず、近衛家の屋敷に通されたルークは、自分の事情を話した。
 自分がオリジナルのルーク・フォン・ファブレの創りモノの人形であったこと。ローレライという星の神ともいえる存在を開放する為の存在であったこと。聖なる焔の光と呼ばれたこと。
 そして、消滅したこと。
 異世界の住人であり、完全消滅間際に誰かに身体を再構成されて召喚されたことなど。
 ルークの説明に木乃香はポロポロと涙をながし、刹那はショックを受けていた。
 近衛詠春とその妻・木乃葉はふむと頷いて、その話を信じましょうと言っのであった。
「それでルーク君、どうだろう? ここに住まないかい?」
「・・・・・・俺の保護と監視が目的か?」
「そうです。それは否定しません。ですが、キミを保護したいと思ったのが一番の理由です」
「あ〜、とりあえずお世話になります。ですがこの世界もちょっと見てみたいんです」
「ふむ・・・・・・まあ、その変は追々決めていきましょう」
 こうして、ルークの異世界で滞在する場所がきまり、裏で戸籍を手配してもらったりと準備はどんどん進んだ。




 ルークの近衛家の滞在期間は2ヶ月程度であった。
 たった7歳という年齢であったが、ルークは周囲の反対を押し切り、世界を見て回る旅に出ていた。
 もちろん木乃香が泣いて引きとめ刹那もしぶっていたが、ルークの過去に犯した罪の贖罪意識は強かった。
 ルークは詠春の呼び出しがあればすぐに戻ってきて力になると約束した。
 そのまま京都の近衛家を出たルークは、いったん海外へと出てこの世界の常識と街を見て回った。
 もちろん7歳程度の子供が1人で、となると問題あるが、それは裏世界に強いパイプがある詠春のおかげで旅はし易かった。
 ルークはこっちの世界の科学技術と文化にカルチャーショックの連続だったが、人助けをとにかく続けた。


 ある時はNGO組織に合流して難民キャンプを訪れ、子供たちを守ったり勉強を教えたり。
 ある時はテロ組織に対して、殺された人たちの復讐をした。
 ある時は、1人を助ける為に多くの人を殺し、また捕まえた、
 またある時は、魔法世界からの役人に尋問されそうになり逃走したり。
 またある時は、魔法使いの悪人に自分の力を襲われ、



 7年経過したある日、ついに正義を疎む連中からルークは300万ドルの賞金をかけられた。



 賞金を賭けられたルークは、その直後に近衛家から呼び出されることになった。
 近衛家が、賞金クビになったルークを心配して呼び戻したのだ。
 実はその事実を知った刹那が詠春に必死で頼んだということは秘密の話である。
 ちょうどルークの仕事、つまり困っている人たちの方も一段落ついた事から、戻る事を決心したのだった。
 こうして、日本に戻ってきたルークだったが、詠春から関東の魔帆良に行ってくれと頼まれた。
 もちろん気持ちよく快諾したルークは、関東の魔帆良にやってきた訳だが・・・・・・
「人多すぎ・・・・・・バチカル並みだな」
 呆然としているルーク。
 歳はもう14歳になっていた。
「ええっと、どこにいけばいいんだ・・・・・・?
 適当にスタスタと歩いていると、女子高エリアということですんなりと指示通りの場所に到着した。
 なんだか俺、すごく見られてるな・・・・・・やっぱり男がいるからだろうな。
 ルークは女子中等部の建物に来ると、突如大きな声が聞こえてきた。
(何だ・・・・・・このデカイ声は)
 ふと目を向けると、10歳程度の子供に女子生徒の1人が掴みかかっているところであった。
 ルークはスタスタと近づくと、声をかけた。
「どんな事情があるか知らないが、子供に対してやることじゃないな」
 いきなりかけられた声に、3人の視線が集まる。
「アンタ、いったい誰!? ここは女子中等部エリアよ! 男は入っちゃいけないの!」
 鈴をつけたオレンジ髪の女が目標を変えるように子供を突き飛ばし、今度はルークに掴みかかってくる。
 そんな女性徒の言葉にルークは溜息を吐いた。
「んなこたぁ知ってるに決まってんだろ。こんあ奥まで来たんだから」
「んな!?」
「そもそも、初対面の人に対して使う言葉使いじゃないんじゃないかい? お嬢さん?」
 ルークのからかうような言葉に女性徒の顔は真っ赤になり、怒りの形相になる。
 すると、隣から以外な声がかけられた。
「もしかして・・・・・・ルーク?」  そう。
 それはたった2ヶ月だったけど、自分を慕ってくれた娘。
 依頼者の娘。
「木乃香か!! 久しぶりだな!!」
 実に7年ぶりの再会であった。
 


つづく